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蛊真人  作者: 魏臣栋
魔头乱世
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第四十五節:小人の心君子の腹

その()出来事(できごと)展開(てんかい)は、()たして方源(ほうげん)()(どお)りになった。


わずか(いち)(にち)()葛家(かつか)老族长(ろうぞくちょう)方源(ほうげん)(おとず)れ、考えがまとまったと(つた)えた。紅炎谷(こうえんこく)()()かるのはやめ、一族(いちぞく)()げての移住(いじゅう)決意(けつい)し、英雄大会(えいゆうたいかい)参加(さんか)して王庭(おうてい)への駐留(ちゅうりゅう)目指(めざ)すというのだ。


方源(ほうげん)葛家(かつか)老族长(ろうぞくちょう)真意(しんい)(さと)っていた。(ふたた)び「常山阴(じょうざんいん)」を利用(りよう)し、蛮家(ばんけ)支配(しはい)から(だっ)(きゃく)したいだけだった。


方源(ほうげん)(よろこ)んで(どう)()した。自分(じぶん)(ひと)りで草原(そうげん)(たび)するよりも、葛家(かつか)同行(どうこう)すればリスクは格段(かくだん)()る。(どう)()に、自分(じぶん)身分(みぶん)(かく)(うえ)でも好都合(こうつごう)だった。


(かつ)老兄(ろうけい)判断(はんだん)(まと)()ている。だが、出発(しゅっぱつ)(はや)(ほう)()い。もし(なに)かの(かぜ)便(たよ)りがあれば、蛮家(ばんけ)がすぐに()づくだろうからな」方源(ほうげん)はこう()()した。


葛家(かつか)老族长(ろうぞくちょう)(こころ)(なか)ではっとした。この一言(ひとこと)()くだけで、常山阴(じょうざんいん)絶対(ぜったい)物事(ものごと)()かっている人物(じんぶつ)だと(さと)った。


方源(ほうげん)はさらに(はな)(つづ)けた:「もともと蛮家(ばんけ)(おとず)れると約束(やくそく)していましたが、葛家(かつか)移住(いじゅう)されるとなれば、安全策(あんぜんさく)(かんが)え、(わたし)()かないことにします。最近(さいきん)修行(しゅぎょう)(ちゅう)に、(しゅう)()回復(かいふく)する(きざ)しを(かん)じたということにして、閉關(へいかん)すると(つた)えてください。(わたし)から手紙(てがみ)(ひと)(つう)()きますので、老兄(ろうけい)から(だれ)(とど)けてもらうようお(ねが)いしたいと(おも)います」


もし葛家(かつか)移住(いじゅう)しなかったら、方源(ほうげん)蛮家(ばんけ)(おとず)れるのは(なん)問題(もんだい)はなかっただろう。


だが(いま)葛家(かつか)()ろうとしている以上(いじょう)蛮家(ばんけ)眼前(がんぜん)好機(こうき)見逃(みのが)すわけがない。蛮家(ばんけ)警戒(けいかい)しているのは、葛家(かつか)常山阴(じょうざんいん)()()むことだ。もし方源(ほうげん)()ったら、蛮家(ばんけ)常山阴(じょうざんいん)軟禁(なんきん)し、その(あと)葛家(かつか)対処(たいしょ)しようとするかもしれない。


先日(せんじつ)葛光(かつこう)風狼群(ふうろうぐん)(おそ)われた事件(じけん)は、(たか)確率(かくりつ)蛮家(ばんけ)仕業(しわざ)だったに(ちが)いない。蛮家(ばんけ)表向(おもてむ)きは正道(せいどう)名乗(なの)っている以上(いじょう)常山阴(じょうざんいん)殺害(さつがい)することまではしないだろうが、葛家(かつか)という利権(りけん)はあまりに魅力的(みりょくてき)だ。(なん)らかの口実(こうじつ)(つく)って常山阴(じょうざんいん)軟禁(なんきん)することくらい、蛮家(ばんけ)にとっては朝飯前(あさめしまえ)だろう。


葛家(かつか)老族长(ろうぞくちょう)方源(ほうげん)言葉(ことば)()き、(ふか)眼差(まなざ)しで(かれ)一瞥(いちべつ)すると、立ち(たちあ)がって丁寧(ていねい)一礼(いちれい)した:「貴公(きこう)御前(おんまえ)において、(わたくし)(ごと)小才(こさい)など(なに)(やく)()ちましょうか。以前(いぜん)(おろ)かでもありましたが、大局(たいきょく)見通(みとお)されるのは流石(さすが)貴公(きこう)でございます」


「ははは、局中(きょくちゅう)()()けば、往々(おうおう)にして(みず)から(まよ)いを(しょう)じるものでございます。これは(つね)のこと、老兄(ろうけい)心配(しんぱい)なさるに(およ)びません。この()(はな)れさえすれば、葛家(かつか)には海闊天空(かいかつてんくう)()(ひら)けますよ!」方源(ほうげん)はそう葛家(かつか)老族长(ろうぞくちょう)(なぐさ)めると、その()手紙(てがみ)をしたため、(かれ)手渡(てわた)した。


(かつ)老兄(ろうけい)(わたし)は引き(つづ)修行(しゅぎょう)(はげ)まなくてはならないので、ここで見送(みおく)りとなります。」「では、(わたくし)(いま)すぐに移住準備(いじゅうじゅんび)指令(しれい)()します。手紙(てがみ)(かなら)(とど)けますで。では、失礼(しつれい)いたします。」


葛家(かつか)老族长(ろうぞくちょう)手紙(てがみ)()に持ち、部屋(へや)から退(しりぞ)いた。


王族(おうぞく)天幕(てんまく)(もど)ると、(かれ)はすぐに家老(かろう)たちを召集(しょうしゅう)し、全族(ぜんぞく)()げての移住準備(いじゅうじゅんび)(めい)じた。


葛谣(かつよう)縁組(えんぐみ)問題(もんだい)()て、葛家(かつか)家老(かろう)たちは蛮家(ばんけ)(たい)する印象(いんしょう)最悪(さいあく)となっていたため、この決断(けつだん)をこぞって英明(えいめい)だと称賛(しょうさん)した。


葛家(かつか)父子(ふし)書斎(しょさい)(もど)ると、老族长(ろうぞくちょう)はその()方源(ほうげん)から(あず)かっていた手紙(てがみ)(ふう)()った。


阿爸(あば)、それは(すこ)()くないのでは…」葛光(かつこう)()()ける様子(ようす)だった。


「ふっ、今日(きょう)(ちち)がもう(ひと)(おし)えてやろう。これは常山阴(じょうざんいん)蛮图(ばんと)()てた手紙(てがみ)だが、(かれ)は『信蛊(しんこ)』を使(つか)わなかった。その理由(りゆう)()かるか?」葛家(かつか)老族长(ろうぞくちょう)はへへっと(わら)(ごえ)()げた。


信蛊(しんこ)がなかったからですか?いや、もし信蛊(しんこ)使(つか)いたければ、我々(われわれ)葛家(かつか)()りることもできたはずです。」葛光(かつこう)(しば)し考え()んだ(あと)突然(とつぜん)()(かがや)かせた。「まさか(かれ)はわざとそうしたのですか?」


「ははは、その(とお)りだ!(かれ)普通(ふつう)手紙(てがみ)使(つか)ったのは、我々(われわれ)に()ませたかったからに(ほか)ならない。葛家(かつか)(いま)移住(いじゅう)(はじ)めようとしている。これから(さき)(かれ)は我々(われわれ)と(おな)(みち)(たび)する。この手紙(てがみ)は、(かれ)誠実(せいじつ)協力(きょうりょく)する意図(いと)(しめ)すためのものなのだ。さあ、(ちか)くに()なさい。父子(ふし)(いっ)(しょ)()んでみよう。」そう()いながら、葛家(かつか)老族长(ろうぞくちょう)手紙(てがみ)(ふう)()った。


手紙(てがみ)内容(ないよう)簡潔(かんけつ)であった。(みず)からの事情(じじょう)修行(しゅぎょう)専念(せんねん)し、(しゅう)()回復(かいふく)させるため)を説明(せつめい)し、蛮家(ばんけ)直接(ちょくせつ)(おとず)れないことへの遺憾(いかん)()(ひょう)し、今後(こんご)機会(きかい)があれば(かなら)()()わせると(つた)えていた。


手紙(てがみ)後半(こうはん)では、方源(ほうげん)はさらに蛮家(ばんけ)(たい)し、骨竹蛊(こつちくこ)購入(こうにゅう)希望(きぼう)し、市場価格(しじょうかかく)二割増(にわりま)しで取引(とりひき)する意思(いし)(しめ)した。(どう)()に、様々(さまざま)な()煉製(れんせい)材料(ざいりょう)や、三更蛊(さんこうこ)などの蛊虫(こちゅう)多数(たすう)()げ、取引(とりひき)可能性(かのうせい)(さぐ)っていた。


「なるほど、常山阴(じょうざんいん)叔父(おじ)(うえ)は、これらのものが必要(ひつよう)なんですね。阿爸(あば)(わたし)葛家(かつか)としては、できる(かぎ)(かれ)要望(ようぼう)(こた)えるべきだと(おも)います。(なに)しろ、(かれ)はこれまで葛家(かつか)大変(たいへん)世話(せわ)になってきましたから。」葛光(かつこう)はそう()った。


しかし葛家(かつか)老族长(ろうぞくちょう)は、()()った手紙(てがみ)()つめ、()(するど)(ひかり)宿(やど)らせながら、(こころ)()ややかな(さむ)さを(おぼ)えていた。


葛家(かつか)蛮家(ばんけ)のこの(あらそ)いは、そのほとんどが水面下(すいめんか)(おこな)われ、表立(おもてだ)っての衝突(しょうとつ)とはならなかった。これが「正道(せいどう)」と()ばれる(もの)たちの(あそ)びの規則(きそく)なのだ。


犠牲者(ぎせいしゃ)(すく)なからず()た。葛家(かつか)家老(かろう)(ひと)()は、蛮多(ばんた)山門(さんもん)挑戦(ちょうせん)によって(いのち)()とし、葛谣(かつよう)腐毒草原(ふどくそうげん)でその生涯(しょうがい)()じた。これら以外(いがい)にも、(おおかみ)(くち)()った蛊師(こし)数多(あまた)にのぼる。


この(あらそ)いにおいて、蛮家(ばんけ)葛家(かつか)も、勝者(しょうしゃ)とはなれなかった。蛮家(ばんけ)目的(もくてき)達成(たっせい)できず、葛家(かつか)(おお)くの犠牲(ぎせい)(はら)った。


ただ(ひと)()だけ、(たし)かな利益(りえき)()(もの)がいた。その(もの)とは——「常山阴(じょうざんいん)」と名乗(なの)(おとこ)である。


考え(かんがえ)てみてください。「常山阴(じょうざんいん)」は腐毒草原(ふどくそうげん)から(あらわ)れた(とき)無一物(むいちもつ)同然(どうぜん)で、蛊虫(こちゅう)満足(まんぞく)(そろ)っていなかった。では、(いま)はどうだろうか?


この水面下(すいめんか)(あらそ)いの(なか)で、(かれ)十分(じゅうぶん)利益(りえき)()た。元石(げんせき)だけで()ても、百万(ひゃくまん)()える収入(しゅうにゅう)があった。五転(ごてん)蛛絲馬跡蛊(しゅしばせきこ)(ふく)めてはなおさらだ。


葛家(かつか)老族长(ろうぞくちょう)突然(とつぜん)(さと)った:葛家(かつか)常山阴(じょうざんいん)利用(りよう)したが、常山阴(じょうざんいん)(おな)じく葛家(かつか)利用(りよう)していたのだと。常山阴(じょうざんいん)は、無実(むじつ)なように(ふた)つの(ぞく)(あいだ)(はさ)まれ、(あらそ)いの渦中(かちゅう)()()まれ、(かか)わるべきではなかった面倒(めんどう)()ったように()えた。しかし(じつ)は、どちらの(がわ)(かれ)(てき)(まわ)したくなかったため、(かれ)はかえって両方(りょうほう)から利益(りえき)()ることができたのだ!


「我々(われわれ)が常山阴(じょうざんいん)にこれらのものを準備(じゅんび)する必要(ひつよう)はない。手紙(てがみ)()かれている品々(しなじな)は、蛮家(ばんけ)(すす)んで(とど)けてくれるだろう。むしろ、無償(むしょう)(ささ)げてくる可能性(かのうせい)さえ(たか)い。」葛家(かつか)老族长(ろうぞくちょう)(おも)(いき)()()し、まるで(こころ)(なか)にたまっていた(さむ)さを()(はら)おうとするようだった。


「えっ?」葛光(かつこう)非常(ひじょう)(おどろ)いた。「そんなことありえないのでは?常山阴(じょうざんいん)叔父(おじ)(うえ)(あき)らかに我々(われわれ)を(たす)けてくれているのに、蛮家(ばんけ)がそんな(おろ)かな真似(まね)をするわけがないでしょう?」**


(たか)地位(ちい)につく(もの)となれば、物事(ものごと)()()(おの)ずと(ちが)うものだ。これらのものの価値(かち)がどれほどあると(おも)う?せいぜい十数万(じゅうすうまん)元石(げんせき)()ぎない。蛮家(ばんけ)にとっては()るに()らぬものだ。九牛(きゅうぎゅう)一毛(いちもう)とも()えない。そんなわずかな代償(だいしょう)(はら)って、一人(ひとり)高手(こうしゅ)との関係(かんけい)()くできるなら、やらない理由(りゆう)があるだろうか?そして、我々(われわれ)が常山阴(じょうざんいん)にどれだけ(あた)えたかも(かんが)えてみよう。」


葛光(かつこう)即座(そくざ)に、百万(ひゃくまん)元石(げんせき)と、あの五転(ごてん)蛛絲馬跡蛊(しゅしばせきこ)のことを(おも)()した。


葛家(かつか)老族长(ろうぞくちょう)はまた(ふか)溜息(ためいき)をついた。この(なか)にはさらに深層(しんそう)意味(いみ)があったが、葛光(かつこう)説明(せつめい)するにはまだ(はや)すぎると(おも)われた。


常山阴(じょうざんいん)はなぜ蛮家(ばんけ)取引(とりひき)をしようとするのか?


(じつ)はこれは(たん)なる取引(とりひき)ではなく、人脈(じんみゃく)(づく)りだったのだ!この手段(しゅだん)(とお)して、常山阴(じょうざんいん)蛮家(ばんけ)(つぎ)のように(つた)えようとしていた:自分(じぶん)約束(やくそく)(やぶ)蛮家(ばんけ)(おとず)れず、葛家(かつか)()()いてはいるが、蛮家(ばんけ)(てき)ではないと。(かれ)蛮家(ばんけ)不倶戴天(ふぐたいてん)(かたき)となりたくはなく、友人(ゆうじん)となりたい。そのために取引(とりひき)可能性(かのうせい)(しめ)したのだ。


蛮图(ばんと)(おろ)(もの)ではない。手紙(てがみ)(なか)()められた常山阴(じょうざんいん)好意(こうい)を、当然(とうぜん)()()ることができた。もし蛮家(ばんけ)がこの取引(とりひき)拒否(きょひ)すれば、それは方源(ほうげん)善意(ぜんい)(こば)むことになる。もし定価(ていか)(どお)りの取引(とりひき)(おこな)えば、それは冷淡(れいたん)不満(ふまん)態度(たいど)(あら)われだ。では、(おく)(もの)として提供(ていきょう)すればどうか?それは蛮家(ばんけ)がこの好意(こうい)()()れ、常山阴(じょうざんいん)との友好関係(ゆうこうかんけい)(きず)意思(いし)があることを意味(いみ)する。


取引(とりひき)自体(じたい)重要(じゅうよう)ではない。重要(じゅうよう)なのは、取引(とりひき)背後(はいご)にあるものだ。


このような暗黙(あんもく)(てき)(ふく)みのある交流(こうりゅう)こそ、正道(せいどう)(こう)()(しゃ)(この)んで(おこな)()()きなのだ。


葛家(かつか)老族长(ろうぞくちょう)突然(とつぜん)(あたら)しい考えが(ひらめ)いた:「もしや、常山阴(じょうざんいん)がこれほどまでに葛家(かつか)(たす)けるのは、(かなら)ずしも(かれ)(ただ)しき人柄(ひとがら)のためではなく、葛家(かつか)とともに()つことで(はじ)めて最大(さいだい)利益(りえき)()られるからなのではないか?」


蛮家(ばんけ)はもともと勢力(せいりょく)(つよ)く、常山阴(じょうざんいん)(くわ)わっても、錦上(きんじょう)(はな)()える程度(ていど)()ぎない。しかし葛家(かつか)弱体(じゃくたい)であり、常山阴(じょうざんいん)(くわ)わりは、まさに雪中(せっちゅう)(すみ)(おく)るが(ごと)く、勢力(せいりょく)天秤(てんびん)(かたむ)かせる重要(じゅうよう)分銅(ふんどう)となる。


この考えが(あたま)をよぎった(とき)葛家(かつか)老族长(ろうぞくちょう)全身(ぜんしん)にわずかな(ふる)えを(おぼ)え、(こころ)には(さむ)さが急激(きゅうげき)(ひろ)がり、(ほね)(ずい)まで(こお)りつくかと(おも)われるほどだった。


老族长(ろうぞくちょう)(おも)わずこの推測(すいそく)否定(ひてい)した:「もし常山阴(じょうざんいん)のような英雄(えいゆう)でさえこのように計算高(けいさんだか)くならば、この()にはもはや正義(せいぎ)(ひかり)もないということになる。(わたし)小人(しょうじん)(こころ)君子(くんし)(はら)(はか)っているのだ。」


(みっ)()()


蛮家(ばんけ)父子(ふし)らは、(おか)(うえ)()ち、葛家(かつか)一族(いちぞく)がゆっくりと(みなみ)()かって移住(いじゅう)して()くのを見送(みおく)っていた。蛮图(ばんと)()複雑(ふくざつ)であったが、(ひと)つの決意(けつい)(かた)まっていた。一方(いっぽう)で、蛮多(ばんた)(くちびる)()()め、()には(あき)らかな不満(ふまん)(いろ)()かんでいた。草原(そうげん)(かぜ)(かれ)らの()(ひるがえ)らせ、(とお)くでは(かげ)りのある(くも)がゆっくりと(なが)れていた。


父上(ちちうえ)……息子(むすこ)理解(りかい)できないことが(ひと)つあり、ご教示(きょうじ)()いたく(ぞん)じます。」蛮多(ばんた)(くち)(ひら)いた。


()え。」


手紙(てがみ)(しる)されていた品々(しなじな)を常山阴(じょうざんいん)にすべて(おく)ることは、息子(むすこ)理解(りかい)できます。しかしなぜ葛家(かつか)三万担(さんまんたん)もの食糧(しょくりょう)(おく)必要(ひつよう)があるのでしょうか?葛家(かつか)という美味(おい)しい獲物(えもの)(のが)した(うえ)に、さらに()()すというのは……」蛮多(ばんた)表情(ひょうじょう)(あき)らかに納得(なっとく)いかなかった**。


蛮图(ばんと)(ふか)(ちん)んだ()で、(とお)ざかる葛家(かつか)大行列(だいぎょうれつ)()つめ、簡潔(かんけつ)一言(ひとこと)だけ()った:「蛮豪(ばんごう)、お(まえ)説明(せつめい)しろ。」


(かたわ)らに()っていた家老(かろう)蛮豪(ばんごう)は、笑顔(えがお)説明(せつめい)(はじ)めた:「(わか)(さま)、ご心配(しんぱい)いりません。(じつ)族長様(ぞくちょうさま)はとっくに()()っておられます。葛家(かつか)がそのまま()って()けると(おも)っているなら、(かれ)らは(あま)すぎます。三万担(さんまんたん)食糧(しょくりょう)(なか)には、たくさんの『引狼蛊(いんろうこ)』が仕掛(しか)けられています。(どう)()に、すでに(ぞく)(もの)先回(さきまわ)りして、およそ三群(さんぐん)万狼群(ばんろうぐん)(おび)()せ、(かれ)らを()()せしていますので。」


「なるほど!」蛮多(ばんた)瞬時(しゅんじ)合点(がてん)がいった。「父上(ちちうえ)英明(えいめい)でいらっしゃる!葛家(かつか)狼群(ろうぐん)()えきれなかった(とき)、我々(われわれ)が出動(しゅつどう)して(すく)い、その好機(こうき)併合(へいごう)する。たとえ(のち)(うたが)(もの)(あらわ)れても、この三万担(さんまんたん)食糧(しょくりょう)父上(ちちうえ)公正(こうせい)さと誠実(せいじつ)さを(しめ)十分(じゅうぶん)証拠(しょうこ)となり、(かれ)らの(くち)(ふう)じることができる。ただ…」**


そこまで()うと、蛮多(ばんた)口調(くちょう)躊躇(ちゅうちょ)がちになった。


蛮豪(ばんごう)はため(いき)をついて、(はな)()いだ:「若様(わかさま)がおっしゃりたいのは、この方法(ほうほう)では葛家(かつか)にも(おお)きな損害(そんがい)()て、我々(われわれ)が併合(へいごう)して()利益(りえき)(すく)なくなり、さらに負傷者(ふしょうしゃ)世話(せわ)(つい)()費用(ひよう)もかかるということでしょう。」


しかし蛮多(ばんた)(くび)()る。蛮豪(ばんごう)()ったことは、(かれ)心配事(しんぱいごと)とは(ちが)ったのだ:「(わたし)()になるのは、葛家(かつか)にはあの常山阴(じょうざんいん)がいるということです。(かれ)は『狼王(ろうおう)』と()ばれている。()たして狼群(ろうぐん)(かれ)()められるのでしょうか?」


蛮图(ばんと)(まゆ)がわずかにひそめられた。


蛮多(ばんた)言葉(ことば)は、まさに(ちち)心配事(しんぱいごと)(まと)いた。(かれ)(おな)(うれ)いを(かか)えていたのだ。


しかし葛家(かつか)撤退(てったい)はあまりにもあっさりとしていた。蛮家(ばんけ)正道(せいどう)家柄(いえがら)であり、一挙手一投足(いっきょしゅいっとうそく)(あた)える影響(えいきょう)考慮(こうりょ)しなければならない。(みじか)期間(きかん)準備(じゅんび)できたのは、この三群(さんぐん)万狼群(ばんろうぐん)(おび)()すことだけであった。


もし葛家(かつか)狼群(ろうぐん)攻撃(こうげき)()()いた場合(ばあい)蛮家(ばんけ)()をこまねいて(かれ)らが()って()くのを()るしかない。しかし攻防(こうぼう)(なか)葛家(かつか)甚大(じんだい)損害(そんがい)()ければ、蛮家(ばんけ)には『救援(きゅうえん)』という大義名分(たいぎめいぶん)(かか)げて出兵(しゅっぺい)する理由(りゆう)()まれる。


この計画(けいかく)最大(さいだい)不安要素(ふあんようそ)は、常山阴(じょうざんいん)存在(そんざい)であった。


三公子(さんこうし)、ご心配(しんぱい)なさりませんよう。(たし)かに常山阴(じょうざんいん)は『狼王(ろうおう)』と()ばれていますが、それは二十数年前(にじゅうすうねんまえ)(はなし)でございます。(げん)(ざい)(かれ)(しゅう)()四転初階(してんしょかい)()ちております。あの夜宴(やえん)(さい)にも、我々(われわれ)は(ひそ)かに(さぐ)ってみましたが、(かれ)(たましい)ももはや(せん)(にん)(だま)ではなく、(いま)では(ひゃく)(にん)(だま)程度(ていど)でしかないのでございます。」蛮豪(ばんごう)軽蔑(けいべつ)()められた口調(くちょう)でそう説明(せつめい)した。


「ははは、たとえ狼王(ろうおう)といえども、(いま)(かれ)(いき)()()えの()いた狼王(ろうおう)()ぎません。そして、(かれ)()(もと)には一体(いったい)どんな()(ふだ)があるというのでしょうか?風狼(ふうろう)千頭余(せんとうあま)り、毒須狼(どくしゅろう)千頭余(せんとうあま)り、水狼(すいろう)千頭余(せんとうあま)りです。はははは!数万頭(すうまんとう)にも(およ)狼群(ろうぐん)(まえ)にしては、これらの戦力(せんりょく)(なに)(やく)()つでしょうか?(わたし)()るに、(ちか)将来(しょうらい)(かれ)名声(めいせい)()()ちるでしょう。我々(われわれ)は悠々(ゆうゆう)と葛家(かつか)併合(へいごう)していればよいのです。」


蛮多(ばんた)直接(ちょくせつ)反論(はんろん)しないで、ただ「そう(ねが)おう。」とだけ()った。









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