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蛊真人  作者: 魏臣栋
青茅山
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第七十六節:後悔か?

「くたばれ!」王(おう)大(だい)が低(ひく)い唸(うな)りを漏(も)らすと、木(こ)の梢(こずえ)から空中(くうちゅう)に飛(と)び降(お)りた。


仇敵(きゅうてき)に肉薄(にくはく)しようとした瞬間(しゅんかん)、三(み)つの月刃(げつじん)が不意(ふい)に飛来(ひらい)し進路(しんろ)を遮(さえぎ)った。


「四(よ)人目(にんめ)の蛊師(こし)!?」王(おう)大(だい)の胸(むね)が締(し)め付(つ)けられる。空中(くうちゅう)で体(からだ)を捻(ひね)り、二(ふた)つの月刃(げつじん)を辛(かろ)うじて回避(かいひ)。残(のこ)る一(ひと)つが左足(ひだりあし)に直撃(ちょくげき)した。


ドスン!


地面(じめん)に叩(たた)きつけられた王(おう)大(だい)が足(あし)を覗(のぞ)き込(こ)む——深(ふか)く裂(さ)けた傷口(きずぐち)から血潮(ちしお)が噴(ふ)き出(だ)していた。


「この…野郎(やろう)…!」歯軋(はぎし)りしながら心(こころ)で叫(さけ)ぶ。「幽影随行蛊(ゆうえいずいこうこ)!」


瞬(またた)く間(ま)に濃密(のうみつ)な黑影(こくえい)と化(か)し、音(おと)も無(な)く後退(こうたい)し始(はじ)めた。


その時(とき)、

一匹(いっぴき)の蛊(こ)が飛来(ひらい)し、枯(か)れた声(こえ)が響(ひび)く——

「閃光蛊(せんこうこ)、爆(は)ぜ」


蛊(こ)が炸裂(さくれつ)し、白亜(はくあ)の閃光(せんこう)が迸(ほとばし)る。


薄暗(うすぐら)い林(はやし)が真昼(まひる)の如(ごと)く照(て)らされ、黑影(こくえい)化(か)した王(おう)大(だい)の姿(すがた)が露呈(ろてい)した。


「ぐああっ!」悲鳴(ひめい)を挙(あ)げながら元(もと)の姿(すがた)へ戻(もど)される。


閃光蛊(せんこうこ)は一転(いってん)の消耗型(しょうもうがた)だが、幽影随行蛊(ゆうえいずいこうこ)の天敵(てんてき)だった。白熱光(はくねつこう)に晒(さら)された黑影(こくえい)は三時間(さんじかん)使用不能(しようふのう)となる。


自然(しぜん)の摂理(せつり)——万物(ばんぶつ)は相克(そうこく)する。幽影随行蛊(ゆうえいずいこうこ)の強力(きょうりょく)な潜伏(せんぷく)能力(のうりょく)には致命的(ちめいてき)な弱点(じゃくてん)が存在(そんざい)した。


王(おう)大(だい)の心(こころ)は一気(いっき)に奈落(ならく)の底(そこ)へ沈(しず)んだ。


四人目(よにんめ)の蛊師(こし)は老獪(ろうかい)——何(なん)らかの蛊(こ)で潜伏(せんぷく)し続(つづ)けていた強敵(きょうてき)だ。撤退経路(てったいけいろ)を断(た)たれた今(いま)、最早(もはや)逃(に)げ場(ば)は無(な)い。



「老夫(ろうふ)が古月叟(こげつそう)だ。小僧(こぞう)、今(いま)すぐ束手(そくしゅ)すれば、我(わ)が一族(いちぞく)が命(いのち)だけは助(たす)けてやるぞ!」白髪銀髭(はくはつぎんしゅ)の二転蛊師(にてんこし)が王(おう)大(だい)の視界(しかい)に現(あらわ)れた。


「命(いのち)を助(たす)けるだと? 先(さき)に貴様(きさま)を殺(ころ)す!」包囲網(ほういもう)が完成(かんせい)する前(まえ)に四人目(よにんめ)を始末(しまつ)しなければならないと悟(さと)り、王(おう)大(だい)は古月叟(こげつそう)へ襲(おそ)いかかった。


「真元(しんげん)残(のこ)り二割(にわり)。復讐(ふくしゅう)にせよ脱出(だっしゅつ)にせよ、邪魔者(じゃまもの)を葬(ほうむ)らねば!」


古月叟(こげつそう)は冷(ひや)やかに笑(わら)い、全身(ぜんしん)の毛髪(もうはつ)が暴(あば)れ出(だ)す。雪(ゆき)のような針(はり)の甲冑(かっちゅう)が瞬時(しゅんじ)に形成(けいせい)された。


「刺々(とげとげ)しい老狐(ろうこ)め……」王(おう)大(だい)は歯噛(はが)みした。愛生離(あいしょうり)の猛毒(もうどく)では突破(とっぱ)できず、防御(ぼうぎょ)用(よう)の蛊(こ)も持(も)たない自(みずか)らの弱点(じゃくてん)を痛感(つうかん)する。


「ならば方源(ほうげん)を先(さき)に!」三年間(さんねんかん)の逃亡生活(とうぼうせいかつ)で培(つちか)った狡知(こうち)が閃(ひらめ)く。


古月叟(こげつそう)を迂回(うかい)しようと走(はし)り出(だ)す王(おう)大(だい)に、老蛊師(ろうこし)が真元(しんげん)を迸(ほとば)らせる。甲冑(かっちゅう)から二本(にほん)の螺旋(らせん)状(じょう)の槍(やり)が五六米(ごろくメートル)伸(の)び、疾風(しっぷう)の如(ごと)く突(つ)き刺(さ)す。


「ぬおっ!?」間一髪(かんいっぱつ)で身(み)を屈(かが)めて回避(かいひ)。両手(りょうて)の爪(つめ)は掌(てのひら)半分(はんぶん)まで伸長(しんちょう)し、紫黒(むらさきぐろ)に煙(けむ)る毒気(どっけ)を放(はな)っていた。


「死(し)ねェェ!!」狂気(きょうき)の笑(わら)いを響(ひび)かせ急接近(きゅうせっきん)する王(おう)大(だい)。視界(しかい)に映(うつ)る方源(ほうげん)の驚愕(きょうがく)と恐怖(きょうふ)に染(そ)まった顔(かお)。


「この皮膚(ひふ)を貫(つらぬ)く感触(かんしょく)、断末魔(だんまつま)の喘(あえ)ぎ……!」脳裏(のうり)を駆(か)け巡(めぐ)る殺戮(さつりく)の幻想(げんそう)に、王(おう)大(だい)の十本(じゅっぽん)の毒爪(どくづめ)が輝(かがや)いた。


「甘(あま)いぞ!」


まさに王(おう)大(だい)が目的(もくてき)を達(たっ)せんとする瞬間(しゅんかん)、影(かげ)が閃(ひらめ)き進路(しんろ)を遮(さえぎ)った。


五人目(ごにんめ)の二転蛊師(にてんこし)が遠(とお)くから駆(か)け付(つ)けて来(き)たのだ!


「まさか愛生離(あいしょうり)の使い手(つかいて)か?」中年(ちゅうねん)の男(おとこ)は王(おう)大(だい)の狂乱(きょうらん)の突進(とっしん)に動(うご)じることなく、真元(しんげん)を迸(ほとば)らせた。


石皮蛊(せきひこ)!


赤鉄色(あかがねいろ)の真元(しんげん)が湯気(ゆげ)のように立ち昇(のぼ)り、裸(はだか)の両腕(りょううで)が瞬時(しゅんじ)に灰白色(はいしろいろ)へ変色(へんしょく)。風船(ふうせん)のように膨張(ぼうちょう)し、巨大(きょだい)な石(いし)の腕(うで)へと化(か)わった。


距離(きょり)が縮(ちぢ)まる中(なか)、顔面(がんめん)を歪(ゆが)ませる王(おう)大(だい)に対(たい)し、中年蛊師(こし)は沈黙(ちんもく)のまま石腕(いしうで)を伸(の)ばし掴(つか)みかかる。


「その鈍重(どんじゅう)さで俺(おれ)を捕(とら)えられるか?」王(おう)大(だい)が嘲笑(あざわら)う。石皮(せきひ)に覆(おお)われた腕(うで)は確(し)かに堅固(けんご)だが、重(おも)すぎて動(うご)きが遅(おそ)い。


「そうかな? 碧風輪(へきふうりん)!」中年蛊師(こし)が喝(かつ)を入(い)れると、翡翠色(ひすいいろ)の旋風(せんぷう)が二重(にじゅう)の腕輪(うでわ)のように石腕(いしうで)を纏(まと)った。


石腕(いしうで)が突然加速(かそく)!


「なにっ……ぐふ!」王(おう)大(だい)の驚愕(きょうがく)した顔(かお)を横殴(よこなぐ)り、その身軀(しんく)を吹(ふ)き飛(と)ばした。


熟練(じゅくれん)した戦術(せんじゅつ)——碧風輪(へきふうりん)を最初(さいしょ)から使用(しよう)していれば、王(おう)大(だい)も簡単(かんたん)には引(ひ)っ掛(か)からなかっただろう。


岩石(がんせき)のような一撃(いちげき)で地面叩(じめんたた)きつけられた王(おう)大(だい)は、胸(むね)に鈍痛(どんつう)を覚(おぼ)えながら目(め)を回(まわ)した。


「げほっ……」

這(は)いつくばるように起(お)き上(あ)がり、赤黒(あかぐろ)い血(ち)を吐(は)き出(だ)した。



「真元(しんげん)残(のこ)り半割(はんわり)…もう終(お)わりだ」空竅(くうこう)を覗(のぞ)き込(こ)み自嘲的(じちょうてき)に笑(わら)う王(おう)大(だい)。遠(とお)くに佇(たたず)む方源(ほうげん)を見(み)つけると、顔(かお)が狂気(きょうき)の決意(けつい)に歪(ゆが)んだ。「死(し)ぬまで貴様(きさま)を道連(みちづ)れに…!」


「あああああっ!」


傷(きず)を顧(かえり)みず猛然(もうぜん)と突撃(とつげき)を開始(かいし)する。


「食(く)い止(と)めろ!」中年蛊師(ちゅうねんこし)が焦燥(しょうそう)の声(こえ)。彼(かれ)は近接戦(きんせつせん)専用(せんよう)で遠距離(えんきょり)の蛊(こ)を持(も)たず、手(て)の届(とど)かぬ距離(きょり)にいた。


老蛊師(ろうこし)の雪白(ゆきしろ)の髪(かみ)が螺旋(らせん)状(じょう)の針(はり)と化(か)し、五米(ごメートル)も伸長(しんちょう)して王(おう)大(だい)の背中(せなか)を貫(つらぬ)いた。


だが王(おう)大(だい)は突進(とっしん)を止(や)めない。十本(じゅっぽん)の爪(つめ)が半米(はんメートル)まで伸(の)びきり、毒煙(どくえん)を迸(ほとば)らせていた。


「逃(に)がすか!」中年蛊師(こし)が蒼白(そうはく)になりながらも阻止(そし)できぬ距離(きょり)。


その時(とき)、青玉色(せいぎょくしょく)の光(ひかり)が迸(ほとば)く。


「玉皮蛊(ぎょくひこ)!」生死(せいし)の境(さかい)で方源(ほうげん)が絶叫(ぜっきょう)。全身(ぜんしん)の皮膚(ひふ)が玉(ぎょく)の甲殻(こうかく)へと変化(へんか)した。


愛生離(あいしょうり)の毒爪(どくづめ)が玉皮(ぎょくひ)を貫(つらぬ)く瞬間(しゅんかん)——


「うおおおっ!」老蛊師(ろうこし)が眼球(がんきゅう)を突出(とっしゅつ)させ、雪髪(ゆきがみ)の針(はり)を噴射(ふんしゃ)。王(おう)大(だい)の胸(むね)を前後(ぜんご)に貫通(かんつう)し、首筋(くびすじ)・両腕(りょううで)・脚(あし)へ縄(なわ)のように巻(ま)き付(つ)く。


滾(たぎ)り立(た)つ鮮血(せんけつ)が王(おう)大(だい)の体(からだ)から噴(ふ)き出(だ)し、真白(まっしろ)だった老蛊師(ろうこし)の髪(かみ)を赤(あか)く染(そ)め上(あ)げた。


罠(わな)に掛(か)かり青竹槍(あおたけやり)に串刺(くしざ)しにされた猪(いのしし)の如(ごと)く、王(おう)大(だい)の身動(みうご)きが封(ふう)じられる。


「はは…これで終(お)わりか」激(はげ)しい眩暈(めまい)に襲(おそ)われた王(おう)大(だい)が、死(し)の訪(おとず)れを嗤(わら)いながら呟(つぶや)いた。



「くそ…悔(くや)しい…!」


視界(しかい)が霞(かす)む中(なか)、死(し)の瞬間(しゅんかん)に最愛(さいあい)の記憶(きおく)が蘇(よみがえ)る。


「婉児(えんじ)…」妻(つま)の名(な)を叫(さけ)びながら、手(て)にした刃(やいば)が彼女(かのじょ)の体(からだ)を貫(つらぬ)いた。


「どうして…?」美(うつく)しい顔(かお)に困惑(こんわく)を浮(う)かべ、夫(おっと)の瞳(ひとみ)を凝(こ)視(し)する妻(つま)。


王(おう)大(だい)は目(め)を充血(じゅうけつ)させ震(ふる)え上(あ)がり、歯(は)の間(あいだ)から絞(しぼ)り出(だ)す:「すまない」


妻(つま)は憎(にく)しみの一片(いっぺん)も無(な)い愛(あい)深(ふか)い微笑(ほほえ)みを浮(う)かべた。


「わかったわ」


最期(さいご)に夫(おっと)の頬(ほお)に触(ふ)れようとした右手(みぎて)が、中途(ちゅうと)で力(ちから)を失(うしな)う。


妻殺(つまごろ)しの心臓(しんぞう)で愛生離(あいしょうり)を煉成(れんせい)——力(ちから)を得(え)て魔道(まとう)へ堕(お)ちた日(ひ)。


後悔(こうかい)か?


幾千(いくせん)もの夜(よる)、自問自答(じもんじとう)を繰(く)り返(かえ)した。


後悔(こうかい)で死(し)にたくなるほどだった! 残(のこ)された家族(かぞく)を守(まも)ると誓(ちか)ったのに…


だが…


「時(とき)が戻(もど)っても…婉児(えんじ)…また同じ道(みち)を選(えら)ぶぜよ…!」血涙(ちなみだ)が充血(じゅうけつ)した目(め)から溢(あふ)れ出(だ)す。


方源(ほうげん)は玉(ぎょく)のような光(ひかり)を放(はな)ちながら呆然(ぼうぜん)。


初対面(しょたいめん)の蛊師(こし)が狂気的(きょうきてき)に襲(おそ)いかかる理由(りゆう)が全(まった)く理解(りかい)できず、死(し)の恐怖(きょうふ)で体(からだ)が凍(こご)り付(つ)いた。本能(ほんのう)で玉皮蛊(ぎょくひこ)を最大限(さいだいげん)に発動(はつどう)させるしかなかった。


王(おう)大(だい)の毒爪(どくづめ)は玉皮(ぎょくひ)を1cm貫(つらぬ)いた所(ところ)で止(と)まった。


「やっと…終(お)わったのか?」方源(ほうげん)が荒(あら)い息(いき)を吐(は)き、虚脱(きょだつ)した目(め)で虚空(こくう)を見詰(みつ)める。


強烈(きょうれつ)な眩暈(めまい)が襲(おそ)い——


ドサッ!


その場(ば)に崩(くず)れ落(お)ちた。


愛生離(あいしょうり)——二転最強毒(にてんさいきょうどく)。玉皮(ぎょくひ)を完全(かんぜん)に貫通(かんつう)できなくとも、毒(どく)は既(すで)に体内(たいない)に侵入(しんにゅう)していた。


挿絵(By みてみん)

https://46918.mitemin.net/i956843/

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