強者が尊ばれ、実力がすべての北原において、蛮多が父の寵愛を受け、家老を動員し、葛家全体に挑戦するとは。これは明らかに、彼の手腕と勇気が並みの道楽息子ではないことを示している。
方源は目に笑みを浮かべて言った。「私常山陰は縁あって葛家の客となった。北原のならわしも知っているから、余計な世話は焼くべきではないのだが――ただ今、この弟分が十万枚の元石を出すと言うのを耳にした。折よく私は元石に困っている。差し出された財宝、もらわない手はあるまい?」
石武はこの言葉を聞いて、即刻自分の口を殴りたくなった。
「この口は本当に災いを招く!四転の高手を呼び寄せてしまうとは!」彼の心中は苦さで満たされた。
蛮多は苦笑いを浮かべて言った。「この件は簡単に解決できます。先輩が元石に困っておられるなら、後輩から五十万枚の元石を差し上げましょう!」
この言葉の裏には、方源に傍観を求める意味が込められていた。
一瞬にして、葛家の者たちは皆、緊張した面持ちで方源を見つめた。
方源は確かに伝説の英雄ではあるが、名声ばかりが先走って実力が伴わない英雄など、数多存在するではないか。
さらに「時務に通じる者は俊傑である」という言葉もある。葛家は零落し、蛮家は勢い盛んである。常山陰はあくまで外部の者であり、手を貸す理由などない。
今、方源は衆目の的となった。彼の態度が、この局面の行方を決定するのである。
衆目睽睽の下、方源は傲然と笑った。「君子は財を愛するも、之を取るに道をもってす。差し出された五十万は軽く感じるが、戦いで得る十万の元石こそ重みがある。さあ、北原の規矩に従い、この勝負は私が引き受けよう」
方源は歩み出て場に下りた。
「常山陰叔父上!」葛光は感極まって涙を流し、言葉も出ず、方源の後ろで叫んだ。
葛家の家老たちも、皆感無量の面持ちであった。
「流石常山陰、正道の英雄よ!」
「厚利の前でも微動だにせず、何と正義感に富んだ人だろう」
「この世は錦上花を添える者は多く、雪中炭を送る者は少ない。常山陰は我が族の永遠の客となるだろう!」
蛮多の顔色は暗く沈み、極めて険しい表情を浮かべていた。もはや言葉を重ねても無駄だと悟り、口を閉じて石武の方を見た。
石武は蛮多の視線を感じ取り、心中は苦さで満ちあふれた。
彼が蛮家に帰順してから日が浅く、蛮家の外姓家老となったばかりだった。当然、功績を焦って立てたいと思っていた。蛮多は修行が足りないとはいえ、族長の三男である。葛家の老族長が重病だと明言されたため、ついて来たのだ。思いもよらなかったのは、常山陰に出会うことなど!
相手の気息は四転初階で、自分は三転巅峰であり、見た目は大差がないように思える。しかし石武は深く理解していた――この大境界の隔たりがもたらす実力差という決壊を。
しかし今、状況はもはや虎に乗り降りできず、もし戦いを避けようものなら、外の者たちの強烈な侮蔑を受けるだろう。勇武を尊ぶ北原では、やっていけないのである。
石武はひそかに歯を食いしばり、やむなく場に立った。
「ご教授を賜りたい」彼は方源に深く一礼し、無理に笑顔を作った。
方源は淡々(たんたん)と肯き、その場に立ったまま動かなかったが、体表には淡青色の狼毛が急速に生え始めた。
狼毛は彼の全身を覆い、耳、顔、さらには足の裏や手の平にまで及んだ。
「これは天青狼皮蛊だ」石武は心中で暗然とした。天青狼皮蛊は四転蛊虫の中では大道りものだ。だが、たとえそうであっても、この防御層を、三転蛊が容易に貫けるものではない。
方源の背後にいる葛家の人々(ひとびと)は、誰一人として息を呑んで見つめ、目を輝かせて方源が大いなる威力を発揮するのを期待していた。
中には「あの野郎を殺せ!奴は我が族の三家老を殺したのだ!」と怒号する者もいた。
この言葉を聞いた石武は、肝を冷やし、内心で悲鳴を上げた。「最悪だ!先の二戦で空窍の真元は三割も残っていない。万全の状態でも敵わないのに、まして今の状態では?」
動作が硬く、目が泳いでいる石武を見て、方源は内心で冷笑した。この男はすでに戦意を完全に失っており、仮に全力があっても半分も発揮できない。ましてや数回戦い、真元が不足している現状ではなおさらだ。
こんな相手は、方源の目には自ら進んで屠たれようとする俎上の魚同然である。
だが方源は彼を殺すつもりはなかった。
殺して何になる?
奴は蛮家が招いた外姓家老だ。殺せば、蛮家への鮮烈な平手打ちとなる。方源は面倒を恐れはしないが、無用な争いは避けたい。
石武が葛家の家老を殺したとしても、葛家など自分に関わりがあるか!
「かかってこい!」方源は足を地に踏み鳴らすと、狼奔蛊を駆り、矢の如く猛然と飛び出した。その速さは残像を引くほどだった。
石武は早に戦意を喪失しており、方源の凶暴な気勢を見て慌てて後退した。
同時に、彼は三枚の回転する骨盾を展開した。
パン!パン!パン!
方源は影の如く追いすがり、至近距離で戦いを仕掛け、三度にわたる猛烈な攻撃で骨盾を次々(つぎつぎ)に打ち砕いた。
石武は驢馬の転がり(ろばごろがり)のように地面を転がり、再び三枚の骨盾を召喚した。
パン!パン!パン!
方源の電光石火の攻撃の下、三枚の骨盾は再び崩壊した。
今の彼には二十鈞の力がある。全てを発揮できないにせよ、この骨盾を破るのは朝飯前だ。
「他に何かあるなら、全部使ってみろ」方源はこれ以上攻撃せず、石武に息をつく隙を与えた。
石武は額に冷たい汗を浮かべ、歯を食いしばりながら両手を擦り合わせ、二振りの鉄骨の板斧を生成した。
「うわあああ!」彼は叫び声を上げ、板斧を握りしめて猛然と攻め寄せた。
「ふふふ…」方源は軽く笑ったが、攻撃はせず、両手を後ろで組み、狼行蛊の移動のみで対応した。
方源の動きは定まらず、風に舞う柳絮のようで、狼のような背中と蜂のように締まった腰の体型が、一層飄逸とした風格を際立たせていた。
石武は怒号を上げ、両手の斧をどう振り回しても、方源の衣の端一つ捉えられず、完全に方源の引き立て役と化していた。
「寝転べ」方源は軽やかに息をつくと、突然、指先を伸ばした。ゆっくりと見えて実は速く、軽く斧の刃を一つ弾いた。
石武は方源に翻弄されてすでに目を回しており、この一撃を受けて均衡を失い、地面にまっさかさまに倒れ、犬のように土を喰らう形となった。葛家の人々(ひとびと)はこの無様な姿を見て、どっと歓声を上げ、欢呼の声は天を震わすほどで、次第に一つの叫び声に収斂していった。「殺せ!殺せ!」
石武の顔は灰色を帯び、戦意はほとんど消え失せていた。方源は完全に局面を支配しており、まさに虎が羊を弄ぶかのようだった。自分は方源の敵ではないと悟れば悟るほど、実力は発揮できなくなり、状況はますます悪化していく。
傍らにいる蛮多の心も谷底に沈んでいった。
「腹立たしい!石武という奴、本来の実力をまったく発揮できていない。もう敵に肝を潰されているのだ!だが仮にそうだとしても、この四転蛊師は強すぎる。のんびり歩いているだけで、石武家老を倒してしまうとは。はあ、石武は死ぬだろう。今回の行きで家老を一人失えば、帰ってから兄弟たちの責難を受けることになる」
しかし彼の予想に反して、方源はさらに手を出さなかった。
「お前は所詮三転に過ぎん。四転の修為でお前を殺せば、我が常山陰が大を以て小を欺くと思われかねん。行ってしまえ」方源は手を振った。
「常山陰叔父上!あの小人物を見逃してはなりません!」後ろで葛光が叫んだ。
しかし方源は彼を無視した。
石武は我に返り、すぐに起き上がった。顔には危ない所で助かった安堵と喜びで一杯だった。「お命を助けてくださり感謝いたします。感謝いたします」
方源は眉をひそめた。「早く失せろ」
「はいはいはい」石武は踵を返して逃げ去った。
「先輩、失礼いたします」蛮多は一礼し、軍馬に跨がった。一行は葛家の嘲罵の声の中、恥じ入りながら去っていった。
……
「父上、息子が仕えを誤り、この度はお詫びに参りました」蛮多は地面に跪き、頭も上げられなかった。
蛮家族長は躯が雄壮で、四転の頂点という修為を有する。虎皮の座席に大馬金刀に座り、足元の蛮多を一瞥して言った。「今回は葛家の老族長が病床に臥している上、お前は数名の三転の高手を連れていたというのに、まさか失敗するとは?確かにお前の不手際だが、下僕の報告では、葛家が突然四転の高手を繰り出したというな?」
「誠にその通りでございます。石武家老は彼の手に敗れました。此奴はほんの腕試し程度で、我が方最強の石武家老を弄びました。実力は計り知れません。しかし、この件は一貫して息子が担当しており、全て(すべて)は息子の情報収集が不十分だったために招いた失敗です。息子、心から恥じ入り、父上どうか早くお罰を下さい!」蛮多は目を真っ赤にし、涙を浮かべて嗚咽した。
蛮家族長は蛮多の言葉を聞くと、かえって口調を和らげた。「立ち上がれ。今回の失敗は確かにお前の不手際だが、所詮我が子である。詳しい状況を話してみよ」
蛮多は口を開き、当時の様子を細かに述べ始めた。
しかし話が始まったばかりで、蛮家族長は驚いて座席から飛び起き、両目を蛮多に据えて言った。「奴は常山陰と名乗っただと?どこの常山陰だ?名前が確かに常山陰だと断言できるのか?」
「息子に万に一つの偽りもございません!」蛮多は慌てて澄ました。
蛮家族長は呆然としばし絶句した。
「父上、父上」蛮多は声を潜めて呼びかけるしかなかった。「まさかこの常山陰という者、何か由緒ある人物なのでしょうか?」
蛮家族長は茫然とした状態から脱し、我に返ると、目を厳しくして言った。「今のところ何とも言えん。偽者の可能性もある。しかしもし本物ならば、北原にまた一人、人物が現われたことになる……まずは下がれ。この件は私が直接処理する」
蛮多は驚いた。父は多忙を極める身である。それをこの件を直接処理するとは、常山陰という人物の重要さが窺える。
「常山陰、常山陰……つまるところ、お前は何者なのだ?」
……
数日後、葛家にて。
「先日は、山陰老弟の義侠心に助けられ、誠に感謝しております。ここに五十万枚の元石、ほんの心ばかりですが、どうかお納めください」葛家老族長は憔悴した面もちで、娘を失った悲しみから、十歳も老けたように見えた。
方源は少しばかり辞退した後、受け取った。「この度貴家に滞在し、手を貸すのは友として当然のこと。只、私は確かに元石に困っておりますので、これらの元石は一時的にお借りするということで」
「山陰老弟の高潔な気風、流石北原の英雄好漢です」老族長がそう言っていると、部下が報告に来て、名刺と贈り物の箱を届けた。
老族長の表情が険しくなり、その名刺と贈り物を方源に渡した。「山陰老弟、蛮家族長が貴方がここにいることを知り、今回は族の中へ客として招きたいとのことです」