表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蛊真人  作者: 魏臣栋
青茅山
6/391

第六節:未来の道は、めっちゃキラキラするよ!

空竅くうこうは玄妙極まりなく、方源ほうげんの体内に宿りながらも五臓六腑とは異次元に存在す。無限大とも無限小とも言えん。


或いは紫府しふと呼び、或いは華池かちと称す。されど多くは『元海空竅げんかいくうこう』と名付く。


球状を成す空竅の表面は白光流転し、希望蠱きぼうこの炸裂より凝縮せし光膜こうまくに覆わる。この膜こそ空竅崩壊を防ぐ支柱なり。


竅内に広がるは元海げんかい──鏡面の如く平滑なる碧青色の海。青銅せいどうの輝きを帯びた濃密なる真元しんげんの凝結、俗に『青銅海』と謳わる。


海面は空竅の四割四分に満たず、丙等資質へいとうししつの限界を示す。滴る海水の一粒一粒、方源の精・気・神の結晶にして、十五年に亘り蓄積せし生命の潜勢力なり。


今や蠱師こしの道に入り、真元をもって蠱蟲こちゅうを駆使する境涯、ここに開けり。」


空竅くうこう開闢かいびゃくなり。希望蠱きぼうこの流入途絶え、方源ほうげんは前方の重圧を岩壁の如く感じつつ、足を止める。『前世と変わらぬ結果か』薄笑いが零れる。


『これ以上進めぬか?』対岸から学堂家老がくどうかろうの声が震える。方源は振り返り黙って戻り始めた──これが全ての答えだった。


『まさか…方源が二十七歩しか進めなかっただと!?』

丙等資質へいとうししつの凡才だと!?』

少年たちの驚愕が波紋を広げる。


『兄上…』古月方正こげつほうせい人群ひとごみから顔を上げ、川を戻る方源を凝視する。甲等の逸材と信じて疑わなかった兄の現実に、思考が凍りつく。


暗闇で拳を握り締める古月族長こげつぞくちょうの嘆息が重い。『丙等か…』監視役の家老たちの囁きが交錯する。


『測定誤差の可能性は?』

『荒唐無稽!元海げんかいの容量測定に誤謬ごびゅうなどあるものか』

『ならば彼の詩才や聡明さは?』

『資質優位者が超越的特性を示すのは当然だが、逆は必ずしも真ならず』

『希望は失望に転ずるもの…古月一族の未来もここまでか』


……


「冷たい川の水が足袋をびしょ濡れにし、骨まで沁みるような冷たさだ。方源は相変わらず無表情で歩き続ける。距離が縮まるにつれ、学堂の長老の重苦しい表情がはっきり見えてくる。百人以上の少年たちが投げかける視線も、鋭く感じ取っていた。


その視線には驚き、衝撃、嘲笑、他人の不幸を喜ぶもの、悟ったようなもの、無関心なものまで混ざっていた。前世と全く同じ光景が目の前で繰り広げられ、方源は思わずあの時を思い出す。


あの時は天が崩れ落ちるような気分だった。川で足を滑らせて転び、ずぶ濡れになり、魂まで抜け出したように放心状態に。それでも誰一人手を差し伸べる者はいなかった。失望と冷たい視線がナイフのように心臓を刺し、頭は混乱し、胸の奥が締め付けられる痛み──雲の上から地面に叩きつけられるような、高く登れば登るほど深く落ちるあの感覚。


だが今生。同じ状況に直面しても、方源の心は驚くほど平静だった。『逆境に立ったら心を希望に預けろ』という言い伝えをふと思い出す。今その希望は体内に宿っている。たとえ小さくとも、修行の素質すらない連中よりはマシだ。


周りが失望しようが、それがこっちの何の関係がある? 大事なのは自分が希望を持ってることだ! 五百年の人生で悟った──人間の面白さは夢を追いかける過程にある。他人の失望や好みに振り回される必要なんてない。


己の道を進め。周りが失望しようが、気に入らなかろうが、どうだっていい!」


「……はぁ」学堂の家老が深いため息をつくと、「次、古月方正こげつ ほうせい!」と叫んだ。


しかし返事はない。


「古月方正!!」家老の声が鍾乳洞に反響する。


「え? はい! はい!」方正は呆然とした状態から我に返り、慌てて走り出すも足元がもつれ、どさっと川に転落した。


「わははは!」爆笑が起こった。


「方家の兄弟ときたら…」古月族長こげつぞくちょうが舌打ちし、方正にすら嫌悪感を露わにする。


「こんな恥ずかしい…!」川の中でバタバタともがく方正。滑る川底で何度も転び、周囲の笑い声に焦りが募る。その時、突然強い力で首根っこを掴まれ、水面から引き上げられた。


顔を拭い見上げると、兄の方源ほうげんが自分の襟首を掴んで立たせていた。


「兄…」声を出そうとして水を飲み、激しく咳き込む。


「見ろよ方家の情けない兄弟!」岸から野次が飛ぶ。


笑い声がさらに大きくなる中、学堂の家老も仲裁せず失望げに眉をひそめる。


「行け。これからの道は…面白くなるぞ」方正の耳に兄の声が流れ込む。


岸の人々には見えないが、方正には分かった。方源の平静な表情、口元に浮かんだ謎めいた微笑み。


「丙等なのに…なぜ兄は?」混乱する方正。


方源は背中を軽く叩き、何も言わず去る。


方正はぼんやりと花畑へ歩き出した。「兄があんなに落ち着いてるなんて…私だったら…」考えながら無意識に進む彼は、気付かぬうちに前人未到の領域へ──


「43歩目!!」


「なんと!甲等こうとうの資質だ!!!」学堂の家老が声を震わせる。


「甲等だと!?」「三年ぶりの天才現る!」


陰から見守っていた家老たちも規律を忘れ叫びだす。


「ほう、方の血筋は元々我が赤脈せきみゃくの分家。この子は我が赤脈が預かる」古月赤練こげつせきれんが宣言。


「ふざけるな!お前如きが育てられるか! 我が古月漠塵こげつばくじんが引き取る!」


「争うな!この子は本族長が直々に育てる。異論ある者は我が名・古月博こげつはくに逆らうぞ!」族長の目が充血し、先までの失望を吹き飛ばすように熱狂していた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ