第87話 疑惑の梁
「な、なんなんじゃ、また一斉に妾を見よってからに……」
『話は聞いてたよね、フェニ子』
「ま、まぁの。じゃが妾、なんも覚えとらんぞ、マジで」
そうは言っても、少しくらいなら覚えているだろう。
もしくは、こちらから色々と質問をすれば、思い出したりもするだろう。
『じゃあ、最初の質問だけど、なんで白雉国に来たの?』
「……気づいたらおった」
まあ、暴走状態だったしね。
これは仕方がない。気にせず次の質問へいこう。
『他の四象とは大昔に別れたって言ってたけど、どんな感じで別れたの?』
「さあ?」
首を傾げるフェニ子。
何かを隠している様子も、トボけている様子もない。
というか、これまでの言動を鑑みるに、そんなことが出来るほど彼女を器用だと思っていない。
これで最初からじつは演技でした。なんて言われたらもうなにも信じられなくなる。
『……他の四象の特徴は?』
「竜と虎と……亀?」
『おお……』
初めてそれっぽい情報が出てきた。
と思っていると――
『ふむ。それは儂でも知っているねえ』
空振りに終わった。
『……では、それぞれの特徴なんかはわかるのかな?』
「と、特徴……? 竜は飛べるし、虎は爪や牙が鋭くて、亀は甲羅があって固いぞ」
『それは私でも知ってる。それにたぶん梁さんが訊いてるのはもっとこう、性格とか、特殊能力とか、普段どういうところにいるかとかじゃないかな……』
「し、知らん……なにも……」
ようやく事の重大さが理解できたのか、フェニ子の顔がどんどん青ざめていく。
わかるよその気持ち。自分の出生が途端にわからなくなることを知らされる気持ち。
根本が揺らぐから、自分が今どうやって立ってるかもわからないんだもんね。
私もまだ自分が元の世界で何をしてたかとか、全然思い出せてないし。
『じゃあさ、もっさんが言ってた四象に気をつけろって、どういう意味だと思う?』
「そ、それは……」
フェニ子の目線がバチャバチャと泳ぐ。
『えっと、逆になにか思い出した事とかはある?』
「……ないですね」
『口調』
うーん、これはダメそうだ。
考えにくいことだが、当事者でありながら、フェニ子は本当に何も知らないのかもしれない。
『……結局、何も覚えてないということかしら?』
「わ、妾は、鳳凰である……名はフェニ子……」
フェニ子が抑揚のない声で、自分に言い聞かせるようにつぶやき始めた。
『はぁ……ダメそうね……』
紅月は肩をすくめると、今度は梁さんのほうを向いた。
『あの、梁さん。じつは先ほどから、気になっていることがあるのですが……』
『ほほ、なにかな?』
『このしょぼくれている鳥はともかくとして、なぜ他の三柱は今も無事だと?』
『無事……? どういうこと、紅月』
『さっきたしかに梁さんは〝彼らはおそらく今もフェニ子くんと同じく、この丹梅国のどこかで生きているのだろう〟と言っていたわ。けど、実際こうして手がかりすら掴めていないのに、そう断言していたのは何か理由があるのではと思ってね』
『ああ、そういえばたしかに、そんなこと……』
私と紅月が梁さんの顔を見る。
このたびは文字数が少なくなってしまい、申し訳ございません。
また、今後しばらくの間は、一話あたりの文字数が少なめの更新が続く見込みです。
詳細な事情につきましては、ここで触れるべき内容ではございませんので割愛いたしますが、
「毎日更新を休止する」か「文字数を抑えてでも投稿を継続する」かを検討した結果、
後者の形を選ばせていただきました。
そのため、しばらくは短めの投稿が続くかと思いますが、
いずれまた、気づけば元の分量に戻っていると思います。
どうかご理解とご容赦のほど、よろしくお願いいたします。




