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蛊真人  作者: 魏臣栋
魔头乱世
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第九十二節:墨狮狂

(そら)(あら)ったように(あお)く、大地(だいち)には(みどり)絨毯(じゅうたん)()てしなく(ひろ)がる。


此処(ここ)土地(とち)(とく)肥沃(ひよく)で、水草(すいそう)(ゆた)かに(しげ)り、(ひと)(ひざ)までも(たっ)する。


()れが北原(ほくげん)名高(なだか)玉田(ぎょくでん)(もっと)(ゆた)かな牧場(ぼくじょう)(ひと)つと(しょう)される()である。(いま)此処(ここ)では(ひと)(あたま)()(うご)き、旗幟(きし)(ひるがえ)っている。


玉田英雄大会(ぎょくでんえいゆうたいかい)は、(すで)半月(はんつき)(わた)って(つづ)いている。


最初(さいしょ)七日間(なのかかん)(かく)部族(ぶぞく)(みずか)らの主張(しゅちょう)(さけ)()い、喧騒(けんそう)(ちり)()げるほどだった。(しか)し徐々(じょじょ)に合従連衡(がっしょうれんこう)(すす)み、勢力(せいりょく)統合(とうごう)されていった。現在(げんざい)(いた)っては、最強(さいきょう)二大勢力(にだいせいりょく)だけが(のこ)されている。


一方(いっぽう)劉家(りゅうけ)劉文武(りゅうぶんぶ)他方(たほう)黒家(こくけ)黒楼蘭(こくろうらん)である。


(いま)両陣営(りょうじんえい)精鋭(せいえい)たちが、(するど)眼光(がんこう)()わし()いながら対峙(たいじ)している。


両軍(りょうぐん)中央(ちゅうおう)には、組立(くみた)てられた広々(ひろびろ)とした闘技台(とうぎだい)(もう)けられている。


台上(だいじょう)では、二人(ふたり)北原蛊師(ほくげんこし)(はげ)しい(たたか)いを()(ひろ)げている。双方(そうほう)とも四転(してん)修為(しゅうい)(ゆう)する強者(つわもの)だ。


台下(だいか)観衆(かんしゅう)大半(たいはん)は、(いき)()んで見入(みい)っている。族長級(ぞくちょうきゅう)戦闘(せんとう)()(ほど)間近(まぢか)観察(かんさつ)できる機会(きかい)は、日常(にちじょう)ではまず()い。


()して台上(だいじょう)二人(ふたり)は、正魔両道(せいまりょうどう)(ぞく)する有名(ゆうめい)人物(じんぶつ)であり、(たが)いに因縁浅(いんねんあさ)からぬ(ふか)遺恨(いこん)(かか)えているのだ!


水魔(すいま)(いのち)()こせ!」


其中(そのなか)中年(ちゅうねん)蛊師(こし)怒号(どごう)一声(いっせい)(あし)()(とん)じて猛然(もうぜん)天空(てんくう)跳躍(ちょうやく)した。


空中(くうちゅう)(ふか)(いき)()()むと、(くち)を大きく(ひら)き、脚下(きゃっか)(てき)目掛(めが)けて(かご)ほどの大き(おおき)さの暗色(あんしょく)火焔(かえん)噴射(ふんしゃ)した。


水魔浩激流(すいまこうげきりゅう)心中(しんちゅう)には、警鐘(けいしょう)()(ひび)く。


(かれ)(ひとみ)(あお)(ひかり)(はし)り、空竅(くうきょう)(なか)雪銀真元(せつぎんしんげん)(くる)ったように水壁蛊(すいへきこ)へと(そそ)()まれた。


()て!」


両掌(りょうしょう)(した)から(うえ)へ、万鈞(ばんきん)(おも)みを()げる(ごと)く重々(おもおも)しく(うご)かす。


()動作(どうさ)(とも)に、磅礴(ぼうはく)たる水蒸気(すいじょうき)(あお)瀑布(ばくふ)形作(かたちづく)り、地面(じめん)から滾々(こんこん)と()()がった。


瀑布(ばくふ)逆流(ぎゃくりゅう)して(あま)()き、半空(はんくう)渦巻(うずま)きながら落下(らっか)し、拱形(きょうけい)(あつ)水壁(みずかべ)形成(けいせい)した。


暗色(あんしょく)火焔(かえん)(ゆる)やかに水壁(みずかべ)()(そそ)ぎ、瞬時(しゅんじ)()(うせ)た。


「は?」


観戦(かんせん)する(もの)たちは驚愕(きょうがく)(こえ)()げた。水魔(すいま)大袈裟(おおげさ)反応(はんのう)嘲笑(あざわら)おうとしたその(とき)(のこ)()(ごと)微光(びこう)突如(とつじょ)爆発(ばくはつ)した!


(ごう)!!!


爆音(ばくおん)(みみ)(つんざ)き、晴天(せいてん)霹靂(へきれき)(ごと)(ひび)(わた)った。


膨大(ぼうだい)火気(かき)激怒(げきど)(ごと)(ほとばし)り、(あつ)水壁(みずかべ)一瞬(いっしゅん)にして水蒸気(すいじょうき)()えた。


強力(きょうりょく)衝撃波(しょうげきは)狂暴(きょうぼう)(かぜ)()り、四方(しほう)(すみ)やかに拡散(かくさん)した。


しかし最終的(さいしゅうてき)には、衝撃(しょうげき)(あらし)闘技場(とうぎじょう)外周(がいしゅう)まで(およ)ばなかった。場内(じょうない)四方(しほう)には、各々(おのおの)防御蛊(ぼうぎょこ)発動(はつどう)した蛊師(こし)たちが立ち、球状(きゅうじょう)光膜(こうまく)形成(けいせい)して闘技場(とうぎじょう)堅固(けんご)(まも)()った。


(すさ)まじい手口(てぐち)だ!」


()(ほど)激烈(げきれつ)爆発(ばくはつ)は、最早(もはや)四転蛊(してんこ)効果(こうか)(せま)る。(あき)らかに、火浪子柴明(かろうしさいめい)(ひそ)かに()めて()(おく)()であろう!」


水魔(すいま)気配(けはい)(かん)じてはいたが、柴明様(さいめいさま)()一撃(いちげき)過小評価(かしょうひょうか)していたようだ。」


爆発(ばくはつ)衝撃波(しょうげきは)場内(じょうない)()るがす(なか)観衆(かんしゅう)騒然(そうぜん)となり、様々(さまざま)な議論(ぎろん)()()った。


無数(むすう)視線(しせん)一斉(いっせい)闘技場(とうぎじょう)へと集中(しゅうちゅう)する。


黒楼蘭(こくろうらん)劉文武(りゅうぶんぶ)でさえも、()見張(みは)って注視(ちゅうし)せずにはいられなかった。


しかし球状(きゅうじょう)光膜(こうまく)(なか)は、水蒸気(すいじょうき)(はげ)しく()()めり、白濁(はくだく)した視界(しかい)()こう(がわ)見通(みとお)しが()かない。


水魔(すいま)()(とき)()(ちち)(ころ)した()()に、今日(きょう)があると(おも)ったか!」


水気(すいき)が徐々(じょじょ)に消散(しょうさん)するのを人々(ひとびと)は辛抱強(しんぼうづよ)()ち、闘技場(とうぎじょう)には柴明(さいめい)昂然(こうぜん)と立ち、(いき)()らしながら足下(あしもと)(しかばね)(にら)みつけ、怒声(どせい)(はな)っていた。


水魔浩激流(すいまこうげきりゅう)(くち)から鮮血(せんけつ)()き、柴明(さいめい)(あし)()みつけられ、顔中(かおじゅう)苦痛(くつう)(いろ)()かべている。


「はっはっは、我々(われわれ)の()ちだ!」


柴明様(さいめいさま)流石(さすが)でございます!」


()光景(こうけん)()にした観客(かんきゃく)たちは一瞬(いっしゅん)呆然(ぼうぜん)としたが、(つづ)けて劉文武(りゅうぶんぶ)陣営(じんえい)からは(てん)()歓声(かんせい)()()こった。


一方(いっぽう)黒楼蘭(こくろうらん)陣営(じんえい)では、沈黙(ちんもく)する(もの)(くち)(ゆが)ませる(もの)など、反応(はんのう)は様々(さまざま)だった。


楼蘭兄(ろうらんけい)、ご謙遜(けんそん)いただきました。」劉文武(りゅうぶんぶ)座席(ざせき)から立ち()がり、微笑(ほほえ)みながら黒楼蘭(こくろうらん)()かって(こぶし)を合わせた。優雅(ゆうが)物腰(ものごし)だ。


黒楼蘭(こくろうらん)顔色(かおいろ)()えず、()ややかに(はな)()らした。体裁(ていさい)(つくろ)言葉(ことば)(はっ)そうとしたその(とき)——


「ずぶっ!」


かすかな(おと)がして、柴明(さいめい)愕然(がくぜん)として(みずか)(むね)見下(みお)ろした。


(かれ)心臓(しんぞう)位置(いち)に、水色(みずいろ)(やいば)不気味(ぶきみ)()()していた。


(くる)しそうに()(かえ)ると、目の(まえ)には仇敵(きゅうてき)浩激流(こうげきりゅう)()っていた。顔中(かおじゅう)火膨(ひふく)れの水疱(すいほう)()き、無惨(むざん)でありながらも(ゆが)んだ(わら)みを()かべている。


()れが本体(ほんたい)なら、足下(あしもと)(もの)は……」柴明(さいめい)心底(しんそこ)から疑惑(ぎわく)()られた。


「ずぶっ!」


丁度(ちょうど)()(とき)(かれ)足元(あしもと)の“浩激流(こうげきりゅう)”が(みず)(ごと)(ほとば)()った。


水像蛊(すいぞうこ)だ!」(だれ)かが驚叫(きょうきょう)した。


水像蛊(すいぞうこ)は元々(もともと)四転(してん)珍稀蛊(ちんきこ)だが、水魔(すいま)(あき)らかに(ほか)手段(しゅだん)(くわ)え、()水像(すいぞう)をあそこまで逼真(ひっしん)()せていたのだ。」


(みみ)()()んで()(さけ)(ごえ)に、柴明(さいめん)(おのれ)(やぶ)れた理由(りゆう)(さと)った。


卑劣(ひれつ)め……」。(かれ)生涯最期(しょうがいさいご)言葉(ことば)()くと、(ばん)(ひと)つもやり()れない無念(むねん)(むね)に、其処(そこ)息絶()えた。


柴明様(さいめいさま)!」一瞬(いっしゅん)にして、無数(むすう)悲鳴(ひめい)()がった。


()(おとうと)よ!!」柴家(さいけ)族長(ぞくちょう)は、(なみだ)()れた(かお)(さら)していた。


「ははは……」黒楼蘭(こくろうらん)(あお)(あお)いで哄笑(こうしょう)し、喜悦(きえつ)(じょう)(あら)わにした。(かれ)闘技台(とうぎだい)から()りて()水魔(すいま)親指(おやゆび)()てて()った。「浩激流(こうげきりゅう)見事(みごと)だった!()(さけ)()め!」


(しょう)(たま)わり、光栄(こうえい)でございます。」水魔(すいま)渾身(こんしん)火傷(やけど)()()(しば)りつつも、酒碗(さかづき)()()り、一気(いっき)()した。「良い(さけ)でございます!」


(かれ)はへつらうような()みを()かべ、(ふたた)酒碗(さかづき)黒楼蘭(こくろうらん)()()した。


人々(ひとびと)は(かれ)()(へつら)(さま)(さげす)みながらも、其方(そち)実力(じつりょく)眼前(がんぜん)()り、(くわ)えて(ひろ)()(わた)った悪名(あくめい)もあって、(ひや)ややかな嘲笑(あざわら)いを()ける(もの)一人(ひとり)もいなかった。


黒楼蘭(こくろうらん)()()り、しわがれ(ごえ)で荒々(あらあら)しく()った。「()酒碗(さかづき)(とも)(たま)う。()い、厳翠児(げんすいじ)(あたら)しい大碗(おおわん)()って(まい)れ。最上(さいじょう)美酒(びしゅ)()いでくれ!」


(かれ)()()けに(おう)じて、(はな)(ごと)美貌(びぼう)(わか)(むすめ)が、(あで)やかな盛装(せいそう)()(つつ)み、従順(じゅうじゅん)(すす)()た。黒楼蘭(こくろうらん)(まえ)(つくえ)酒碗(さかづき)()き、優雅(ゆうが)(さけ)()()した。


()れは(まさ)厳家(げんけ)令嬢(れいじょう)劉文武(りゅうぶんぶ)婚約者(こんやくしゃ)であって、水魔浩激流(すいまこうげきりゅう)彼女(かのじょ)拉致(らち)し、黒楼蘭(こくろうらん)面会(めんかい)(れい)として献上(けんじょう)したものだった。


黒楼蘭(こくろうらん)()()れず、英雄大会(えいゆうたいかい)厳翠児(げんすいじ)(そば)(はべ)らせ、劉文武(りゅうぶんぶ)精神的(せいしんてき)打撃(だげき)(あた)える(ため)利用(りよう)していた。


劉家(りゅうけ)(わか)公子(こうし)貴様(きさま)()れに()てる(わけ)がない。(いさぎよ)降参(こうさん)したら、其方(そち)婚約者(こんやくしゃ)(かえ)してやるとしようか?」


黒楼蘭(こくろうらん)(さけ)一息(ひといき)()()し、(あら)々(あら)しく(ひげ)酒滴(しずく)(ぬぐ)()とした。


「ふふふ、大丈夫(だいじょうふ)たる(もの)(つま)()きことを(うれ)えんや?()(おんな)美人(びじん)とはいえ、我々(われわれ)()(おとこ)(こころざし)()わり()ようか?楼蘭兄(ろうらんけい)、『(おんな)衣装(いしょう)兄弟(きょうだい)手足(てあし)』との(ふる)言葉(ことば)()いたことが()いのか?楼蘭兄(ろうらんけい)(この)むなら、(ゆず)ってやろう。」


劉文武(りゅうぶんぶ)(かる)(わら)ったが、(かす)かな(いか)りの(いろ)()せなかった。


劉公子(りゅうこうし)立派(りっぱ)御志(おんこころざし)でござる!」


劉文武(りゅうぶんぶ)公子(こうし)こそ、()北原(ほくげん)(まこと)(おとこ)でございます!」


()り、()くの(ごと)人物(じんぶつ)にこそ、我々(われわれ)は追随(ついずい)すべきでござる!」


劉家(りゅうけ)陣営(じんえい)からは次々(つぎつぎ)と劉文武(りゅうぶんぶ)支持(しじ)する(こえ)()がった。女性(じょせい)たちでさえ、微動(びどう)だにせず、反論(はんろん)する様子(ようす)()られなかった。


北原(ほくげん)では歴来(れきらい)男尊女卑(だんそんじょひ)(つらぬ)かれており、『(おんな)衣装(いしょう)兄弟(きょうだい)手足(てあし)』との言葉(ことば)(ほか)ならぬ巨陽仙尊(きょようせんそん)金言(きんげん)である。


巨陽仙尊(きょようせんそん)から(つた)わった血脈(けつみゃく)は、現在(げんざい)北原(ほくげん)では黄金家族(おうごんかぞく)総称(そうしょう)されている。


(かく)黄金家族(おうごんかぞく)北原(ほくげん)最高権力(さいこうけんりょく)掌握(しょうあく)する一方(いっぽう)祖先(そせん)伝統(でんとう)遵守(じゅんしゅ)している。


劉文武(りゅうぶんぶ)黒楼蘭(こくろうらん)互角(ごかく)(わた)()える以上(いじょう)、元々(もともと)油断(ゆだん)ならない相手(あいて)である。此度(こたび)発言(はつげん)防御(ぼうぎょ)攻撃(こうげき)()(そな)え、(ぎゃく)黒楼蘭(こくろうらん)好色(こうしょく)(こころざし)()(もの)暗諷(あんぷう)し、自身(じしん)俗世(ぞくせ)(とら)われぬ英明(えいめい)姿(すがた)際立(きわだ)たせたのである。


黒楼蘭(こくろうらん)(いか)りを(ふく)んで(はな)()らした。「劉家(りゅうけ)といえば、(むかし)から三寸(さんずん)(した)を持つ能弁家(のうべんか)家系(かけい)だ。だが、()れが(なん)だ?さあさあ、(さら)闘技場(とうぎじょう)(もの)(つか)わし、大戦(たいせん)()(ひろ)げようではないか!」


劉文武(りゅうぶんぶ)顔色(かおいろ)瞬時(しゅんじ)()わった。


厳翠児(げんすいじ)問題(もんだい)よりも、()れこそが(かれ)最大(さいだい)弱点(じゃくてん)であった。


これまで九回(きゅうかい)(たたか)いで、(かれ)()てたのは三回(さんかい)のみ。多くの有能(ゆうのう)家臣(かしん)(うしな)った。先程(さきほど)(たたか)いでは、四転(してん)強者(つわもの)である火浪子柴明(かろうしさいめい)までもが(いのち)()とした。


(いま)黒楼蘭(こくろうらん)(ふたた)(たたか)いを(いど)んで()以上(いじょう)(かれ)(おう)じざるを()ない。(こば)めば、それは懦弱(だじゃく)(あかし)北原(ほくげん)(おとこ)は、臆病(おくびょう)主君(しゅくん)(もっと)(さげす)む。


しかし()()れれば、()ける可能性(かのうせい)(ほう)圧倒(あっとう)的に(たか)い。


厄介(やっかい)なことに、()(くろ)(ぼう)故意(こい)挑戦(ちょうせん)仕掛(しか)けて()やがる。(あき)らかに()陣営(じんえい)高戦力(こうせんりょく)()ごうとしている。だが、英雄大会(えいゆうたいかい)()では(よわ)みを()せる(わけ)にはいかぬ。此度(こたび)(だれ)戦場(せんじょう)(つか)わすべきか?」


劉文武(りゅうぶんぶ)()()(しば)りながら、視線(しせん)周囲(しゅうい)(もの)たちの(あいだ)彷徨(さまよ)わせた。


(かれ)帰属(きぞく)する(もの)たちには正道(せいどう)魔道(まどう)もおり、()()した(もの)(すく)なくない。(しか)(いま)彼等(かれら)劉文武(りゅうぶんぶ)視線(しせん)敢然(かんぜん)()()うことなく、次々(つぎつぎ)と(うつむ)くか、遠方(えんぽう)逃避(とうひ)するように()つめていた。


劉文武(りゅうぶんぶ)板挟(いたばさ)みに(くる)しんでいるとき、(とお)くから(ふと)(こえ)(ひび)いた。「兄貴(あにき)心配(しんぱい)無用(むよう)()れ、(おれ)(まか)せろ!」


三弟(さんてい)()たか。」劉文武(りゅうぶんぶ)()(こえ)()いて(おお)いに(よろこ)んだ。


人群(ひとぐみ)(なみ)(ごと)()かれ、(ひと)りの(おとこ)(あらわ)れた。人々(ひとびと)は(みな)()見張(みは)った。


(しか)()(もの)体格(たいかく)魁偉(かいい)雄健(ゆうけん)(とら)背中(せなか)(くま)(こし)獅子(しし)(ごと)(くち)(ひろ)(はな)全身(ぜんしん)(はだ)(すみ)(ごと)漆黒(しっこく)頭髪(とうはつ)(ゆた)かに()(しげ)(ひげ)(つら)なり、(ゆき)のように(しろ)く、獅子(しし)(たてがみ)(ごと)し。


白髪(はくはつ)黒膚(こくふ)()(よう)奇特(きとく)容貌(ようぼう)に、人々(ひとびと)は一瞬(いっしゅん)呆然(ぼうぜん)としたが、(ただ)ちに(だれ)かが驚叫(きょうきょう)し、()(もの)正体(しょうたい)看破(かんぱ)した——「()(もの)は……墨人(ぼくじん)であろう!」


石人(せきじん)卵人(らんじん)毛民(もうみん)墨人(ぼくじん)(いず)れも人祖(じんそ)子孫(しそん)ではなく、異人(いじん)である。


墨人(ぼくじん)は『人祖伝(じんそでん)』に(はや)くから記載(きさい)がある。彼等(かれら)家郷(かきょう)書山(しょざん)である。


書山(しょざん)には一筋(ひとすじ)墨瀑(ぼくばく)()り、()()ちて文泉(ぶんせん)(おと)し、激盪(げきとう)された墨汁(ぼくじゅう)山石(さんせき)()ち、墨人(ぼくじん)形作(かたちづく)る。


兄貴(あにき)(おく)れちまったぜ!」


墨人(ぼくじん)場内(じょうない)中央(ちゅうおう)()ち、劉文武(りゅうぶんぶ)()かって(ふか)一礼(いちれい)した。


(おそ)くはない、()てくれれば十分(じゅうぶん)だ。」


劉文武(りゅうぶんぶ)墨人(ぼくじん)(かた)(かる)(たた)き、(こえ)()()げて紹介(しょうかい)した。「(みな)(もの)此方(こち)(わか)(ころ)江湖(こうこ)(わた)(ある)いた(とき)義兄弟(ぎきょうだい)(ちぎ)りを()わした墨獅狂(ぼくしきょう)である。」


墨獅狂(ぼくしきょう)か……劉家(りゅうけ)公子(こうし)随分(ずいぶん)()節穴(ふしあな)だな、異人(いじん)分際(ぶんさい)()(ほど)取り()るとは。(まか)()らん、此方(こち)毒蛇郎君(どくじゃろうくん)其方(そち)義弟(ぎてい)器量(きりょう)(はか)ってやろう。」


黒楼蘭(こくろうらん)陣営(じんえい)から、三角目(さんかくめ)男蛊師(おとここし)(すす)()た。


「さあ、()かって()い。」


毒蛇郎君(どくじゃろうくん)闘技台(とうぎだい)()がり、墨獅狂(ぼくしきょう)()かって軽薄(けいはく)手招(てまね)きした。


墨獅狂(ぼくしきょう)()挑発(ちょうはつ)逆上(ぎゃくじょう)し、瞬時(しゅんじ)激怒(げきど)怒号(どごう)一声(いっせい)闘技台(とうぎだい)(やく)()がった。「()ね!」


()うが(はや)いか、両掌(りょうしょう)()()わせた。


ドカン!


無形(むぎょう)巨力(きょりょく)無敵(むてき)(いきお)いで毒蛇郎君(どくじゃろうくん)()(つぶ)さんと(おそ)()かる。(はば)むべくもない。


(なに)だと?気道(きどう)!?四転巅峰(してんてっぽう)!!しまっ……」


毒蛇郎君(どくじゃろうくん)驚叫(きょうきょう)完結(かんけつ)せず、()()()()ぜられ、肉片(にくへん)()して飛散(ひさん)した。


一撃(いちげき)(もと)勝負(しょうぶ)瞬時(しゅんじ)()した。


「すうっ……」


(いき)()(おと)場内(じょうない)(あふ)れ、総毛立(そうけだ)つような沈黙(ちんもく)(おとず)れた。











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