第1話 勇者失格
「戸瀬一輝、牙神翔太、そして市井千尋。以上三名を改めて正式な勇者として認め、当ギルドにおける冒険者等級白金級を授けるものとする」
ギルド長がそう言うと、周りから割れんばかりの拍手が巻き起こった。
私もそれにつられて手を叩くが――
「……あれ?」
そういえば、なんか、誰か一人足りていない気がする。
この世界に召喚された勇者はたしか四人。
千尋に、戸瀬に、牙神と……あとは、そう、東雲真緒。私だ。
うん、どう考えても一人足りない。
これは、もしかして私からの粋なツッコミを待っているのだろうか。
『ちょいちょいちょい、私の名前呼ばれてませんやん!』
とか言って、明朗なノリでギルド長の肩をピシリとやれば、ドッと笑いが巻き起こったりするのだろうか。
だが生憎、今の私にはそんな元気も気力も残ってはいない。
「ただし、東雲真緒に限りその勇者の称号を剥奪する」
「……は」
「これが当ギルドの決定である」
さきほどまでの拍手が嘘のように消え去り、痛いほどの数の視線が私の全身を貫く。
「……あの」
あまりの沈黙に私は、大勢の人の前で手を挙げ発言するという、およそ普段の私からは考えられない行動に出ていた。
「勇者じゃなくなる……のは、この際いいんですけど……」
「否、その表現は適切ではない。貴殿はそもそも勇者としての要件を満たしていないのだ」
「あ、はい。……で、私はこれからどうすれば?」
「誠に残念だが、当ギルドには、異世界から貴殿を召喚する用意があっても、送り返す用意はないのである」
「つまり、私はもう用無しだけど、帰すこともできない……ってこと?」
「左様」
左様じゃないが。
「だが、貴殿の境遇も察するに余りある。したがって、当ギルドの温情として貴殿には冒険者等級鉄級を授けることにする」
「〝てっきゅう〟……? なんなんです、その鉄級って……?」
「これにて勇者三名の授与式を終了する」
「あれ、ちょ、待っ――」
こうして質疑応答は始まる前に終わってしまった。
状況が呑み込めず、ただ呆然と立ち尽くしていると、ふと誰かの視線を感じた。
その視線の主は――ガイド役の紅月雷亜であった。
紅月は私と目が合うなり、まるで親の仇でも見るように不快そうに顔を歪め、その場から立ち去ってしまった。
視線を戻すとギルド長は既に壇上から姿を消しており、戸瀬と牙神のふたりも談笑している。
会場にいた人たちは、まるでスポーツ観戦のあとのような満足した顔で会場を後にしている。
皮肉にもこの場において、私の存在を認識していたのは紅月だけのようだ。
「……私、紅月に何かしたっけ」
完全に心当たりがない。
そして、まずい。
本格的にまずい。
現時点で、この世界に私の味方が存在しない。
これから何をすればいいのかもわからないし、
何をしたらダメなのかもわからなければ、
さきほど授かった冒険者等級の〝鉄級〟がどの程度のランクなのかもわからない。
なぜこんなことになってしまったのか。
私は一体、どこで間違えたのだろう。