眩い朝日が青茅山を照らし出した。
学堂で家老が詳細に解説していた:「明日から第二の蠱を選び煉化する。各自が自身の修行と特性を考慮し、本命蠱との連携を最優先にせよ」
本命蠱は蠱師の基盤となり、第二以降の蠱が修行の方向性を決定する。
生徒たちが深刻に考え込む中、方源だけが机に突っ伏してぐうぐうと寝息を立てていた。昨夜の探索と空竅温養で徹夜したため、明け方にようやく就寝したのだった。
家老は方源を一瞥し眉を寄せたが、何も言わなかった。族長古月博の指示以来、方源に対して放任主義を貫いていた。
「どの蠱を選ぼう?」多くの生徒が思わず方源を見た。
「方源は既に第二の蠱を持ってるよな」
「酒虫だって!解石で出るなんて超ラッキー!」
「俺も酒虫持ってたら中階に昇格できたのに」
羨望と嫉妬が教室に渦巻く。審問で酒虫の存在が明るみ出なり、族内は方源の幸運に驚嘆していた。
古月赤城は拳を握り締めた:「丙等同士なのに…祖父が探し回っても手に入らなかった酒虫を!」
一方副班頭の古月方正は目を輝かせていた。「兄貴、必ず追い越す」頬を紅潮させ、足取りも軽やかだった。
家老はその変化を見逃さなかった。族長の個別指導が始まった証だ。表立っては指摘せず、黙認するしかない。
学堂家老はこの件に目をつぶっていた。
夜が更けると、方源は再び岩裂けの秘洞に潜り込んだ。
チリンチリン……
片手で暴れる野兎を掴み、首に結んだ鈴がきらきら音を立てていた。山で捕らえた野兎に自ら鈴を付けたのだ。
一日経つと秘洞の淀んだ空気は完全に晴れ、清々(すがすが)しい風が流れていた。通り道の入り口は開き切り、不気味な静寂が広がっている。方源はしゃがみ込み、昨夜撒いた薄い石粉の状態を確認した。
「通り道の石粉は無傷。ここに不審物は出没してないな。入り口の足跡は俺のだ。誰も来てないようだ」
壁の枯れ蔓を掴み取り、地面に座る。野兎を太腿で押さえ込み、両手で蔓を揉み始めた。
普通の蠱師ならやらない作業だ。だが前世で幾度も貧窮した方源は、蠱が餓死し真元だけ残った地獄の日々(ひび)を覚えていた。
「草鞋作りで糊口を凌いだあの頃か……」唇に苦笑みを浮かべながら、再び鈴の音に邪魔される野兎を制した。
一双両好纏綿久
万転千回繾綣多
細やかに、着実に、幾年月を重ねたような手付き。折れ曲がり、絡み合い、引き締まる縄の動きそのものが、人生そのものだと悟った。
秘洞内では赤く鈍い光が揺れ、若さと老練が方源の顔に交錯していた。
時間さえもここで止まったかのように、少年が草縄を撚る様を静かに見守っている。
チリンチリン……
半刻後、野兎が鈴を鳴らしながら通路へ飛び込んだ。瞬く間に視界から消え、方源が即席で作った草縄が後足から伸び、急速に引きずられていった。
やがて縄の動きが止まった。
「通路の奥に着いたか、それとも罠にかかったか」
方源が縄を巻き取り始めると、反対側から抵抗が伝わってきた。野兎が驚いて再び暴走し、縄が引き出される。
三度繰り返すうち、縄が緩んだり張ったりするだけになった。「もう限界か、それとも動けなくなったか」
確かめる方法は簡単だ。
力任せに引きずり出すと、草縄は枯れた酒袋花蠱と飯袋草蠱で作られており、野兎の暴れても切れなかった。
「傷なし……安全のようだ」
確認した方源は野兎の首を捻り潰し、岩陰に放り投げた。放生すれば記憶を頼りに再び戻り、酒虫の二の舞になる危険があるからだ。
深く息を吸い込んだ後、方源は慎重に通路へ足を踏み入れた。
野兎を使った事前調査を経ても、人間専用の罠が残っている可能性がある。小動物では作動しない仕掛けだ。
通路は直線的に地底へ向かい、進むほど幅が広がっていく。最初は腰を屈めて進んだが、五十歩過ぎると背筋を伸ばせ、百歩目で腕を振り回せるほどになった。
たった三百米の距離だが、方源は二時間もかけてようやく最奥に到達した。
「偵測用の蠱がないと、本当に面倒だ」額の冷たい汗を拭いながら、周囲を観察する――その瞬間、息を呑んだ。
巨大な一枚岩が行く手を塞いでいた。表面は滑らかで膨らみ、賈富の丸々(まるまる)とした腹のようだ。
「中程で崩落したのか?」山体内部に急造された通路が、数百年の歳月に耐え切れなかったのだろう。
彼は前進し、石を撫でてみた。「この厚さなら……月光蠱で削るにも一、二年かかる」
人生は常に予期せぬ障害を投げかけてくる。
「工具を使って鉄鎬やシャベルで岩を割るしかないか。ただ、そうすりゃ痕跡が残っちまう。音も漏れるだろう」方源は眉根を深く刻んだ。リスクと利益を天秤にかけていた。
リスクが大き過ぎれば、この力の継承を諦める覚悟もあった。
「バレたら今までの苦労が水の泡だ。命まで危うくなる」