「討て!」厳天寂が怒号した。
瞬時、厳家の蛊師たちが一斉に手を出し、様々(さまざま)な攻撃手段を繰り出した。
水流、星火、白骨、火鳥などの攻撃が一せいに迸り出て、水魔浩激流に向かって殺到した。
水魔の顔は、瞬く間に五色の光彩に照らし出された。
これらの攻撃は燦然と輝き、輝く花火の如く、美しくも致命的であった。
水魔は危険に陥ったが、避けもせず、反して冷ややかな笑みを浮かべた。
彼の瞳の中で、突如まばゆい幽光が迸った。幽光は激しく輝き、水魔の眼前にいる厳家の家老一人を包み込んだ。
攻撃を受けた厳家の家老は、慌てて三歩後退し、心を落ち着けて態勢を整えた。
区区たる三転の目撃蛊は、一時的な不意打ちには成功したものの、厳家の家老に軽微な傷を負わせただけで、水魔浩激流の危険な状況を変えることはできなかった。
しかし水魔浩激流の口元に浮かぶ冷笑は、さらに濃くなった。
彼は四転の黄金真元を鼓動させ、空竅の中の一匹の蛊虫に注ぎ込んだ。
四転——位置交換蛊!
シュッ。
かすかな音と共に、水魔浩激流の姿が突然元の場所から消え、そして厳家の家老の位置に現れた。交代として、攻撃を受けていたあの厳家の家老は、水魔の元の位置に現れた。
「しまった!」
「やばい、止めるんだ!」
厳家の他の蛊師たちは一斉に驚叫した。この突然の出来事に、彼ら(かれら)は不意を突かれ、大いに動揺した。彼ら(かれら)は攻撃を止めようとしたが、すでに攻勢は放たれており、制御するのは難しかった。
その厳家の家老は肝を冷やし、必死で防御蛊を駆動した。しかしその蛊は半息ほどしか持たず、たちまち撃破されて崩壊した。
「学堂家老!」厳家の族長である厳天寂は咆哮した。彼は眼前で仲間が花火のように鮮烈な攻撃に巻き込まれ、最終的には肉片の山と化すのを目撃するしかなかった。
「はははは、妙なるかな、妙なるかな。どうやら厳家の蛊師どもは愚鈍の豚どもの群れらしい。内輪揉めで味方を殺すとは、呵呵……」水魔浩激流は天を仰げて大笑いし、嘲笑の限りを尽くした。
「水魔、我が厳家は貴様と不倶戴天の敵ぞ!」
「浩激流、必ずや貴様の皮を剥ぎ筋を抽いて、この恨みを晴らしてくれるわ!」
「討て、この魔頭を斬り刻んでしまえ!」
厳家の蛊師たちは悔しさのあまり目を赤らめ、首を太くして怒号した。
だが、彼ら(かれら)は口では威勢のいいことを言うものの、実際に手を出す者はいなかった。
水魔の手には、予想を超えて四転の位置交換蛊が存在していたのだ。
四転の位置交換蛊は、かなり特異な移動蛊に分類される。相手に接触しなければ位置を交換できないが、蛊虫の運用においては、自身に適った蛊を選ぶだけでなく、蛊虫同士の組み合わせがより重要な極意なのである。
水魔浩激流は三転の目撃蛊と位置交換蛊を組み合わせることで、目撃に成功すれば即ち相手との接触を意味し、その基に位置交換を行うことができた。
このような蛊を手にした浩激流は、包囲されることなど全く恐れていなかった。道理で彼は嚴家の高官全員に挑み、嚴家の大お姫様である嚴翠児を拉致し、嚴家を脅迫する勇気があったのである。
嚴家の蛊師たちは人数では優位に立っていたが、学堂家老の死が眼前で起きたため、一瞬にして皆当惑し、途方に暮れた。
「水魔、仮に貴様が位置交換蛊を持っていようと、それがどうした?この蛊を使うには膨大な真元を消費する。いったいあと何回使えるというのか?教えてやろう、今日我々(われわれ)は再起した正義の英雄・狼王常山陰を招いた。貴様は狼群に重々(じゅうじゅう)に包囲され、もはや逃げ場を失なったのだ。」
決定的瞬間、厳天寂が踏み出て発したこの一言は、強心剤の如く、衆人の士気を大いに奮い立たせた。
「狼王常山陰だと?」浩激流は目を細め、狼の背中に座る方源を振り返り見た。
方源は狼のような精悍な体躯に、蜂のようなくびれた腰、瞳には神のごとき光が輝いていた。駝狼の背に跨がり、周囲を群狼に囲まれたその姿は、静かに聳える高峰のようであり、一言も発しないながらも、浩激流に心の重圧を感じさせた。
「狼王常山陰、その大名は子供の頃から噂に聞いていた。まさか貴様、死んでなかったのか?」
水魔浩激流は厳家の蛊師への警戒を緩めずながら、方源を探るように問いかけた。
方源は水魔から三百歩離れた位置に立ち、遠くから彼を静かに見つめていた。表情は一片の平穏に包まれている。
水魔の心に緊張が走った。目撃蛊は攻撃範囲が広く、視界の及ぶ限りで攻撃可能だが、距離が遠くなるほど威力は弱まる。三百歩は目撃蛊の有効射程の限界であり、これを超えると脅威とはなり得ない。
方源の立つ位置は、水魔に「攻撃できるかどうか」という微妙な焦れったさを覚えさせた。まるで刃の先に立たされているような、いらだたしい感じだった。
この距離は実に絶妙だった。水魔はあと一歩踏み出せば、方源を攻撃できるように思えた。しかし、方源はわざとそのように誘っているかのようでもあった。
浩激流の心の重圧はさらに増した。「もしこいつが本物の常山陰なら、目撃蛊で対処するわけにはいかない。目撃の術は双方の魂魄を直接較べ合うものだ。奴道蛊師の魂魄は、昔から強靭で名高い。」
「お前は本物の常山陰なのか?証拠はあるのか?ふん、嚴家の連中がでたらめな奴を引っ張り出して狼王と偽り、俺を愚か者と見なしているのか?」浩激流はわざと嘲るように笑った。
嚴天寂は即座に冷ややかに笑い返した。「水魔、貴様は目があって真人間が見えないのだ。狼王というものがそう簡単に偽物になれると思うか?これから手合わせをすれば、狼王の実力を思い知らせてやる!」
「常山陰殿、あとは貴方にお任せします。」
「この水魔を討ち、世の害を除いてください!」
他の厳家の家老たちも声を揃えて叫び、方源を利用しようと画策した。
方源は狼の背中に端座し、周囲を見回した。自身の狼群がすでに各々(おのおの)配置につき、戦場を水も漏らさぬ包囲網を敷いているのを目にした時、時機が熟したことを悟った。
彼の口元が微かに吊り上がり、冷徹な笑みが浮かんだ。
軽く頷きながら、瞳の中で殺意が爆発した。「確かに、良いことを言った。そろそろ手を出す時だな。」
その言葉が終わるか終わらないかうちに、狼群は一斉に咆哮を上げ、血走った大口と鋭い爪牙をむき出し、文字通り命知らずの突撃を開始した。
瞬時く間に、万の狼が奔流の如く渦巻き、蛊師たち目がけて殺到した。
この圧倒的な軍勢に、誰一人として顔色を変えぬ者はいなかった。
「常山陰、何をしている!なぜ我々(われわれ)に刃を向けるのか!」厳天寂は怒りと疑いの入り混じった咆哮を発した。
「止めるんだ!我々(われわれ)は味方だろう!」
「狼王、正気か?よくも我々(われわれ)厳家に手を出したな!我々(われわれ)も貴様の常家も、とっくに劉文武公子に帰順しているというのに!」
他の家老たちは、狼群の攻撃を防ぎながら、狂ったように叫び続けた。
「まさにそのためこそ、お前たちを始末するのだ。安心して逝け、いずれ常家の者どももお前たちの元へ送ってやる」 方源は憎しみに満ちた声で言い、その顔には時宜を得たように歪んだ表情が浮かんだ。
続けて、彼は怒号を放った。「ふん、とっくに誓っていたのだ、あの時の恨みは必ず晴らすと!」
「あの時、常山陰は単身で哈突骨ら凶悪匪賊に立ち向かったが、常家は一人の援軍も寄こさなかった。この件には確かに怪しい点があったのだ!」 水魔浩激流は胸騒ぎを覚え、何かを連想した。
このような展開になるとは予想もしておらず、彼は狼群の攻撃をかわしながら、慌てて叫んだ。「狼王、貴様と敵対するつもりはない。敵の敵は味方だろう!」
方源は冷たく一瞥し、淡々(たんたん)と一言だけ吐いた。「そのピンピン跳ね回る様は、蚤のようだな。ついでに貴様も死ね。」