鬼王と紅玉散人は頓にがっくりと失望した。
青索仙子と粉夢仙子は、安堵の息をつくと同時に、複雑な表情を浮かべた。
黄沙仙子は胸のつかえが下りたように、全身の力を抜いて、崩れ落ちそうになった。心中では、方源と地霊への恨みが、数倍も深まっていた。
「ただでも逃げ出せさえすれば、ただでも捲土重来できさえすれば、必ずお前たちを寸断にしてやる。この恨み、晴らさでおくものか!」
「ははは、小友さすがは魔尊の後継者よ。」地霊は乾いた笑いを幾つか漏らすと、通天蛊を取り出した。
この通天蛊を催動すると、それは楕円の鏡へと変わり、地霊の頭頂へと飛んで行き、空中に嵌め込まれた。
鏡の中は漆黒だったが、突然、画面が変わり、明るい黄色が広がった。
地霊は神念蛊を催動し、神念の波を次々(つぎつぎ)と鏡に送り込み、また次々(つぎつぎ)と受け取っていた。
同時に、鏡面には絶え間なく材料の実物の画像が現われては消えた。
地霊は取引がまとまったようで、虚空から二つの仙元石を取り出し、通天蛊に投げ入れた。
鏡の表面に波紋が広がると、仙元石はその中に吸い込まれ、代わりに材料が鏡から吐き出された。
「今度は二十人分の材料をたんまり買った。これでも成功しないはずがない!」地霊は歯を食いしばって言った。
今回の煉蛊は最終段階に進み、星々(ほしぼし)がきらめき、やがて一対の楕円形の石へと収束していった。
「成功だ!」地霊は哈哈と笑い、サファイアのような二粒の蛊を手に取り、自ら方源の手に渡した。「これが星門蛊だ。一つの約束を果たしたというわけだ。」
「これが使えるかどうか、私にどうして分かる?」方源は星門蛊を手に挟みながら、問い返した。
地霊は即座に髭を逆立てて睨みつけ、大きな侮辱を受けたかのような反応をした。「わしの煉蛊の腕前を疑うというのか?もし駄目なら、遠慮なく交換に来なさい!」
「よかろう。では、これで失礼する。」方源はきわめてあっさりと、去意を伝えた。
地霊は彼をじっと見つめた。「行くと言ったらすぐ行くのか?それなら残り二回の機会は、今使わんのか?」
「無論取っておく。出口はどこだ?」
地霊は袖を一振りし、五仙を瞬く間に移し去った。顔色も大いに和らぎ、「君のとこには、まだ何か蛊虫の秘方があるだろう?ぜんぶ書き出して、私に見せてくれないか」と言った。
「もうない。もしあれば、自然と君と交換するさ。」方源は適当にかわした。
「どうも小友の腹の中には、まだたくさん仕込みがあるような気がする!」地霊は怪しげに方源を見ながら、ぶつぶつとつぶやいた。「まあいい、ならば私は君が再び来るのを待つとしよう。」
そう言い終えると、地霊は再び長袖を振った。
方源の眼前がちらりとし、目を凝らしてみると、自分が石林の中に立っていることに気づいた。すぐ傍には、先程座っていた石凳があり、背後にはあの紫色の石柱がそびえている。
夜空には星々(ほしぼし)がきらめき、気温は非常に低く、息を吐けば霧となった。
さっきまでの一切が、夢幻のようで、方源に現実ではないような錯覚を抱かせた。
再び夜の景色を見回すと、琅琊福地では相応の時間を過ごしたが、外界では三十六分の一しか経っていない計算になる。
空窾の中の星門蛊、神念蛊、通天蛊、そして狼呑蛊に隠された二つの小壇の極上美酒は、何よりの証拠で、方源にこの奇遇をはっきりと思い出させた。
「もともとこの三回の機会を使い切るつもりだったが、地霊のところで秘方と蛊を交換できるとは思わなかった。だからまだ二回の機会が残っている。もし今回の星門蛊が使えれば、一つの煉蛊の機会を費やした価値は絶対にある!」
ここまで考え、方源はもはや躊躇せず、石林を離れて狼群の下へと戻った。
一刻一刻が大切な時。夜長夢多を防ぐため、方源はすぐさま狼王に護衛されながら湖辺の草地に座り、手紙を書き始めた。
手紙はすぐに書き上がり、彼は推杯換盞蛊を催動した。しばらくすると、空穴を経て杯盞の交換が成功し、杯から四転蛊一匹と手紙一通を取り出した。
この蛊は枯れ死んだ小魚のような形をしており、涸沢蛊と名付けられている。水導の蛊であるが、他の蛊虫の効力を増幅するという特異な効果を持つ。
この蛊が北原に到着するやいなや、即刻三转へと階位が下落した。
方源は手紙を取り出し、さっと目を通して、安堵の表情で頷いた。「どうやら私が福地にいない間も、小狐仙は勤勉に努め、私が旅立つ前に言い付けたことを忘れず、整整二十匹の涸沢蛊を煉成してくれたようだ。良くやった!」
即座に、方源は返事を書き、手紙の中で小狐仙を何句か褒めた。
「ご主人様に褒められました、とっても嬉しいです。」小狐仙は手紙を受け取ると、嬉しさで頬を赤らめた。
「ご主人様、あたし、とっても寂しいです……」小狐仙はすぐに机に突っ伏して、顔を埋めるようにして書き始めた。「ご主人様がいないと、あたしの心はそわそわして落ち着きません。ご主人様、お元気ですか?もう一匹涸沢蛊をお送りしますね。」
小狐仙は桃色の小さな手で、手紙を丁寧に折り畳み、推杯換盞蛊の中に収めた。
同時に、涸沢蛊を一匹添えて入れた。
しばらくすると、推杯換盞蛊はゆったりと浮かび上がり、空穴に入ってもう一方の杯盞と取り交わした後、方源の手元へ届けられた。
方源は直ぐに涸沢蛊を取り出し、手紙に目を通した。それから元石から真元を補給し、再び推杯換盞蛊を催動した。
かくして三度四度、彼は合計八匹の涸沢蛊を取り出した。
「八匹の涸沢蛊を同時に使えば、効果が相乗して、四転程度には達するだろう。」
即座に、これらの涸沢蛊は方源によって一匹ずつ握り潰され、八つの光輪と化って推杯換盞蛊に絡みついた。同じ時に、狐仙福地では小狐仙も同様に八匹の涸沢蛊を粉砕し、推杯換盞蛊に重畳した。
推杯換盞蛊は本来五转蛊だが、北原に来ると四转に圧縮される。そのため、四转蛊しか伝送できない。
今八匹の涸沢蛊を使ったことで、推杯換盞蛊の効力は五转まで向上し、これで五转蛊を伝送できるようになった。
方源はしばし待ち、まず通天蛊を取り出し、厳かに推杯換盞蛊の中に収め、真元を注いだ。
催動は成功し、二つの杯盞は空穴のなかで転換を完成させ、通天蛊を入れた杯盞は狐仙福地へと落ちていった。
小狐仙は歓声を上げ、すぐさま通天蛊を取り出した。
推杯換盞蛊の表面には、微かな裂痕が現われ始めた。
涸沢蛊は確かに蛊虫の効力を倍増させるが、それは「沢を涸らし林を焚く」ようなものだ。威力が暴騰する代わりに、蛊虫は過剰な負荷により後に崩壊してしまう。
続けて、方源は神念蛊を狐仙福地へ送り届けた。推杯換盞蛊の裂痕はさらに深まった。
方源は沈黙したまま元石を取り出し、手に握って真元の補給を急いだ。
その後、彼はサファイアのように青く輝く一対の星門蛊のうち一匹を分け、狐仙福地へ送り出した。
幸い星門蛊は仙蛊ではなく五转蛊であったため、方源は推杯換盞蛊を駆って、どうにか狐仙福地へ送り込むことができた。
星門蛊を福地へ送り届けた後、推杯換盞蛊はすでに無惨な姿と化り、裂痕が全てを覆い、崩壊寸前であった。
この状態では、あと一度使用するのがやっとである。
方源はこの杯盞を空窾に収め、二度と使用しなかった。
彼は待ち始めた。
推杯換盞蛊は彼が煉製したもので、彼の意志を持つ。しかし以前に地霊の小狐仙に貸してあったため、小狐仙も使用できる。
先の数回は、すべて彼が推杯換盞蛊を使用していた。
これは、狐仙福地の時間流動速度が北原の数倍であるためである。小狐仙が向こうで軽率に催動しても、方源はこちらの準備が整っていない可能性が高いからだ。
「ふう……今は小狐仙の腕前次第だ。もし失敗すれば、最後の一回で、彼女はもう一組の推杯換盞蛊を送ってくるはずだ。うまく成功してほしいものだ。」
方源が去る前に煉成した推杯換盞蛊は一組だけだった。しかし旅立つ際に、小狐仙に頼んでおいたのだ。
その間、小狐仙は仙鶴門と何度か取引を行い、煉蛊の材料を多く手に入れ、すでに第二の推杯換盞蛊を煉成し終えていた。
時間がもどかしく感じられる。
通天蛊にせよ神念蛊にせよ、五转蛊は真元の消耗が極めて大きい。五转巅峰の蛊師でさえ、数回呼吸する間しか使えまい。そのため、通常は蛊仙や地霊が仙元を消費して使用するのである。
では、なぜ琅琊福地で推杯換盞蛊を使わなかったのかというと、方源はまだ蛊虫を暴露したくなかったからだ。一旦明るみに出れば、琅琊地霊が必ずや対応する秘方を要求してくるだろう。
時間は一刻一刻と過ぎていくが、狐仙福地では何倍もの速さで流れている。夜風は冷たく、方源も座っていられずに立ち上がり、歩き回り始めた。
夜空には星がきらめき、星明りは十分にある。しかし方源の手の中の星門蛊は、微動だにしない。
「まさか失敗するのか?宝黄天のあの星蛍蛊を、他の者に買われてしまったのか?」時間が経つにつれ、方源の心も沈んでいった。
彼はもはや歩き回るのをやめ、両手を背中に組んで草地に佇んだ。
目を遠くにやれば、三日月湖はきらめく波をたたえ、一片の静寂に包まれている。そして周りでは、狼群が立ち伏し、様々(さまざま)な姿態を見せていた。
この光景は、彼に昔青茅山で酒虫を捕らえたあの瞬間を思い出させた。
彼は自嘲の笑いを一つ漏らすと、もはや一得一失に一喜一憂することなく、目の奥が再び澄み切っていった。
これまでずっと続いてきたすべての憂い、すべての圧力、すべての焦燥が、清風と共に散り去っていくようだった。
彼は夜空を仰ぎ、胸中の濁気をすべて吐き出した。ふと、今の生き方がこれほどまでに素晴らしいものだと感じた。すべてをかけて生涯最高の追及に打ち込み、脇目も振らず、一切後悔のないこの心境を。
彼の心は徹り切って、ちょうど塵一つない明鏡のようであり、この三日月湖のように澄み渡って静かであった。
青茅山で転生して以来、彼は常に心身を竭してきたが、今突然ある悟りを得た。
この悟りは言葉では説明できず、ただ彼の心に絡みつき、最終的にはつぶやきの一言となった。「今夜の星空は、実に美しい。」
これは心からの感嘆であった。
この言葉を発した後、方源は全身が軽くなり、千鈞の重荷を下ろしたかのように、飄々(ひょうひょう)と仙にでもなれるような気がした。
彼の全身から漂う気質も、少し変わったようだった。本来の陰湿な気配は跡形もなく消え、清新で明るい気に変わった。以前は幽玄で深かった双眸も、今は清らかで明らかな光を放ち、新生児のようであり、また星々(ほしぼし)のようでもあった。
手の中の星門蛊が、かすかに震え始めた。その幅は次第に大きくなっていく。
方源は手を離した。
サファイアのように青く輝く星門蛊は、ゆったりと空中へ浮かび上がった。そして大量の星明りを引き寄せ、凝集させていく。その様は、夢のように燦爛として、幻のように優雅であった。
しばらくすると、星明りは巨大な円形の星門を形作った。
星門蛊はついに成功したのだ!
方源は静かにそれを見守り、口元に微かな笑みを浮かべていた。喜びはあるものの、その双眸には一片の平静が湛えられていた。
彼は悠々(ゆうゆう)と星門へ歩き入った。眼前で星明りが渦を巻き、彼の身体を巻き込んで疾走させた。
十数回の呼吸の後、彼は星門から出て、再び狐仙福地へと足を踏み入れた。
「ご主人様、ついに戻ってきてくれたんだね!」
小狐仙は大いにお喜びで、一跳ねして彼の胸に飛び込んだ。
方源は呵呵と笑いながら、地霊の小さな頭をそっと撫でた。
「ああ、また戻ってきたよ。」彼は淡々(たんたん)とそう言った。