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蛊真人  作者: 魏臣栋
魔头乱世
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第九十節:灰白石板

此処(ここ)水狼巣穴(みずおおかみすあな)には四千頭余(よんせんとうあま)りの水狼(みずおおかみ)生息(せいそく)しており、千獣群(せんじゅうぐん)形成(けいせい)していた。


水狼(みずおおかみ)滅多(めった)陸地(りくち)()がることはないが、巣穴(すあな)外敵(がいてき)(おか)されるとなれば(はなし)(べつ)である。


方源(ほうげん)狼群(おおかみむれ)怒涛(どとう)(ごと)()()せるのを感知(かんち)するや、()野生水狼群(やせいみずおおかみむれ)巣穴(すあな)から一斉(いっせい)猛然(もうぜん)反撃(はんげき)()て、方源(ほうげん)狼群(おおかみむれ)(はげ)しく(から)()った。


阻害(そがい)()けて、方源(ほうげん)麾下(きか)狼群(おおかみむれ)進撃(しんげき)(いきお)いは一時(いちじ)停滞(ていたい)した。


しかし(かれ)()ややかに(はな)(わら)うと、狼嚎蛊(ろうこうこ)発動(はつどう)し、(さら)三方向(さんほうこう)から援軍(えんぐん)()()けて支援(しえん)させた。


野生水狼群(やせいみずおおかみむれ)はわずか半刻(はんこく)()たず、()圧力(あつりょく)()()れず粉々(こなごな)に()り、最早(もはや)挽回(ばんかい)余地(よち)()かった。


(はる)(とお)くで。


族長(ぞくちょう)、我々(われわれ)の(しな)()だあの場所(ばしょ)(のこ)されたままです」


柴家(さいけ)長老(ちょうろう)一人(ひとり)が、(くや)しげに遠方(えんぽう)(なが)めながら(うった)えた。


柴章(さいしょう)(ふか)(いき)()()し、(あき)らめの表情(ひょうじょう)()かべて()った。


「もう十分(じゅうぶん)だ。()くしたものは仕方(しかた)ない。(いのち)()とすよりは(はる)かによい。」


「もう(すこ)様子(ようす)()てはいかがでしょうか?常山陰(じょうさんいん)のような大人物(だいじんぶつ)であれば、三匹(さんびき)黒甲肥虫(こっこうひちゅう)など眼中(がんちゅう)にないかもしれません。」


(べつ)柴家(さいけ)長老(ちょうろう)が、すがるような期待(きたい)()めて提案(ていあん)した。


しかし柴章(さいしょう)現実(げんじつ)冷徹(れいてつ)見据(みす)え、(はな)()ややかに(わら)った。


「もし常山陰(じょうさんいん)(おこ)らせ、虐殺(ぎゃくさつ)(まね)危険(きけん)をも(いと)わないというのなら、()めはしない。」


柴家(さいけ)長老(ちょうろう)瞬時(しゅんじ)顔色(かおいろ)硬直(こうちょく)した。


「ふん、()(よう)な考え、仲家(ちゅうけ)(おも)()かぬとでも?仮令(たとえ)常山陰(じょうさんいん)()もくれなくとも、我々(われわれ)が()物資(ぶっし)()出来(でき)(わけ)がなかろう!ああ、常山陰(じょうさんいん)(ごと)強者(きょうじゃ)()以上(いじょう)()三日月湖(みかづきこ)(とど)まることは(かな)わぬ。(いそ)旅立(たびだ)つとしよう」


柴章(さいしょう)()()りながら、諦念(ていねん)憤慨(ふんがい)、そして無力感(むりょくかん)()じった(こえ)()(はな)った。


柴家(さいけ)小規模部族(しょうきぼぶぞく)()ぎず、実力(じつりょく)脆弱(ぜいじゃく)である。特に十年風雪(じゅうねんふうせつ)(せま)り、王庭(おうてい)争覇(そうは)(はじ)まる(いま)竜蛇(りゅうだ)()()って()()がり、北原(ほくげん)全土(ぜんど)紛争(ふんそう)(うず)()()まれる乱世(らんせ)()している。


柴家(さいけ)(ごと)部族(ぶぞく)は、乱世(らんせ)渦中(かちゅう)()かぶ()()小舟(こぶね)(ごと)存在(そんざい)である。風雨(ふうう)翻弄(ほんろう)され、(なみ)(ただよ)う。より強力(きょうりょく)勢力(せいりょく)依附(いふ)して(はじ)めて、生存(せいぞん)可能性(かのうせい)(わず)かに()やすことが出来(でき)るのだ。


柴家(さいけ)陣営(じんえい)撤収(てっしゅう)し、あっさりと撤退(てったい)した。


しばらくして、仲家(ちゅうけ)偵察蛊師(ていさつこし)(いま)悸動(きどう)(のこ)表情(ひょうじょう)仲費尤(ちゅうひゆう)報告(ほうこく)した。


殿(との)狼王(ろうおう)大勝(たいしょう)されました。()のひらを(かえ)(ごと)くあの狼の巣穴(おおかみのすあな)殲滅(せんめつ)され、四千頭(よんせんとう)水狼(みずおおかみ)のうち、(じつ)三千頭(さんぜんとう)(ちか)くを編入(へんにゅう)されました。一方(いっぽう)(うしな)われた(おおかみ)三百頭(さんびゃくとう)()ぎません。」


仲費尤(ちゅうひゆう)をはじめ仲家(ちゅうけ)高幹部(こうかんぶ)たちは、全員(ぜんいん)()(ぶる)いを(おぼ)えた。


十対一(じゅうたいいち)以上(いじょう)戦損比(せんそんひ)――(じつ)(おそ)ろしい!道理(どうり)狼王(ろうおう)狼群(おおかみむれ)()(ほど)(はや)補充(ほじゅう)できる(わけ)だ。


族長様(ぞくちょうさま)御目(おめ)()かっていらっしゃらないのが残念(ざんねん)です。常山陰(じょうさんいん)指揮(しき)超凡脱俗(ちょうはんだつぞく)()はや神技(しんぎ)(いき)(たっ)しております!」


偵察蛊師(ていさつこし)(ひたい)()(あせ)(ぬぐ)いながら、()(くわ)えた。


仲費尤(ちゅうひゆう)()ややかに(はな)(わら)い、(みずか)らの気勢(きせい)()がれまいと(つよ)がって()(はな)った。「常山陰(じょうさんいん)()には水狼万獣王(みずおおかみばんじゅうおう)がおる。其方(そち)野生狼群(やせいおおかみむれ)首領(しゅりょう)など所詮(しょせん)千獣王(せんじゅうおう)()ぎぬ。一旦(いったん)交戦(こうせん)となれば、水狼群(みずおおかみむれ)万狼王(ばんろうおう)威圧(いあつ)()け、戦力(せんりょく)()がれる。編入(へんにゅう)格段(かくだん)容易(ようい)となるわけてあろう。…()三匹(さんびき)黒甲肥虫(こっこうひちゅう)行方(ゆくえ)如何(いか)なった?」


偵察蛊師(ていさつこし)即座(そくざ)(こた)えた。「全て(すべて)常山陰(じょうさんいん)(うば)()られました」


仲費尤(ちゅうひゆう)顔色(かおいろ)()()るうちに(けん)しくなった。


今回(こんかい)行動(こうどう)は『(いぬ)(あざむ)いて(にく)(うしな)う』結果(けっか)となった。物資(ぶっし)(うば)えなかったばかりか、柴家(さいけ)との関係(かんけい)まで悪化(あっか)させてしまったのである。


元々(もともと)柴家(さいけ)仲家(ちゅうけ)縁組(えんぐみ)(むす)ばれた親戚(しんせき)同士(どうし)で、以前(いぜん)緊密(きんみつ)関係(かんけい)にあった。()(ゆえ)に、(とも)移動(いどう)し、陣営(じんえい)隣接(りんせつ)させて相互援助(そうごえんじょ)してきたのである。


(しか)現実(げんじつ)非情(ひじょう)だった。


(いま)王庭(おうてい)争覇(そうは)仲家(ちゅうけ)柴家(さいけ)にとって、(たん)なる利益(りえき)問題(もんだい)ではなく、両族(りょうぞく)生死存亡(せいしそんぼう)(かか)わる事態(じたい)である。


()()った情誼(じょうぎ)など、所詮(しょせん)利益(りえき)維持(いじ)する(ため)手段(しゅだん)()ぎない。()てる(とき)()れば、(なん)躊躇(ちゅうちょ)もなく()()られる。


王帳(おうちょう)(うち)には、重苦(おもくる)しい沈黙(ちんもく)(なが)れた。


良久(りょうきゅう)にして、仲費尤(ちゅうひゆう)溜息(ためいき)()()しながら()った。「常山陰(じょうさんいん)(ごと)人物(じんぶつ)は、仮令(たとえ)()仲家(ちゅうけ)総力(そうりょく)()げて(いど)むとも、(かな)うべくもない。(しか)北原(ほくげん)(けっ)して(かれ)一人(ひとり)独走(どくそう)する()ではない。(かれ)より(つよ)奴道大師(どどうだいし)だけでも三人(さんにん)存在(そんざい)する!此度(こたび)(けん)一旦(いったん)(むね)(きざ)んでおこう。劉文武(りゅうぶんぶ)公子(こうし)帰属(きぞく)した(のち)(おそ)くとも何時(いつ)(かなら)今日(こんにち)雪辱(せつじょく)()たして()せよう!」


仲家(ちゅうけ)長老(ちょうろう)たちは一斉(いっせい)(うやうや)しく(うなず)き、(こた)えた。


()もなく、仲家(ちゅうけ)陣営(じんえい)撤収(てっしゅう)旅立(たびだ)った。九日(ここのか)(またた)()()ぎ、方源(ほうげん)数倍(すうばい)(ふく)()がった狼群(ろうぐん)(ひき)いて葛家(かつけ)陣営(じんえい)へと帰還(きかん)した。


葛光(かっこう)葛家(かつけ)高幹部(こうかんぶ)(したが)え、(みずか)十里(じゅうり)出迎(でむか)えに()た。


太上家老(たいじょうかろう)(さま)、まさか御修行(ごしゅぎょう)恢復(かいふく)されていたとは!」葛光(かっこう)方源(ほうげん)四転巅峰(してんてっぽう)気息(きそく)(かん)()った(とき)()見開(みひら)き、(こえ)(ふる)わせて驚喜(きょうき)した。


方源(ほうげん)(かる)(うなず)き、淡々(たんたん)と(こた)えた。「恢復(かいふく)した。そろそろ恢復(かいふく)する頃合(ころあ)いだった。」


当時(とうじ)常山陰(じょうさんいん)修行(しゅぎょう)は、(まさ)四転巅峰(してんてっぽう)であった。その()哈突骨(はとつこつ)馬賊(ばぞく)との激戦(げきせん)重傷(じゅうしょう)()い、生死(せいし)(きょう)彷徨(さまよ)いながら地底(ちてい)潜伏(せんぷく)した。


しかし現在(げんざい)方源(ほうげん)第一空竅(だいいちくうきょう)(すで)五転巅峰(ごてんてっぽう)(たっ)している。北原(ほくげん)压制(あっせい)()けてはいるが、(なお)五転初階(ごてんしょかい)気息(きそく)(たも)っている。


(あら)わにしている四転巅峰(してんてっぽう)気息(きそく)は、敛息蛊(れんそくこ)(もち)いて故意(こい)偽装(ぎそう)したものに()ぎない。


一方(いっぽう)(かれ)第二空竅(だいにくうきょう)最初(さいしょ)北原(ほくげん)(あらわ)れたため、北原(ほくげん)(みと)められ、異域压制(いきよくあつ)()けることなく、依然(いぜん)として三転巅峰(さんてんてっぽう)維持(いじ)している。


()くして()気息(きそく)収敛(しゅうれん)し、(じょ)々(じょ)に解放(かいほう)して()くことで、(おく)()(かく)せるだけでなく、他者(たしゃ)漸進的(ぜんしんてき)受容(じゅよう)過程(かてい)(あた)えることができるのだ。


方源(ほうげん)葛家(かっけ)高幹部(こうかんぶ)随行(ずいこう)し、陣営(じんえい)へと(もど)った。


葛家(かっけ)陣営(じんえい)拡張工事(かくちょうこうじ)最中(さいちゅう)で、道中(どうちゅう)()(わた)(かぎ)活気(かっき)()(あふ)れる施工現場(せこうげんば)光景(こうけい)であった。大勢(おおぜい)凡人奴隷(ぼんじんどれい)()ては蛊師奴隷(こしどれい)までもが、葛家一族(かっけいちぞく)によって恣意(しい)()()てられている。


()てば官軍(かんぐん)(やぶ)れれば賊軍(ぞくぐん)()れが戦争(せんそう)残酷(ざんこく)さであり、同時(どうじ)()妙味(みょうみ)でもある。


葛家(かっけ)高幹部(こうかんぶ)たちは(みな)得意満面(とくいまんめん)()みを()かべていた。貝家(かいけ)鄭家(ていけ)併合(へいごう)した葛家(かっけ)勢力(せいりょく)飛躍的(ひやくてき)膨張(ぼうちょう)し、()れら()()消化(しょうか)(つと)める(なか)で、一族全体(いちぞくぜんたい)実力(じつりょく)(おお)きく向上(こうじょう)していた。


現在(げんざい)最大(さいだい)(なや)みは、奴隷蛊(どれいこ)不足(ふそく)でございます。()大量(たいりょう)奴隷蛊(どれいこ)入手(にゅうしゅ)できれば、此等(これら)奴隷蛊師(どれいこし)戦場(せんじょう)投入(とうにゅう)することが可能(かのう)に。()れは葛家(かっけ)戦闘力(せんとうりょく)飛躍的(ひやくてき)強化(きょうか)するものでございます!」葛光(かっこう)嘆息混(たんそくま)じりに()べた


奴隷蛊(どれいこ)(ひと)(あやつ)蛊虫(こちゅう)である。


(しか)(ひと)万物(ばんぶつ)霊長(れいちょう)であり、(けもの)よりも(はる)かに制御(せいぎょ)困難(こんなん)である。魂魄(こんぱく)への負担(ふたん)格段(かくだん)(おお)きく、(とく)魂魄(こんぱく)(つよ)蛊師(こし)奴隷化(どれいか)する場合(ばあい)尚更(なおさら)である。


(したが)って、基本的(きほんてき)(ひと)りの蛊師(こし)()(にん)以上(いじょう)奴隷(どれい)(あやつ)ることは(まれ)である。奴隷蛊師(どれいこし)(かず)(いた)っては(さら)(すく)なく、往々(おうおう)にして(ひと)りの蛊師(こし)(ひと)りの奴隷蛊師(どれいこし)制御(せいぎょ)するのが(かぎ)(やま)である。(かず)()えれば魂魄(こんぱく)への負担(ふたん)急激(きゅうげき)(ふく)らむ。


(とく)魂魄(こんぱく)(つよ)奴隷蛊師(どれいこし)支配(しはい)するには、(あやつ)(がわ)()(もの)より(さら)強力(きょうりょく)魂魄(こんぱく)(ゆう)していなければならない。


方源(ほうげん)無論(むろん)大量(たいりょう)奴隷蛊(どれいこ)入手(にゅうしゅ)する能力(のうりょく)(ゆう)している。


しかし、そうすれば(みずか)らの()(うち)()ぎり多く(さら)すことになる。葛家(かっけ)(かれ)計画(けいかく)(なか)で、一介(いっかい)(こま)()ぎず、()(ほど)(おもんばか)必要(ひつよう)はない。


(つぎ)()(つづ)閉関(へいかん)修行(しゅぎょう)(はげ)む。()狼群(おおかみむれ)世話(せわ)(まか)せた。」方源(ほうげん)は淡々(たんたん)と()げた。


承知(しょうち)いたしました。」葛光(かっこう)(あわ)てて(うやうや)しく(こた)えたが、内心(ないしん)では悲鳴(ひめい)()げていた。


現在(げんざい)葛家(かっけ)拡大(かくだい)最中(さいちゅう)で、人手(ひとで)不足(ふそく)している。狼群(おおかみむれ)増大(ぞうだい)すれば、(えさ)や(や)りに(よう)する労力(ろうりょく)膨大(ぼうだい)になる。葛家(かっけ)労働力(ろうどうりょく)多大(ただ)消耗(しょうもう)すること必定(ひつじょう)だ!


しかし方源(ほうげん)(つぎ)一言(ひとこと)に、()葛家(かっけ)(わか)族長(ぞくちょう)有頂天(うちょうてん)となった――


此度(こたび)多種多様(たしゅたよう)物資(ぶっし)()(かえ)った。野生狼群(やせいおおかみむれ)編入(へんにゅう)する(さい)に、ついでに収集(しゅうしゅう)したものだ。貴様(きさま)らは()れらを活用(かつよう)せよ。(ただ)し、三匹(さんびき)黒甲肥虫(こっこうひちゅう)()まれていた(しな)は、(かなら)厳重(げんじゅう)保管(ほかん)しろ。」


(かしこ)まりました!太上家老(たいじょうかろう)(さま)!」


以降(いこう)の日々(ひび)、方源(ほうげん)葛家(かっけ)陣営(じんえい)にて、表立(おもてだ)って(うご)くことなく、奥深(おくふか)(ひそ)みながら(きび)しい修行(しゅぎょう)(はげ)んだ。


(かれ)第二空竅(だいにくうきょう)は、(さら)なる修行(しゅぎょう)向上(こうじょう)必要(ひつよう)としている。魂魄(こんぱく)(すで)千人魂(せんにんこん)(いき)(たっ)しているが、狼魂蛊(ろうこんこ)による不断(ふだん)強化(きょうか)必要(ひつよう)で、千人級(せんにんきゅう)狼人魂(ろうじんこん)へと昇華(しょうか)するまで(きた)(つづ)けねばならない。


同時(どうじ)に、(かれ)力道(りきどう)向上(こうじょう)(つづ)けており、钧力蛊(きんりきこ)()()なく使用(しよう)している。


息抜(いきぬ)きが必要(ひつよう)(とき)(かれ)三匹(さんびき)黒甲肥虫(こっこうひちゅう)から回収(かいしゅう)した品々(しなじな)を取り()し、仔細(しさい)観察(かんさつ)しては鑑賞(かんしょう)した。


柴家(さいけ)苦労(くろう)して(あつ)めた()れらの物資(ぶっし)(じつ)異様(いよう)で、(すべ)てが灰白色(かいはくしょく)石板(せきばん)であった。


しかし()れら石板(せきばん)表面(ひょうめん)には、漆黒(しっこく)墨線(ぼくせん)(えが)かれている。直線(ちょくせん)()れば曲線(きょくせん)()り、(ふと)(せん)(ほそ)(せん)()じり()う。墨線(ぼくせん)複雑(ふくざつ)(から)()い、()幾何学模様(きかがくもよう)文字(もじ)(ごと)きも()れば、山水画(さんすいが)景観(けいかん)(おも)わせるものも()った。


()()れら石板(せきばん)本物(ほんもの)であれば、()由来(ゆらい)(はか)()れない。源流(げんりゅう)遡及(そきゅう)すれば、太古(たいこ)時代(じだい)人祖(じんそ)第九王女(だいきゅうおうじょ)たる逍遥智心(しょうようちしん)にまで()()くのである。


人祖伝(じんそでん)』に(しる)されているところによれば、逍遥智心(しょうようちしん)知恵蛊(ちえこ)(すく)うため、乾坤晶壁(けんこんしょうへき)(まえ)(おもむ)いたという。


乾坤晶壁(けんこんしょうへき)虚空(きょくう)屹立(きつりつ)し、(あま)()()(つらぬ)巨大(きょだい)(かがみ)(ごと)(そび)()っていた。(かがみ)(なか)には書山(しょざん)存在(そんざい)し、()山肌(やまはだ)からは(すみ)(たき)()(そそ)ぎ、岩肌(いわはだ)激突(げきとつ)して文泉(ぶんせん)形作(かたちづく)っていた。


(すみ)(たき)()えることなく(なが)()ち、文泉(ぶんせん)(はげ)しく(たた)きつけられて幾千(いくせん)もの飛沫(ひまつ)()げる。()(くろ)飛沫(ひまつ)空中(くうちゅう)散漫(さんまん)し、一滴一滴(いってきいってき)文字(もじ)へと変貌(へんぼう)していった。


()れこそが蛊師世界(こしせかい)における百族(ひゃくぞく)文字(もじ)起源(きげん)なのである。


後年(こうねん)乾坤晶壁(けんこんしょうへき)破砕(はさい)された(さい)無数(むすう)灰白色(かいはくしょく)石板(せきばん)へと分裂(ぶんれつ)したのであった。


伝承(でんしょう)によれば、全て(すべて)の石板(せきばん)(あつ)再構成(さいこうせい)すれば、乾坤晶壁(けんこんしょうへき)復元(ふくげん)でき、蛊師(こし)(ふたた)書山(しょざん)へと(あし)()()れることができるという。


人祖(じんそ)歴史(れきし)(ひもと)けば、歴代(れきだい)蛊師(こし)蛊仙(こせん)()ては仙尊(せんそん)魔尊(まそん)(いた)るまで、()れら石板(せきばん)収集(しゅうしゅう)した記録(きろく)(のこ)されている。


()(ため)に、()もなく大量(たいりょう)石板(せきばん)模造品(もぞうひん)(あらわ)れるようになった。


()れら贋作石板(がんさくせきばん)本物(ほんもの)見分(みわ)けるのが(きわ)めて(むずか)しく、経験豊富(けいけんほうふ)鑑宝蛊師(かんぽうこし)でなければ判別(はんべつ)できない。


歴史(れきし)(じょう)(もっと)権威(けんい)ある鑑宝蛊仙(かんぽうこせん)は、宝黄天(ほうこうてん)(あるじ)であり宝光蛊(ほうこうこ)(ゆう)する多宝真人(たほうしんじん)であった。


しかし(たと)(かれ)でさえ、七割(ななわり)から八割(はちわり)程度(ていど)しか識別(しきべつ)できなかったのである。


偽物(にせもの)石板(せきばん)(じつ)(おお)く、数多(あまた)蛊師(こし)模造(もぞう)し、(なか)には盗天魔尊(とうてんまそん)さえも(くわ)わっていた。


盗天魔尊(とうてんまそん)(とく)多量(たりょう)贋作石板(がんさくせきばん)製作(せいさく)し、多数(たすう)蛊仙(こせん)(あざむ)いた。(かれ)(つく)()した偽石板(にせせきばん)(きわ)めて精巧(せいこう)で、本物(ほんもの)凌駕(りょうが)する(ほど)であった。


方源(ほうげん)灰白色(かいはくしょく)石板(せきばん)完全(かんぜん)収集(しゅうしゅう)し、書山(しょざん)再構築(さいこうちく)しようなどと、(かす)かにも(おも)ったことはない。


(たと)九転蛊尊(きゅうてんこそん)(いえど)成功(せいこう)()なかった(こと)を、方源(ほうげん)()(ほど)(わす)れて(くわだ)てるはずがなかった。


(かれ)休息中(きゅうそくちゅう)に、()れら石板(せきばん)鑑定(かんてい)(こころ)みるだけであった。


前世(ぜんせ)商才(しょうさい)(みが)きを()けた(かれ)は、(するど)眼光(がんこう)(やしな)っており、此種(しゅ)灰白石板(かいはくせきばん)販売(はんばい)偽造(ぎぞう)にも()()めた経験(けいけん)があった。


(いま)()れら石板(せきばん)真贋(しんがん)見極(みきわ)め、(あき)らかな偽物(にせもの)排除(はいじょ)することは、一種(いっしゅ)息抜(いきぬ)きであり、気分転換(きぶんてんかん)でもあった。


(しか)予想(よそう)(はん)して、(かれ)一枚(いちまい)石板(せきばん)()(まわ)していた(とき)突如(とつじょ)として異変(いへん)(しょう)じた。


(すで)贋作(がんさく)判定(はんてい)されていた()石板(せきばん)は、方源(ほうげん)真元(しんげん)(そそ)がれると、表面(ひょうめん)墨線(ぼくせん)(にわ)かに流動(りゅうどう)し、変幻(へんげん)(はじ)めたのである。












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