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蛊真人  作者: 魏臣栋
青茅山
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第七十節: 白豕蛊を使う

漆黒しっこく夜空よぞら銀盤ぎんばんのようなつきたかかり、みずのような月光げっこうそそいでいた。

夏風なつかぜられるみっした山林さんりん濃緑のうりょくひろげ、たきの轟々(ごうごう)としたおと檀香蟋蟀たんこうこおろぎわずらわしいごえしきれない。


方源ほうげんみどり草地くさちみしめながら、しずかに山豚やまぶたちかづいた。


その山豚やまぶたあたま地面じめんめ、ブーブーとはならせながら青泥あおでいこし、くさ土中どちゅう蠕虫ぜんちゅうさがしていた。


野豚のぶた雑食性ざっしょくせい動物どうぶつで、蠕虫ぜんちゅうだけでなくとりたまごぬすみ、野兎のうさぎねずみへびさそりのようなどく生物せいぶつまで捕食ほしょくする。


方源ほうげん背後はいごからゆっくりと接近せっきんした。

月明つきあかりのもと山豚やまぶた灰黒はいぐろ毛皮けがわがくっきりえる。がっしりした体躯たいくみじかふと四肢しし背中せなか剛毛ごうもうながかたく、みみえたはりのようなまばらなっていた。


四本よんほんあしの各々(おのおの)に四趾ししあるが、実際じっさい地面じめんせっするのは中央ちゅうおう二趾にしだけ。ほそみじか時折ときおりられ、周囲しゅういはらっていた。


突然とつぜんつちるのをめ、あたまきゅうげた。とがった小耳こうみみ数回すうかい素早すばやふるえた。


方源ほうげん即座そくざあしめたにもかかわらず、山豚やまぶたかれ発見はっけんし、瞬時またたからだひるがえして警戒音けいかいおんはっした。


「やはり野生やせいか」家畜かちくとはちがい、山豚やまぶた嗅覚きゅうかくするどく、巧妙こうみょうかくされた鳥巣とりすでもけられる。たと足音あしおとしても、百歩ひゃっぽまでちかづけば体臭たいしゅう気付きづかれる運命うんめいだった。


方源ほうげん現在げんざい春秋蝉しゅんじゅうせみ酒虫さけむし月光蛊げっこうこ小光蛊しょうこうこ白豕蛊はくしこ五種ごしゅゆうするが、配置はいち不合理ふごうり不完全ふかんぜんだ。


においを遮断しゃだんする鎖気蛊さきこ足音消あしおとけしの悄歩蛊しょうほこ追加ついかすれば十歩じゅっぽまで接近せっきん可能かのうだが、七種しちしゅ維持いじ元石げんせき消耗しょうもうはげしく、現状げんじょうではまかなえない。


通常つうじょう蛊師こし同転どうてんを四、五匹よんごひき飼育しいくするのが限界げんかい。そのため蛊師こし単独行動たんどくこうどうせず、最低さいてい三人さんにん通常つうじょう五人ごにんのチームをむ。


偵察役ていさつやく移動いどう専門せんもん強攻きょうこう要員よういん治療役ちりょうやく防御ぼうぎょ担当たんとう役割分担やくわりぶんたんするのがつねだ。


方源ほうげんあしめず、山猪やまぶた接近せっきんつづけた。


山猪やまぶたひくうなる。首筋くびすじしろ剛毛ごうもう逆立さかだち、興奮状態こうふんじょうたいしめしている。


ついに方源ほうげん心理的しんりてき安全距離あんぜんきょりおかした瞬間しゅんかん山猪やまぶた前脚まえあし地面じめん三度さんどり、がっしりした四肢しし突進とっしん開始かいしした。


はずれた上犬歯じょうけんし月光げっこうにぶひかり、方源ほうげん腹部ふくぶ目指めざす。このきばつらぬけば内臓ないぞうが引きかれ、致命傷ちめいしょうまぬがれない。


月光蛊げっこうこ

方源ほうげん冷静れいせい真元しんげんそそむ。右掌みぎてのひらから幽青ゆうせい月刃げつじんがシュッと飛翔ひしょう


バシッ!

山猪やまぶた顔面がんめん直撃ちょくげき血煙ちけむりつ。いたみにくるった山猪やまぶた加速かそくし、数歩すうほ距離きょりまでせまる。


方源ほうげん敏速びんそく側転そくてん回避かいひ


ドン!

間一髪かんいっぱつかわれたさきで、若木わかぎが粉々(こなごな)にれるおとひびいた。うでほどのふとさのぷたつにけていた。



方源ほうげんがると同時どうじ右手みぎてるった。

シュッ!シュッ!シュッ!


幽青ゆうせい月刃げつじん直線ちょくせんえがき、山猪やまぶた黒灰くろはいいろ毛皮けがわさる。細長ほそなが傷口きずぐちから血潮ちしおし、地面じめんあかめた。


甲殻こうかくすられる月刃げつじんほねとどかぬとは……」高濃度こうのうど真元しんげん放出ほうしゅつした攻撃こうげきですら、この世界せかい生物せいぶつ頑丈がんじょうさを痛感つうかんさせる。


ブォォ!

にまみれた山猪やまぶた再突進さいとっしん傷口きずぐちけ、湯気ゆげ鮮血せんけつ飛散ひさんする。


方源ほうげん冷静れいせい側転そくてん回避かいひ直進ちょくしんしかできない山猪やまぶたはまたもや巨木きょぼく激突げきとつ木屑こくずらした。


戦略せんりゃく単純明快たんじゅんめいかいだ」

シュン!シュン!

山猪やまぶた突進とっしんするたび月刃げつじんびせ、あらたな裂傷れっしょうきざむ。流血りゅうけつすすむにつれ、うごきはにぶり、ごえよわ々(よわ)しくなっていく。


小光蛊しょうこうこ発動はつどう

右手みぎててのひらかぶ月牙げつがもん五芒星ごぼうせいしるし同時どうじかがやく。深緑ふかみどり真元しんげんりょうながむ。


乳白色にゅうはくしょくひかりあお月光げっこう融合ゆうごう月刃げつじん急膨張きゅうぼうちょうし、通常つうじょうばいの大きさに――


らえ!」

ズバッ!

拡大版かくだいばん月刃げつじん山猪やまぶた首筋くびすじ貫通かんつう毛皮けがわ穿うがった光刃こうじん四米よんメートルさきまで飛翔ひしょうし、空中くうちゅうえた。



プシュッ……


山猪やまぶたがその棒立ぼうだちになり、一瞬いっしゅん硬直こうちょくしたかと思うと、あか噴水ふんすいのように鮮血せんけつほとばしった。


ドサッ!

巨体きょたい地面じめんたおむ。頭部とうぶ大半たいはん切断せつだんされ、のこった皮一枚かわいちまいかろうじてつながっている。


鉄臭てつくさ血生臭ちなまぐさにおいがはなく。


方源ほうげん躊躇ちゅうちょせずたおれた山猪やまぶた指差ゆびさし、空竅くうこう宿やど白豕蛊はくしこはなった。乳白色にゅうはくしょくひかり獣体じゅうたいまれていく。


油断ゆだん禁物きんものだ……」

方源ほうげん警戒けいかいひからせた。地図ちず安全あんぜんしるされていても、野生やせい嗅覚きゅうかくせられる危険きけんえない。


しばらくして白豕蛊はくしこがよろよろともどってきた。山猪やまぶた半分以上はんいじょうぼそり、灰黒はいぐろ毛皮けがわ内臓ないぞうだけがのこっている。千倍せんばいものにくらったのに、白豕蛊はくしこ瓢虫てんとうむしのような姿すがた微動びどうだにしない。血痕けっこんすら付着ふちゃくしていない。


五日後いつかごにまたりだ。だが……」

白豕蛊はくしこ回収かいしゅうした方源ほうげん短刀たんとうを取りとりだし、山猪やまぶたきば二本にほん切りきりとった。


山猪やまぶた価値かちがあるのは「にく毛皮けがわきば」の三種さんしゅ。だがにく白豕蛊はくしこくされ、毛皮けがわ月刃げつじんきずだらけ。きばだけが「歯喰蛊はぐいこ」のえさ合成素材ごうせいそざいとして使つかえる。


岩裂いわれけの秘洞ひどうきばかくしたあと学堂宿舍がくどうしゅくしゃもど方源ほうげん就寝しゅうしんせずとこ結跏趺坐けっかふざし、修行しゅぎょう開始かいしした。




空竅くうこうの中で元海げんかい波濤はとうしょうめつさせ、うしおごとく。方源ほうげんすで中階蠱師ちゅうかいこしであり、酒虫さけむし精錬せいれんされた高階真元こうかいしんげんゆうしていた。


同世代どうせだいもの中階ちゅうかい蒼緑色そうりょくしょく真元しんげんゆうするなかかれ真元しんげん高階こうかい深緑色しんりょくしょくていしていた。


山猪やまぶた一頭いっとう狩猟しゅりょうしたあと空竅くうこうないのこ真元しんげん二割三分にわりさんぶとなっていた。


一転蠱師いってんこし戦闘力せんとうりょくおおしたことないか、あるいは自然しぜんきびしすぎるのか」月刃げつじんほねてても、普通ふつう山猪やまぶた一頭いっとう高階真元こうかいしんげん二割にわり消費しょうひするのだ。


白豕蛊はくしこ

まぶたじた方源ほうげん意識いしき空竅くうこう集中しゅうちゅうさせた。


深緑ふかみどり真元しんげん逆流ぎゃくりゅう白豕蛊はくしこそそまれる。


パッ!

白豕蛊はくしこまぶしいほどの白光はっこうはなち、方源ほうげんからだ内側うちがわからかすようにかがやかせた。そとかられば、かれ全身ぜんしん乳白色にゅうはくしょく微光びこうつつまれているようだった。


「むずがゆい……」

皮膚ひふの隅々(すみずみ)まで白光はっこう浸透しんとうし、筋繊維きんせんいちからんでいく。あらたなちから定着ていちゃくし、二度にどうしなわれない感覚かんかくひろがった。


しかし十数分じゅうすうふんしびれるような感覚かんかく激痛げきつうへと変貌へんぼうした。電気でんきはしるようなうずきから、次第しだい筋肉きんにく千切ちぎられるようないたみへ――


「くっ!」

方源ほうげん即座そくざ真元しんげんながれをめた。


過度かど使用しよう禁物きんもの白豕蛊はくしこ一日いちにち一刻いっこく程度ていど限界げんかいだ。これをえると神経しんけいくようないたみが発生はっせいし、強行きょうこうすれば失神しっしんすらまねく。

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