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蛊真人  作者: 魏臣栋
魔头乱世
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第一百四十七節:巨阳仙尊

方源(ほうげん)地面(じめん)見下(みお)ろした。


一丘(いっきゅう)(やま)(たか)隆起(りゅうき)し、大地(だいち)(そび)()っているのが()える。


()(おか)には(けわ)しい峰線(ほうせん)()く、頂上(ちょうじょう)には(おお)きな(あな)(ぽっこり)(くち)()け、地下(ちか)(つう)じているかの(よう)()えた。


()(おか)()()くように、沼沢地(しょうたくち)(ひろ)がっている。


沼地(ぬまち)(なか)には、まばらな若木林(わかぎばやし)点在(てんざい)していた。


南西角(なんせいかく)には一筋(ひとすじ)(かわ)(なが)れている。川水(かわみず)()んではいないが、()(なが)れは(はる)(とお)く、上流(じょうりゅう)下流(かりゅう)方源(ほうげん)視界(しかい)(はず)()びていた。


土中(どちゅう)(ひかり)(ふく)み、(のぎ)(たか)万丈(ばんじょう)百里(ひゃくり)天遊(てんゆう)し、梅雪(ばいせつ)()(うた)う」


()地形(ちけい)()にした(とき)方源(ほうげん)脳裏(のうり)には自然(しぜん)()密語(みつご)()かび()がった。


「まさか、此処(ここ)地丘(ちきゅう)伝承(でんしょう)()()ではあるまいか?」


方源(ほうげん)閃光(せんこう)(ごと)(おも)いがけぬ発想(はっそう)に、瞬時(しゅんじ)合点(がてん)がいった。


(むかし)(かれ)灰白(かいはく)石板(せきばん)贋作(がんさく)(なか)から、地丘伝承(ちきゅうでんしょう)情報(じょうほう)()にしていた。()石板(せきばん)宿(やど)画意蛊(がいこ)が、()地形図(ちけいず)直接(ちょくせつ)(かれ)記憶(きおく)深層(しんそう)(きざ)()んでいたのである。


(ゆえ)に、方源(ほうげん)印象(いんしょう)(きわ)めて鮮烈(せんれつ)で、仮令(たとえ)(わす)(よう)(つと)めても、(わす)()ぬものとなっていた。


(かれ)双翼(そうよく)()るい、半空(はんくう)旋回(せんかい)しながら、()地形(ちけい)記憶(きおく)(なか)のそれと寸分(すんぶん)(たが)わないことを再確認(さいかくにん)した。


成程(なるほど)()くいうことだったのか。以前(いぜん)より疑問(ぎもん)(おも)っていた。地形(ちけい)手掛(てが)かりに伝承(でんしょう)設置(せっち)するなど、通常(つうじょう)(あて)にならぬ。()()伝承(でんしょう)北原(ほくげん)外界(がいかい)(もう)けられていたなら、外力(がいりょく)地形(ちけい)破壊(はかい)され(やす)く、最早(もはや)手掛(てが)かりは(うし)われてしまう。()かし()王庭福地(おうていふくち)(なか)では、(はなし)(べつ)なのである。」


方源(ほうげん)はひそかに合点(がてん)した。


()王庭福地(おうていふくち)は、十年(じゅうねん)(ごと)(ひと)たび(ひら)かれる。王庭争奪戦(おうていそうだつせん)勝者(しょうしゃ)たちが殺到(さっとう)し、戦闘(せんとう)(など)理由(りゆう)地形(ちけい)()えてしまうこともあろう。


しかし王庭福地(おうていふくち)閉鎖(へいさ)された(のち)には、地形(ちけい)は徐々(じょじょ)に復元(ふくげん)する。


十年後(じゅうねんご)王庭福地(おうていふくち)(ふたた)(ひら)かれる(とき)には、(もと)(とお)りに回復(かいふく)しているのである。


地丘伝承(ちきゅうでんしょう)…… ()れが王庭福地(おうていふくち)(ない)(もう)けられ、(さら)には特異(とくい)趣向(しゅこう)()らされている。灰白(かいはく)石板(せきばん)贋作(がんさく)細工(さいく)(ほどこ)すとは。伝承(でんしょう)(あるじ)()(ほど)手間暇(てまひま)()けた以上(いじょう)中身(なかみ)()(いち)通り(とおり)ではあるまい。」


()くの(ごと)き考え(かんがえ)を(いだ)き、方源(ほうげん)はゆっくりと土丘(どきゅう)(うえ)()()った。洞穴(ほらあな)入口(いりぐち)でしばし観察(かんさつ)した(のち)数頭(すうとう)天青狼(てんせいろう)()()し、暗穴(あな)探索(たんさく)()かわせた。


(ちゃ)一服(いっぷく)ほどの時間(じかん)()ぎると、天青狼(てんせいろう)たちは無事(ぶじ)方源(ほうげん)(もと)(もど)ってきた。


()深穴(ふけあな)は、外見(がいけん)真暗(まっくら)だが、内部(ないぶ)(はい)ると微光(びこう)(こけ)()(しげ)り、別段(べつだん)(くら)くはない。


洞内(どうない)には(なに)もなく、空気(くうき)湿(しめ)()()び、土石(どせき)(こけ)以外(いがい)には(なに)存在(そんざい)しなかった。


方源(ほうげん)(みずか)らも()りて探査(たんさ)したが、同様(どうよう)(なに)発見(はっけん)できなかった。


(かれ)(かす)かに(まゆ)をひそめ、(ふたた)(そと)()た。()結果(けっか)(たい)して、(かれ)(すで)心構(こころがま)えがあった。「()伝承(でんしょう)容易(ようい)なものではない。()()(ほど)簡単(かんたん)()()れられるなら、(とっく)(ほか)(もの)()(わた)っているだろう。無論(むろん)()伝承(でんしょう)(ひと)()こし()られている可能性(かのうせい)否定(ひてい)できぬ。」


しかし方源(ほうげん)内心(ないしん)分析(ぶんせき)した、()可能性(かのうせい)(きわ)めて(ひく)いと。


此処(ここ)()るには、(すく)なくとも(ふた)つの条件(じょうけん)(よう)る。第一(だいいち)に、伝承(でんしょう)手掛(てが)かりを偶々(たまたま)()ること。灰白(かいはく)石板(せいばん)鑑定(かんてい)するには、(おそ)らく鑑定(かんてい)得意(とくい)とする蛊師(こし)でなければならぬ。第二(だいに)に、蛊師(こし)王庭福地(おうていふくち)(はい)()ること。(すなわ)ち、王庭之争(おうていのそう)を生き()び、()優勝者(ゆうしょうしゃ)となるだけの見識(けんしき)(よう)るのである。」


()伝承(でんしょう)は、(じつ)容易(ようい)ならざるものだ。()れを()んとすれば、密語(みつご)看破(かんぱ)せねばなるまい。」


方源(ほうげん)心頭(しんとう)()(むす)んだ。


土中(どちゅう)(ひかり)()み、(ぼう)(てん)()くが(ごと)し、百里(ひゃくり)天遊(てんゆう)し、梅雪(ばいせつ)(かお)りを(うた)う」


()密語(みつご)は、()たして(なん)意味(いみ)せんとするのか?


方源(ほうげん)思考(しこう)(めぐ)らせたが、(なん)手掛(てが)かりも()られない。脳裡(のうり)には雑念(ざつねん)渦巻(うずま)くばかりで、有効(ゆうこう)示唆(しさ)微塵(みじん)()い。


(まか)んぬるかな、一旦(いったん)()(まま)としよう。王庭福地(おうていふくち)(とど)まる時間(じかん)は、(いま)(すく)からず(のこ)されている。」


方源(ほうげん)(つばさ)(ひるがえ)し、狼群(おおかみむれ)(ひき)いて、福地中央(ふくちちゅうおう)聖宮(せいきゅう)()かって飛翔(ひしょう)(つづ)けた。(かれ)本懐(ほんかい)彼処(かしこ)にあり、()(ほど)時間(じかん)(ひそ)めて()(つづ)けたのも、(つか)王庭福地(おうていふくち)()(ため)であった。


江山如故仙蛊(こうざんじょこせんこ)()()れることが最優先(さいゆうせん)目標(もくひょう)であり、()以外(いがい)には、八十八角真陽楼(はちじゅうはっかくしんようろう)(なか)にある巨陽仙尊(きょようせんそん)伝承(でんしょう)(ねら)う!


(かれ)一人(ひとり)だけでなく、能力(のうりょく)野心(やしん)()(そな)える蛊師(こし)大半(たいはん)が、聖宮(せいきゅう)()かって(いそ)(すす)んでいる。


聖宮(せいきゅう)王庭福地(おうていふくち)中枢神経(ちゅうすうしんけい)であり、精髄(せいずい)(あつ)まる場所(ばしょ)である。


聖宮(せいきゅう)巨陽仙尊(きょようせんそん)四大地上寝宮(よんだいちじょうしんきゅう)(ひと)つであり、(もっと)主要(しゅよう)寝宮(しんきゅう)である。()()寝宮(しんきゅう)は、東海(とうかい)西漠(せいばく)南疆(なんきょう)分散(ぶんさん)している。


一方(いっぽう)中洲(ちゅうしゅう)には、巨陽仙尊(きょようせんそん)長生天(ちょうじょうてん)(なか)(きず)いた、(さら)宏大(こうだい)(かがや)かしい天上寝宮(てんじょうしんきゅう)存在(そんざい)する。


歴史(れきし)(さかのぼ)れば、合計(ごうけい)十人(じゅうにん)九转蛊師(きゅうてんこし)(あら)われ、彼等(かれら)は「仙尊(せんそん)」「魔尊(ません)」と(しょう)されている。


此等(これら)十人(じゅうにん)(もの)歴史(れきし)大河(たいが)縦横(じゅうおう)し、遠古時代(えんこじだい)より上古時代(じょうこじだい)中古時代(ちゅうこじだい)()近古時代(きんこじだい)(いた)るまで、各時代(かくじだい)(あら)われた。各人(かくじん)各様(かくさま)時代(じだい)において無敵(むてき)(つよ)さを(ほこ)り、()風靡(ふうび)した。同時(どうじ)に、其々(それぞれ)が特異(とくい)個性(こせい)()ち、差異(さい)(きわ)めて(おお)きい。


殺戮(さつりく)(この)んだ幽魂魔尊(ゆうこんません)神秘(しんぴ)()ちた紅蓮魔尊(ぐれんません)知恵(ちえ)()けた星宿仙尊(せいしゅくせんそん)(あらそ)いを(この)まぬ楽土仙尊(らくどせんそん)……


同様(どうよう)巨陽仙尊(きょようせんそん)も、(きわ)めて伝説的(でんせつてき)人物(じんぶつ)である。


(かれ)元来(もともと)魔道蛊師(まどうこし)として北原(ほくげん)()まれた。生涯(しょうがい)(つう)じて福縁(ふくえん)()えず、幸運(こううん)(めぐ)まれた。危難(きなん)(まぬが)れるのみならず、(わざわ)いを(てん)じて(ふく)()すことさえできた。


魔道蛊仙(まどうこせん)となってからは、(はな)(くさむら)流連(りゅうれん)し、各地(かくち)情事(じょうじ)(のこ)し、(かれ)(せい)する(もの)一人(ひとり)としていなかった。(たと)当時(とうじ)中洲(ちゅうしゅう)十大古派(じゅうだいこは)(ひと)つである霊縁斎(れいえんさい)筆頭(ひっとう)仙姫(せんき)でさえ、(かれ)妻妾(さいしょう)とされた。


()(ため)(かれ)霊縁斎(れいえんさい)より外姓太上長老(がいせいたいじょうちょうろう)として(まね)かれて正道(せいどう)(てん)じ、()(のち)……


巨陽仙尊(きょようせんそん)浮名(うきな)(なが)すのを(さが)とし、仙尊(せんそん)となって(のち)仙庭(せんてい)(のぼ)り、四代目仙王(よだいめせんのう)()った。(かれ)前後(ぜんご)して(いつ)つの大寝宮(だいしんきゅう)建立(こんりゅう)し、数千万(すうせんまん)とも()われる妃嬪(ひひん)(よう)した。


()精力(せいりょく)(きわ)めて旺盛(おうせい)で、千歳(せんさい)()えても(なお)各地(かくち)から少女(しょうじょ)(まね)()れ、後宮(こうきゅう)充実(じゅうじつ)させていた。


(ゆえ)に、(すべ)ての尊者(そんじゃ)(なか)で、(かれ)(もっと)(おお)くの子孫(しそん)(のこ)した。


()どもが(おお)す(ぎ)て、その(おお)(はん)名前(なまえ)さえ(おぼ)えられなかったという。


此等(これら)子孫(しそん)たちは、かつて五大大域(ごだいたいいき)()らばっていたが、現在(げんざい)で(は)(もっと)(おお)くが北原(ほくげん)集中(しゅうちゅう)している。巨陽仙尊(きょようせんそん)()()蛊師部族(こしぶぞく)は、総称(そうしょう)して「黄金家族(おうごんかぞく)」と(しょう)せられている。


兄弟(きょうだい)手足(てあし)(ごと)く、(おんな)衣類(いるい)(ごと)し」「()(もっ)天下(てんか)()す」「美貌(びぼう)女子(じょし)(てん)より(さず)かる嫁入(よめい)(どう)()」「天下(てんか)女子(じょし)(ことごと)(めと)()くせずんば()まぬ!」—— ()れらは(みな)(かれ)有名(ゆうめい)言葉(ことば)である。


桑田(そうでん)碧海(へきかい)(ごと)(うつ)()わる歳月(さいげつ)にも(かか)わらず、(かれ)歴史(れきし)(きざ)んだ足跡(あしあと)(いま)燦然(さんぜん)(かがや)いている。


(とく)北原(ほくげん)においては、黄金家族(おうごんかぞく)全局(ぜんきょく)掌握(しょうあく)している。巨陽仙尊(きょようせんそん)影響(えいきょう)(いま)なお世代(せだい)()えて(およ)(つづ)けている。


聖宮(せいきゅう)中枢大殿(ちゅうすうだいでん)(よる)


(ぎん)(かがや)きが燦然(さんぜん)()(そそ)ぎ、黒楼蘭(こくろうらん)(おもて)()らしている。


(かれ)(くび)(あお)ぎ、中枢大殿(ちゅうすうだいでん)(うえ)()かる扁額(へんがく)(なが)めていた。熊羆(ゆうひ)(ごと)(たくま)しい体躯(たいく)が、銀色(ぎんいろ)(ひかり)(なか)黙然(もくぜん)(たたず)んでいる。


連合軍(れんごうぐん)(あるじ)として、黄金(おうごん)血脈(けつみゃく)()(かれ)は、王庭福地(おうていふくち)(あし)()()れるや、即座(そくざ)聖宮(せいきゅう)只中(ただなか)()()いた。


中枢大殿(ちゅうすうだいでん)()扁額(へんがく)は、(きわ)めて巨大(きょだい)である。(なが)二十丈(にじゅうじょう)(はば)八丈(はちじょう)()(うえ)には三文字(さんもじ)大書(たいしょ)が――『家天下(かてんか)』。黄金色(こがねいろ)燦然(さんぜん)(かがや)き、()(くら)むばかりである。


中枢大殿(ちゅうすうだいでん)は、規格(きかく)宏壮(こうそう)で、(あた)かも巨人(きょじん)()まうが(ごと)きものである。()巨大(きょだい)扁額(へんがく)(もと)では、黒楼蘭(こくろうらん)肥満(ひまん)した体躯(たいく)さえも微塵(みじん)(ごと)(ちい)さく()えた。


家天下(かてんか)か……」


(かれ)(あお)()つつも、表情(ひょうじょう)(きわ)めて複雑(ふくざつ)であった。痛恨(つうこん)羨望(せんぼう)憤怒(ふんぬ)冷淡(れいたん)()()じっている。


旦那様(だんなさま)


狽君子孫湿寒(はいくんしそんしつかん)(しず)かな足取(あしど)りで(ちか)()き、(こえ)(ひそ)めて()()けた。


何用(なによう)だ?」


黒楼蘭(こくろうらん)()(かえ)る。()(かお)には、先程(さきほど)までの複雑(ふくざつ)表情(ひょうじょう)微塵(みじん)もなく、(つね)(どお)りの狂傲(きょうごう)粗野(そや)暴躁(ぼうそう)な面持ち(おもも)きが(もど)っていた。


狽君子(はいくんし)(なに)(うたが)いも()たず、(ふところ)から一通(いっつう)手紙(てがみ)を取り(とりだ)し、()げて()った。


()れは单刀将(たんとうしょう)潘平(はんぺい)が、さきほど(つた)えて(まい)った書簡(しょかん)でございます。()(なか)で、狼王(ろうおう)常山陰(じょうさんいん)伝承(でんしょう)着服(ちゃくふく)し、公然(こうぜん)恐喝(きょうかつ)する(など)(きわ)めて悪質(あくしつ)(おこな)いがあると(うった)え、旦那様(だんなさま)公正(こうせい)(さば)きを(のぞ)んでおります」


「ふむ?」


黒楼蘭(こくろうらん)()えた右腕(みぎうで)()ばした。


狽君子(はいくんし)(あわ)てて両手(りょうて)書簡(しょかん)()()した。


旦那様(だんなさま)余計(よけい)口出(くちだ)しと承知(しょうち)しながら(もう)()げます。()常山陰(じょうさんいん)(もう)(もの)日増(ひま)しに()して(はなは)だしきに(いた)っております。()もや、同僚(どうりょう)たる(もの)をさえも(あっ)(はずかし)めるとは。(ああ)潘平様(はんぺいさま)御心(おこころ)こそ(なさ)(ぶか)く、元来(もと)より伝承(でんしょう)共有(きょうゆう)御考(おかんが)えだったに、(かく)(ごと)(あつか)われるとは。狼人(ろうじん)常山陰(じょうさんいん)(たし)かに勲功(くんこう)はあれど、(もっ)勝手気儘(かってきまま)(ゆる)される(わけ)ではありますまい。()(みな)(かれ)(ごと)真似(まね)(はじ)めたら、秩序(ちつじょ)最早(もはや)崩壊(ほうかい)する(ほか)ございませぬ。」


狽君子(はいくんし)黒楼蘭(こくろうらん)書面(しょめん)()(とお)(すき)に、(そば)小心翼翼(しょうしんよくよく)進言(しんげん)した。


黒楼蘭(こくろうらん)()ややかに(はな)(わら)い、(ふたた)()()()した。「()って()い。」


「は、はあ……旦那様(だんなさま)、それは……」


狽君子孫湿寒(はいくんしそんしつかん)は、わざとらしく困惑(こんわく)した様子(ようす)()せた。


()手紙(てがみ)潘平(はんぺい)一方的(いっぽうてき)()(ぶん)()ぎぬ。朱宰(しゅさい)からの書簡(しょかん)()るであろう?」


黒楼蘭(こくろうらん)眼光(がんこう)(するど)く、狽君子(はいくんし)即座(そくざ)にへつらうように(わら)った。「旦那様(だんなさま)流石(さす)明哲(めいてつ)でいらっしゃいます!此方(こちら)など、心底(しんそこ)敬服(けいふく)(いた)りでございます!」


黒楼蘭(こくろうらん)二通目(につうめ)手紙(てがみ)を受け(うけと)り、視線(しせん)内容(ないよう)(はし)()んだ。()表情(ひょうじょう)微動(びどう)だにせず、孫湿寒(そんしつかん)には到底(とうてい)推量(すいりょう)(がた)いものであった。


此等(これら)書簡(しょかん)は、朱宰(しゅさい)(みずか)らの功績(こうせき)誇示(こじ)した内容(ないよう)()ぎない。(しか)最初(さいしょ)手紙(てがみ)()わせれば、黒楼蘭(こくろうらん)事件(じけん)全容(ぜんよう)大凡(おおよそ)理解(りかい)した。


(かれ)()(にぎ)るや、両通(りょうつう)手紙(てがみ)(くら)(ひかり)(つつ)まれて腐食(ふしょく)し、粉塵(ふんじん)()けた。


潘平(はんぺい)らが聖宮(せいきゅう)到着(とうちゃく)したら、貴様(きさま)輜重營(しちょうえい)()き、幾許(いくばく)かの補償(ほしょう)(わた)せ。」黒楼蘭(こくろうらん)追加(ついか)して指示(しじ)した。


承知(しょうち)いたしました。」狽君子(はいくんし)(こし)()りて受諾(じゅだく)した。(しか)少時(しょうじ)()っても、黒楼蘭(こくろうらん)から(つづ)言葉(ことば)()いため、不審(ふしん)(おも)って(かお)()げて()うた。「旦那様(だんなさま)、では狼王(ろうおう)常山陰(じょうさんいん)(ばっ)せずに()ませるのでございますか?」


(ばっ)するだと? (わら)()めな!」黒楼蘭(こくろうらん)哄笑(こうしょう)した。「何故(なぜ)(かれ)(ばっ)せねばならぬ? 假令(たと)()()であっても、()伝承(でんしょう)(ひと)()めしたであろう。()(かれ)のやり(ぐち)(すこ)見苦(みぐる)しいだけのことよ。」


孫湿寒(そんしつかん)納得(なっとく)できず、(あせ)って諫言(かんげん)した。「旦那様(だんなさま)配下(はいか)として(すこ)(こと)なる(かんが)えがございます。()狼王(ろうおう)常山陰(じょうさんいん)は、功績(こうせき)(たの)んで傲慢不遜(ごうまんふそん)でございます。(かく)(ごと)(あま)やかす(わけ)には(まい)りません。(かれ)(たし)かに大功(たいこう)を立てましたが、旦那様(だんなさま)部族(ぶぞく)(あつ)支援(しえん)()ければ、あれ(ほど)狼群(おおかみむれ)(よう)できましたでしょうか?()れに(かれ)北原(ほくげん)英雄(えいゆう)として、威望(いぼう)(たか)うございます。旦那様(だんなさま)(しょう)しの懲罰(ちょうばつ)(あた)えられねば、今後(こんご)ますます増長(ぞうちょう)し、(つい)には功績(こうせき)主君(しゅくん)(しの)ぎ、世間(せけん)常山陰(じょうさんいん)()のみ()(わた)り、旦那様(だんなさま)御名(ごな)(わす)()られてしまうではございませんか!」


「はははは。」


旦那様(だんなさま)(なに)がおかしゅうございますか?」


湿寒(しつかん)()()苦労(くろう)(はなは)だしい。()事件(じけん)()きてしまっては、(かれ)常山陰(じょうさんいん)美名(びめい)(のこ)(よう)がござろうか?(つよ)きを(たの)んで(よわ)きを(くじ)き、伝承(でんしょう)着服(ちゃくふく)するとは、()威望(いぼう)(おお)いに()とすのみ。()れに(かれ)黄金(おうごん)血脈(けつみゃく)でもなく、来客令(らいきゃくれい)()たぬ。真陽楼(しんようろう)(はい)ることなど、元々(もともと)不可能(ふかのう)なのだ。」


(しば)()()き、黒楼蘭(こくろうらん)(かた)(つづ)けた。「()(けん)から()れば、常山陰(じょうさんいん)所詮(しょせん)凡人(ぼんじん)であると()かろう。欲望(よくぼう)()れば私心(ししん)()る。()れは()くはない。()れに、()()には常家(じょうけ)葛家(かつけ)(にぎ)っている。(かれ)(すで)五转巅峰(ごてんてんぽう)である。(かれ)(ごと)天才(てんさい)は、(かなら)ずや(さら)なる一歩(いっぽう)(のぞ)んでいるだろう。(ただ)し、如何(いか)にして蛊仙(こせん)()るかは、(かれ)黒家(こくけ)()わるまで()ってから、一歩(いっぽう)々(ぼう)と()かして()所存(しょぞん)だ。」


其方(そちら)常山陰(じょうさんいん)好感(こうかん)()たぬことは()っている。()しながら、()れから()真陽楼(しんようろう)(いど)(さい)(いま)(かれ)必要(ひつよう)とする。()(ほど)()るに()らない些事(さじ)は、以後(いご)()()さぬように。()かったか?」


承知(しょうち)いたしました、旦那様(だんなさま)。」


狽君子(はいくんし)(あたま)()れて(こた)え、(こえ)(かす)かに(ふる)えていた。


「ふむ、()がれ。」


配下(はいか)失礼(しつれい)いたします。」


孫湿寒(そんしつかん)は、筆舌(ひつぜつ)()くし(がた)失望(しつぼう)(ねん)(いだ)きながら、中枢大殿(ちゅうすうだいでん)(あと)にした。








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