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蛊真人  作者: 魏臣栋
青茅山
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第七十四節:智は霧を覗き殺機を現す

樹上小屋じゅじょうごや内部ないぶせまいが、ものおお雑然ざつぜんとしている。一瞥いちべつしただけでらかっている印象いんしょうける。


中央ちゅうおうゆかには暗黄色あんこうしょく分厚ぶあつ毛布もうふかれている。


壁際かべぎわにはまきよう鉄製てつせいストーブが設置せっちされ、そのうえ銅製どうせいのやかんがっている。ストーブ内部ないぶにはがらくろはいのこり、よこには未使用みしよう乾燥かんそうしたまきちいさくまれている。


なつであってもやまよるむため、この小型こがたストーブであたたれる仕組しくみだ。


小屋こやにはまどふたつあり、片側かたがわ窓枠まどわくからロープが数本すうほんわり、反対側はんたいがわ窓枠まどわくまでわたされている。


ロープにはふるびた衣服いふくされており、パッチワークがほどこされた大人用おとなようふくにはいま湿気しっけのこっている。


しずみかけた夕日ゆうひまどからみ、薄暗うすぐら室内しつないらしている。


壁際かべぎわてかけられたおの猟刀りょうとうは、つか部分ぶぶん獣皮じゅうひかれており、には暗赤色あんせきしょく血痕けっこん付着ふちゃくしている。


反対側はんたいがわかべには竹紙たけがみられ、中央ちゅうおう短刀たんとうさっている。


竹紙たけがみえがかれた少年しょうねんかお——それはまぎれも方源ほうげんそのものだった。


この光景こうけいは、最近さいきんだれかがこのかくき、方源ほうげん標的ひょうてきにしていたことを如実にょじつ物語ものがたっている。かべてられた短刀たんとうが、その悪意あくい露骨ろこつ表現ひょうげんしていた。


当事者とうじしゃである方源ほうげん動揺どうようしないわけがなかった。



「こいつはなにねらっている? おれだけをねらってるのか? いや、ちがう……もしかしたら方正ほうせいか?」方源ほうげんあたまなか思考しこうはげしく渦巻うずまいていた。


方正ほうせい甲等こうとう素質そしつ——古月一族こげついちぞく三年さんねんぶりにあらわれた唯一ゆいいつ天才てんさいであり、一族いちぞく希望きぼうだ。もし無事ぶじ育成いくせいできれば、次世代じせだい旗頭はたがしらとなる存在そんざい


しかし成長過程せいちょうかていには天災てんさいあるいは人災じんさいもの


天災てんさいいておくにしても、問題もんだい人為的じんいてき妨害ぼうがいだ。青茅山せいぼうざんには古月山寨こげつさんさいだけではなく、白家寨はくかさい熊家寨ゆうかさい存在そんざいする。この二大勢力にだいせいりょく古月族こげつぞく甲等天才こうとうてんさい育成いくせい座視ざしするはずがない。


暗殺者あんさつしゃ派遣はけん常套手段じょうとうしゅだんだ。


この世界せかい天才てんさいすくないのではなく、無事ぶじ成長せいちょうできるものまれなのだ。甲等資質こうとうししつ蛊師こし過去かこ存在そんざいした。三年前さんねんまえ古月族こげつぞくからあらわれており、さらむかしにも幾度いくど輩出はいしゅつしている。


だが青茅山せいぼうざん三大山寨さんだいさんさいでここ数年すうねんの間に育成いくせいされた甲等天才こうとうてんさい一人ひとり——白家寨はくかさい白凝冰はくぎょうひょうだけ。現在げんざいすでに三転さんてん実力じつりょくを持つ彼女かのじょ存在そんざいこそが、このきびしい現実げんじつ物語ものがたっている。


「こいつは白家寨はくかさいものか、それとも熊家寨ゆうかさい刺客しきゃくか? もう古月方正こげつ ほうせい抹殺まっさつはじめたとでもいうのか?」方源ほうげんまゆせ、木壁きかべられた肖像画しょうぞうがにらみつけた。


「だがなぜ王老爺おうろうや獣皮地図じゅうひちずにこの樹上小屋じゅじょうごやのマークが? まさか王老爺おうろうや他勢力たせいりょく隠密おんみつだったのか? いや、ちがう……こいつはおれねらってる!」


方源ほうげんひとみするどひかった。


この瞬間しゅんかん過去かこ記憶きおくが次々(つぎつぎ)とよみがえる。


最初さいしょ場面ばめん――わなかたわらでいた四人よにんわか獵師りょうし会話かいわ

王二おうにあんさん、十九じゅうきゅうにもなったんだからよめもらって子供こどもつくったらどうだい?」

「ふん! おとこがそんな色事いろごとおぼれるか! いつか青茅山せいぼうざん天下てんかまわるのがおとこ本懐ほんかいだ!」


二度目にどめ記憶きおく――方源ほうげんくだした後の王二おうに異様いよう冷静れいせいゆみいてぐにねらいをさだめる王二おうにたいし、ほか三人さんにんはやくも命乞いのちごいしていた。


三度目さんどめ場面ばめん――方源ほうげん尋問じんもん

王老爺おうろうや家族かぞくほかにいるか?」

獵師りょうし返答へんとう:「王狩人頭おうかりゅうどがしらにはむかしつまがいましたが、十数年前じゅうすうねんまえ野狼やろうころされました。二人ふたり息子むすこ一人ひとりむすめがいましたが、長男ちょうなんおうだい三年前さんねんまえりの事故じこくなり…いまだれのこっておりません」


「あ、思いした! 王大おうだいにはよめがいました。でも王大おうだい行方不明ゆくえふめいになったあと、そのおんな後追あとお自殺じさつしたんです。山寨さんさいから貞節牌坊ていせつはいぼうくだされたってはなしですが…じつ王老爺おうろうや無理矢理むりやりんだってうわさも…」


べつ獵師りょうしあわてて便乗びんじょう:「そうなんです! 大人たいじん、あのじじいは本当ほんとういややつでした! りが上手うまいだけでえらそうにして…わざわざむら一人ひとりらすなんて! 後輩こうはいとして何度なんどおそえをおうとしたのに、木小屋きごやちかくにすらるなってかえすんです!」



王老爺おうろうや一家いっかむらはな孤立こりつしてらしていたこと……


長男ちょうなん王二おうに三年前さんねんまえりでやま死亡しぼうしたこと……


王大おうだいつま再婚さいこんのぞんだため王老爺おうろうや自殺じさつ強要きょうようされ、貞節牌坊ていせつはいぼうさずかったこと……


王老爺おうろうや狩猟しゅりょうおそえをいに若者わかものかえしていたこと……


獣皮地図じゅうひちず三箇所さんかしょ赤丸あかまる意図的いとてきかくし、方源ほうげんわたした竹紙たけがみには記載きさいしなかったこと……


わか王二おうに蛊師こしたいして異様いよう冷静れいせいさをたもち、結婚けっこんせず凡人ぼんじん超越ちょうえつする野望やぼういだいていたこと……


さら決定的けっていてきなのは、獣皮地図じゅうひちず赤丸あかまるしめかく人間にんげん生活跡せいかつあとがあり、方源ほうげん方正ほうせいへ強い敵意てきいもの存在そんざいしたこと……


これらの事実じじつ個別こべつでは気付きづがたいが、つなわせると不自然ふしぜんきわまりない!


方源ほうげん思考しこうふかめるほど、眼前がんぜんきりうすれていく感覚かんかくがあった。


まどから夕陽ゆうひかれかおのようにげる。


周囲しゅうい不気味ぶきみ静寂せいじゃくつつまれ、背後はいごからだれかに見張みはられているような感覚かんかく……


突然とつぜん方源ほうげんが爛々(らんらん)とかがやき、時空じくうつらぬいて真実しんじつ看破かんぱした。


王大おうだいんでいない」


その瞬間しゅんかんかれひとみからするどひかりほとばしった。


「ただ生きのこっただけでなく、魔道蛊師まとうこしへと転生てんせいしていたのだ!」


凡人ぼんじん修行しゅぎょう素質そしつがないわけではない。各家族かくかぞく蛊師こし修得方法しゅうとくほうほう厳重げんじゅう管理かんりしているだけだ。


しかし絶対ぜったいということはない。


凡人ぼんじん蛊師こしになるれいもある——野良のら希望蛊きぼうこ出会であ空竅くうこうひらものちから継承けいしょうけるもの族内ぞくないものから密伝みつでんさずかるものなど。


だがこうした蛊師こし家族かぞく容認ようにんされず、せいぜいが末端まったん用心棒ようじんぼうにされる。不満ふまんつのらせた彼等かれら孤独こどく蛊師こしとなり、過酷かこく修行環境しゅぎょうかんきょうきょう資源しげんうばううちに魔道まとうちていく。


なにかのえん)で——最も可能性かのうせい)たか)いのは、)んだ蛊師こし)遺産いさん)))れたことだろう——おう)だい)三年前さんねんまえ)蛊師こし)になった。人目ひとめ)あざむ)くため死亡しぼう)偽情報ぎじょうほう)なが)したが、実際じっさい)には遺体いたい)目撃もくげき)したもの)だれ)もいない。おう))がこの事実じじつ))ると、むら))野獣やじゅう)危険きけん)おか)しても孤立こりつ)して)らしはじ)めた。真実しんじつ)かく)すためだ」


「だがここで亀裂きれつ)しょう)じた。おう)だい)つま)古月山寨こげつさんさい)への報告ほうこく)主張しゅちょう)したかもしれない。王家おうけ)彼女かのじょ)殺害さつがい)し、『再婚希望さいこんきぼう)』『強要自殺きょうようじさつ)』など真偽混しんぎま)じりのうわさ)なが)し、真相しんそう)流言りゅうげん)もと)封印ふういん)した」


おう)だい)定期的ていきてき)実家じっか)もど)っていた。王老爺おうろうや)おそ)えを)いに)若者わかもの))はら)つづ)けた。おとうと)王二おうに)あに)せっ)するうちに蛊師こし)への恐怖きょうふ)うす)れ、みずか)らも蛊師こし)になり外界がいかい))野望やぼう)いだ)くようになった」


おう)だい)行跡こうせき))れるのをおそ)れ、王二おうに)結婚適齢期けっこんてきれいき))ぎてもつま)めと)らなかった。おう)だい)常駐じょうちゅう)できないため、獣皮地図じゅうひちず)三箇所さんかしょ)赤丸あかまる)——これらは全て(すべて)かく))位置いち)だ。狡兎こうと)三窟さんくつ)ごと)く、三大山寨さんだいさんさい)勢力せいりょく)隙間すきま)生活せいかつ)していた」


赤丸あかまる)意味いみ)いま)あき)らかになった!

あか)重要じゅうよう)なものをしめ)す——王老爺おうろうや)にとって長男ちょうなん)居住地きょじゅうち)だ。方源ほうげん)地図ちず))かせるさい)竹紙たけがみ)から赤丸あかまる)意図的いとてき)除外じょがい)し、復讐ふくしゅう)機会きかい)うかが)っていた。


「おそらく毎年まいとし))まった時期じき)おう)だい)実家じっか)もど)っていたのだろう。家族かぞく)ころ)された事実じじつ))り、わたし)))めた。かべ)わたし)肖像しょうぞう)短刀たんとう))したのは、復讐ふくしゅう)意思表示いしひょうじ)だ」


前世ぜんせ)経験けいけん)から、方源ほうげん)はこの推理すいり)真実しんじつ)だと確信かくしん)していた。



もし他勢力たせいりょく方正ほうせい暗殺あんさつしたいなら、もっと巧妙こうみょう行動こうどうできただろう。王老爺おうろうやのような凡人ぼんじんのスパイを育成いくせいする必要ひつようもない。そもそも王老爺おうろうや古月山寨こげつさんさいないではなく山麓さんろくんでいたのだから。


「まさか獣皮地図じゅうひちずいっまいのため、魔道蛊師まとうこし刺客しきゃくせるとは……なか面白おもしろいものだ」方源ほうげんおもわずせせわらった。


王二おうに王老爺おうろうやおうむすめじゅん殺害さつがいしたのは、地図ちず迅速じんそく入手にゅうしゅするためだった。むらいち狩人かりゅうどである王老爺おうろうや地図ちず最良さいりょう判断はんだんしたからだ。


当時とうじは「三人さんにん凡人ぼんじんごとき、ついでにころしただけ」とたかくくっていた。


この世界せかいで、きる権利けんり権利けんりだれにでもある。


まさか魔道蛊師まとうこしあらわれるとは……!


だが方源ほうげん後悔こうかい微塵みじんもなく、むし安堵あんどしていた。


もしあま対応たいおうをしていれば、おうものたちがおうだい秘密ひみつまもるため地図ちず偽造ぎぞうしただろう。


王二おうに戦闘力せんとうりょく一転高階蛊師いってんこうかいこしたおせるほど王老爺おうろうや老獪ろうかい)で、実戦じっせん)ではさら脅威きょうい)だった。


しん)地図ちず)わた)されても、王老爺おうろうや)おう)だい)情報じょうほう)なが)せば、方源ほうげん)情報じょうほう)筒抜つつぬ)けになる。くら)がりのおう)だい)主導権しゅどうけん)にぎ)り、方源ほうげん)完全かんぜん)不利ふり)立場たちば))たされる。


即座そくざ)ころ)して正解せいかい)だった! しん)地図ちず))られなくてもほか)狩人かりゅうど)からうば)える。おう)だい)情報収集じょうほうしゅうしゅう)時間じかん))らせたうえ)、生きのこ)った二人ふたり)獵師りょうし))されているはずだ」


関係者かんけいしゃ)かぎ)られており、おう)だい)江鶴こうかく)ころ)せない——殺害さつがい)すれば族内ぞくない)調査ちょうさ)))す。だが二人ふたり)獵師りょうし)が「やま)行方不明ゆくえふめい)」なら江鶴こうかく)評価ひょうか)維持いじ)のため黙認もくにん)し、むしろ隠蔽いんぺい)協力きょうりょく)するだろう。

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