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蛊真人  作者: 魏臣栋
青茅山
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第五十九節: 三転四転すれども猿に過ぎず

今夜こんやつき格別かくべつまるかった。

月光げっこうのように青茅山せいぼうざんおおい、宝気黄銅蟾ほうきおうどうひきひゃくメートル単位たんい跳躍ちょうやくかえしていた。けわしい山道やまみちなどなん障害しょうがいにもならなかった。


賈富かふ一行いっこうはその背中せなかり、古月山寨こげつさんさいから商隊しょうたいもど途中とちゅうだった。みみるような風音かざおと上下じょうげれる視界しかい月明つきあかりにらされた人々(ひとびと)のかお沈黙ちんもくつつまれ、賈富かふ表情ひょうじょうこおりのようにつめたかった。


部下ぶか一人ひとりれずくちひらいた:「ご主人様しゅじんさま、このままでは…賈金生かきんせいさまけん、お父上とうえにどうご説明せつめいなさいます?身代みがわりを用意よういすべきでは…」


賈富かふくびりながらかえした:「人祖じんそ物語ものがたりっているか?」


部下ぶか面喰めんくった:「それは…」


規矩二蠱きくにこ万蠱ばんこらえた人祖じんそあみのこった三匹さんびき――態度蠱たいどこ相信蠱そうしんこ疑念蠱ぎねんこけをもうた。同時どうじげるなか結局けっきょくつかまったのはなんだ?」


態度蠱たいどこでは?」


「なぜだ?」


部下ぶかくびかしげると、賈富かふわらった:「態度たいどが全て(すべて)を物語ものがたるからだ。父上とうえが『しんじよう』と『うたがおう』と、おれ全力ぜんりょく調査ちょうさし、証拠しょうこあつめ、四転蠱よんてんこまで使つかった『態度たいど』をせた」


帰還きかん鉄血冷てっけつれいやとう。身代みがわりなどらん。ぎゃく賈貴かきわなにはまるかもしれん」


部下ぶかいきんだ:「まさか賈貴かきさまが…!」


やつ以外いがいにこんな巧妙こうみょう手口てぐち使つかえる者がいるか?」賈富かふほのおいた。「兄弟きょうだいじょうおもんぱかってゆるめたのが間違まちがいだった。ならばこそ――」


そのとき賈富かふ気付きづかなかった。とおくのやみから、だれかがかれうし姿すがた見送みおくっていることを。



方源ほうげんおかうえたたずみ、しずかに見守みまもっていた。


今宵こよいつきじつうつくしくわたっている。黄金色こがねいろ満月まんげつ夜空よぞらかり、山々(やまやま)をとおすようにらししていた。


ちかくでは青々(あおあお)とした山肌やまはだひろがり、草木くさきしげしげる。まつすぎ青茅山せいぼうざん特有とくゆう青茅竹せいぼうちくつらなり、頂上ちょうじょうからふもとまで黒緑くろみどり絨毯じゅうたんめたようだ。とおくの山々(やまやま)は月光げっこうかすみ、おもたいかげのようにつらなっている。


蛇行だこうする山道やまみち羊腸ようちょうのごとく木立こだちさえぎられながらび、宝気黄銅蟾ほうきおうどうひきった賈富かふ一行いっこう姿すがたもりえていく。


賈金生かきんせい殺害さつがい厄介やっかいごと、ようやく片付かたづいた」方源ほうげんひとみらぎはない。こころみずうみかえっていた。


あのよる賈金生かきんせいころしたときから、方源ほうげん後始末あとしまつかんがつづけていた。根拠地こんきょち後楯うしろだてもない自分じぶん真相しんそうあばかれたら、古月一族こげついちぞく生贄いけにえにされるのはあきらかだ。だが隠匿いんとくだけでは限界げんかいがある。


すぐれたうそ真実しんじつ虚偽きょぎじりうもの」


この状況じょうきょう将棋盤しょうぎばんたとえるなら、賈富かふ商隊しょうたい古月こげつ山寨さんさい対峙たいじしている。古月博こげつはく学堂家老がくどうかろうも、ましてや自分じぶんでさえこまぎない。


みずからのこままもるには、両陣営りょうじんえい対立たいりつ利用りようし、隙間すきまひそ機会きかいつかむしかない。


数日前すうじつまえから方源ほうげん布石ふせきっていた。


まず二人ふたり護衛ごえい利用りようし、学堂家老がくどうかろうつくげた舞台ぶたい一芝居ひとしばいった。酒虫しゅちゅう存在そんざいかくすことで族内ぞくない好奇心こうきしんあおり、高層こうそう注目ちゅうもくあつめながら、家老かろう内密ないみつ調査ちょうさをさせた。


つぎ同輩どうはいおそって衝動的しょうどうてき傲慢ごうまん性格せいかく演出えんしゅつし、古月こげつ高層こうそうへ「よわみをせる」ことに成功せいこうした。


そして時期じきはか賈富かふけた。


対決たいけつでは稚拙ちせつあわてる様子ようすえんじ、無意識むいしきに人々(ひとびと)の思考しこう誘導ゆうどうして「真相しんそう」を発見はっけんさせた。


最終的さいしゅうてき古月一族こげついちぞく賈富かふ利害対立りがいたいりつ利用りようし、自分じぶんうたがつづけていた学堂家老がくどうかろうぎゃく証人しょうにん仕立したて上げ(あ)げた。


竹君子ちくくんし予想外よそうがいだったが、四転よんてん春秋蝉しゅんじゅうせみ気配けはいさえまれ、皮肉ひにくにも方源ほうげん無実むじつ証明しょうめいする最良さいりょう材料ざいりょうとなった。


酒虫しゅちゅう出所でどころ完璧かんぺき説明せつめいしたうえつみ無実むじつ賈貴かきかぶせ、自分じぶん無傷むきず局面きょくめん突破とっぱした」


学堂家老がくどうかろうのこされたのは、古月博こげつはく学堂がくどう干渉かんしょうし、おれへの圧力あつりょく解除かいじょするつもりだろう。やつ器量きりょうならありる。だがしん目的もくてき古月方正こげつ ほうせいだ。騒動そうどうこして高層こうそう注意ちゅういくのも計画けいかく一環いっかんだ。古月博こげつはくうごかなくても、古月漠塵こげつ ばくじん古月赤練こげつ せきれん名誉めいよまもるためにてくる」


賈富かふ今頃いまごろ賈貴かき真犯人しんはんにん確信かくしんしているはずだ。復讐ふくしゅうほのおさかってるだろう。ふふ、楽しみだ。この介入かいにゅう兄弟きょうだいあらそいが激化げきかする。もしかすると闘蠱大会とうこたいかい前倒まえだおしになるかもな」


「それと神捕しんほ鉄血冷てっけつれいか。…ふん」方源ほうげんくちびる名前なまえめ、「正道せいどうではとおった人物じんぶつらしいが、多忙たぼう容易よういうごけまい。賈富かふ態度たいどしめすために招聘しょうへいするだろうが、到着とうちゃくはやくても二、三年後にさんねんごか」


二、三年後にさんねんごには二転にてん、いや三転さんてんいきたっしている。そのときには人生じんせい別世界べつせかいだろう。



夜風よかぜけ、山間やまあい清涼せいりょう空気くうきかんばしいかおりがじっていた。

方源ほうげんふかいきむと、精神せいしんがますます爽快そうかいになっていく。


見渡みわたかぎりの山々(やまやま)が月明つきあかりにらされ、絵画かいがのように静寂せいじゃくつつまれていた。

明月めいげつ松間しょうかん清泉せいせん石上せきじょうながる」方源ほうげんつぶやくと、地球ちきゅう寓話ぐうわおもした。


つきさるれが井戸いどうつったつきつかもうとする。うしろのさるまえさるつかみ、くさりのようにつらなり、最前さいぜんさる水面すいめんれる。


ばせばみずつきる。

人間にんげんもまたしかり。月影つきかげ真月しんげつ勘違かんちがいする。


井中せいちゅうつき眼中がんちゅうつき心中しんちゅうつきぎぬことをさとらず。


「このしんつきとなりて てん雲海うんかいたわむ古今ここんらし 暗黒あんこく諸天しょてんあゆまん」方源ほうげんひとみわたり、みどりき山々(やまやま)をうつしていた。


せた少年しょうねんおかだまむ。

黄金こがね月輪がちりん円盤えんばんごと夜空よぞらかり、少年しょうねん渺小びょうしょうかげあわ青石あおいしきざんでいた。

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