↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蛊真人  作者: 魏臣栋
青茅山
91/688

第九十一章 方源よ、憂いぬとぞ

一睡(いっすい)もせず、夜(よる)が明(あ)けると方源(ほうげん)は出(で)掛(か)け、大急(おおいそ)ぎで買(か)い出(だ)しに出(で)かけた。


粗末(そまつ)な借家(しゃくや)に古(ふる)びた布団(ふとん)では、長(なが)く住(す)めば湿気(しっけ)が体(からだ)に浸(し)み込(こ)み、必(かなら)ず病気(びょうき)になる。元石(げんせき)の大半(たいはん)を使(つか)い果(は)たしていたが、生活必需品(せいかつひつじゅひん)は買(か)わねばならない。


最初(さいしょ)に新綿(しんめん)入(い)りの大(おお)きな布団(ふとん)を二枚(にまい)。それにシーツと敷(し)き布団(ふとん)。


油灯(あぶらび)をもう一(ひと)つ購入(こうにゅう)し、灯油(とうゆ)も二(ふた)壺(つぼ)分(ぶん)備蓄(びちく)した。


借(か)りた部屋(へや)は狭(せま)いが、小(ちい)さな机(つくえ)と椅子(いす)を置(お)けると思(おも)い、購入(こうにゅう)することにした。


最(もっと)も重要(じゅうよう)なのはストーブだ。


冬(ふゆ)に暖房(だんぼう)なしでは、夜中(よなか)に凍(こご)え醒(さ)める。


これら以外(いがい)に保存食(ほぞんしょく)を買(か)い込(こ)み、水(みず)も七日分(なのかぶん)自備(じび)した。


冬(ふゆ)の陽(ひ)が悠々(ゆうゆう)と昇(のぼ)り、慵懶(ようらん)とした光(ひかり)を放(はな)っていた。


古月角三(こげつ かくぞう)ら四人(よにん)の蛊師(こし)が山寨(さんさい)の北門(きたもん)で苛立(いらだ)ちを募(つの)らせていた。


「おかしいわ。昨夜(ゆうべ)約束(やくそく)した場所(ばしょ)と時間(じかん)のはずなのに。もう一刻(いっとき)過(す)ぎてるのに、方源(ほうげん)がまだ現(あらわ)れないなんて」女性組員(じょせいくみいん)が言(い)った。


「落(お)ち着(つ)け。新人(しんじん)の遅刻(ちこく)は仕方(しかた)ないさ」角三(かくぞう)は笑(わら)った。彼(かれ)は方源(ほうげん)を抑(おさ)え込(こ)む隙(すき)を探(さが)していたが、まさか二日目(ふつかめ)に自(みずか)ら機会(きかい)を提供(ていきょう)してくれるとは思(おも)っていなかった。


「私達(わたしたち)が待(ま)つのはまだしも、組長(くみちょう)まで同席(どうせき)させて待(ま)たせるなんて、この生意気(なまいき)な小僧(こぞう)!」古月空井(こげつ くうせい)が憤慨(ふんがい)した口調(くちょう)で言(い)った。


しかし半時(はんとき)経(た)っても、方源(ほうげん)の姿(すがた)は見(み)えない。


角三(かくぞう)の顔色(かおいろ)は水(みず)を打(う)ったように曇(くも)っていた。


「この野郎(やろう)、場所(ばしょ)を間違(まちが)えたんじゃないか?北門(きたもん)集合(しゅうごう)だと確(たし)かに伝(つた)えたはずだ」空井(くうせい)が疑(うたが)いを口(くち)にした。


「私(わたし)がここで待(ま)つ。お前達(まえたち)は各門(かくもん)を探(さが)し回(まわ)れ」角三(かくぞう)の命令(めいれい)に、三人(さんにん)の組員(くみいん)は従(したが)うしかなかった。


暫(しばら)くして、彼等(かれら)は何(なに)も得(え)ずに角三(かくぞう)の元(もと)へ戻(もど)ってきた。


「方源(ほうげん)、我々(われわれ)の計画(けいかく)を見破(みやぶ)って単独行動(たんどくこうどう)してるんじゃないか?」女性蛊師(じょせいこし)が言(い)った。


「大袈裟(おおげさ)にも程(ほど)がある。年末考核(ねんまつこうかく)一位(いちい)でも、まだ青二才(あおにさい)の新人(しんじん)だ。年齢(ねんれい)が物語(ものがた)っている」空井(くうせい)が嘲(あざけ)るように言(い)った。


角三(かくぞう)の表情(ひょうじょう)は暗澹(あんたん)としていた:「計画(けいかく)の看破(かんぱ)より、今(いま)は奴(やつ)の所在(しょざい)を突(つ)き止(と)めることだ。二転(にてん)突破(とっぱ)の為(ため)に単独行動(たんどくこうどう)してる可能性(かのうせい)がある。二転(にてん)に達(たっ)すれば任務放棄(にんむほうき)権利(けんり)が発生(はっせい)し、内務堂(ないむどう)へ直接(ちょくせつ)分家申請(ぶんけしんせい)できる。探(さが)せ。奴(やつ)を見(み)つけ出(だ)せ。山寨(さんさい)は広(ひろ)くない。貸家(かしや)も限(かぎ)られている。絶対(ぜったい)に二転突破(にてんとっぱ)の時間(じかん)を与(あた)えるな!」


「はい!」


……



部屋(へや)の中(なか)、方源(ほうげん)は寝台(しんだい)の上(うえ)で胡坐(あぐら)を組(く)んでいた。


眼前(がんぜん)には幾(いく)つかの財布(さいふ)が開(ひら)かれ、所有(しょゆう)する全(すべ)ての元石(げんせき)が収(おさ)められている。


「元石(げんせき)が尽(つ)きかけている」方源(ほうげん)は重(おも)い息(いき)を吐(は)き、表情(ひょうじょう)に険(けわ)しさが浮(う)かんだ。


元石(げんせき)は蛊師(こし)の修練(しゅうれん)を支(ささ)える根幹(こんかん)。不足(ふそく)すれば真元(しんげん)回復(かいふく)は自力(じりき)に依存(いぞん)し、修練速度(しゅうれんそくど)が激減(げきげん)する。更(さら)に食料(しょくりょう)が途絶(とだ)えれば蛊虫(こちゅう)も餓死(がし)する。


学堂(がくどう)時代(じだい)には千枚(せんまい)を超(こ)える元石(げんせき)を保有(ほゆう)していたが、日々(ひび)の消費(しょうひ)に耐(た)えられなかった。


同期(どうき)の蛊師(こし)たちは現在(げんざい)三匹(さんびき)の蛊虫(こちゅう)しか持(も)たない。


しかし方源(ほうげん)は年末考核(ねんまつこうかく)一位(いちい)後(ご)、蛊室(こしつ)で無償(むしょう)に錆蛊(さびこ)を追加(ついか)選択(せんたく)していた。


選(えら)ばねば嫌疑(けんぎ)を招(まね)くため、拒否(きょひ)できなかった。


結果(けっか)、現在(げんざい)七匹(しちびき)もの蛊虫(こちゅう)を飼育(しいく)している!


疑(うたが)いようもない重荷(おもに)だ。


「このままでは二ヶ月(にかげつ)しか持(も)たない。遺産(いさん)奪回(だっかい)が最良(さいりょう)の資金源(しきんげん)だ。だがその為(ため)には先(さき)ず二転(にてん)突破(とっぱ)が必要(ひつよう)」方源(ほうげん)の目(め)が幽(かす)かに光(ひか)った。



方源(ほうげん)にとって二転(にてん)への昇進(しょうしん)は容易(ようい)ではない。


蛊師(こし)の修業(しゅぎょう)は第一(だいいち)に資源(しげん)、第二(だいに)に資質(ししつ)が重要(じゅうよう)だ。資質(ししつ)が低(ひく)ければ修業(しゅぎょう)は困難(こんなん)になり、将来(しょうらい)の達成(たっせい)も低(ひく)くなる。


資質(ししつ)は低(ひく)い順(じゅん)に丁等(ていとう)・丙等(へいとう)・乙等(おつとう)・甲等(こうとう)に分類(ぶんるい)される。


だがこれは大雑把(おおざっぱ)な区分(くぶん)に過(す)ぎない。


実際(じっさい)は各等級(かくとうきゅう)ごとに詳細(しょうさい)な尺度(しゃくど)が存在(そんざい)する。


例(たと)えば丙等(へいとう)の場合(ばあい)、空竅(くうきょう)に蓄積(ちくせき)可能(かのう)な真元(しんげん)の最大量(さいだいりょう)は最低(さいてい)四割(よんわり)、最大(さいだい)五割九分(ごわりきゅうぶ)までだ。


方源(ほうげん)の現在(げんざい)の真元量(しんげんりょう)は四割四分(よんわりよんぶ)しかなく、丙等(へいとう)資質(ししつ)の中(なか)でも中下(ちゅうげ)レベルに位置(いち)する。


二転突破(にてんとっぱ)には最低(さいてい)五割五分(ごわりごぶ)の墨緑真元(ぼくりょくしんげん)が必要(ひつよう)。甲等(こうとう)や乙等(おつとう)の蛊師(こし)にとっては何(なん)の難関(なんかん)でもない。真元量(しんげんりょう)が五割五分(ごわりごぶ)・五割六分(ごわりろくぶ)……乃至(ないし)五割九分(ごわりきゅうぶ)の丙等(へいとう)蛊師(こし)も容易(ようい)に突破(とっぱ)できる。


故(ゆえ)に丙等(へいとう)資質(ししつ)の蛊師(こし)は通常(つうじょう)、蓄積(ちくせき)が一定水準(いっていすいじゅん)に達(たっ)すれば大半(たいはん)が二転(にてん)に昇進(しょうしん)する。三転(さんてん)に到達(とうたつ)できる者は極(ごく)一部(いちぶ)だ。


資質測定(ししつそくてい)結果(けっか)だけで人生(じんせい)の成否(せいひ)が予測(よそく)できるため、方源(ほうげん)が冷遇(れいぐう)されるのも世間(せけん)の偏見(へんけん)とは言(い)い切(き)れない。


「わが丙等(へいとう)資質(ししつ)は四割四分(よんわりよんぶ)だが、晶壁(しょうへき)を突破(とっぱ)し破(やぶ)って立(た)ち直(なお)り二転(にてん)を達(たっ)する方法(ほうほう)がないわけではない。根本的(こんぽんてき)には資質(ししつ)向上(こうじょう)の蛊虫(こちゅう)を探(さが)すこと。次善策(じぜんさく)として酒虫(さけむし)のような補助蛊虫(ほじょこちゅう)を使(つか)い障壁(しょうへき)を突破(とっぱ)する。さらに次(つぎ)に師匠(ししょう)の助力(じょりょく)を得(え)る方法(ほうほう)だが、異種真元(いしゅしんげん)の使用(しよう)は重大(じゅうだい)な後遺症(こういしょう)を残(のこ)す。今後(こんご)浄水蛊(じょうすいこ)で異種気息(いしゅきそく)を洗浄(せんじょう)できなければ意味(いみ)がない」方源(ほうげん)は思考(しこう)を巡(めぐ)らせながら、袋(ふくろ)から元石(げんせき)を取り出(とりだ)し滑(なめ)らかな表面(ひょうめん)を指(ゆび)で撫(な)でた。


「だが今(いま)のわしにはどれも現実的(げんじつてき)ではない。師匠(ししょう)もおらず、仮(たと)えいても空竅(くうきょう)のような急所(きゅうしょ)を他人(たにん)に委(ゆだ)ねる気(き)はない。酒虫(さけむし)のような蛊虫(こちゅう)は貴重(きちょう)で、一時的(いちじてき)に手(て)に入(い)れただけでも幸運(こううん)だった。資質向上(ししつこうじょう)の蛊虫(こちゅう)は前世(ぜんせ)で得(え)たから六転(ろくてん)まで修業(しゅぎょう)できた。入手場所(にゅうしゅばしょ)も知(し)っているが、今(いま)の実力(じつりょく)では到達(とうたつ)できず、仮(たと)え得(え)ても保持(ほじ)できず使用(しよう)もできない」


「しかしこれら以外(いがい)に最も下等(かとう)な愚直(ぐちょく)な方法(ほうほう)がある。元石(げんせき)で強引(ごういん)に押(お)し切(き)ることだ!」その思考(しこう)に至(いた)り、方源(ほうげん)の目(め)が鋭(するど)く光(ひか)り、元石(げんせき)を両手(りょうて)で強(つよ)く握(にぎ)った。


蛊師修業(こししゅぎょう)は第一(だいいち)に資源(しげん)、第二(だいに)に資質(ししつ)。


資質不足(ししつふそく)の場合(ばあい)、資源(しげん)で一定(いってい)の補填(ほてん)が可能(かのう)だ。


「わしの真元(しんげん)は最大(さいだい)四割四分(よんわりよんぶ)。竅壁(きょうへき)を衝(つ)くには基盤(きばん)が足(た)りない。だが衝撃(しょうげき)を与(あた)えながら同時(どうじ)に真元(しんげん)を吸収(きゅうしゅう)し続(つづ)ければ、長(なが)く見(み)ても四、五日(し、ごにち)で竅壁(きょうへき)を破(やぶ)れる!」


覚悟(かくご)は既(すで)に決(き)まっている。方源(ほうげん)は毅然(きぜん)と目(め)を閉(と)じ、意識(いしき)を空竅(くうきょう)に沈(しず)めた。


青銅元海(せいどうげんかい)が再(ふたた)び波濤(はとう)を立(た)て、波(なみ)が絶(た)え間(ま)なく晶膜竅壁(しょうまくきょうへき)に打(う)ち寄(よ)せた。


だが今度(こんど)は真元(しんげん)の早期消耗(そうきしょうもう)を避(さ)け、亀裂(きれつ)維持(いじ)の余力(よりょく)を残(のこ)すため、方源(ほうげん)は意図的(いとてき)に衝撃(しょうげき)の強度(きょうど)を緩(ゆる)めた。


これにより青銅真元(せいどうしんげん)の消耗速度(しょうもうそくど)は大幅(おおはば)に低下(ていか)したが、晶膜(しょうまく)の亀裂(きれつ)増加(ぞうか)速度(そくど)も同様(どうよう)に鈍化(どんか)した。しかし方源(ほうげん)は元石(げんせき)から天然真元(てんねんしんげん)を吸収(きゅうしゅう)し続(つづ)けている。


真元回復速度(しんげんかいふくそくど)が晶膜修復速度(しょうまくしゅうふくそくど)を微(かす)かに上回(うわまわ)る。相殺(そうさい)されつつも、進展(しんてん)は極(きわ)めて緩慢(かんまん)ながら、全力(ぜんりょく)で真元(しんげん)を駆動(くどう)した際(さい)の百分の一(ひゃくぶんのいち)にも満(み)たない効果(こうか)ではあるが、長期的(ちょうきてき)に見(み)れば成功(せいこう)の可能性(かのうせい)が生(しょう)じた。


ただしこの方法(ほうほう)では、方源(ほうげん)は必要最小限(ひつようさいしょうげん)の食事(しょくじ)と排泄(はいせつ)以外(いがい)は修業(しゅぎょう)を止(や)められない。時間(じかん)の浪費(ろうひ)は即(すなわ)ち元石(げんせき)の浪費(ろうひ)であり、努力(どりょく)を水泡(すいほう)に帰(き)す。


最長(さいちょう)でも一刻(いっとき)停止(ていし)すれば、真元(しんげん)の追加入力(ついかゆにゅう)がない限(かぎ)り晶膜(しょうまく)は完全修復(かんぜんしゅうふく)する。


故(ゆえ)に衝撃開始(しょうげきかいし)後(ご)は成功(せいこう)するまで継続(けいぞく)し、干渉(かんしょう)を受け(うけ)てはならない。停止時間(ていしじかん)が長引(ながび)けば、最初(さいしょ)から再開(さいかい)する羽目(はめ)になる。


方源(ほうげん)の手元(てもと)には何度(なんど)も繰(く)り返(かえ)せるだけの元石(げんせき)はない。


修業(しゅぎょう)の中(なか)で時間(じかん)は瞬(またた)くように過(す)ぎ、気(き)が付(つ)けば陽(ひ)は山(やま)の彼方(かなた)に沈(しず)んでいた。



黄昏(たそがれ)の下(もと)、角三(かくぞう)の顔(かお)に冷(つめ)たい霜(しも)が張(は)ったような表情(ひょうじょう)を浮(う)かべ、低(ひく)く鈍(にぶ)い声(こえ)で言(い)った:「一日(いちにち)探(さが)してまだ見(み)つからんのか?」


「はい、組長(くみちょう)」空井(くうせい)が額(ひたい)の冷(ひや)汗(あせ)を拭(ぬぐ)いながら答(こた)えた。「あの小僧(こぞう)、俺達(おれたち)が紹介(しょうかい)した家(いえ)には入(はい)ってない。どこに潜(ひそ)んでるのか分(わ)からん」


「フンッ!明日(あした)も探(さが)し続(つづ)けろ。必(かなら)ず見(み)つけ出(だ)せ。旅籠(はたご)も調(しら)べ忘(わす)れるな。山寨(さんさい)なんてちっぽけなもんじゃねえか。どこに潜(ひそ)んでいようと、必(かなら)ず痕跡(こんせき)は残(のこ)ってるはずだ!」角三(かくぞう)は袖(そで)を払(はら)って立(た)ち去(さ)った。


翌日(よくじつ)昼過(ひるす)ぎ、彼等(かれら)の捜索(そうさく)は遂(つい)に成果(せいか)を挙(あ)げた。女性蛊師(じょせいこし)が息切(いきぎ)れしながら角三(かくぞう)の元(もと)へ駆(か)けつけて報告(ほうこく)した:「分(わ)かりました!方源(ほうげん)はボロボロの竹楼(ちくろう)の二階(にかい)の部屋(へや)を借(か)りてます。家主(やぬし)の話(はなし)から間違(まちが)いないでしょう」


「フンッ、思(おも)った通(どお)りだ。本当(ほんとう)に隠(かく)れて二転突破(にてんとっぱ)に全力(ぜんりょく)を注(そそ)いでやがる」角三(かくぞう)が陰湿(いんしつ)な笑(わら)いを漏(も)らした。「行(い)こうぜ、全員(ぜんいん)であいつの家(いえ)に挨拶(あいさつ)に行(い)くんだ。新人(しんじん)ならちゃんと面倒(めんどう)見(み)てやらなきゃな」


「クスクス……」一同(いちどう)が冷(ひや)やかな笑(わら)いを響(ひび)かせた。


四人(よにん)は直(ただ)ちに方源(ほうげん)の住居(じゅうきょ)へ向(む)かった。


扉(とびら)には竹紙(たけがみ)が貼(は)られていた。


角三(かくぞう)が竹紙(たけがみ)を剥(は)がし、広(ひろ)げて見(み)る。紙面(しめん)には方源(ほうげん)の筆跡(ひっせき)で「数日間(すうじつかん)閉関(へいかん)し、二転突破(にてんとっぱ)に専念(せんねん)。外出(がいしゅつ)せず。他者(たしゃ)は邪魔(じゃま)せぬこと。組長(くみちょう)へは休暇届(きゅうかとど)けとする」との旨(むね)が記(しる)されていた。


角三(かくぞう)は鼻(はな)で笑(わら)い、竹紙(たけがみ)をぽいっと放(ほう)り捨(す)てた。


「順調(じゅんちょう)に二転(にてん)させてたまるか」


冷(ひや)やかな笑(え)みを浮(う)かべ、指関節(ゆびかんせつ)で扉(とびら)を叩(たた)いた。


トントントン。


「ほうげん君(くん)、いるか?」わざと大声(おおごえ)で言(い)う。「見舞(みま)いに来(き)たぞ。閉関(へいかん)ぐらい事前(じぜん)に報告(ほうこく)しろよ」


部屋(へや)から返事(へんじ)がない。


ドンドンドン!


角三(かくぞう)が強(つよ)く扉(とびら)を叩(たた)く。「言(い)っとくがな、勝手(かって)な真似(まね)すんなよ。小組(こぐみ)に入(はい)った以上(いじょう)、命令(めいれい)に従(したが)え。野鹿捕獲(のじかほかく)任務(にんむ)を取(と)ってやったんだ。練習(れんしゅう)用(よう)だ。一旦(いったん)止(や)めて任務(にんむ)片付(かたづ)けてから修業(しゅぎょう)しろ」目(め)を細(ほそ)めながらも声(こえ)は柔(やわ)らかい。


依然(いぜん)として応答(おうとう)なし。


角三(かくぞう)は突然(とつぜん)声(こえ)を張(は)り上(あ)げた:「ほうげん!返事(へんじ)しろ!まさか事故(じこ)か?二転突破(にてんとっぱ)なんて生易(なまやさ)しいもんじゃねえ!先輩(せんぱい)に相談(そうだん)しろってんだ!……聞(き)こえてんのか!?まさか意識(いしき)失(うしな)ったか!?」


独(ひと)り芝居(しばい)を続(つづ)ける角三(かくぞう)の顔(かお)には嘲笑(ちょうしょう)が浮(う)かんでいたが、声(こえ)は心配(しんぱい)そうに震(ふる)えていた。


残(のこ)る三人(さんにん)の組員(くみいん)は黙(だま)って傍観(ぼうかん)していた。

空井(くうせい)が時宜(じぎ)を得(え)て口(くち)を挟(はさ)んだ:「組長(くみちょう)、もしかしたら本当(ほんとう)に当(あ)たってるかも。返事(へんじ)がないんだ、突入(とつにゅう)して救出(きゅうしゅつ)しましょう!」


「ほうげん!扉(とびら)開(あ)けろ!こんな沈黙(ちんもく)されると心配(しんぱい)だよ!開(あ)けないなら破(やぶ)るぞ!新人(しんじん)を危険(きけん)に晒(さら)すわけにはいかねえ!」角三(かくぞう)が大声(おおごえ)で怒鳴(どな)った。


しかし部屋(へや)からは微(かす)かな物音(ものおと)もない。


角三(かくぞう)が口元(くちもと)を吊(つ)り上(あ)げ、空井(くうせい)に目配(めくば)せする。空井(くうせい)が頷(うなず)き、足(あし)を振(ふ)り上(あ)げて扉(とびら)を蹴(け)り飛(と)ばした。


ガシャーン!


扉全体(とびらぜんたい)がベッドにぶつかって飛(と)び、床(ゆか)に叩(たた)きつけられた!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。