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蛊真人  作者: 魏臣栋
魔头乱世
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第九十四節:龟玉狼皮蛊

(なん)だこれは?」


「狼の大群(おおむれ)()()せてくるのか!?」


無数(むすう)(おおかみ)だ!夜狼(やろう)風狼(ふうろう)亀甲狼(きっこうろう)に、水狼(すいろう)朱炎狼(しゅえんろう)までも!」


驚愕(きょうがく)(こえ)()()こり、混戦(こんせん)していた(もの)たちは次第(しだい)戦闘(せんとう)()め、(きびす)(かえ)して凝視(ぎょうし)した。


視界(しかい)()てには、浩蕩(こうとう)たる狼の大群(おおむれ)黒潮(くろしお)(ごと)()()せている。北原(ほくげん)多種多様(たしゅたよう)(おおかみ)たちが一団(いちだん)となり、隙間(すきま)なく(せま)(きた)る。


漆黒(しっこく)俊敏(しゅんびん)夜狼(やろう)風采(ふうさい)颯爽(さっそう)たる風狼(ふうろう)鉄壁(てっぺき)防御(ぼうぎょ)(ほこ)亀甲狼(きっこうろう)雪原(せつげん)(ごと)純白(じゅんぱく)水狼(すいろう)(ほのお)(ごと)(あか)()える朱炎狼(しゅえんろう)……


これらの狼の群れは一斉に前進し、それぞれの群れは少なくとも数万の規模があった。一瞬にして、膨大な狼の群れが人々の視界を埋め尽くし、無数の者に寒気を覚えさせ、呼吸を困難にさせた。


狼の群れに囲まれるようにして、一つの部族がゆっくりと近づいてきた。大量の蛞蝓蛊(なめくじこ)黒皮肥甲虫(こくひひこうちゅう)が豊富な物資を運び、一匹一匹の蜥屋蛊(とかげやこ)が四肢を動かして歩いている。旗幟(きし)が林立する中、一本の巨大な旗が王帳(おうちょう)の所在を示していた。青い旗地(はたじ)には、大きな「葛」の文字が書かれている。


葛家(かっけ)だ……」


「ということは、この狼の群れは常山陰(じょうさんいん)のものなのか?」


常山陰(じょうさんいん)三家族(さんかぞく)連戦(れんせん)したはずだ。その()にある狼群(おおかみむれ)規模(きぼ)が、どうして()(ほど)までに膨大(ぼうだい)なのか!?」


人々(ひとびと)の心中(しんちゅう)には、同様(どうよう)疑念(ぎねん)渦巻(うずま)いていた。


情報(じょうほう)によれば、狼王(ろうおう)()には夜狼(やろう)風狼(ふうろう)亀甲狼(きっこうろう)がいるはずだ。しかし()大量(たいりょう)水狼(すいろう)朱炎狼(しゅえんろう)は、いったい何処(どこ)から(あらわ)れたのか?」劉文武(りゅうぶんぶ)(かお)には深刻(しんこく)表情(ひょうじょう)()かんでいた。


兄貴(あにき)。」墨獅狂(ぼくしきょう)劉文武(りゅうぶんぶ)(そば)(もど)り、眼前(がんぜん)(ひろ)がる()てしない狼の大群(おおむれ)内心(ないしん)震撼(しんかん)(おぼ)えた。


水狼(すいろう)由来(ゆらい)説明(せつめい)()く。葛家(かっけ)(なが)らく三日月湖(みかづきこ)(ほとり)駐屯(ちゅうとん)しており、あの()(もっと)(おお)いのが水狼群(すいろうぐん)だからだ。だが、()八万(はちまん)にも(およ)朱炎狼群(しゅえんろうぐん)については、(だれ)説明(せつめい)してくれる(もの)はおるのか?」


朱炎狼(しゅえんろう)風狼(ふうろう)水狼(すいろう)夜狼(やろう)より(はる)かに(まれ)で、野生狼(やせいおおかみ)(なか)でも最強(さいきょう)攻撃力(こうげきりょく)(ほこ)る。我々(われわれ)の調査(ちょうさ)では(あき)らかなはずだが、常山陰(じょうさんいん)()如何(いか)して()(ほど)(おそ)るべき戦力(せんりょく)突然(とつぜん)(あらわ)れたのか?(だれ)説明(せつめい)できる(もの)はおるのか!?」


瞬時(しゅんじ)無数(むすう)族長(ぞくちょう)家老(かろう)心中(しんちゅう)自族(じぞく)情報担当者(じょうほうたんとうしゃ)罵倒(ばとう)した。言葉(ことば)()()(ほど)辛辣(しんらつ)であった。


朱炎狼群(しゅえんろうぐん)(しば)らく()くとして、あの最大級(さいだいきゅう)夜狼(やろう)はまさか狼皇(ろうこう)ではあるまいな!?」仲費尤(ちゅうひゆう)遠方(えんぽう)指差(ゆびさ)驚叫(きょうきょう)した。


(じつ)のところ、夜狼皇(やろうこう)(あらわ)れた瞬間(しゅんかん)から、(すで)無数(むすう)視線(しせん)(あつ)めていたのである。


「まさしく……夜狼皇(やろうこう)である。」


狼皇(ろうこう)威儀(いぎ)(うたが)いようもない。貝草川(かいそうせん)確認(かくにん)()(かわ)いた(こえ)でそう(みと)めた。


人群(ひとぐみ)はどよめいた。


狼皇(ろうこう)


それは五転蛊師(ごてんこし)匹敵(ひってき)する戦力(せんりょく)である!!


常山陰(じょうさんいん)はたった四転蛊師(してんこし)()ぎないのに、何故(なぜ)一頭(いっとう)狼皇(ろうこう)駕馭(ぎょぎょ)できたのか?


さすがは長年(ながねん)()()せた人物(じんぶつ)北原(ほくげん)英雄(えいゆう)よ。かつて単身(たんしん)哈突骨(はっとつこつ)馬賊(ばぞく)一味(いちみ)()()たした伝説(でんせつ)(おとこ)である!


(がまん)ならん!(やつ)実力(じつりょく)が、どうして()(ほど)急速(きゅうそく)増強(ぞうきょう)したのだ?狼皇(ろうこう)()にした(いま)(やつ)(すで)馬尊(ばそん)江暴牙(こうぼうが)楊破纓(ようはえい)(かた)(なら)べる存在(そんざい)だ!」


復讐(ふくしゅう)(こころざ)裴燕飛(はいえんひ)(こぶし)(かた)(にぎ)()めた。膨大(ぼうだい)狼群(おおかみむれ)は、(かれ)虚脱感(きょだつかん)挫折感(ざせつかん)をもたらした。


眼前(がんぜん)(せま)狼群(おおかみむれ)()にし、人々(ひとびと)の(かお)には峻厳(しゅんげん)畏怖(いふ)(いろ)()かんだ。


混戦(こんせん)完全(かんぜん)()み、人々(ひとびと)は自発的(じはつてき)劉文武(りゅうぶんぶ)黒楼蘭(こくろうらん)(まわ)りに集結(しゅうけつ)し、(じん)()んだ。


やがて衆人(しゅうじん)注視(ちゅうし)する(なか)方源(ほうげん)白眼狼(はくがんろう)騎乗(きじょう)し、葛光(かっこう)らを(したが)えて黒楼蘭(こくろうらん)面前(めんぜん)(あらわ)れた。


狼王常山陰(ろうおうじょうさんいん)其方(そち)大名(たいめい)はかねてより(うけたまわ)っておる!」黒楼蘭(こくろうらん)()(さき)一礼(いちれい)()べた。


黒楼蘭(こくろうらん)肥満(ひまん)した(くま)(ごと)(ふく)()がった体躯(たいく)に、不揃(ふぞろ)いの(しろ)(かがや)()短刀(たんとう)利剣(りけん)(ごと)く、(ひと)猟奇(りょうき)的な印象(いんしょう)(あた)えた。三角(さんかく)()(なか)には、()()なく(ひと)(おど)かす(するど)眼光(がんこう)がきらめいている。


()(もの)女癖(おんなぐせ)(わる)さは、北原(ほくげん)では(はや)くから(うわさ)になっていた。


方源(ほうげん)(かる)(わら)ったが、(そば)にいる劉文武(りゅうぶんぶ)一瞥(いちべつ)した。


劉文武(りゅうぶんぶ)全身(ぜんしん)(しろ)()(まと)い、風采(ふうさい)翩翻(へんぽん)として、濁世(だくせ)佳公子(かこうし)(ごと)風貌(ふうぼう)であった。その(うるお)いのある双眸(そうぼう)は、(ぎょく)のように(うつく)しい(かお)(かざ)っている。(そば)には九尺(きゅうしゃく)墨人(ぼくじん)が立ち、黒膚(こくふ)白髪(はくはつ)という対比(たいひ)守護神(しゅごしん)(ごと)くに(そび)()っていた——()れこそが王庭争覇(おうていそうは)における北原随一(ほくげんずいいち)猛将(もうしょう)墨獅狂(ぼくしきょう)である。


劉文武(りゅうぶんぶ)胸騒(むなさわ)ぎを(おぼ)えた。方源(ほうげん)深遠(しんえん)眼差(まなざ)しが、不吉(ふきつ)予感(よかん)(かれ)(かん)じさせたのである。


常山陰(じょうさんいん)常家(じょうけ)確執(かくしつ)は、月牙湖(げつがこ)での(たたか)いの(さい)(すで)葛家(かっけ)によって(ひろ)宣伝(せんでん)されていた。


現在(げんざい)常家(じょうけ)(すで)劉文武(りゅうぶんぶ)帰属(きぞく)している。常山陰(じょうさんいん)復讐(ふくしゅう)()たし、常家(じょうけ)(たい)(しょ)するならば、当然(とうぜん)()(さき)劉文武(りゅうぶんぶ)対決(たいけつ)しなければならない。


方源(ほうげん)視線(しせん)(おさ)め、黒楼蘭(こくろうらん)見据(みす)えて(こえ)をかけた。その(こえ)平淡(へいたん)ながら、全員(ぜんいん)(みみ)(ひび)(わた)った。「此度(こたび)(わたし)(ふたた)江湖(こうこ)(あらわ)れたのは、(あだ)()(うら)みを()らす(ため)である。丁度(ちょうど)王庭争覇(おうていそうは)(ひか)えており、北原(ほくげん)英傑(えいけつ)たちと(うで)(ため)す良い機会(きかい)でもある。楼蘭兄(ろうらんけい)(とも)()()んでみてはどうか?」


黒楼蘭(こくろうん)()言葉(ことば)()いて(ひとみ)(おお)きく見開(みひら)き、(よろこ)びを(おさ)()れず群衆(ぐんしゅう)から()()して方源(ほうげん)面前(めんぜん)()ち、()(かた)(つか)んで哄笑(こうしょう)した。「狼王(ろうおう)加勢(かせい)()られるとは、()(ほう)にとって()以上(いじょう)ない光栄(こうえい)である!」


黒家(こくけ)陣営(じんえい)瞬時(しゅんじ)沸騰(ふっとう)し、歓呼(かんこ)(こえ)()()こった。


「かつての敗残者(はいざんしゃ)浩激流(こうげきりゅう)狼王様(ろうおうさま)に御目通り(おめどおり)いたす。」


水魔(すいま)はびくびくしながら、方源(ほうげん)()かって(れい)()べた。


黒楼蘭(こくろうらん)(まゆ)をひそめ、即座(そくざ)心配(しんぱい)そうに()つめた。浩激流(こうげきりゅう)戦功(せんこう)()てたとはいえ、もし常山陰(じょうさんいん)機嫌(きげん)(そこ)ねるようなことがあれば、(かれ)(ころ)して常山陰(じょうさんいん)好意(こうい)(しめ)すしかない。


しかし方源(ほうげん)浩激流(こうげきりゅう)(かる)(うなず)き、「(かま)わぬ。今後(こんご)しっかりと(はたら)いてくれればよい」と()った。


浩激流(こうげきりゅう)(おも)わず安堵(あんど)(いき)()いた。


「はははは、狼王(ろうおう)(ひろ)胸襟(きょうきん)()(ごと)大度(たいど)には敬服(けいふく)(いた)りでござる!」


黒楼蘭(こくろうらん)(わら)(ごえ)一層(いっそう)大きくなった。浩激流(こうげきりゅう)四転高階(してんこうかい)実力者(じつりょくしゃ)であり、絶対的(ぜったいてき)高手(こうしゅ)である。如今(にょこん)両者(りょうしゃ)(まる)(おさ)まり、(かれ)(おお)いに(よろこ)ばせた。


黒家(こくけ)(がわ)有頂天(うちょうてん)となる一方(いっぽう)劉家(りゅうけ)(がわ)(おも)(ぐる)しい沈黙(ちんもく)(つつ)まれた。


劉文武(りゅうぶんぶ)(はや)くから予測(よそく)してはいたが、此刻(こくさ)心情(しんじょう)依然(いぜん)として最悪(さいあく)であった。


(はや)くから()(よう)になることを()っていれば、常家(じょうけ)帰属(きぞく)など(みと)めなかったものを。たかが(ひと)つの常家(じょうけ)が、どうして常山陰(じょうさんいん)比肩(ひけん)できようか?ああ、残念(ざんねん)ながら()手遅(てお)れだ。()れにはもはや局面(きょくめん)挽回(ばんかい)する(ちから)はない。」


(かれ)心中(しんちゅう)嘆息(たんそく)した。


厳翠児(げんすいじ)(かれ)婚約者(こんやくしゃ)であったが、(かれ)()てることもできた。男尊女卑(だんそんじょひ)伝統(でんとう)だけでなく、厳家(げんけ)(すで)滅亡(めつぼう)しているという要素(ようそ)もあってのことだ。


しかし常家(じょうけ)実力(じつりょく)完全(かんぜん)(たも)たれている。


(かり)常家(じょうけ)見捨(みす)てれば、(みずか)れに帰属(きぞく)する各部族(かくぶぞく)失望(しつぼう)させることになる。劉文武(りゅうぶんぶ)(けっ)して()うするわけにはいかない。


黒家(こくけ)族長(ぞくちょう)()汪家(おうけ)貴方(あなた)陣営(じんえい)(くわ)わりたいと(かんが)えておるが、如何(いか)がであろうか?」


黒楼蘭(こくろうらん)よ、此度(こたび)()房家(ぼうけ)貴様(きさま)()けることにする。」


葉家(ようか)黒家(こくけ)への帰属(きぞく)(ねが)う。」


瞬時(しゅんじ)、元々(もともと)態度(たいど)()めかねていた(いく)つかの大規模部族(だいきぼぶぞく)が、次々(つぎつぎ)に(おおやけ)()黒楼蘭(こくろうらん)への帰属(きぞく)(えら)んだ。


劉文武(りゅうぶんぶ)(そば)には、墨獅狂(ぼくしきょう)(ごと)猛将(もうしょう)()(したが)ってはいるものの、狼王常山陰(ろうおうじょうさんいん)黒楼蘭(こくろうらん)()()んでしまった。


()(ほど)膨大(ぼうだい)(おおかみ)大群(おおむれ)先鋒(せんぽう)(つと)めれば、将来(しょうらい)戦場(せんじょう)でどれほど族民(ぞくみん)死傷者(ししょうしゃ)()らせるか()からない。


かくして、玉田英雄大会(ぎょくでんえいゆうたいかい)参集(さんしゅう)した各部族(かくぶぞく)は各々(おのおの)の選択(せんたく)(くだ)した。大半(たいはん)黒楼蘭(こくろうん)追随(ついずい)し、(のこ)りは(ことごと)劉文武(りゅうぶんぶ)()いた。


「はははは、劉家(りゅうけ)小僧(こぞう)戦場(せんじょう)再会(さいかい)することを()して()つがいい!」


楼蘭兄(ろうらんけい)後会(こうかい)()す。」


(いま)はまだ(たが)いに(たたか)(とき)ではない。玉田(ぎょくでん)(ほか)には無数(むすう)豪強(ごうきょう)(ひか)えているのだ。両陣営(りょうじんえい)(たが)いに警戒(けいかい)()い、距離(きょり)()ると、各々(おのおの)の本拠地(ほんきょち)へと悠々(ゆうゆう)と()って()った。


帰路(きろ)についた劉文武(りゅうぶんぶ)早速(さっそく)情報担当(じょうほうたんとう)家老(かろう)()()し、公衆(こうしゅう)面前(めんぜん)叱咤(しった)した。「常山陰(じょうさんいん)狼群(おおかみむれ)は、一体(いったい)どこから(あらわ)れたのか?調(しら)べよ。徹底的(てっていてき)調(しら)()くせ!」


「はっ、公子(こうし)(かなら)ずや全力(ぜんりょく)()くして、失態(しったい)(つぐな)います……」家老(かろう)(あせ)だくになって退()いた。


兄貴(あにき)心配(しんぱい)すんなよ。あいつが(おおかみ)をどんだけ(あつ)めようが、(おれ)がいる(かぎ)り、常山陰(じょうさんいん)直接(ちょくせつ)ぶち(ころ)してやるからな。」墨獅狂(ぼくしきょう)濁声(だみごえ)(なぐさ)めた。


劉文武(りゅうぶんぶ)心中(しんちゅう)(おも)かった。


奴道大師(どどうたいし)対処(たいしょ)するには、斬首戦術(ざんしゅせんじゅつ)(えら)ぶのが最適(さいてき)である。しかし(いま)常山陰(じょうさんいん)黒楼蘭(こくろうらん)帰属(きぞく)した以上(いじょう)将来(しょうらい)戦場(せんじょう)では黒家(こくけ)厳重(げんじゅう)防護(ぼうご)(ほどこ)すであろう。


その(とき)には、斬首(ざんしゅ)()()げるのは、(なん)困難(こんなん)なことか!


しかし、義兄弟(ぎきょうだい)熱意(ねつい)(ひや)やかに(あつか)うわけにもいかない。


劉文武(りゅうぶんぶ)微笑(ほほえ)みを()かべ、墨獅狂(ぼくしきょう)(かた)(かる)(たた)いた。「ふふふ、三弟(さんてい)其方(そち)敵将(てきしょう)首級(しゅきゅう)を軽々(かるがる)と()無双(むそう)猛士(もうし)である。()れは当然(とうぜん)其方(そち)(しん)じておる。」


兄貴(あにき)二哥(にてい)のことを(わす)れてはならんぞ。二哥(にてい)さえ(かん)()れば、我々(われわれ)三兄弟(さんきょうだい)()()み、北原(ほくげん)がどれほど(ひろ)かろうと、(なに)(おそ)れようか?」墨獅狂(ぼくしきょう)豪快(ごうかい)大笑(おおわら)いした。


二哥(にてい)だと?」劉文武(りゅうぶんぶ)()(かがや)き、心中(しんちゅう)圧力(あつりょく)(ふたた)半減(はんげん)した。「その(とお)りだ。二哥(にてい)(かん)()れば、我々(われわれ)が()()めば、常山陰(じょうさんいん)など(てき)ではない。だが(いま)(しば)らく黒家(こくけ)()めずに()こう。あれは()(くだ)くのに(かた)(ほね)だ。()ずは西面(せいめん)掃討(そうとう)し、実力(じつりょく)(たくわ)え、(みずか)らを(つよ)めねばならない。」


兄貴(あにき)(おも)存分(ぞんぶん)にやっちまえよ。(おれ)(うし)ろから()いて()くからさ。」


一方(いっぽう)(べつ)隊列(たいれつ)では、黒楼蘭(こくろうらん)哄笑(こうしょう)していた。「はははは、今日(きょう)以降(いこう)玉田英雄大会(ぎょくでんえいゆうたいかい)(しら)せが(ひろ)まれば、各勢力(かくせいりょく)(みな)頭痛(ずつう)(たね)になること必至(ひっし)だ。山陰老弟(さんいんろうてい)其方(そち)麾下(きか)狼群(おおかみむれ)は、間違(まちが)いなく奴等(やつら)困惑(こんわく)させ驚愕(きょうがく)させるだろう。」


方源(ほうげん)実力(じつりょく)(あつ)さは、黒楼蘭(こくろうらん)がかねてより注目(ちゅうもく)していたところであった。此度(こたび)(みずか)(すす)んで()たことを()け、()黒家(こくけ)族長(ぞくちょう)方源(ほうげん)(おお)いに籠絡(ろうらく)せねばならないと考えた。


(たん)常山陰(じょうさんいん)対等(たいとう)(あつか)うのみならず、(しば)言葉(ことば)()わした(あと)(すす)んで方源(ほうげん)義兄弟(ぎきょうだい)(ちぎ)りを(むす)ぼうとしだした。


方源(ほうげん)黒楼蘭(こくろうらん)()言葉(ことば)に、婉曲(えんきょく)(さぐ)りが(ふく)まれていることを(さと)り、淡々(たんたん)と(わら)って(こた)えた。「正直(しょうじき)()うと、(わたし)()(ほど)(おお)きな収穫(しゅうかく)があるとは(おも)っていなかった。(むかし)葱谷(そうこく)(すく)しばかりの(おおかみ)()れを(はな)()いにしていたが、()(ほど)年月(としつき)()て、かくも大規模(だいきぼ)()れに成長(せいちょう)するとは予想(よそう)(はず)であった。」


(そば)にいる葛光(かっこう)同調(どうちょう)した。「はい、太上家老様(たいじょうかろうさま)葱谷(そうこく)から()()られた(とき)隙間(すきま)ない(ほど)(おおかみ)大群(おおむれ)(ひき)いていらっしゃって、我々(われわれ)は(みな)呆然(ぼうぜん)としてしまいました。」


(じつ)のところ、方源(ほうげん)葱谷(そうこく)(ひと)(はい)った(あと)星門(せいもん)(ひら)狐仙福地(こせんふくち)(つう)じて、其中(そのちゅう)大半(たいはん)狼群(おおかみむれ)(そと)(はな)ったのである。


(かれ)狼群(おおかみむれ)(ひき)いて葛家(かっけ)(もど)った(とき)全員(ぜんいん)震撼(しんかん)した。()れにより、葛家(かっけ)全体(ぜんたい)(かれ)証人(しょうにん)となった。


同時(どうじ)に、(かれ)葱谷(そうこく)(ない)偽装工作(ぎそうこうさく)(ほどこ)していた。


(まさ)(うご)かし(がた)証拠(しょうこ)(やま)()もったと()える。


「はははは、山陰老弟(さんいんろうてい)(うん)()さは(じつ)(うらや)ましい(かぎ)りだ。獣群(けものむれ)放牧(ほうぼく)するのは元々(もともと)()むを()ない措置(そち)で、成果(せいか)()げる(れい)(きわ)めて(すく)ない。老弟(ろうてい)()(よう)収穫(しゅうかく)()げられたのは天運(てんうん)(みちび)きであり、(てん)老弟(ろうてい)(ふたた)江湖(こうこ)(あらわ)れることを(のぞ)んでおられるのだ。(じつ)()うと、老弟(ろうてい)行方不明(ゆくえふめい)になって以来(いらい)北原(ほくげん)全体(ぜんたい)(なに)(しず)()ってしまった(よう)だった。(てん)(あわ)れみ(ぶか)く、老弟(ろうてい)(よう)人物(じんぶつ)()のまま山林(さんりん)隠遁(いんとん)することを()しとされなかったのだ。」


黒楼蘭(こくろうらん)()言葉(ことば)は、北原(ほくげん)豪雄(ごうゆう)常山陰(じょうさんいん)(ひと)()である(ごと)く、(てっ)(てい)したお世辞(せじ)であった。(しか)方源(ほうげん)頃合(ころあ)いを見計(みはか)って口元(くちもと)(ゆが)め、孤高(ここう)()みを()かべた。「此度(こたび)再起(さいき)したのは、(ひと)つは復讐(ふくしゅう)(ため)(ふた)つには馬尊(ばそん)楊破纓(ようはえい)江暴牙(こうぼうが)(たぐい)(うで)(くら)べる(ため)(みっ)つには王庭福地(おうていふくち)利用(りよう)して修行(しゅぎょう)(さら)一層(いっそう)(たか)める(ため)である。」


その言葉(ことば)の端々(はしばし)には、(すで)王庭(おうてい)()掌中(しょうちゅう)(もの)見做(みな)傲岸不遜(ごうがんふそん)気配(けはい)(にじ)んでいた。


(かく)(ごと)傲気(ごうき)粼粼(りんりん)たる態度(たいど)は、水魔浩激流(すいまこうげきりゅう)(ごと)(もの)でさえも、(した)()かずにはいられなかった。


()し、()れぞ北原(ほくげん)男児(だんじ)()つべき豪情(ごうじょう)壮志(そうし)である!」黒楼蘭(こくろうらん)賞賛(しょうさん)(こえ)()()げ、方源(ほうげん)親指(おやゆび)()てると、(つづ)けて一匹(いっぴき)()を取り(とりだ)(かれ)(わた)した。「()()英雄(えいゆう)(おく)る。山陰老弟(さんいんろうてい)()(もと)()てくれたのは、()れを一目(いちもく)()いての(こと)だ。()五転蛊(ごてんこ)兄貴(あにき)からの手向(たむ)けとして()()ってくれ。」


方源(ほうげん)一瞥(いちべつ)すると、()れは亀玉狼皮蛊(きぎょくろうひこ)であった。防御力(ぼうぎょりょく)(きわ)めて(つよ)く、()()秘方(ひほう)については、前世(ぜんせ)(かす)かに()(およ)んだ記憶(きおく)がある。五転(ごてん)亀玉狼皮蛊(きぎょくろうひこ)主材料(しゅざいりょう)は、()きている亀甲狼皇(きっこうろうこう)一頭(いっとう)なのである。


もし本物(ほんもの)()きている亀甲狼皇(きっこうろうこう)()(はい)るなら、方源(ほうげん)(まよ)わず戦力(せんりょく)として使(つか)い、()材料(ざいりょう)にすることなど(けっ)してしなかっただろう。


方源(ほうげん)宝黄天(ほうこうてん)(つう)じることができ、五転蛊(ごてんこ)()()れる手段(しゅだん)()っている。


しかし()亀玉狼皮蛊(きぎょくろうひこ)は、(かれ)奴道(どどう)恰好(かっこう)()うものだ。同種(どうしゅ)()入手(にゅうしゅ)するには、相応(そうおう)時間(じかん)労力(ろうりょく)(さら)重要(じゅうよう)なのは仙元石(せんげんせき)消費(しょうひ)せねばならない。


(おぼ)えておくべきは、方源(ほうげん)所持(しょじ)する仙元石(せんげんせき)現在(げんざい)二枚(にまい)しか(のこ)っていないという事実(じじつ)である。


(いま)此処(ここ)(だれ)かが(みずか)(すす)んで(おく)ってくれるなら、()うことなしだ。


()し、では遠慮(えんりょ)なく(いただ)く。」方源(ほうげん)()うと同時(どうじ)に、文字通(もじどお)一切(いっさい)遠慮(えんりょ)もなく()(つか)()った。











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