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蛊真人  作者: 魏臣栋
青茅山
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第七十二節:いかなる組織も忠誠を必要とする

灼熱しゃくねつ夏陽なつひ青茅山せいぼうざんりつけ、山風やまかぜさえも熱気ねっきはこんでくる。


またた六月末ろくがつすえとなった。


古月方正こげつ ほうせい!」学舎がくしゃ家老かろうこえひびく。


方正ほうせいせきからがり、教壇きょうだんまえすすた。周囲しゅうい羨望せんぼう眼差まなざしをびながら、元石げんせきはいったおもふくろった。


「おまえ最初さいしょ高階こうかい昇格しょうかくした。三十さんじゅう元石げんせき褒賞ほうしょうだ。くやった」家老かろう満足まんぞくげにかたたたいた。


「はい!」方正ほうせい顔中かおじゅうよろこびをにじませ、小脇こわきふくろかかえてせきもどった。


「ついにやった……兄貴あにきてたか? おれはじめてきみえたんだぞ!」


ひとみただれさせながら、視線しせん教室きょうしつすみける。方源ほうげん相変あいかわらずつくえしてぐっすり寝入ねいっていた。


昨夜ゆうべ山猪やまぶた一頭いっとうり、白豕蛊はくしこ肉体強化にくたいきょうかおこない、元石げんせきから真元しんげん吸収きゅうしゅう酒虫さけむし精錬せいれんしたあと高階真元こうかいしんげん空竅くうこう温養おんようする作業さぎょう夜明よあけまでつづけたのだ。朝食ちょうしょくあわててませ、授業じゅぎょうはじまるやいな爆睡ばくすいしている状態じょうたいだった。


「……たふりしてても無駄むだだぜ、兄貴あにき。これが現実げんじつなんだからな」

こぶしかたにぎめながら、むねおくさけぶ。「これが最初さいしょ一歩いっぽだ。二度目にどめ三度目さんどめかならず……」


ながあいだ方源ほうげんかげおびえてきたこころに、ほそいがたしかなひかりんだ瞬間しゅんかんだった。


「ちぇっ、方正ほうせいけるなんて」古月漠北こげつ ばくほく腕組うでぐみしたまませきすわり、歯噛はがみしていた。


甲等こうとう素質そしつってこんないいことあるのか……くそ」古月赤城こげつ あかぎけわしい表情ひょうじょうつぶやいた。祖父そふ支援しえんを受け努力どりょくしてもおよばない現実げんじつ苛立いらだっていた。


酒虫さけむしさえれりゃ、祖父じいちゃんのちからりて逆転ぎゃくてんできたかもな! 方源ほうげん兄弟きょうだいめ……おとうと甲等こうとうあに丙等へいとうなのに酒虫さけむしってやがる。全部ぜんぶひとめかよ!」


周囲しゅうい生徒せいとたちもさわした。

方正ほうせい最速さいそく高階こうかいか」

甲等こうとうだから当然とうぜんだろ」

方源ほうげん酒虫さけむしってるくせに役立やくだてずてるだけじゃねえか」


家老かろう教卓きょうたくたたき「静粛せいしゅくに!」

ザワついていた教室きょうしつみずったようにしずまりかえった。


諸君しょくんすで第二だいに掌握しょうあくし、高階こうかいたっしたものもいる。つぎ実戦じっせんだ」

三日後みっかご年中考核ねんちゅうこうか実施じっしする。内容ないよう山猪やまぶたきばり。獲得数かくとくすうおうじて成績せいせき評価ひょうかきば一本いっぽんにつき十元石じゅうげんせき支給しきゅうする。チームせん


教室きょうしつふたた騒然そうぜんとなる。

つい実戦じっせんか!」

市価しかならきば二十本にじゅっぽん一元石いちげんせきなのに、十倍じゅうばい価値かちだぞ」

丁等ていとうおれでもチームめば……」

方源ほうげんさえうごけば……」


すみていた方源ほうげんまゆかすかにうごいた。



「変わった……! 前世ぜんせいねんちゅうこうかく野生やせい蜂蜜はちみつさいしゅうだったはずなのに、まさか山猪やまぶたきばりに変更へんこうされるとは。これがバタフライ効果こうかか?」


ちょうはねひとかいるうだけでたいようかなたあらしこす。かすかな変数へんすうかさなる影響えいきょうで、最終的さいしゅうてき巨大きょだい変化へんかしょうす。


転生てんせい以来いらい方源ほうげん数多あまた変化へんかこしてきた。前世ぜんせいでは方正ほうせいらに完全かんぜんいてかれていたが、いまでは生徒せいと最前線さいぜんせんんでいた。


前世ぜんせいでは賈金生かきんせいころすどころかうことすらなかったが、今世こんせいではかれ殺害さつがいし、花酒行者かしゅぎょうじゃ秘蔵ひぞう奥義おうぎまであばした。


これらの変化へんかちょうはねひとるいにて、間接的かんせつてき周囲しゅうい影響えいきょうあたはじめた。ねんちゅうこうかく変更へんこうは、その最初さいしょあらわれにぎない。


「このまま影響えいきょうあたつづけたら、未来みらい歴史れきしすべわってしまうのではないか? 転生者てんせいしゃとしての優位性ゆういせいうしなわれる……」


方源ほうげん表情ひょうじょううごかさないが、こころおく嘆息たんそくした。無力感むりょくかん焦燥感しょうそうかん同時どうじおそったが、すぐに気持きもちをととのえた。


こりつつある変化へんかめられない。たとえ未来みらいすべ変容へんようしようと、成長せいちょうあしゆるめるわけにはいかん!」


前世ぜんせい未知みち未来みらいかえた勇気ゆうきが、いまおれにないとでも? はっ! たとえなかいばらだらけでも、おれみずかかたなるってみちを切りひらく!」


きば一本いっぽん十元石じゅうげんせきか……秘洞ひどうかくしたきばやまはらうべきか? だが大量たいりょうせばうたがわれる。ぎゃく古月一族こげついちぞく政情せいじょう利用りようして火中かちゅうくりひろもあるが……」


くびかすかにりながらかんがえる。「百五十元石ひゃくごじゅうげんせき程度ていどではリスクがおおきすぎる」


て……元石げんせきなどるにらない。むしろこのかいで『実力じつりょくはあるが奔放ほんぽう』という評判ひょうばんかためられる」 おくするどひかった。


かれもとめるのはだまって大儲おおもうけし、目立めだたぬよう行動こうどうすることだ。もし花酒行者かしゅぎょうじゃ継承けいしょう秘密ひみつ発覚はっかくすれば、いのちさえあやうくなる。


しかし現在げんざいかれ立場たちば微妙びみょうだ。同級生どうきゅうせい全員ぜんいん対立たいりつし、組織そしき枠組わくぐみからはずれた存在そんざい上層部じょうそうぶかられば「えない不満分子ふまんぶんし」「冷徹れいてつ丙等へいとう若造わかぞう」という烙印らくいんされている。


不忠誠ふちゅうせい」のレッテルは厄介やっかいだ。いかなる組織そしき忠誠心ちゅうせいしんもとめる。家族かぞくへの忠誠ちゅうせい国家こっかへの忠誠ちゅうせい——このつねだ。


修行しゅぎょうすすむほど上層部じょうそうぶ監視かんしきびしくなり、いずれ強硬きょうこう手段しゅだんられかねない。そうなれば完全かんぜん受動的じゅどうてき立場たちばまれる。


方源ほうげん受身うけみきらう。つね主導権しゅどうけんにぎることをこのむ。これまでの行動こうどう——きや他者たしゃちから利用りようした印象操作いんしょうそうさ——は全て(すべて)自己防衛じこぼうえいのためだった。


いま自衛じえい十分じゅうぶんつぎ成長せいちょうだ」

上層部じょうそうぶに「体制たいせい従順じゅうじゅんになった」とおもわせつつ、きゅう変化へんかうたがわれぬよう細心さいしん注意ちゅうい必要ひつようだった。ただし本音ほんねでは組織そしきしばられるつもりなどない。数多あまた秘密ひみつかかえるかれには、孤独こどく自由じゆう不可欠ふかけつなのだ。


ねんちゅうこうかく転機てんきになる」

方源ほうげんするどひかった。「まずはいまから同級生どうきゅうせいへの強請ゆすりを再開さいかいするか。全て(すべて)は計算けいさんどおりだ」

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