十二日を経て。
密室の中、方源は座布団の上に結跏趺坐し、両目を閉じ、全身の筋肉は締めたり緩めたりする微妙な状態にありながら、心神は静穏で平和であった。彼は空竅内の亀玉狼皮蛊に意識を集中させている。
此刻、其の蛊は第一空竅の真元の海面に浮遊し、絶え間なく真元を注がれ、翠玉の如き光を放っていた。
光は空竅を透り、内から外へと漏れ出て、方源全身の肌膚を照らし出した。
徐に光は薄れ、次第に亀玉狼皮蛊全体が蛍光の粒と化して散り、遂には完全に消滅した。
方源は最初から覚悟の上だった。亀玉狼皮蛊は消耗蛊であり、道痕を蛊師の体に刻印する類のもの、彼が以前使用した銅皮蛊や鉄骨蛊と同種の仕組みなのである。
「此れまで幾日も潜修を怠らず、遂に全身の皮膚を亀玉狼皮へと鍛え上げた。」
方源はゆっくりと両目を開き、袖口を捲くって自の腕の皮膚を検べた。
其の肌膚は、一見普通の肌色のように見える。しかし方源が短刀を取り出し、自の腕に力一杯斬り付けた瞬間、亀玉狼皮蛊の効果が瞬時に発動した。
刃が触れた皮膚は直ちに青緑色へと変色し、微かに亀甲の如き紋様が浮かび上がった。
短刀が此の皮膚に斬り付かるや、鉄や玉に衝突したかの如き硬さでありながら、同時に柔軟性をも兼ね備えている感じであった。
方源は満足そうに肯いた。「亀玉狼皮蛊は五転という高い段階にあり、防御力はやはり卓越している。更に重要なのは、主動的に催動する必要がなく、攻撃を受けるだけで防御効果が発現し、真元を消耗しない点だ。極めて実用的である。」
五転蛊は蛊仙にとっては入手が難しいものではないが、凡俗の蛊師にとっては非常に稀有な存在である。
多くの五転蛊師は、五転蛊を一匹しか持っておらず、中には五転蛊がなく、四転蛊で場を繕っている者さえいる。
黒楼蘭が初対面で亀玉狼皮蛊を贈って方源を籠絡したのは、他者の目には大きな出と映ったのである。
五転蛊は方源の心の中では、高い地位とまでは言えないが、黒楼蘭の誠意を十分に窺わせるものだった。
「亀玉狼皮は完成した。次は力道の修行に移ろう。」
方源は相変わらず座布団に坐り、一瞬たりとも無駄にせず、飽きることなく実力を高め続けた。
彼は十鈞之力蛊を取り出した。
此の蛊は鉄の分銅の如き形をしている。真元を注がれると、方源の頭頂まで浮遊し、玄妙な光輝を放ちながら、其の全身を照らし出した。力道の道紋の一片が、彼の体に刻印されるのである。
時が経つにつれて、方源の力は緩やかながらも確実に増大していった。
常より彼は力道の修行を怠ったことはなかった。
以前購入した五匹の十鈞之力蛊は既に使い果たした。現在使用しているのは、黒家の族庫から拠出した十鈞之力蛊である。
今や方源の体内には六十鈞の力が蓄積され、その最深部に沈殿している。
十鈞は三百斤の力、六十鈞なら千八百斤の力道に相当する。
地球上で最も重い青龍偃月刀でさえ、たった八十二斤に過ぎないのだ。
「現時点で我れは全身の皮囊を亀玉狼皮へと鍛え上げた。此れにより少なくとも百鈞の力を耐え忍べる。百鈞以上の力气となれば、五転レベルの基盤と言える。」
斤力蛊と鈞力蛊の秘方は、七転蛊仙である楚度によって独創されたものだ。従来の獣力蛊よりも合成が容易で、同時にコストもより低く抑えられる。故に北原で広く流通している。
方源が獣影蛊を捨てて鈞力蛊を選んだのは、単に時代の流れに沿っただけではなく、今後の修行を便利にし、更に自の身分を偽装するのにも都合が良いからである。
しかし鈞力蛊も、依然として力道の核心問題を解決することはできない。
方源は六十鈞の力气を有しているが、実際に発揮できるのは、その力道底蘊の極一部に過ぎない。
此の問題を解決するには、全力以赴蛊に頼るほかない。
全力以赴蛊は蛊師の全ての力を存分に発揮させることができ、力道の核心蛊として名実共に相応しい。
故に、方源は此れを第二空竅の本命蛊として定めた。
但し此の全力以赴蛊は三転レベルに過ぎず、北原に来てからは異域の圧制を受け、二転の効果しか発揮していない。
方源が現在欠いているのは四転全力以赴蛊の合成秘方である。北原で此の蛊を四転に煉成できれば、それは北原において新たな生を得たも同然で、もはや北原の圧制を受けることもなくなる。
「ただ……此れ以上積み上げるのは少し難題だ。亀玉狼皮は力の受け止めには役立つが、奴道の発展には寄与しない。我れは二つの空竅を有してはいるが、体は一つしかないのだ。」
世の中では、両方とも完璧であることは稀である。
力道を顧みれば、奴道を兼ねることはできない。
仮に奴道を重視するならば、方源は亀玉狼皮蛊を使うべきではなく、狼図蛊という別の五転蛊を選ぶべきであった。
此の蛊は狼群を収納する為のもので、皮膚に寄り添うようにして存在する。野狼を一匹収める度に、方源の皮膚に狼の刺青が浮かび上がる。
多くの奴道蛊師は、対応する獣図蛊を選択し、自身の切り札となる隊伍を自らの体に収蔵するのである。
決定的な瞬間には、蛊師が体を震わせさえすれば、いつでも此の切り札の力を召喚し、自らの為に戦わせることができる。
丁度以前、方源が四転の無常骨蛊を使用し、肉体で更に強力な魂魄を承担できるようにしたのと同様だ。
但し無常骨蛊は力道に対しては全く益するところがない。
方源が力道と奴道を兼修するのは、容易な業ではない。精力が分散し、両手に花は咲かない状況に陥り易い。
方源が当面している難題は、此れだけに留まらない。
春秋蝉が徐々(じょじょ)に恢復しつつあり、再び彼に死亡の圧力を及ぼし始めている。
此の間、福地への出入りが頻繁だった為、星蛍蛊が不足しつつある。
仙鶴門が狐仙福地に虎視眈々(こしたんたん)と狙いを付け、定仙游を巡って謎の勢力の関心を引き、定仙游と和泥仙蛊二匹の回収問題、狐仙福地で迫る地災、蕩魂山の死亡危機、そして常山陰としての仮面を絶え間なく演じ続けねばならない精神的圧迫……
状況は糜爛し、内憂外患と表現するに相応しい。
「然し此の様な状況だからこそ、茨を払い道を切り開き、包囲網を突破する瞬間が一層楽しみになってきた。」方源は冷然と笑い、心を整えて密室から出て行った。
密室の外には、二人の三転蛊師が門神の如く立ち塞がっていた。
狼王という肩書きは大局に関わる重要事項であるため、黒家の陣営に着いてからというもの、厳重な警護下に置かれていた。
「狼王様、ご機嫌麗しゅう。」二人の蛊師は方源の姿を見るや、直ちに礼を述べ、「黒楼蘭様より宴へのご出席をお願い申し上げます。重要なご相談がございます」と報告した。
黒家の陣営に戻って以来、黒楼蘭は三日に一度の大宴、五日に一度の小宴をほぼ欠かさず開催していた。数回にわたり方源を招待したが、すべて修行を理由に断られていた。
方源が寸秒を争って実力向上に励む様は、常山陰の傲岸不遜な性格にも合致し、何の違和感もなかった。
しかし此次の宴は、並ならぬ様相を呈していた。
「要事の相談だと?」方源は足を止め、従来の宴へ対する態度を変えて、「では一くか」と言った。
修行の密室は地底に築かれている。
方源が密室を出て地上に現れた時、既に夜の帳が降り、星々(ほしぼし)が瞬いていた。
宴席に赴くと、果たして群盟血誓に関する件であった。
此の間の宴は、黒楼蘭が驕奢放縦に耽っていた訳ではなく、各氏族長との会談を重ね、具体的な盟約を定める為のものだった。
英雄大会はあくまで初期の帰属表明に過ぎず、真の同盟を結んで初めて、各勢力の力を効果的に一ヶ所に統合できるのである。
盟約は各分野にわたり詳細に定められ、各氏族の利益を保証するよう努められていた。方源は内容に問題がないことを確認し、一同と共に毒誓蛊を使用した。
毒誓蛊は有効な拘束力を発揮し、相互信頼の基盤となる。
しかし方源は例外であった。
彼は「言って無し」蛊の製法を既に有している。此の蛊が開発されるのは、今から二百年後、西漠の酋長によってである。昔商家城にいた時、方源は既に白凝冰との毒誓を破棄した経験がある。
現在、彼は宝黄天と通じることができ、毒誓を解除するのは、再度「言って無し」蛊を煉製するだけの事である。
王帳の中は灯が煌々(こうこう)と輝き、各氏族は定められた席次に着いていた。黒楼蘭は中央の主座に堂々(どうどう)と坐り、左側の第一位には方源、その背後には葛光が控えている。
此の若き族長の顔には喜色が隠せなかった。今回の盟約で葛家は方源という大物に縋り付いたお陰で、数多の利益を得、普通の中規模部族を凌駕する地位を手にしたのである。
方源の次には、大規模部族である汪家、房家、葉家などの首脳が並ぶ。
更其の下には中規模部族の族長、最下位には小規模部族の首脳、並びに水魔ら四転魔道の高手が配されていた。
此れにて、此の同盟は初めて真の結束を形作り、従前の砂上の楼閣ならざる様相を示した。
「はははは、今や皆我が同朋となった。慣例に従えば、新規同盟は旗印を祭る為に一戦の勝利を必要とするものだ。然し、其の様な伝統も慣例も、全て戯言同然である!前から考えていたが、弱小勢力を併合する為に忙殺されるより、寧ろ野生の狼を編入する方が余程賢明だ。」黒楼蘭が口を開いた。
瞬く内に、全員の視線が方源の顔に集まった。
方源は表情を変えず、周囲を見渡した。自れが参加したことによって、此処で歴史が変わったことを悟る。
彼は朧に記憶している。五百年前の前世では、黒楼蘭が同盟を結成した後、直ちに東方へ進攻し、東方部族と血戦を繰り広げたことを。
「しかし此れも悪くない。黒家は東方部族に勝ったものの、敵に千の損害を与えて自らも八百を失った。黒楼蘭が私の夜狼皇に目を付けているのは明らかだ。当然の事である。夜狼皇を手にすれば、万の獣群でさえも編入できる。狼群が拡大することは、私個人にとっても大きな好都合だ。」
方源は内心で考え巡らせながら、一同に向かって軽く肯き言った。「然らば、此の任は遠慮なく拝受しよう。」
陣営内の者たちに異論はなかった。
狼群が多ければ多い程、彼等への助けも増え、数多の死傷者を減らし、可能な限り部族の戦力を温存することができるのだ。
黒楼蘭が常山陰を重用する姿勢は、誰もが十分に理解し、強く支持していた。
此の様な奴道大師を活用しないのは、実に恥ずべき浪費である!
狼王の実力が急激に増大した後の影響についても、彼等は特に憂慮していなかった。
彼等は未だ「言って無し」蛊の存在を知らず、毒誓蛊の拘束力を深く信頼していた。既に盟約が結ばれた以上、狼王が力を増したからといって、自分達の利益を侵食することを心配する必要はない。
やがて協議が終わると、黒家同盟全体が積極的に動き出した。大小様々(だいしょうさまざま)な部族、多種多様な蛊師強者たちが、皆方源の狼群を強化する為に力を注ぎ始めた。