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蛊真人  作者: 魏臣栋
魔头乱世
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第九十九節:刺杀

分銅(ふんどう)(ごと)十鈞之力蛊(じっきんのりきこ)が、方源(ほうげん)頭頂(ずちょう)(しず)かに浮遊(ふゆう)している。


方源(ほうげん)()()じて結跏趺坐(けっかふざ)し、全身(ぜんしん)十鈞之力蛊(じっきんのりきこ)光輝(こうき)(つつ)まれていた。


良久(りょうきゅう)にして。


方源(ほうげん)双眼(そうがん)()けると、光輝(こうき)は徐々(じょじょ)に消散(しょうさん)し、十鈞之力蛊(じっきんのりきこ)(もと)(はん)(ぶん)(おお)きさに(ちぢ)んでいた。


「あと二回(にかい)使(つか)えるな。」方源(ほうげん)(だま)って推算(すいさん)した。


十鈞之力(じっきんのりき)消耗蛊(しょうもうこ)であり、()()使(つか)()った(あと)(かれ)七十鈞(ななじっきん)(ちから)(ゆう)することになる。()(よう)底蕴(うちん)は、四転初階(してんしょかい)力道蛊師(りきどうこし)としっては、(もう)(ぶん)のない水準(すいじゅん)()える。


しかし全力以赴蛊(ぜんりょくいっそうこ)二転(にてん)抑制(よくせい)されている以上(いじょう)()問題(もんだい)解決(かいけつ)しない(かぎ)り、力道(りきどう)修行(しゅぎょう)質的変化(しつてきへんか)可能性(かのうせい)はない。(すなわ)ち、短期的(たんきてき)には力道修為(りきどうしゅうい)による戦闘力(せんとうりょく)期待(きたい)できないと()える。


(つぎ)に、第一空竅(だいいちくうこう)第二空竅(だいにくうこう)(じゅん)点検(てんけん)した。


第一空竅(だいいちくうこう)にある本命蛊(ほんめいこ)春秋蝉(しゅんじゅうせん)は、相変(あいか)わらず()(かく)したままで、沉睡(ちんすい)して休養(きゅうよう)()っている。


九割(きゅうわり)()める晶紫(しょうし)真元(しんげん)(うみ)は、きらめく(なみ)が、五转巅峰(ごてんてっぽう)晶壁(しょうへき)(むらさき)にかすんで(うつ)()していた。


海面(かいめん)上空(じょうくう)では、狼煙蛊(のろしこ)(おおかみ)(かたち)をした暗雲(あんうん)(ごと)(ただよ)っていた。


海面(かいめん)には、(すで)修復(しゅうふく)完了(かんりょう)した戦骨車輪(せんこつしゃりん)と、(しろ)柳葉(りゅうよう)(ごと)雪洗蛊(せっせんこ)(ただよ)っている。


五転(ごてん)蛛絲馬跡蛊(しゅしばせきこ)烏賊(いか)(ごと)潜遊(せんゆう)し、時折(ときおり)狼頭魚肚(ろうとうぎょと)狼呑蛊(ろうどんこ)(とも)(たわむ)れている。


真元海底(しんげんかいてい)には、大量(たいりょう)馭狼蛊(ぎょろうこ)(すく)なからぬ十鈞之力蛊(じっきんのりきこ)、そして(いく)つかの狼魂蛊(ろうこんこ)堆積(たいせき)している。


同時(どうじ)に、方源(ほうげん)現段階(げんだんかい)最重視(さいじゅうし)する星門蛊(せいもんこ)推杯換盞蛊(すいはいかんさんこ)東窓蛊(とうそうこ)葬魂蛊(そうこんこ)馬到成功蛊(ばとうせいこうこ)(ひそ)められている。


一方(いっぽう)狼嚎蛊(ろうごうこ)狼顧蛊(ろうここ)鷹揚蛊(ようようこ)狼奔蛊(ろうほんこ)斂息蛊(れんそくこ)は、(いず)れも(からだ)各所(かくしょ)寄託(きたく)されている。


北原(ほくげん)()ごす日数(にっすう)()えるに()れて、方源(ほうげん)(からだ)次第(しだい)北原(ほくげん)環境(かんきょう)適応(てきおう)していった。第一空竅(だいいちくうこう)修為(しゅうい)は、北原(ほくげん)において五転中階(ごてんちゅうかい)(いき)(たっ)することが可能(かのう)となっている。


ただし方源(ほうげん)斂息蛊(れんそくこ)使(つか)(つづ)け、自身(じしん)気息(きそく)四转巅峰(してんてっぽう)抑制(よくせい)していた。


一方(いっぽう)第二空竅(だいにくうこう)(うち)は、また(ちが)った景観(けいかん)(てい)している。


四方(しほう)晶膜(しょうまく)空竅(くうこう)()(とお)るほど(あか)るく()らし()していた。


九割(きゅうわり)()める真金(しんきん)真元(しんげん)(うみ)には、きらめく(なみ)()らめいている。


()数日間(すうじつかん)修行(しゅぎょう)により、方源(ほうげん)第二空竅(だいにくうこう)当初(とうしょ)三转巅峰(さんてんてっぽう)から、四转巅峰(してんてっぽう)にまで(たっ)していた。


空竅(くうこう)中央(ちゅうおう)位置(いち)するのは、三転(さんてん)全力以赴蛊(ぜんりょくふこ)である。


(ほか)には、獣力虚影(じゅうりききょえい)凝実(ぎょうじつ)した気流(きりゅう)変換(へんかん)できる三転(さんてん)力气蛊(りきこ)身体(からだ)(きず)つけば(きず)つくほど(ちから)()四転(してん)苦力蛊(くりきこ)存在(そんざい)する。


さらに四転(してん)横冲直撞蛊(おうちゅうちょくしょうこ)三転(さんてん)兜率花(とそうか)元老蛊(げんろうこ)四転(してん)费力蛊(ひりきこ)、そして治療効果(ちりょうこうか)を持つ三転(さんてん)自力更生蛊(じりきこうせいこ)(そな)わっている。


元来(がんらい)所持(しょじ)していた金刚怒目蛊(こんごうどもくこ)点金蛊(てんきんこ)乌七蛊(うしちこ)血颅蛊(けつろこ)骨肉团圆蛊(こつにくだんえんこ)阴阳转身蛊(いんようてんしんこ)などは、当面(とうめん)使用(しよう)予定(よてい)がないため、すべて狐仙福地(こせんふくち)保管(ほかん)されている。


琅琊福地(ろうやふくち)から脱出(だっしゅう)した(さい)方源(ほうげん)最初(さいしょ)(あらわ)れた場所(ばしょ)北原(ほくげん)であったため、第二空竅(だいにくうこう)()(さき)北原(ほくげん)認証(にんしょう)()けた。四転巅峰(してんてっぽう)修為(しゅうい)は、(かす)かな異域(いき)圧制(あっせい)()けなかった。


第二空竅(だいにくうこう)修為(しゅうい)()(ほど)急速(きゅうそく)進展(しんてん)したのは、方源(ほうげん)以前(いぜん)購入(こうにゅう)した舎利蛊(しゃりこ)賜物(たまもの)()える。


しかし仙元石(せんげんせき)(かぎ)りがあるため、紫晶舎利蛊(ししょうしゃりこ)(さら)()うことはできなかった。(ゆえ)に、()以降(いこう)第二空竅(だいにくうこう)修為(しゅうい)方源(ほうげん)自身(じしん)(ちから)で、順序(じゅんじょ)()って修行(しゅぎょう)して()かねばならない。


四転(してん)から五転(ごてん)へは質的転換(しつてきてんかん)過程(かてい)であり、()(へだ)たりは巨大(きょだい)だ。今夜(こんや)索性(そくせい)第二空竅(だいにくうこう)修為(しゅうい)五転初階(ごてんしょかい)まで一気(いっき)突破(とっぱ)してしまおう!」時間(じかん)十分(じゅうぶん)(のこ)っているのを確認(かくにん)した方源(ほうげん)は、座布団(ざぶとん)(うえ)(すわ)ったまま、五転境界(ごてんきょうかい)への突入(とつにゅう)決断(けつだん)した。


第二空竅(だいにくうこう)修為(しゅうい)(すで)四转巅峰(してんてっぽう)(たっ)し、その底蕴(うちん)十分(じゅうぶん)蓄積(ちくせき)されている。資質(ししつ)第一空竅(だいいちくうこう)上回(うわまわ)ることはできないが、琅琊地霊(ろうやちれい)(みずか)らが煉製(れんせい)したため、資質(ししつ)九割(きゅうわり)(きわ)めて(たか)い。


普通(ふつう)蛊師(こし)であれば、()(ふた)つの条件(じょうけん)()たせば、五転境界(ごてんきょうかい)(いど)十分(じゅうぶん)資本(しほん)がある。


通常(つうじょう)何度(なんど)失敗(しっぱい)経験(けいけん)した(あと)経験(けいけん)蓄積(ちくせき)されれば、成功(せいこう)()昇格(しょうかく)するものである。


しかし経験(けいけん)という(てん)において、方源(ほうげん)(つね)(つよ)みを()っており、()関門(かんもん)(かれ)にとって存在(そんざい)しない。(さら)重要(じゅうよう)なのは、第一空竅(だいいちくうこう)第二空竅(だいにくうこう)真元(しんげん)相互(そうご)共用(きょうよう)できるという(てん)である!


天下(てんか)(まった)(おな)()存在(そんざい)せず、同様(どうよう)蛊師(こし)真元(しんげん)も各々(おのおの)(こと)なる。骨肉团圆蛊(こつにくだんえんこ)(ごと)()行使(こうし)しない(かぎ)り、蛊師(こし)(たが)いに真元(しんげん)灌輸(かんゆ)すれば、異種(いしゅ)真元(しんげん)衝突(しょうとつ)(まね)き、最終的(さいしゅうてき)には空竅(くうこう)爆発(ばくはつ)(いた)る。


(しか)るに、第一空竅(だいいちくうこう)第二空竅(だいにくうこう)も、(とも)方源(ほうげん)一人(ひとり)所有(しょゆう)するものだ。両空竅(りょうくうこう)真元(しんげん)(ひゃく)パーセント相互(そうご)融通(ゆうずう)()き、本質的(ほんしつてき)(まった)(おな)じものである。


()て。」


方源(ほうげん)(こころ)の中で(ひと)(こえ)()じると、第一空竅(だいいちくうこう)晶紫真元(しょうししんげん)逆流(ぎゃくりゅう)し、(むね)中央(ちゅうおう)にある第二空竅(だいにくうこう)へと(なが)()んだ。


五转巅峰(ごてんてっぽう)真元(しんげん)四转晶壁(してんしょうへき)衝撃(しょうげき)する効果(こうか)は、予想(よそう)通り(どおり)強烈(きょうれつ)であった。


夜明(よあ)(どき)までに、方源(ほうげん)見事(みごと)五转初階(ごてんしょかい)への突破(とっぱ)()()げた。


此度(こたび)五転(ごてん)への挑戦(ちょうせん)は、(かれ)がこれまで経験(けいけん)してきた(なか)で、(もっと)容易(ようい)なものと()えた。


(ただ)第一空竅(だいいちくうこう)真元(しんげん)使用(しよう)したため、第二空竅(だいにくうこう)異域(いき)圧制(あっせい)()けることとなった」と方源(ほうげん)(かん)()った。現在(げんざい)第二空竅(だいにくうこう)には淡紫(うすむらさき)真元(しんげん)()ちているが、その催動(さいどう)効果(こうか)依然(いぜん)として(もと)真金真元(しんきんしんげん)(おな)程度(ていど)であった。


「しかし半月余(はんつきあま)()てば、第二空竅(だいにくうこう)への異域圧制(いきあっせい)消散(しょうさん)する。三ヶ月後(さんかげつご)(いた)っては、第一空竅(だいいちくうこう)完全(かんぜん)北原(ほくげん)環境(かんきょう)()()み、異域圧制(いきあっせい)()けなくなる。()(とき)には、王庭之争(おうていのあらそい)終盤(しゅうばん)(むか)えているだろう……」


方源(ほうげん)(にご)った(いき)()()し、()()がって(かる)(からだ)()ばした。


一晩中(ひとばんじゅう)(やす)みなく(つづ)けた修行(しゅぎょう)で、(すこ)しばかりの(つか)れと倦怠感(けんたいかん)(おぼ)えている。


(かれ)密室(みっしつ)(とびら)()()けると、入り(いりぐち)待機(たいき)していた二人(ふたり)三転蛊師(さんてんこし)即座(そくざ)反応(はんのう)し、(うやうや)しく挨拶(あいさつ)(おく)った。


その(うち)一人(ひとり)が、方源(ほうげん)吉報(きっぽう)(つた)えた:「狼王(ろうおう)(さま)、我々(われわれ)の蛊師(こし)野外(やがい)幸運(こううん)にも魚翅狼(ぎょしろう)一頭(いっとう)捕獲(ほかく)(いた)しました。現在(げんざい)(おり)収容(しゅうよう)しております。族長(ぞくちょう)からは、大人(たいじん)がご修行(しゅぎょう)()えられましたら、兵站營(へいたんえい)(おもむ)きご収服(しゅうふく)下さいますようとのお()()ぎがございます」


この()らせは方源(ほうげん)予想外(よそうがい)(よろこ)びをもたらした。


魚翅狼(ぎょしろう)異獣(いじゅう)(るい)し、その戦力(せんりょく)四转蛊師(してんこし)匹敵(ひってき)する。方源(ほうげん)宝黄天(ほうこうてん)数多(あまた)異獣狼(いじゅうろう)購入(こうにゅう)していたが、その出所(でどころ)説明(せつめい)できぬため、(おもて)には()せずにいたのである。


(もし)一頭(いっとう)魚翅狼(ぎょしろう)側近(そっきん)護衛(ごえい)として()(したが)えば、戦場(せんじょう)における方源(ほうげん)安全(あんぜん)(せい)(うたが)いもなく(たか)まるであろう。


少時(しょうじ)して、方源(ほうげん)兵站營(へいたんえい)(あし)()()れた。


土波(どは)狼王様(ろうおうさま)御目見得(おめみえ)(つかまつ)る。」


三転蛊師(さんてんこし)一人(ひとり)(あわ)てて()()し、出迎(でむか)えた。


()(ひく)()えた体躯(たいく)に、(あぶら)ぎった顔面(がんめん)には()びへつらう様子(ようす)(あふ)れており、「狼王様(ろうおうさま)小生(しょうせい)(ひさ)しくお()ちしておりました。只今(ただいま)御案内(ごあんない)(もう)()げます」と()べた。


土波(どは)先導(せんどう)()もなく、方源(ほうげん)らは木製(きせい)(おり)()しに、()魚翅狼(ぎょしろう)()()たりにした。


魚翅狼(ぎょしろう)(ぞう)(ごと)巨体(きょたい)で、此刻(こくしゃ)(おり)(なか)(うつぶ)せとなり、全身(ぜんしん)(わに)のような頑丈(がんじょう)皮甲(ひこう)(つつ)まれていた。


その背中(せなか)には、(さめ)(おも)わせる青黒(あおぐろ)魚翅(ぎょし)一列(いちれつ)(なら)び、(おおかみ)頭部(とうぶ)から尾部(びぶ)まで()びていた。


朝焼(あさや)けの(ひかり)がその(からだ)()らす(なか)魚翅狼(ぎょしろう)()()じ、昏睡蛊(こんすいこ)効果(こうか)意識(いしき)(うしな)っていた。


(おめで)とう御座(ござ)います、魚翅狼(ぎょしろう)防御力(ぼうぎょりょく)最強(さいきょう)異獣狼(いじゅうろう)でございます。()(おおかみ)護衛(ごえい)すれば、大人(たいじん)(とら)(つばさ)()(ごと)しと(もう)()げます」


(さら)貴重(きちょう)なことに、魚翅狼(ぎょしろう)陸上(りくじょう)(たたか)えるのみならず、水中(すいちゅう)潜遊(せんゆう)でき、()()一層(いっそう)戦力(せんりょく)発揮(はっき)するのでございます!」


二人(ふたり)護衛(ごえい)三転蛊師(さんてんこし)は、()(よう)神駿(しんしゅん)たる魚翅狼(ぎょしろう)()にし、次々(つぎつぎ)に方源(ほうげん)(いわ)った。


方源(ほうげん)微笑(ほほえ)みを()かべ、眼前(がんぜん)魚翅狼(ぎょしろう)(なが)めながら、()(ほそ)めて余裕(よゆう)しゃくしゃくと(たず)ねた。「()異獣狼(いじゅうろう)捕獲(ほかく)するのに、(すく)なからぬ犠牲者(ぎせいしゃ)()たのだろう?」


土波(どは)自分(じぶん)()われていると(さと)り、即座(そくざ)(こた)えた。「はっ!(おっしゃ)(とお)りでございます。三転蛊師(さんてんこし)四名(よんめい)二転蛊師(にてんこし)二百名以上(にひゃくめいいじょう)犠牲(ぎせい)()ました。汪家(おうけ)房家(ぼうけ)両族長(りょうぞくちょう)及時(きゅうじ)支援(しえん)がなければ、此奴(こいつ)()()げてしまっておりました」


方源(ほうげん)(かる)(うなず)き、()一層(いっそう)(ほそ)めて()った。「()魚翅狼(ぎょしろう)(からだ)には(きず)()()ないが、()れから()れば、古傷(ふるきず)があるように()えるのだが?」


「はい、(おっしゃ)(とお)りでございます。古傷(ふるきず)がなければ、偵察蛊師(ていさつこし)生還(せいかん)して報告(ほうこく)することは(かな)わなかったでしょう。狼王様(ろうおうさま)長生天(ちょうせいてん)御加護(ごかご)にあずかっていらっしゃる(あかし)(ぞん)じます。大戦(たいせん)目前(もくぜん)に、(きず)ついた魚翅狼(ぎょしろう)をわざわざお(はこ)びくださったのですから」土波(どは)追従(ついしょう)()べた。


幸運(こううん)……か」方源(ほうげん)(つぶや)くと、(こころ)違和感(いわかん)(つよ)まっていくのを(かん)じた。


その違和感(いわかん)がどこから()るのか、(かれ)自身(じしん)説明(せつめい)できない。ただ漠然(ばくぜん)とした危機感(ききかん)(おぼ)えるだけだった。(なん)()()(ただ)してみたが、(とく)におかしな(てん)()()たらなかった。


魚翅狼(ぎょしろう)異獣(いじゅう)であり、その戦力(せんりょく)四转蛊師(してんこし)強者(きょうしゃ)匹敵(ひってき)する。(からだ)古傷(ふるきず)があったからこそ、足止(あしど)めを()って生捕(いけど)りにされたのである。


()れらは全て(すべて)(ことわ)りに(かな)っている。


唯一(ゆいいつ)不合理(ふごうり)(てん)は、方源(ほうげん)(こころ)()くう不安(ふあん)(ねん)だけであった。


(しか)方源(ほうげん)()(かん)じを(きわ)めて(おも)んじている。


()感覚(かんかく)は、(かれ)前世(ぜんせ)()()()たばかりの(ころ)には()かったものだ。数百年(すうひゃくねん)(わた)試練(しれん)と、幾度(いくど)死線(しせん)彷徨(さまよ)った経験(けいけん)から、豊富(ほうふ)人生(じんせい)知恵(ちえ)(とも)(つちか)われた直感(ちょっかん)なのである。


(ことわざ)に『(かめ)(こう)より(とし)(こう)』とある(ごと)く、(ひと)仮令(たとえ)愚鈍(ぐどん)であろうと、数多(あまた)失敗(しっぱい)()め、幾多(いくた)苦難(くなん)()()え、様々(さまざま)な事物(じぶつ)()にすることで、自然(しぜん)生存(せいぞん)知恵(ちえ)形作(かたちづく)られていくのである。」


(じつ)に、(ひと)のみならず普通(ふつう)(けもの)でさえ、危険(きけん)到来(とうらい)(たい)する直感(ちょっかん)敏感(びんかん)さを(そな)えている。


周囲(しゅうい)蛊師(こし)たちの期待(きたい)眼差(まなざ)しの(なか)方源(ほうげん)四転(してん)馭狼蛊(ぎょろうこ)を取り(とりだ)した。


「ほれ、()異獣狼(いじゅうろう)(したが)えよ」


(ほか)(もの)(おどろ)かせたことに、方源(ほうげん)(みずか)()(くだ)さず、馭狼蛊(ぎょろうこ)土波(どは)(わた)したのである。


小生(しょうせい)使(つか)わせて(いただ)くのですか?」土波(どは)(おどろ)いた、「(ただ)し、此方(こちら)修為(しゅうい)三転(さんてん)()ぎず……」


無駄口(むだぐち)(たた)くな、(はや)使(つか)え」方源(ほうげん)(ごう)()やし、(するど)(かつ)()れると、()いて馭狼蛊(ぎょろうこ)土波(どは)()()けた。


土波(どは)仕方(しかた)なく、狼王(ろうおう)(さま)のような大人物(たいじんぶつ)(なん)という古怪(こかい)気性(きしょう)をお()ちなのか理解(りかい)できなかったが、方源(ほうげん)威勢(いせい)()され、真元(しんげん)灌輸(かんゆ)するより(ほか)なかった。


(かれ)(しば)らく催動(さいどう)(つづ)け、全身(ぜんしん)大汗(おおあせ)()れるほど疲労(ひろう)した(ころ)、ようやく四転(してん)馭狼蛊(ぎょろうこ)(ゆる)やかに作動(さどう)させた。


馭狼蛊(ぎょろうこ)一筋(ひとすじ)()なる(ひかり)()し、(あや)うく()れながら魚翅狼(ぎょしろう)(からだ)()()った。


「はあ……」


悔恨(かいこん)()ちた女性(じょせい)嘆息(たんそく)が、突如(とつじょ)として在场(ざいじょう)する(もの)全員(ぜんいん)(みみ)もとに(ひび)(わた)った。


刹那(せつな)方源(ほうげん)(こころ)警戒警報(けいかいけいほう)炸裂(さくれつ)し、一瞬(いっしゅん)躊躇(ちゅうちょ)もなく、()()爆発的(ばくはつてき)後退(こうたい)させた!


一股(いちこ)戦慄(せんりつ)が、瞬時(しゅんじ)在场(ざいじょう)する各人(かくじん)(たましい)奥底(おくそこ)()(めぐ)った。


(ほとん)同刻(どうこく)土波(どは)突然(とつぜん)(くち)を大きく()け、凄絶(せいぜつ)断末魔(だんまつま)(さけ)びを()げると、その()即死(そくし)した!二人(ふたり)三転蛊師(さんてんこし)護衛(ごえい)呆然自失(ぼうぜんじしつ)彼等(かれら)には土波(どは)死因(しいん)(まった)理解(りかい)できなかった。咄嗟(とっさ)に、彼等(かれら)本能(ほんのう)(てき)方源(ほうげん)(つづ)き、後方(こうほう)飛退(ひたい)した。


しかし(またた)()に、()(うち)一人(ひとり)身体(からだ)(はげ)しく(ふる)わせ、空中(くうちゅう)()るうちに(いき)()()めた。


魂爆(こんばく)だ……」方源(ほうげん)脳裏(のうり)閃光(せんこう)(はし)り、(おも)わず(くち)()いて()た。


流石(さすが)狼王様(ろうおうさま)眼識(がんしき)(たか)さには脱帽(だつぼう)です」女性(じょせい)のささやくような(こえ)(かれ)耳元(みみもと)(ひび)き、()()がる暗影(あんえい)()れに(つづ)いた。


暗影(あんえい)(つるぎ)(ごと)く、幾重(いくえ)にも(かさ)なり、黒孔雀(くろくじゃく)突如(とつじょ)として(はね)(ひろ)げたかと()える。陰険(いんけん)犀利(さいり)なる()一撃(いちげき)は、方源(ほうげん)身体(からだ)包囲(ほうい)した。


四転(してん)――多重剣影蛊(たじゅうけんえいこ)


(きゃん)(きゃん)と。


(またた)()に、密集(みっしゅう)した衝撃音(しょうげきおん)(ひび)(わた)った。


幾重(いくえ)にも(かさ)なる剣影(けんえい)方源(ほうげん)体躯(たいく)()()ける(さま)は、金属同士(きんぞくどうし)衝突(しょうとつ)(ごと)く、燦然(さんぜん)たる火花(ひばな)(ほとばし)らせた。


方源(ほうげん)皮膚(ひふ)墨緑色(すみりょくしょく)へと変色(へんしょく)し、注意深(ちゅういぶか)観察(かんさつ)すれば、亀甲(きっこう)紋様(もんよう)連綿(れんめん)(つづ)いているのが確認(かくにん)できた。


五転(ごてん)――亀玉狼皮蛊(きぎょくろうひこ)


女賊(じょぞく)め!」 (のこ)ったもう一人(ひとり)三転蛊師(さんてんこし)は、方源(ほうげん)攻撃(こうげき)されているのを()るや、怒号(どごう)一声(いっせい)方向(ほうこう)(てん)じて救援(きゅうえん)()けつけた。


方源(ほうげん)(おそ)った女蛊師(じょこし)(ひや)やかに(はな)(わら)ったが、(かま)うことなく、多重剣影蛊(たじゅうけんえいこ)をより狂暴(きょうぼう)催動(さいどう)(つづ)けた。


同時(どうじ)に、彼女(かのじょ)(くち)()けて一本(いっぽん)糸状(いとじょう)(むし)()()した。


その(むし)(くろ)(いと)(ごと)く、周囲(しゅうい)剣影(けんえい)無視(むし)して、方源(ほうげん)(みみ)へと()()ぐに()(すす)もうとする。


方源(ほうげん)無表情(むひょうじょう)のまま、(つめ)たい眼光(がんこう)氷山(ひょうざん)(ごと)(たた)え、突然(とつぜん)右手(みぎて)()ばし、援護(えんご)()三転蛊師(さんてんこし)護衛(ごえい)強引(ごういん)(つか)んだ。


狼王様(ろうおうさま)!」三転蛊師(さんてんこし)愕然(がくぜん)とした。(かれ)方源(ほうげん)(まも)るために()けつけたのに、まさか方源(ほうげん)(つか)まれるとは(ゆめ)にも(おも)わなかった。


その驚愕(きょうがく)放心(ほうしん)している一瞬(いっしゅん)()いて、方源(ほうげん)(かれ)をぐいと自身(じしん)身体右側(からだみぎがわ)()()せ、自分(じぶん)魚翅狼(ぎょしろう)(あいだ)()(さえぎ)った。


ほとんど同時刻(どうじこく)三転蛊師(さんてんこし)は「あっ」と(こえ)()げ、全身(ぜんしん)痙攣(けいれん)させ、両目(りょうめ)(しろ)見開(みは)り、(あわ)()いて(たお)()んだ!


糸状(いとじょう)長虫(ちゅうちゅう)()好機(こうき)(のが)さず、瞬時(しゅんじ)方源(ほうげん)(みみ)へと()()んでいった。


方源(ほうげん)(しず)かに(うめ)き、三転蛊師(さんてんこし)(はな)すと、両拳(りょうこぶし)(くろ)屏風(びょうぶ)(ごと)剣影(けんえい)()けて猛然(もうぜん)()()した。


女蛊師(じょこし)()一撃(いちげき)膨大(ぼうだい)気力(きりょく)察知(さっち)するや、(かる)(わら)一声(いっせい)()えて正面(しょうめん)から()()わず、咄嗟(とっさ)多重剣影蛊(たじゅうけんえいこ)(おさ)め、()()一筋(ひとすじ)黑影(こくえい)()して、瞬時(しゅんじ)二十歩(にじゅっぽ)(あま)後方(こうほう)退(しりぞ)いた。


黑影(こくえい)天幕(てんまく)(かげ)()()くと、(ふたた)一人(ひとり)(おんな)(せい)姿(すがた)へと(もど)った。


()(おんな)小柄(こがら)(いと)らしく、全身(ぜんしん)黒衣(こくい)(つつ)み、(かお)には(くろ)薄紗(うすさ)(まと)い、一対(いっつい)細長(ほそなが)丹鳳眼(たんぽうがん)だけを(のぞ)かせている。


彼女(かのじょ)全身(ぜんしん)からは幽暗(ゆうあん)陰寂(いんじゃく)気配(けはい)(はな)たれ、()(うつく)しさに(あや)しげな魔力(まりょく)()えていた。一目(ひとめ)()(もの)(こころ)(ふか)(きざ)まれ、容易(ようい)には(わす)(がた)印象(いんしょう)(のこ)す。


卑职(ひしょ)無影剣(むえいけん)辺絲軒(へんしけん)にて御座(ござ)います。狼王様(ろうおうさま)此度(こたび)(はじ)めて御目(おめ)()かります。」


(おんな)方源(ほうげん)()かって(かろ)一礼(いちれい)()べた。敵陣(てきじん)只中(ただなか)で、多数(たすう)(てき)(かこ)まれているというのに、彼女(かのじょ)()だるむ(ところ)()く、泰然自若(たいぜんじじゃく)として()()いていた。


()(あいだ)貴様(きさま)()()仕込(しこ)んだのは(いず)れの()であるか?」


方源(ほうげん)(ひや)やかに(はな)()らすと、(するど)()()めた。


辺絲軒(へんしけん)(かる)やかに(わら)いながら(こた)えた。「()れは卑职(ひしょ)()遺跡(いせき)偶然(ぐうぜん)発見(はっけん)した不気味(ぶきみ)蛊虫(こちゅう)御座(ござ)います。一旦(いったん)発動(はつどう)すれば、(ひと)(みみ)から脳髓(のうずい)へと侵入(しんにゅう)(いた)します。宿(やど)(ぬし)(やや)でも(きゅう)(そく)思考(しこう)しますれば、()(むし)瞬時(しゅんじ)膨張(ぼうちょう)し、頭脳(ずのう)破裂(はれつ)させるまで成長(せいちょう)(いた)します。(ゆえ)卑职(ひしょ)、『爆脳蛊(ばくのうこ)』と名付(なづ)けました」


方源(ほうげん)顔色(かおいろ)(くも)った。


辺絲軒(へんしけん)(ふたた)一礼(いちれい)し、(こえ)(いろ)(こころ)からの敬服(けいふく)(ねん)()めて()った。「先輩(せんぱい)はよくも東方公子(とうほうこうし)入念(にゅうねん)仕掛(しか)けた必殺(ひっさつ)(わな)看破(かんぱ)なさいましたわ。魂爆(こんばく)威力(いりょく)からも(ほとん)(のが)()るとは、本当(ほんとう)敬服(けいふく)(いた)します。先輩(せんぱい)(いのち)(いただ)けるとは、(わたくし)最大(さいだい)(ほまれ)御座(ござ)います。では、()れで。」


言葉(ことば)()わるか()わらない(うち)に、彼女(かのじょ)一筋(ひとすじ)黑影(こくえい)()し、建物(たてもの)(かげ)()うように()()った。


影劍客(かげけんかく)だ!」


畜生(ちくしょう)()()めろ!」


()()けて()大勢(おおぜい)蛊師(こし)たちは怒号(どごう)()げ、密集(みっしゅう)した攻撃(こうげき)四方(しほう)(かげ)()びせかけた。しかし辺絲軒(へんしけん)黑影(こくえい)は、(すで)跡形(あとかた)もなく()()っていた。


()げたのか?それとも(なお)此処(ここ)(ひそ)んでいるのか?」


一瞬(いっしゅん)誰一人(だれひとり)として即座(そくざ)には判断(はんだん)()かなかった。


部下(ぶか)到着(とうちゃく)(おく)れ、狼王様(ろうおうさま)御免(ごめん)(くだ)さい!」


狼王様(ろうおうさま)御無事(ごぶじ)でいらっしゃいますか?」


心配(しんぱい)(あま)り、人々(ひとびと)は(またた)(うち)方源(ほうげん)を取り(かこ)んだ。


方源(ほうげん)肉体的(にくたいてき)には(ほとん)損傷(そんしょう)()けていなかったが、()(まと)っていた毛皮(けがわ)剣影(けんえい)によって()()りに()()とされ、(すこ)無様(ぶざま)姿(すがた)()っていた。


()()何事(なにごと)()ころうか?無能(むのう)役立(やく)たず(ども)め!(てき)兵站營(へいたんえい)まで(おか)()られておきながら、(なに)()()かぬとは!全員(ぜんいん)()(まえ)から()()せろ!」


方源(ほうげん)(いか)(くる)った様子(ようす)()えたが、内心(ないしん)では(ひそ)かに(よろこ)びに()いていた。


思いがけぬ暗殺(あんさつ)が、盗天魔尊(とうてんまそん)伝承(でんしょう)手掛(てが)かりを(みずか)らの()(とど)けてくれるとは!


爆脳蛊(ばくのうこ)


本気(まこと)()れが(ふせ)()れぬとでも(おも)ったのか?


ふん、小賢(こざか)しい小僧(こぞう)めが……


五百年(ごひゃくねん)記憶(きおく)(ゆう)する方源(ほうげん)にとって、()影劍客(かげけんかく)辺絲軒(へんしけん)もまた重要(じゅうよう)人物(じんぶつ)なのであった。


彼女(かのじょ)馬鴻運(ばこううん)(つま)一人(ひとり)であり、将来(しょうらい)六転蛊仙(ろくてんこせん)昇華(しょうか)する人物(じんぶつ)である。(まさ)彼女(かのじょ)()にした()の「爆脳蛊(ばくのうこ)」によって、馬鴻運(ばこううん)盗天魔尊(とうてんまそん)(ひと)つの伝承(でんしょう)()()れたのであった。


(ただ)し、()伝承(でんしょう)(なに)であり、具体的(ぐたいてき)経緯(けいい)如何(いか)なるものであったかについては、馬鴻運(ばこううん)終始(しゅうし)として(くち)(にご)しており、(ゆえ)方源(ほうげん)(くわ)しくは()らない。


(ただ)()の「爆脳蛊(ばくのうこ)」を(ただ)しく起動(きどう)する方法(ほうほう)のみを()っている。


馬鴻運(ばこううん)でさえ(くち)()じてしまうとは、()伝承(でんしょう)価値(かち)(おお)きさが(うかが)える。真実(しんじつ)(かた)れば他人(たにん)羨望(せんぼう)(まね)くことを(おそ)れているのだろう」


方源(ほうげん)表面(ひょうめん)では驚愕(きょうがく)(いか)りに()ちた表情(ひょうじょう)()かべていたが、内心(ないしん)では冷徹(れいてつ)分析(ぶんせき)(つづ)けていた。














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