蛊師たちは、さっきまで苦戦していたのに、瞬く間に戦場全体が平定された。元の敵は、今や味方の同盟軍と化している。
「これが常山阴様の手管なのか?」
「凄い、本当に凄い……」
「一人で何千もの狼を率いるとは。さすが狼王と呼ばれるだけある!」
蛊師たちは呆然とした眼差しで方源を見つめ、その背中が戦場を駆け抜けるのを見送った。
縦横無尽、縦横無尽!
敢えて眼前に立ち塞がる者は、一切合切薙ぎ払われていった。
一念の下、千万の野狼が奔馳する。手を伸ばして一指すと、兵鋒の到る所、向かうところ敵無し!
一己の力で、狂瀾を力挽し、戦局を改變する。正に奴道の風采だ!
戦場の外、蛮轰・蛮豪らは尽く色を失った。
彼らの複雑な目光の中、方源の狼群は雪達磨の如く壯大し、殺せば殺すほど多くなっていった。
到る所で、戦場を橫掃し、片刻の後、一片の狼藉と、呆然とした蛊師たちを残し、然後に揚長而去した。
こんな驭狼術は、簡直橫暴極まりない、また霸氣極まりない!
雄厚な力の下、細微な阻擋は直接碾壓される。
方源は意図的に万狼王の戦場を回避し、葛家の陣営を一周して、さらに三頭の千狼王を征圧した。前回までの分と合算すると、千狼王の数は八頭に達した。
百狼王の数に至っては、ほぼ倍増し、五十九頭という多きに及んだ。
方源の狼陣は、まさに一頭の怪獣の如く、道中でほとんどすべての亀甲狼を吞噬し、自らを強大にしていった。
これら狼王を続けて征圧したため、方源の魂魄は反動の衝撃を受け、全身に煩悶と吐き気を覚えた。
方源はこの耐え難い感じを強い意志で抑え、狼群を収束させて牧場に戻った。
もはや牧場は、これら膨大な狼を収容しきれなかった。
狼が多すぎて、方源はすぐには数えきれなかった。大雑把に目測したが、間違いなく一万二千頭を超えていた。
方源は急いで戦線に戻ろうとはしなかった。
もはや大局は定まっている。彼は駝狼から下りると、目を閉じて心身を休め始めた。
その間、一定の時間をおいて何度か目を開け、状況を確認した。
白眼狼が戦場を監視しているおかげで、方源は常に葛家の老族长ら葛家の要人たちの動向に気を配っていた。これらの葛家の高官たちを死なせるわけにはいかない。万一死んでしまえば、蛮家が動き出し、手を出してくる可能性が高いからだ。
しばらく休んだ後、完全に回復したわけではないが、もう実力を発揮するのには支障はなかった。方源は再び戦場に身を投じた。
今度は、彼は八頭の千狼王だけを戦闘に動員した。普通の狼群では、万狼王に対する脅威としては程度が低すぎるのだ。
道中、葛家の族員はこぞって彼の名を叫んだ。
「常山陰が援軍に来た!」このような勢い(いきおい)を聞いて、万狼王を囲んでいた葛家の高官たちも、皆精神を奮い立たせた。
「葛家の諸君、暫らく退いて休んでくれ。私に任せてくれ!」方源が戦場に到着するや、心で念じると、八頭の千狼王が包囲を開始した。
万狼王は既に退却の意向を見せていたが、左右に突いても包囲網を破ることができなかった。
「このような驭狼術とは!」万狼王が方源によって軽々(かるがる)しく翻弄される様を見て、蛮豪や蛮轰らは、遂に驚愕の色を浮かべた。
以前、方源が陣を衝いた時は、ただ陣容が雄大で、一路平推するだけで、驭狼術の力量は見えなかった。今、彼が精巧に操る様に、北原一流の驭獣術が余すところなく現われている。
わずか八頭の千狼王、そのうち七頭は万狼王の影響を受け、戦力を全うに発揮できない。
しかし、方源の操縦の下で、万狼王はまるで千軍万馬の中に陥ったように、また蜘蛛の巣に囚われた蝿の如く感じ(かんじ)た。
最終的には、万狼王は方源によって無理矢理消耗し尽くされ、その臨時の反撲も、一頭の千狼王の命を奪ったに過ぎなかった。
「狼王!常山阴様こそ、真の狼王であられる!」 万狼王の巨大な躯が轟音と共に倒れ落ちるのを見て、どこの誰か分からない蛊師が叫び出した。
「狼王!」
「狼王!狼王!」
この一戦を経て、人々(ひとびと)は皆、「狼王」という称号が実に適切だと痛感した。
叫び声は次々(つぎつぎ)と湧き起こり、すぐに一つに連なり、多くの者が腕を振り翳して熱狂し、多くの者が熱い眼差しを向け、また多くの者が涙を流した。
これは一種の感動、英雄へ(え)の崇拝、力へ(え)の畏敬の念であった。
「この者がいる以上、我々(われわれ)が葛家を併合するのは、容易なことではない!」蛮轰の顔色は灰のように褪せ、この戦いは彼の野望と企みを完全に打ち砕いた。
「狼王……」
常山阴をずっと見下していた蛮豪は、魂が抜けたように呟き、口の中でこの称号を咀嚼していた。
これまで一度として、この称号の重みがこれほどまでであると感じたことはなかった!
戦場では、葛家の老族长が一族の家老たちを率い、方源のもとに駆け寄ってきた。
「往年の英雄は、なおも風采あざやか!
今日の一戦には、老朽まったく敬服の至りです。
老朽、葛家を代表し、あなたの援護の恩徳に十万分の感謝を申し上げます!」
葛家の老族长は方源に対し深く一礼した。
「葛の老兄、言い過ぎです。
それよりも、一刻も早く戦場の掃討を済ませましょう。」
方源は軽く笑って答えた。
万狼王の屍体が地に横たわっているが、方源は嫌疑を避けるため、越権行為をしようとはしなかった。
「もし私が四転驭狼蛊を持っていれば、この亀甲万狼王を麾下に収めることができたのに、残念だ」と、方源は心中で悔やんだ。
四転の驭獣蛊は万獣王を制御できる。一度万獣群を手に入れれば、一氏族にとって、これほど巨大な戦力となる。
そのため、北原の市場では、一般に四転の驭獣蛊は出品されない。
数多の蛊虫は、四転以上となると、価値が急騰する。驭獣蛊はその一例であり、他には舍利蛊なども同様だ。
故に、市集で方源が購入できたのは、二転・三転の驭狼蛊だけで、四転驭狼蛊は一匹も買えなかったのである。
「私は今手元に、大量の二転・三転の驭狼蛊があり、不足していない。四転の驭狼蛊は、見たところ自分で練らなければならないなあ。」
方源は目前、四転驭狼蛊が欠けている。四転蛊があれば、彼は直接万狼王を操縦でき、狼王を通じて間接的に狼群を操縦し、魂魄への負担を減らせる。そして彼の異獣白眼狼は、現在は幼体で、三転蛊を使えばまだ奴隷にできる。しかし一旦成年になると、四転蛊も必要になる。そうでなければ、言うことを聞かなくなり、逃げ出すことさえある。
「大人、四転驭狼蛊を一匹発見しました!」ちょうどその時、万狼王の屍体を搜刮していた一人の蛊師が、大声で叫び上げた。
「おや?」葛家の老族长はこれを聞き、眼中に精芒が一閃し、すぐに笑って言った。「はは、宝蛊は英雄に匹敵する。この蛊はまさに常賢弟あなたのために準備されたものだなあ。」
万獣王の体に四転驭獣蛊が寄生する確率は比較的高いとはいえ、方源はやはり喜んだ。
今日のこの一戦は、少しばかりの瑕疵があったとしても、結果としては彼にとって非常に満足のいくものだった。
万狼王を一頭失ったのはやや遺憾だったが、代わりに四転驭狼蛊を手に入れた。
この蛊虫の到来はまさに時機が良かった。 方源がこんな「寝る子に餅」的な好都合な出来事に出会うのは久しぶりだった。
慎重にもこの蛊虫を受け取ると、方源は早速葛家の高官たちに辞去した。続く祝勝会にも、「この四転蛊を力を尽くして煉化するため」という口実を用いて、一切参加しなかった。
夜の帳が下りた。
屋外の祝勝の篝火が、熊々(ゆうゆう)と燃え上がっている。大勝の歓声と、亡き者を悼む泣き声が入り混じり、かすかに方源の耳に届いている。
方源は地面に坐禅を組み、心を落ち着かせ、精神を空窍に探り入れた。
九割まで満たされた真元の海面は、波が静かで、水は黄金の如く輝き燦然としている。残念なことに、未だ北原に完全に適応しておらず、異域の圧制を受けているため、方源の修行は一時的に停滞し、真金の真元は見掛け倒しだ。
しかし修行は、実力の一部に過ぎない。
方源が実力を向上させるには、他の方法もある。
例えば、彼が今取り出した十钧之力蛊のように。
此の蛊も四転だが、四転驭獣蛊と比べると、その価値ははるかに低い。なぜなら、煉製が容易で、コストが安く、市面でも比較的よく見かけるからだ。
十钧之力蛊は、外見は目立たず、普通の鉄の分銅のようである。
方源が催動すると、それは方源の頭頂に浮遊し、玄妙な光を放って、方源の全身を照らし、ある力の道紋を、方源の体に刻印する。
片刻の後、十钧之力蛊は突然軽微な爆発を起こし、微かな鉄滓が落ちて、方源の髪の上に落ちた。
十钧之力蛊も消耗蛊であり、これは方源が使い果たした三匹目の十钧之力蛊である。
方源は頭の鉄滓を払い落とし、両拳を握りしめて、増えた力を感じた。「力の向上は、瓶頸に陥った。次は、自身の骨格、皮膚筋肉、筋腱などを改造し、水桶をより深く、より大きく、より強固に仕上げなければ、さらなる力を担うことはできない。」
方源は目を光せ、再び狼魂蛊を取り出した。
「これが最後の狼魂蛊だ。」
方源が再び真元を催動すると、狼魂蛊は爆発し、一股の灰白の狼魂と化わって、彼の体に衝突した。
百人魂と狼魂が互いに絡み合うが、今回は以前よりも数倍も困難であった。以前方源が狼魂蛊を使った時、麾下の狼群は三千頭余りしかいなかった。今日の一戦で、多くの狼王を征圧したため、魂魄の負担が大きくなっているのだ。
方源は眉を強くひそめ、額に冷や汗がにじみ出て、歯を食いしばって耐え、ついに百人魂と狼魂が互いに融合した。
轟!
耳元でかすかな音がし、方源の計画どおり、長期的な数量の蓄積がついにこの瞬間、質的変化を引き起こした。
百人魂が完全に狼人魂に転じた。
狼人魂全体は深灰色を呈し、極限まで凝練されていた。
魂魄の形象は、大体において方源本来の面影であるが、ただ鼻梁がより高く、目が鋭く変わり、身形は削瘦していた。
頭頂には二つの尖った狼の耳が生え、長い髪は腰の辺りまで垂れ、臀部は毛深い狼の尾のように見えた。
狼人魂が完成するや、方源は瞬く間に安堵の息を吐いた。あたかも千斤の重荷を下ろしたかのようだった。
脳裏には、狼群との繋がりが一層緊密になり、さらには狼王たちの魂魄からは、かすかな親しみの情が伝わってきた。
これは、以前の百人魂では感じられなかったものだ。
狼人魂を成し遂げた後、方源は狼の気配を放つようになり、狼王たちを同族と誤って思わせる。そのため、もはや百人魂の時のような単純な力での圧服ではなく、認め合う気持ちが加わっているのだ。
「百人魂であれほどの狼群を奴役するのは、ほとんど限界だった。今狼人魂となれば、さらに三倍以上の狼王を征圧できる!」
「ただ、今日のような好機は、今後はなかなか巡って来ないだろう。だが草原は広く、狼群も多い。英雄大会へ向かう道中だけでも、この狼群の規模を少なくとも倍にはできるはずだ。」
空いた窍の中に山積みになった二転驭狼蛊、少なからずの三転驭狼蛊、そして一匹の四転驭狼蛊を見つめながら、方源の心中は未来への期待で満ちた。