「くたばれ!」王大が低い唸りを漏らすと、木の梢から空中に飛び降りた。
仇敵に肉薄しようとした瞬間、三つの月刃が不意に飛来し進路を遮った。
「四人目の蛊師!?」王大の胸が締め付けられる。空中で体を捻り、二つの月刃を辛うじて回避。残る一つが左足に直撃した。
ドスン!
地面に叩きつけられた王大が足を覗き込む——深く裂けた傷口から血潮が噴き出していた。
「この…野郎…!」歯軋りしながら心で叫ぶ。「幽影随行蛊!」
瞬く間に濃密な黑影と化し、音も無く後退し始めた。
その時、
一匹の蛊が飛来し、枯れた声が響く——
「閃光蛊、爆ぜ」
蛊が炸裂し、白亜の閃光が迸る。
薄暗い林が真昼の如く照らされ、黑影化した王大の姿が露呈した。
「ぐああっ!」悲鳴を挙げながら元の姿へ戻される。
閃光蛊は一転の消耗型だが、幽影随行蛊の天敵だった。白熱光に晒された黑影は三時間使用不能となる。
自然の摂理——万物は相克する。幽影随行蛊の強力な潜伏能力には致命的な弱点が存在した。
王大の心は一気に奈落の底へ沈んだ。
四人目の蛊師は老獪——何らかの蛊で潜伏し続けていた強敵だ。撤退経路を断たれた今、最早逃げ場は無い。
「老夫が古月叟だ。小僧、今すぐ束手すれば、我が一族が命だけは助けてやるぞ!」白髪銀髭の二転蛊師が王大の視界に現れた。
「命を助けるだと? 先に貴様を殺す!」包囲網が完成する前に四人目を始末しなければならないと悟り、王大は古月叟へ襲いかかった。
「真元残り二割。復讐にせよ脱出にせよ、邪魔者を葬らねば!」
古月叟は冷やかに笑い、全身の毛髪が暴れ出す。雪のような針の甲冑が瞬時に形成された。
「刺々(とげとげ)しい老狐め……」王大は歯噛みした。愛生離の猛毒では突破できず、防御用の蛊も持たない自らの弱点を痛感する。
「ならば方源を先に!」三年間の逃亡生活で培った狡知が閃く。
古月叟を迂回しようと走り出す王大に、老蛊師が真元を迸らせる。甲冑から二本の螺旋状の槍が五六米伸び、疾風の如く突き刺す。
「ぬおっ!?」間一髪で身を屈めて回避。両手の爪は掌半分まで伸長し、紫黒に煙る毒気を放っていた。
「死ねェェ!!」狂気の笑いを響かせ急接近する王大。視界に映る方源の驚愕と恐怖に染まった顔。
「この皮膚を貫く感触、断末魔の喘ぎ……!」脳裏を駆け巡る殺戮の幻想に、王大の十本の毒爪が輝いた。
「甘いぞ!」
まさに王大が目的を達せんとする瞬間、影が閃き進路を遮った。
五人目の二転蛊師が遠くから駆け付けて来たのだ!
「まさか愛生離の使い手か?」中年の男は王大の狂乱の突進に動じることなく、真元を迸らせた。
石皮蛊!
赤鉄色の真元が湯気のように立ち昇り、裸の両腕が瞬時に灰白色へ変色。風船のように膨張し、巨大な石の腕へと化わった。
距離が縮まる中、顔面を歪ませる王大に対し、中年蛊師は沈黙のまま石腕を伸ばし掴みかかる。
「その鈍重さで俺を捕えられるか?」王大が嘲笑う。石皮に覆われた腕は確かに堅固だが、重すぎて動きが遅い。
「そうかな? 碧風輪!」中年蛊師が喝を入れると、翡翠色の旋風が二重の腕輪のように石腕を纏った。
石腕が突然加速!
「なにっ……ぐふ!」王大の驚愕した顔を横殴り、その身軀を吹き飛ばした。
熟練した戦術——碧風輪を最初から使用していれば、王大も簡単には引っ掛からなかっただろう。
岩石のような一撃で地面叩きつけられた王大は、胸に鈍痛を覚えながら目を回した。
「げほっ……」
這いつくばるように起き上がり、赤黒い血を吐き出した。
「真元残り半割…もう終わりだ」空竅を覗き込み自嘲的に笑う王大。遠くに佇む方源を見つけると、顔が狂気の決意に歪んだ。「死ぬまで貴様を道連れに…!」
「あああああっ!」
傷を顧みず猛然と突撃を開始する。
「食い止めろ!」中年蛊師が焦燥の声。彼は近接戦専用で遠距離の蛊を持たず、手の届かぬ距離にいた。
老蛊師の雪白の髪が螺旋状の針と化し、五米も伸長して王大の背中を貫いた。
だが王大は突進を止めない。十本の爪が半米まで伸びきり、毒煙を迸らせていた。
「逃がすか!」中年蛊師が蒼白になりながらも阻止できぬ距離。
その時、青玉色の光が迸く。
「玉皮蛊!」生死の境で方源が絶叫。全身の皮膚が玉の甲殻へと変化した。
愛生離の毒爪が玉皮を貫く瞬間——
「うおおおっ!」老蛊師が眼球を突出させ、雪髪の針を噴射。王大の胸を前後に貫通し、首筋・両腕・脚へ縄のように巻き付く。
滾り立つ鮮血が王大の体から噴き出し、真白だった老蛊師の髪を赤く染め上げた。
罠に掛かり青竹槍に串刺しにされた猪の如く、王大の身動きが封じられる。
「はは…これで終わりか」激しい眩暈に襲われた王大が、死の訪れを嗤いながら呟いた。
「くそ…悔しい…!」
視界が霞む中、死の瞬間に最愛の記憶が蘇る。
「婉児…」妻の名を叫びながら、手にした刃が彼女の体を貫いた。
「どうして…?」美しい顔に困惑を浮かべ、夫の瞳を凝視する妻。
王大は目を充血させ震え上がり、歯の間から絞り出す:「すまない」
妻は憎しみの一片も無い愛深い微笑みを浮かべた。
「わかったわ」
最期に夫の頬に触れようとした右手が、中途で力を失う。
妻殺しの心臓で愛生離を煉成——力を得て魔道へ堕ちた日。
後悔か?
幾千もの夜、自問自答を繰り返した。
後悔で死にたくなるほどだった! 残された家族を守ると誓ったのに…
だが…
「時が戻っても…婉児…また同じ道を選ぶぜよ…!」血涙が充血した目から溢れ出す。
方源は玉のような光を放ちながら呆然。
初対面の蛊師が狂気的に襲いかかる理由が全く理解できず、死の恐怖で体が凍り付いた。本能で玉皮蛊を最大限に発動させるしかなかった。
王大の毒爪は玉皮を1cm貫いた所で止まった。
「やっと…終わったのか?」方源が荒い息を吐き、虚脱した目で虚空を見詰める。
強烈な眩暈が襲い——
ドサッ!
その場に崩れ落ちた。
愛生離——二転最強毒。玉皮を完全に貫通できなくとも、毒は既に体内に侵入していた。

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