太陽が東から冉冉と昇り、北原の広大で果てしない草地を照らしている。
巨大な鉄殻花が、肉眼で見える速度で、徐徐に盛り開く。花房から、一匹の粉の皮の小さい兔が飛び出してきた。
これは花粉兔で、草原で常に見られる動物の一つである。
それは決して穴を掘らず、むしろ鉄殻花の花心に住んでいる。鉄殻花の花弁は、鋼鉄の如く硬く、効果的にそれらの豺狼や猛禽の攻撃を防ぐことができる。
花粉兔はぴょんぴょん跳ねながら、鼻を野花に近づけ、まず嗅いで、毒がないことを発見し、そして一口で飲み込んだ。
突然、花粉兔の両耳が震え了一下、心中で突然強い警兆が湧き上がった。
ヒュッ。
あっという間に、一本の鉄羽が矢の如く飛来し、それをつらぬき、緑豊かな草地に射殺した。
二人の偵察蛊師が、駝狼に騎乗して、遠くから走って来た。
「兄貴、お前の鉄羽箭蛊は、まったく百発百中だな。」
「ああ、家の食糧がますます少なくなった。仕方なく野生の獲物を狩って、家族の飢えを凌がなければならないな。」
二人は葛家の近況について話し合い、どちらも憂愁に見えた。
方源が野生の狼の数を幾分か削減し、死んだ狼も干し肉に加工されたが、葛家という巨大な族群にとっては、需給の矛盾をわずかに緩和するに過ぎない。
家族の糧草がますます少なくなるにつれて、葛家の族人們も人心慌慌となり始めた。
間もなく、葛家の大部隊も、老いた巨獣のように、ここに移動してきた。
凡人たち(ぼんじんたち)は、ほとんどが大胃馬を牽いている。
少し裕福な家庭には、弯角奔牛が板車を牽いていて、板車の上には物品が満載されている。
蛊師たち(こしたち)は、ほとんどが駝狼に騎乗している。なぜなら戦闘がないため、駝狼の背中にも同時に大量の物資が縛り付けられている。
それ以外に、一匹一匹の蜥屋蛊もいる。
まるで鹿群の中の象のように、四肢を動かし、交互に進む。
方源は一匹の蜥屋蛊の中に身を置き、目を閉じて養生している。
彼が大量の狼群を収服して以来、魂魄の負担はとても重い。
毎日、少なくとも二时辰の睡眠を確保しなければならない。それ以外に、時折休息して養生する必要もある。
奴道蛊師はそう簡単にはなれない。
各流派の蛊师は、皆華やかな一面があり、長所もある。
同時に、彼らには弊害もあり、各自の苦しみもある。
身体は蜥屋蛊の動きに伴って、緩やかに上下に揺れ、方源は心神を空窍に投入した。
空窍の中、真金の海面は微かに波立っている。
晶壁は透き通って明るく清らかである。
此の程度は、狐仙福地に置けば、既に五転を冲刺できる。
但し此刻、方源は北原に身を置いており、修为は暫時停滞していると見做せる。
蛊虫を査看一下。
各流派の蛊师は、皆、风光な一面があり、長所もある。同時に、彼らには弊害もあり、各自の苦しみもある。
身体は蜥屋蛊の動きに伴って、緩やかに上下に揺れており、方源は心神を空窍に投入した。
空窍の中、真金の海面は微かに波立っている。晶壁は透き通って明るく清らかである。
此の程度は、狐仙福地に置けば、既に五転を冲刺できる。
但し此刻、方源は北原に身を置いており、修为は暫らく停滞していると見做せる。
蛊虫を査看一下。
本命蛊の六転の春秋蝉は、未だ身を隠し、空窍の最中央で休養して沉睡している。
海面の上空。一団の狼形の乌云が悬浮している。此れは狼烟蛊である。專門に狼群の傷を治療する為に使われる。
真元の海面上、五転の戦骨车轮は、依然として大量の裂痕がある。正に波を追い流れに逐っている。
同様に、雪洗蛊もある。宛かも水面に漂う一片の雪白な柳葉の如し。
而して蛛丝马迹蛊は、烏賊の如く、真元の海水の中を遨游している。
海底。大量の驭狼蛊が収藏されている。二転のものは多い。三転のものは少ない。四転のものは一匹も無い。
其れ以外に、二匹の十钧之力蛊がある。方源は元々(もともと)五匹の十钧之力蛊を買ったが、今三匹を使い果たし、二匹が残っている。
一匹の狼頭魚肚の蛊虫が、海底の深くに趴し、時折に二回ほど游ぎ動く。
此れは狼吞蛊で、四転の存储蛊である。
方源の存储蛊は、もう一匹ある。それ形は杯盏の如く、正に五転の推杯换盏蛊である。当然元々(もともと)、その效用は四転しかなかった。
空窍の中の以外に、方源の左眼には、隐约とした重瞳があり、正に狼顾蛊である。
咽喉の所に、狼嚎蛊が藏されている。舌の下に鬼火蛊が寄居している。
胸膛の所に青狼の紋身があり、正に天青狼毛蛊である。
背部に一対の鹰翅の紋身があり、三転の鹰翼蛊である。
元々(もともと)持っていた骨竹蛊と狼魂蛊は、既に使い果たした。
両足には、それぞれ四転の狼奔蛊が一つずつあり、移動に用いられる。
仙蛊の定仙游については言わずもがなだが、現在腐毒草原の地下に埋められている。
「常山阴の一組の蛊虫は、基本的に私が継承した。現在では数万の狼群も配下にあり、奴道の面では、ある程度の成果を上げたと言えるだろう。」
しかしこの程度では、弱小をいじめる分には問題ないが、高手と対戦するには、まだ不足点が多い。
奴道蛊師が最も忌み嫌うのは、斬首戦術である。方源は以前、葛家と協力して、知能の高くない狼群を相手にしてきた。しかし蛊師と対戦するとなれば、話ははるかに難しくなる。
愚か者でさえなければ、誰もが優先的に方源を狙うだろう。
かつて常山阴が、自分より上位の哈突骨ら馬賊一味を討ち取ることができたのは、自身が千人魂であることに加え、数匹の万狼王、十数万の狼群、さらには異獣の白眼狼だけで構成された精鋭部隊までも擁していたからである。
方源の奴道における実力は、正真正銘の常山阴の五分の一にも満たないのである。
「現在の私の最大の問題は、行き詰まっていることだ。各方面の修行が止まらざるをえない。魂魄に関しては、既に狼人魂を養ったが、更に強化するには、胆識蛊が最良の方法である。残念ながら、私は北原にいるため、狐仙福地に戻ることができず、蕩魂山も消滅しつつあり、私が救うのを待っている状態だ。仙蛊である和稀泥の作用のため、無事な胆識蛊も少ない。」
数日前、方源は無常骨蛊を使い、自身の骨格の全てを無常骨へと変換した。
人の肉体は譬えるなら皮袋の如く、魂魄を収める器である。無常骨によって、方源という器は更に堅固となり、千人魂を収めるには何の問題もなくなった。
「私自身の修為は、異域による圧迫のため、既に停滞している。魂魄の面での向上も、行き詰まっている。力道に関しては、三匹の十钧之力蛊を連続して使い、三十钧の力を養ったが、これも身体の耐えられる限界に達している。」
「これ以外にも、狼群の数が急増したことで、奴道の欠点も顕在化している。これら狼群を養うため、毎日放し飼いにして自力で狩りをさせねばならない。あるいは私自ら率いて狩りに出るが、運が悪ければ飢えを味わうことになる。負担が重すぎる上、資源の消費も激しい。葛家を頼っていなければ、私独りの力では絶対に養い切れない。」
方源が以前自発的に狼群の総数を削減したのも、自らへの負担を減らすためであった。
奴道蛊師は物資を消費しすぎる。往往にして大規模家族でなければ養うことができない。たとえ超一流家族であっても、重点的に養成するのは二、三人(に、さんにん)が関の山である。
ここ数日、方源はこの餌やりという難題をどう解決するか、考えを巡らせている。
他は他の者と異なり、最大の優位性として、一つの福地を掌握しているという点がある。
もし狼群を福地の中に送り込んで飼育し、必要な時に传送できれば、この問題は完璧に解決されることになる。
しかし狐仙福地は中洲に位置しており、洞地蛊の範囲は一域に限られている。つまり、中洲範囲内の任何場所であれば、洞地蛊は相互に接続可能である。だが中洲を出ると、その力は及ばなくなる。
洞地蛊が使えないため、方源は星門蛊に思い至った。
この蛊は五百年前世、五域混戦の時代に、初めて研發された新種の蛊なのである。
それも五転の消耗蛊である。使用は洞地蛊よりも制限が多い。ただ夜が暗く星が点々(てんてん)と輝く時のみ、暗天の星辰の力を引き動して、初めて成功裡に催発できる。
しかしその範囲は広大で、五域を跨ぐことが可能である。
方源の手元には星門蛊の秘方があるが、材料が稀少で、少なからぬ上古の蛊虫を使う必要があり、その中の一、二(いち、に)の輔料は更に太古時期に源を発する。
而且、星門蛊の成功率は極めて低く、百回試みても一度も煉成できるとは限らない。
方源が以前に仙鶴門と取引をした際、星門蛊に手を出さなかったのは、これが一因である。
もう一つの重大な理由がある。それは魅蓝电影である。
魅蓝电影は、方源によって福地から排出されて以来、ずっと天梯山で徘徊しており、狐仙福地に攻め入ることに対して少しも死心していない。
仙鹤门もこの面倒を管していない、天梯山の蛊仙も自家の門前の雪だけを管している。他人の瓦の霜は管しない。
なぜ星門蛊の運用が、魅蓝电影と関係があるのでしょうか?
前にすでに言ったように。星門蛊は常時に黒天の星辰の力を勾引する必要があり、そうして初めて凝聚して形成できる。しかし狐仙福地は独自の局を成しており、自身の天空には太陽も星辰もない。
星辰の力を勾引しようとすれば、戸口を開け、外界の星明りを引き入れなければならない。しかしそうすると、魅蓝电影が虚に乗じて侵入してくることになる。
これは万万にも償い切れない損失である。
蕩魂山は死にかけており、威能が大きく減退している。もし魅蓝电影を福地に入れてしまえば、まさに泣き面に蜂となる。
こうして、星門蛊の道筋も行き詰まってしまった。
「どうやら琅琊福地の中に解決策があるかどうかを見るしかないようだ。現在の速度でいけば、あと七日ほどで三叉湖に到着できる見込みだ。」
方源は息を吐き出し、希望を琅琊福地に託した。
……
暗夜の中、明月が朗らかに照らし、星辰は疎らで、涼風が吹き渡る。
草原の上、一片の三日月形をした湖があり、湖長は約十五千里、平均幅は五千里である。湖の両端は曲がり尖り、中程は稍広く、恰も一片の三日月の如し。湖面は平静で、粼粼たる波光が泛い、夜空の弯月と互いに照り映える。
正に月牙湖である。
此処は水草が豊富で、寧静かつ優美、多種多様な生霊が生息している。
三角犀、水狼、龍魚が居り、鉄殻花、断崖草が生え、馬蹄樹が此の湖を取り囲み、疎林を成している。
一片の真黒な陰雲が、遠方から滾滾と迫り来り、邪気凛然たり。
暗雲が月光を遮り、濃い影を落とす。その影は悪獣の如く、月牙湖の水面を掠め、最終的にその中心部で静止した。
「ここだ。」暗雲の上に立つ数人のうち、一人が磔磔と大笑いした。
その男は醜い容貌で、額は高く隆起し、眼窩は深く窪み、両目は閉じ、耳は大きく風を受ける形。乱れ髪に黒袍という出で立てで、邪気が森々(しんしん)と漂っていた。
他でもない、六転蛊仙——鬼王その人であった。
「琅琊福地はここに隠れているのか?」傍にいる紅玉散人が軽く問いかけた。
彼もまた六転蛊仙で、青年の風貌、丸顔で白く清らかな肌をしている。
「これは本王が自ら探査して得た結果だ。間違いがあるはずがない。時間を計算すると、まもなく琅琊福地が地災を迎える時刻だ。磔磔磔、まずは静観しよう。時が来たら、共に手を出すのだ。」鬼王の声には自信が満ちていた。