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第88話 いざ祠へ


 私と紅月が梁さんの顔を見る。


『ああ、それはねえ、繰り返しになるけど、四象は瑞饗を守護してくれる守り神だからねえ。彼らを祀る祠が、この瑞饗の四方にそれぞれ存在しているんだ。ほとんどの人は忘れちゃってるけど』

『その祠が、四象の生存となにか関係があるのですか?』

『あるよ、関係。そこに奉納されている宝玉があってね。それが欠けたり割れたりすると、四象の身になにかあったということになるんだけど、今のところなんの問題もないからねえ』

『宝玉……そんなものが……』


 紅月は口元に手を当てて、なにか考え込んでいる。

 おそらく彼女はそこへ行ってみたいのだろう。


『……あの、梁さん?』

『なにかな、東雲さん』

『その祠って、私たちみたいな外国から人間でも、入れたりするのでしょうか?』

『もちろん問題ないよ。昔は禁足地として扱われていたけれど、四象がいなくなってからは観光地みたいになって、今はもうほとんど忘れられちゃっているしねえ』

『か、観光地……? 祠がですか?』

『そうだねえ。いないからといって取り壊すわけにもいかなかっただろうし、それならいっそのこと、有効活用する形で観光地化していたんじゃないかねえ』

『そ、そうなんですか……』


 案外、俗っぽいというか商魂たくましいんだな、丹梅国の人って。


『……ですが、元は禁足地なのですよね? いくら観光地化しているとはいえ、それが本当に入れるようになっているのでしょうか?』

『ほほ、バレなければいいんじゃよ』

『……うん?』


 私は思わず梁さんに訊き返す。


『ば、バレなければ……というのは、どういうことでしょうか?』

『もう役人もほとんど見に来ないからねえ、入っても大丈夫だと思うよ』

『いやいや、それ、ダメってことじゃないですか!』

『ほほほ、どうせ機能していない法律だ。守る必要はないよ。そもそも、その祠で祀られている御霊がここにいるんだから、入るなというほうがおかしいとは思うけどねえ』

『いやまあ、たしかにフェニ子を祀るための祠であることは理解してますけど……』

「妾が許す!」

『……急に元気になったね、あんた』

『そうだねえ、家主もこうやって許可出したんだし、行きたいんだったら行ってみればどうだい?』


 こんな適当な感じでいいのだろうか。


 ……まあいいか。

 もしなにか問題が発生したら全部フェニ子のせいにすればいい。


「……どうするの、真緒。本当に鳳凰の祠へ行くの?」

「当の本人がなにも覚えてないみたいだし、自分の実家を見たらなにか思い出すこともあるんじゃない? ついでに観光もできるみたいだしさ」

「まあ、それもそうね」


 話はまとまった。

 私は器に残っていた茶を全て飲み干し、立ち上がる。


『鳳凰の祠は瑞饗の南方にある。ここから多少離れたところにあるが、今からでも十分、日帰りで帰れる距離だよ』

『ありがとうございます』

『それと――』


 梁さんは今まで調合していた薬を薬包紙にすばやく包んでいった。


『……これらを持っていきなさい。フェニ子さんの体調がよくなかったり、負傷したら使っておくれ。まあ、負傷の場合、鳳凰ならすぐに治るだろうけどねえ』

『え、もしかして、これ全部……ですか? てっきり、魔物たちのために……』

『ほほほ。魔物医といっても、丹梅国では魔物から診察に来ることなんて滅多にないからねえ。こういった薬は作って保存していても、明珠暗投(宝の持ち腐れ)さ。それよりは今儂の目の前におる魔物の為に役立ててくれたほうがいい』


 思わず紅月と顔を見合わせる。


『い、いえ、それはさすがに悪いですよ。治療費の見返りとして獬豸の角を取ってきたのに、さらにそれで作った薬までいただいているんですから』

『ほほほ。気にしなくていいんだ。儂はもう十分すぎるほど、見返りをもらったからねえ』


 梁さんはそう言うと、目を細めてまたフェニ子を見た。

 彼のその満足そうな表情に、私と紅月は何も言えなくなってしまう。

 〝十分すぎる見返り〟とはやはり、態度からしてフェニ子のことなのだろうか。


『何度も言うが、獬豸(カイチ)の角から作られたこの()は、魔物にとって万能薬と呼ぶに等しい代物だ。どうぞこれからの旅に、その薬を役立ててほしい』

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