第五十四節: 俺こそが班頭だ!
一輪の赤日が、ゆっくりと西の大地と山々(やまやま)へ滑り落ちていく。
その光はもはや眩しくはなく、柔らかく明るい輝きを帯びている。
西の空はすっかり赤く染まり、夕焼け雲が連なり合って、あたかも妃が褒美を受け取り、喜んで帝王を取り囲み、共に夜を過ごさんとするかのようだ。
青茅山のすべてが、ぼんやりとしたバラ色に包まれていた。
高床式の楼閣も、金色のベールをまとっている。
学堂の周りに植えられた林は、淡い油を塗られたかのようだ。
風がそよそよと吹き抜け、生徒たちは今配られた元石の補助金を胸に抱え、学室を出る。皆すっきりとした表情をしている。
「まったく方源の頭はどうなってるんだ?班頭の座を蹴るなんて!」
「ははは、私こそ班頭だ!あいつの脳味噌は腐ってるんだよ。殺人のことしか考えてないんだから、あんな狂った野郎は相手にするな」
「あの日学室に乱入してきた時は本当に震えたわ。帰ってから一晩中悪夢を見たよ」
生徒たちが三々五々(さんさんごご)に群れながら歩く。
「班頭さま、ごきげんよう」
「うむ」
「班頭さま、ごきげんよう」
「うむうむ」
古月漠北が威張りくさって歩くと、行く先々(ざき)で生徒たちが腰を折る。我慢しきれない悦びが頬を染めていた。
これが権力の魔力だ。
わずかな待遇の差が、自己価値を強く確信させる。
夕日が血のように赤く沈むのを見ながら、漠北は恍惚とした想いを巡らす。「なんで今まで気づかなかったんだろう…この夕焼けの赤ってなんて愛しいんだ」
「ふん、班頭になったからって調子に乗りやがって」古月赤城は意地悪に後ろを歩き、挨拶を避けた。
「方源は何を考えてるんだ? 第五十四節:私こそ班頭だ!でもお陰で副班頭に就けたんだから良しとすべきか…」
「副班頭さま、ごきげんよう」通り過ぎる生徒に声をかけられ、赤城はにんまり。「へへ、お前もな」
その背中を見送りながら妄想が膨らむ。「副班頭でもこの味…班頭ならもっと絶品だろうに!」
族内の体制は巨大なニンジンを次々(つぎつぎ)にぶら下げる。権力の階段を登るほど、前のニンジンがより大きく見えてくるのだった。
「丙等の資質だけど、きっと良くなるさ!」古月赤城は未来に希望を抱いていた。
しかし副班頭古月方正の表情は暗く、顔色も青ざめていた。
「兄貴、何を…!」彼は学舎の正門に立つ孤独な影を目にして言葉を失った。
「相変わらず、一人一塊だ」
方源は腕組みをして立ち、淡々(たんたん)と言い放つ。
方正は口を開け閉じし、やっとのことで声を絞り出した:「俺は副班頭だぞ!」
「確かに」方源は無表情で頷き、「副班頭は五塊支給される。なら三塊出せ」
方正は呆然として声も出ない。
少年たちに囲まれた古月漠北が近づいてくる。正門を塞ぐ方源を見て怒り爆発:「方源! 調子に乗りやがって! 俺は班頭だ! 挨拶もできねえのか?」
返答は方源の拳だった。
「ぐはっ!」
漠北は不意打ちを喰らい数歩後ずさる。「殴るだと? 班頭をなめやがって!」
再び飛んできた拳。
ドスン! ドスン!
数度の攻防の末、漠北は地面に倒れ込んだ。
周囲の生徒たちは凍りつく。全て(すべて)が予想外の展開だ。
門番の護衛たちが私語く:「班頭がやられた…どうすんべ?」
「見てるしかねえさ」
「でも…」
「王さんや呉さんの末路を思い出せよ」
質問した護衛は震え上がり、石像のように硬直した。
方源は漠北を片付けると、続けて方正と赤城を狙った。
生徒たちは漸く悟った――何も変わってない。方源はあの頃のままだ。略奪は時を違えず訪れるのだと。
「一人一塊の元石、副班頭は三塊、班頭は八塊」と方源が新しいルールを発表した。
少年たちはブツブツ文句を言いながら、しぶしぶ元石を差し出した。
学堂の門を出た途端、誰かが頭をパンと叩いて叫んだ:「わかったぞ!方源が班頭のポジションを蹴った理由だ!ずっとオレたちからカモり続けるつもりなんだ!」
「そりゃそうだ!今まで59塊ふんだくってたのに、これで68塊に増えた。班頭になってたらたった10塊しかもらえなかったんだぜ」と別の少年が膝を叩いて納得した。
「マジでずるい!タコすぎる!むちゃくちゃひどいぞ!」誰かが腿をバンバン叩きながら怒りを爆発させた。
「班頭も副班頭も所詮同じじゃん。結局カモられて残りは二塊。オレらと一緒じゃねーか」
このセリフに少年たちはシーンとなった。
ガン!
学堂家老が机を叩きつけて怒鳴った:「方源めが!班頭から八塊も副班頭から三塊も奪うとは!これじゃ班頭と雑魚の区別がねーじゃないか!」
方源が班頭の職を拒否したことは、家族体制への不参加を意味する。厳しく言えば、家族への背信行為だ。
これだけでも学堂家老は十分に立腹していた。
さらに方源は同窓を脅迫し続け、その手がますます長くなり、学堂家老の許容限界を超えていた。
このような恐喝により、班頭と副班頭の権威は根本から弱体化した。
時が経つにつれ、普通の学員たちもこの二つの職位への畏敬と興味を失うだろう。
方源のこの行動は小さく見えても、その意義は極めて重大だった。
これは既に一己の力で家族体制に挑戦する行為だ!
学堂家老が決して見たくない光景だった。彼が育てるのは家族の新たな希望であって、裏切者ではない。
しかし方源が自分の限界を越えていると知りながら、学堂家老は手出しできないことを悟っていた。
もし実際に介入すれば、最初に障るのは族長だ。次に異論を唱えるのは古月赤練と古月漠塵だろう。
族長は古月方正に期待を寄せている。方正は三年間で唯一の甲等の天才だ。族長が求めるのは強靭で自立した天才であって、過保護の繊細な花ではない。
赤練と漠塵もまた、それぞれの孫がこのような挫折で成長することを望んでいた。
もし学堂家老が学員たちに代わって方源を処罰すれば、「漠家と赤家の後継者は方源に勝てず、年長者に頼るしかない」との噂が立つ。
実とも聞き苦しい。
これは漠家と赤家の名誉に対して重大な打撃となるに違いない。
学堂家老は当然、小さな方源など恐れるはずもなかった。しかし彼が懸念していたのは、一旦この件に介入すれば、族長・漠脈・赤脈からの三重の圧力を招くことだった。これは実質古月の上層部全体を敵に回すことに等しく、一介の家老に過ぎない彼が耐えられるものではなかった。
「この問題の根源は、方源が持つ秘密にある。一体何を頼りに、あのように我が侭に中階へ昇格したのか?」学堂家老は心中の怒りを抑え、書斎机の上に置かれた3通の調査報告書に目を落とした。
第一の報告書には、方源の詳細な家庭環境が記されていた。
血筋に問題なく、身元にも疑わしい点はない。両親を亡くした後、伯父夫婦に引き取られたが折合いが悪く、学堂入学後はずっと寮で暮らしている。
第二の報告書には、彼の生い立ちが記録されていた。
幼少期から早熟の才を見せ、甲等資質の可能性を期待されていた。しかし開竜大典で丙等と判明し、族内を大きく落胆させた。
第三の報告書には、最近の行動が記されていた。
生活は極めて単調で、毎日学堂・寮・酒屋を往復するだけ。夜はひたすら空竜を温養する修行に励む。時折山寨唯一の宿屋で青竹酒を買い、食事を改善している。
報告書を詳しく読み返すうちに、学堂家老の胸中で方源の人物像が鮮明になっていった。
「両親を早くに亡くし、親戚とも不仲……道理で家族への帰属意識が欠けている。天才の名を与えられては奪われ、高い所から叩き落とされた……反抗的で冷たい性格も頷ける。修行に打ち込む姿は、『認めさせてやる』という意地の現われか。だからこそ、わしが抑圧を加えた時、あれほど激しく反発したのだろう……」
ここまで考え及ぶと、学堂家老は思わず軽く嘆息を漏らした。
方源を理解すればするほど、その行動に納得がいく部分も出てくる。
ただし、理解は決して容赦を意味しない。方源が自らの威厳を傷つけ、班頭就任を拒否し、同窓を掠奪する行為は、到底許せるものではなかった。
資料をパラパラと揺すりながら、学堂家老は再び眉をひそめた:「詳細な内容だが、肝心の昇格の秘密に全く触れていない。何日も経っているというのに、こいつらは本当にいい加減だ!」
トントン。
ちょうどその時、ノックの音が響いた。
「入るがよい」学堂家老が答えると、
ドアが開いた。
現れたのは族長・古月博の親衛隊:「族長からのご命令です。家老様、至急で家主閣へご参集ください。重大な協議がございます」
「ほう、どんな要件じゃ?」学堂家老は腰を浮かせながら問い返した。親衛の緊迫した声と表情から事の重大さを察していた。
「四転蛊師の賈富閣下が再びご来訪。弟君の賈金生様が行方不明とのことです!」
「ヒッ……!」
学堂家老は思わず息を呑んだ。




