「消え失せだと?」方源が嘲笑うように掌を振るうと、
シュッ!
幽青の月刃が飛翔する。足で地面を蹴り、四人の獵師へ突進した。
「蠱師だ!?」獵師の一人が悲鳴を上げる。
バラバラに散らばる彼らの背中を追う月刃。
ズバッ!
逃げ遅れた男の右前腕が切断され、地面に転がる。「うわあああっ!!」
血に染まった左手で傷口を押さえながら、男が土の上で悶え苦しむ。
「許してください!」
「悪気はなかったんです!」
残り二人が土下座して額を地面に擦り付ける。
「ふん!腰抜けどもが!蠱師見習いごときで震えてるのか!?」王二だけが立ち尽くし、弓を素早く構えた。「止まれ!次は矢を放つぞ!」
「ほう……」方源が目を細める。凡人ながら蠱師を恐れぬ胆力――この男は少し手強そうだ。
シュッ!
もう一発の月刃が王二へ向かって飛ぶ。
「いい加減にしろ」王二が冷たい笑いを漏らし殺気を迸らせる。
足を滑らせるように月刃を躱し、矢を放った。
ビュン!
矢先が方源の眉間へ迫る。
方源が低く身を沈め矢を回避、そのまま猛スピードで王二に接近していく。
王二は弓を捨て、茶碗ほどの拳を振りかぶった。「来い!」
彼の背丈は方源より半身以上高く、逆光で顔が陰に沈む。その暗がりから狼のような眼光が鋭く光っていた。
「やめて!」
「やめろってば!」
仲間の叫びをよそに、二人の距離が一気に詰まる。
「死ね!」王二の横顔が歪み、左右の拳が暴風のように襲いかかる。
ヒューッ!
空気を切る重い拳音。
方源の瞳に迫る拳。その瞬間、足の裏を滑らせるように体を捻った。
サッ!
紙一重で拳を躱し、王二の左側に回り込む。
「甘いぞ!」王二が逆の拳で横薙ぎを放ち、背中を狙う。
その刹那、逆光が王二の両目を貫いた。「うわっ!?」視界が真っ白に染まる。
方源が空中で側転し、第三の月刃を放つ。
「王兄!危ない!」
跪いていた二人が息を呑む。眩しい陽光が彼らの顔を蒼白に照らし出す。
時間が粘液のように遅く流れる。白熱した背景に浮かぶ王二のシルエットが弓なりに反り返り、月刃を避けようと首を傾ける。
幽青の刃が蝸牛の如く空中を漂い、ゆるやかに黑影をすり抜けていく。
「……当たってない……?」
地に伏せた王二の体に外傷は見えない。
「ふぅ……」若い獵師の一人が胸の澱を吐き出した。
「避けた……!」もう一人は内心で歓喜していた。
その瞬間、黒影の頭部が微かに揺らぎ――真紅の液体が飛散した。
幽青の月刃が空に溶けていく中、王二の体が枯葉のように地に伏した。
二人の瞳が針の先のように縮んだ。口が次第に開き、最大限まで裂けるように広がった。
パチリ。
生温い液体が頬を伝う。手で触れれば――
「血……!?」
現実が急に戻ってきた。小川のせせらぎ、仲間の断末魔の悲鳴が耳に飛び込んでくる。
「王兄――!?」声が震える。彼らにとって不敗のリーダーだった。
「死んだ……」もう一人が呻く。顔色が土のように褪せる。
「さっきまで冗談言ってたのに……!」
「蠱師様に逆らうなんて愚かだった……」
二人は跪いたまま石像のように硬直し、恐怖に飲み込まれていた。
方源が地面から起き上がった。王二の拳を避けるための空中側転でバランスを崩し、月刃を放った後に転倒していたのだ。
「この捻りは価値があった」肩の軽い痛み以外は無傷。もしあの拳を食らってたら、十五歳の体では即嘔血だったろう。
「王二、あの漠家の豪奴高碗より強かった。普通の生徒なら負けてたな。一転高階の蠱師でも油断すればやられる」
死体を眺めながら、方源は分析する。一転期の蠱師にとって、凡人の武芸者は依然脅威たり得る。
「矢の精度は月刃並み。射程距離なら弓が上だ。肉弾戦でも凡人の極みに達してた」
普通の生徒なら負け確実だが、王二の不運は方源を敵に回したことだ。
「弓を背負ってるのを見た時点で、遠距離戦は不利と判断した」月刃の有効射程10メートルに対し、弓は遥かに長い。
「接近戦に引き込む作戦だ」方源は意図的に肉薄を装い、王二を弓放棄に追い込んだのだ。
だが方源は肉弾戦を望まなかった。角度と陽光を巧妙に利用し、王二の隙を作り出し、第三の月刃を放ったのだ。
「中階に昇格し、酒虫で精錬した真元を使えば、高階蠱師並みの攻撃力だ」至近距離で視界を奪われた王二が避けられるはずもない。
「あの男、本当に強かった……首を刎ねるつもりだったが、危機一髪で感覚を頼りに半身かわした」脳天の半分を削がれた王二の死体を見下ろしながら、方源は思う。
「生存か死か――それが自然の摂理だ。万物は平等に生きる権利を持ち、等しく死にゆく。生きている間は貴賤があっても、死の前では人間も豚も変わらない。ただ『死』という事実だけが存在する」
最後に王二の亡骸を見つめ、方源は心の底で微かな嘆息を漏らした。