老族长は方源に対する不満を一層強め、怒鳴った:「狼王、約束していた援軍はどこだ!?」
「葛老兄、ご心配無用、すぐに到着します!諸君、我と共に戦、散った家老の仇を討て!!」方源は大声で叫びながら、隊列から飛び出して前線へ突き進んだ。
「急げ!常山阴様を守れ!」葛光は即座に叫んだ。
「狼王様、あなたは我々(われわれ)の勝利の要です。どうか我々(われわれ)の中心に退いてください。我々(われわれ)が守ります!」
「殺れ!この畜生どもを殲滅せよ!!」
隊列の者たちは皆、殺気に瞳を染め、もはや死への恐れも忘れ、狂気じみた状態に陥っていた。たとえ自分が死んでも、狼群から肉の一れを食い千切ると言わんばかりだ。
北原の民の獰猛さが、ここに歴然としている。
先頭を切って進む葛光を、老族长がぐいと掴んで引き戻した:「わしの後ろに付け!」
葛光は哇々(わわ)と叫びながら突撃を続け、しばらくするとまた前線に立っていた。
葛家の老族长は業を煮やし、再び彼を捕らえて戻すと、手を挙げて一つ平手を食らわした:「後ろに付けと言っただろう!お前が葛家の少族长であることを忘れるな!」
「この老けつらめ…」方源はこの一幕を目に焼き付け、心中で冷笑した。隊列全体のうち、老族长と彼だけが唯二の正気の保ち主だった。
「諸君、先へ進め!わしがこの忌々(いまいま)しい狼共を足止めしてやる!」戦堂家老が咆哮した。
その身は急激に膨張し、巨大な石人へと変貌した。元来三転の頂点に立つ蛊師に過ぎなかったが、今や四転に匹敵する戦力を爆発させた!
「戦堂家老!」葛家の老族长は胸が張り裂ける思いだった。戦堂家老は葛家において彼に次ぐ第二の高手でありながら、この場で命を落とすことになる。
「戦堂家老様はこの蛊を使い、既に命を捧げられました……」一同は強い悲壮感に包まれた。
「戦堂家老の犠牲を無駄にするな!必ずや勝利を勝ち取るのだ!」方源は声を張り上げた。
「来い、畜生共!老夫が相手になってやろう。はははは!」戦堂家老は豪快に笑いながら、独力でほぼ全ての百狼王と千狼王を一時的に足止めした。
その援護のもと、ついに一行は万狼王の眼前に迫った。
「討つ!」ここまで来ては、葛家の老族长は二言もなく、真っ先きに攻撃を仕掛けた。
残る者も踵を接して続き、次々(つぎつぎ)に強力な殺招を炸裂させた。
夜狼王は酸液を噴き、毒針を放射し、全身に金芒の膜を纏って、極めて獰猛に戦った。
「これは金罡蛊だ!これを破壊しなければならぬ!さもなくば俺は驭狼蛊を催動できん……」方源が叫んだ。
吼……
狼群が咆哮しながら包囲を縮めてきた。夜狼王の周囲には、蛊師たちに混じって大勢の夜狼が護衛として侍っている。
蛊師たちは夜狼王を狙いながらも、これら普通の夜狼に対処しなければならない。
次第に蛊師の犠牲者が増え、彼らは命と鮮血をもって、悲壮な戦いの歌を綴った。
夜狼王の動きは極めて敏速で、獵豹よりも迅い。全身に毛はなく、黒光りする皮甲が幽かな光を放ち、もとより並ならぬ防御力を備えている。
それは左右に奔り回り、強靭な鋭爪の一撃ごとに、不幸な蛊師一人を肉塊と化した。鞭のように長い狼尾の一閃ごとに、周囲の戦場を掃討し、あたりを殲滅させた。
蛊師は絶え間なく戦死し、夜狼王の体にも累々(るいるい)たる傷跡が刻まれた。しかし金罡蛊は未だ破られていない。
包囲攻撃は長く続かず、後方から大群の夜狼の狼王が駆けつけてきた。
戦堂家老が戦死した今、もはやこれらの狼王を阻む者はいない。
「狼王、お前の言っていた援軍はどこにある!?」葛家の老族长は焦心熱慮のあまり声を張り上げた。
「もうすぐだ!」方源は慌てて答えると、続けて命令した。「葛光、お前が一部を率いてこれらの狼王の足止めをしろ。」
「承知した!常叔父さま、ご安心ください。私に息のある限り、これらの狼王に邪魔はさせません!私について来れる者は集まれ!」葛光は叫ぶと、きびすを返して勇敢無比にも狼王たちへ突き進んだ。
葛家の老族长は顔を真っ青にして怒り狂った。
「葛老兄、ぼんやりしている場合ではない!早く夜狼王の金罡蛊を打ち砕け!一度狼王を奴隷にすれば、我々(われわれ)だけでなく、葛家全体も救われるのだ!」方源がまた叫んだ。
「常山阴……もし我が子に何かあれば、絶対に許さないぞ!」老族长は心の中で激しく呪った。
衆人環視のなか、彼は公然と葛光を呼び戻すことなどできず、それは明らかな私情偏向となる。やむなく黙って殺意を燃やし、夜狼王に向かって狂ったように攻撃を浴びせた。
「族長威武!」家老たちは老族长の爆発を見て、士気が大いに高揚した。
「この老いぼれ、戦闘力は並々(なみ)ならぬな。随分深く隠していたものだ。」方源すら思わず彼を刮目して見ずにはいられなかった。
高位に居る者は必ずや人並み外れたところがある。老族长がこれまで長きに渡って葛家を率いてきたのは、聡明で有能、決して尋常ではない。
狼王は老族长の激しい殴打に遭い、突然大口を開けて無数の幽藍の鬼火を吐き出した。
鬼火蛊は二転魂道の蛊虫である。これが昇進する道筋の一つ(ひとつ)が、三転鬼炎蛊だ。しかし今爆発したのは、夜狼王に寄生する四転鬼焱蛊であった。
鬼火が汹涌と湧き起こり、澎湃と押し寄せてくる。その寒気は骨まで刺すようで、众蛊师は後退を余儀なくされ、本来密接だった包囲網は緩んでしまった。
夜狼王はこれによって貴重な息継ぎの機会を得、直ちに撤退の準備を始めた。
「逃がすものか!」葛家の老族长は怒号すると、突然口を大きく開き、鬼火のすべてを腹に吸い込んだ。
四転――呑火蛊!
この蛊は攻撃蛊ではなく、正確に言えば貯蔵蛊である。火炎を貯えるために特化されている。
「この老いぼれ、なかなか良い蛊を持っているな。」方源は内心で驚いた。
葛家の老族长は鬼火をすべて呑み込むと、全身の腹が二、三回りも膨れ上がり、不格好な大胖子と化した。
同時に彼の皮膚は幽藍色に染め上がり、目や鼻、口などからは鮮紅の血が流れ始めた。
四転――藤爪蛊!
葛家の老族长は再び怒号すると、左腕を猛然と伸ばした。
彼の左手は五倍に膨張し、木の根や蔓へと変貌した。五本の指は強靭な紫藤と化わり、蛇や鞭の如く夜狼王の体に絡みついた。紫藤は急速に広がり、夜狼王を縦横無尽に縛り上げた。
夜狼王の逃亡の試みは粉砕され、それは狂ったようにもがき、巨躯から繰り出す巨大な怪力で乱暴に藤蔓を引き裂こうとした。
葛家の老族长の顔色が一変した。彼も力道を修めてはいたが、どうして夜狼王という獣の力に及ぶはずがあろう。
紫藤は無残に引き千切られ、葛家の老族长は痛呼一声、左手は原形に戻り、五本の指はすべて千切り落とされていた!
「狼王……」老族长は嘶吼した。
方源は彼が「援軍はどこだ」と詰め寄ろうとしているのを察し、一足先に彼の側に駆け寄り、叫んだ:「葛老兄、危ない!」
ちょうどその時、夜狼王の尾が振り払われてきた。
方源は天青狼皮蛊を催動し、自ら進んで尾の前に身を置き、葛家の老族长を守る姿を演じた。
パシン。
乾いた音と共に、彼は狼尾に強く打たれ、遠くへ吹き飛ばされた。
「こ、これは……わしは避けられたのに!」老族长は愕然とした表情を浮かべた。
「急いで狼王様を救出せよ!」こちらでは学堂家老が怒号し、方源の飛ばされた方向へ駆け出した。
夜狼王は襲い掛かってきた。葛家の老族长が最大の脅威だと感じ取り、攻勢の大半を彼に集中させた。
ドカンドカンドカン!
老族长は回避しつつ、絶え間なく蛊虫を駆使して爆撃を加えた。一りの人間と一匹の獣との生死を賭けた大戦が繰り広げられる。
「龍頭鑽!」老族长は戦いながら後退し、突然咆哮すると同時に三匹の蛊虫を催動し、自らの奥義を放った!
四本の爪を持つ木製の龍が轟音と共に躍り上り、その頭部が鋭い槍先へと変貌。激しい回転運動を伴い、夜狼王の胴体に直撃した。
永年夜狼王を守護してきた金罡蛊が微かに輝き、ついに防御を破られた。
龍頭鑽の勢いは尽きることなく、深々(ふかぶか)と夜狼王の肉体へ食い込んだ。夜狼王は痛烈な咆哮を発し、その音量は人々(ひとびと)の鼓膜を破らんばかりで、戦場全体の喧騒をも凌駕するほどだった。この深刻な打撃により、夜狼王は機動性を大幅に低下させ、鮮血が湧き出るように流れ出した。
しかし蛊師たちが安堵する間もなく、夜狼王は突然双眸を赤く輝かせ、戦意が炎の如く燃え上がり、全て(すべて)の痛みを忘れて狂ったような反撃を開始した。
その戦闘能力は低下するどころか、逆に倍増し、元の水準の約二倍に達していた。
「こ、これは四転の奮戦蛊だ!ちくしょう!常山阴は?常山阴はどこだ!?」老族长は絶叫した。
「狼王様が気絶されました!ただいま救護中でございます!」遠くでは学堂家老らが「気絶」した狼王を守りつつ、狼群の包囲の中に立ち往生していた。
「いつ気絶するかでなく、わざわざ今気絶するとは!」老族长はこの報告を聞き、吐き血しそうになりながら、瞼を激しく痙攣させ、怒涛の如く咆哮した。「もはや常山阴を待つ必要はない!この万狼王を我々(われわれ)の手で討つのだ。こいつを殺せば、狼群も崩壊する!」
夜狼王は戦闘力が上昇したものの、金罡蛊による防御を失ったため、かえって傷つきやすくなっていた。
戦闘は凄惨を極め、ほぼ時々刻々(じじこっこく)、三転クラスの蛊師が重傷を負い、あるいは命を落としていった。
ここまで激戦が続き、蛊師たちの空窓に蓄えられた真元は、ほとんど枯渇しつつあった。勝利のためには、限られた真元をすべて攻撃に注ぎ込まなければならない。
傷と傷の応酬、耐え忍ぶ力の勝負だ。最後に立ち続けられる者が、勝利者となる。
夜狼王は死の気配を感じ、いっそう狂ったように暴れ回った。
蛊師たちは散り散りに倒れ、老族长一人が孤軍奮闘していた。
「耐え抜け!絶対に耐え抜け!」老族长は右往左往しながら戦場の消防役を務め、間一髪でまた一人の家老を救い出した。彼は絶え間なく嘶き続けたため、声はかすれ果てていた。速度は次第に落ち、精神も散漫になり始めていた。
さすがに彼は年を取っていた。
「老族长、ご注意を!」
遠くない場所で一人の家老が叫んだ。
老族长は咄嗟に振り返ると、夜狼王が空中から襲いかかり、狂ったような殺意が押し寄せるのを目にした。
「退け!」
老族长は心の中でそう思ったが、体はよろめき、疲労が蓄積した結果、老いた体が限界を迎えてしまった。
彼は力尽きたのだ!
ドン!
次の瞬間、夜狼王が襲いかかり、老族长を地面に強く叩きつけた。
「老族长!!」
人々(ひとびと)は叫び、こぞって我を忘れて駆け寄った。
葛家の老族长は真元を狂ったように防御蛊に注ぎ込み、厚い木製の盾を構えた。
ドンドンドン!
夜狼王は両前脚で激しく叩きつけ、木盾は数回の呼吸を持ちこたえた後、完全に崩壊した。巨大な狼の爪が直に葛家老族长の体を打ち据えた。
老族长も古銅皮や精鉄骨といった蛊虫を使っていたが、夜狼王の暴虐な打撃には耐えきれなかった。
「老族长!」
一同は驚叫し、こぞって狂攻を加え、夜狼王の注意を引こうと試みた。
しかし夜狼王の眼には葛家の老族长しか映っておらず、狂攻を物ともせず、老族长を殺して憤慨を晴らそうとしていた。