毒須狼群は一瞬の躊躇もなく、風狼群に向かって猛攻撃を開始した。
「毒須狼だ!」間もなく、蛊師たちも毒須狼群に気づき、一斉に顔を上げて眺めやった。
「奇妙だ。毒須狼は腐毒草原でしか活動しないはずでは?どうして外まで出てきたのだろう?」蛊師たちは困惑し、理解に苦しんだ。
「おそらく蛊師に駆られているのだろう!」葛光は両拳を握り締め、急速に接近する毒須狼群を見つめ、絶望していた瞳に再び希望の光が灯った。
「若様のご明察!ご覧ください、あそこに確かに人影が!」数息後、一人の蛊師が遠方を指差して叫んだ。
人々(ひとびと)の熱い視線の先、方源が駝狼に騎り、人々(ひとびと)の視界に現われた。
「助かった!」人々(ひとびと)は歓声を上げた。
「必ずしもそうとは限らん」葛光は目を細め、冷徹な判断を下した。「毒須狼の数は千に満たず、まだ何とも言えん。この者の驭狼術次第だ」
彼の指摘を受けて、蛊師たちも憂慮し始めた。
「来たのはおそらく奴道蛊師だろうが、毒須狼の数が少なすぎる」
「困ったことに、毒須狼は日光の下では戦闘力が削がれ、風狼より少し劣るのだ」
「最悪だ。この奴道蛊師の身边には千獣王一頭おらず、百獣王が数頭いるだけでは、風狼王の突撃を防ぎきれまい!」
葛光が突然口を開けた:「問題ない。この蛊師が毒須狼を一ヶ所に集中させ、突撃をかけて陣形を突破すれば、我々(われわれ)を救い出せる可能性もある」
この言葉は一同の不安を大きく和らげた。しかし、彼らが希望の灯を灯した瞬間、方源は心で一つ念じ、毒須狼群全体がまるで撒き散らされた水のように地面に叩きつけられ、轟音と共に散り散になって広がった。
「こ、これは!」多くの蛊師が呆然として言葉を失った。
「もう終わりだ。自ら死地に飛び込むようなものだ!」何人かは目を閉じた。
「馬鹿者め、チャンスをこんなに無駄にするとは!」蛊師の一人は悔しさの余り地団太を踏んだ。彼らは計り知れない失望に襲われ、激しく呪いの言葉を吐き、中には方源を憎む者さえ現われた。
葛光の顔色も青ざめた。生き残る可能性があるなら、誰も死にたくはない。方源の出現は皆に希望を与えたが、その本人が自らその希望を握り潰すとは!
風狼王が一声吠えると、風狼群全体が反撃に転じた。
二つの狼群がまさに激突せんとする瞬間、方源が突然長嘯を発した。
人間である彼が、今はまるで狼のように吠え叫ぶ。
その叫び声は蒼涼として野性的で、夜の大風の中で揺らめく篝火のようだった。
狼の遠吠えは半径八百歩に響き渡った。この範囲内の毒須狼はこの叫び声を聞くと、狂ったように二倍の戦闘力を爆発させた!
「あっ、これは四転狼嚎蛊だ!狼群の戦闘力を急激に高める珍貴な蛊で、来たのは四転蛊師だったのか!」
方源のこの一声は、まさに天を衝くような衝撃で、蛊師たちの顔色を一瞬にして変えさせた。
多くの絶望に沈んでいた瞳に、再び希望の輝きが灯った。
四転と三転では、次元が違う。
三転は族中の長老、四転は一族の長だ。
葛光でさえ、まだ三転高階に過ぎない。
方源の真の実力を知ると、もはや罵声を浴びせる者は一人もいなかった。北原の蛊師は勇猛ではあるが、決して傲慢ではない。彼らの骨の髄までには、強者へ対する尊敬と、力へ対する謙遜が染み込んでいるのだ。
毒須狼は本来風狼より劣っていたが、今や戦闘力が急激に高まり、逆に風狼を上回すほど強くなった。
戦闘開始から間もなく、風狼群は次第に敗退し、戦場には大量の風狼の死体が転がった。十匹の風狼が死ぬごとに、一匹の毒須狼が犠牲になる割合だった。
「なんと精妙な驭狼術だ!」この戦損比に、葛家の蛊師たちは目を剥いて見入った。
「信じがたい!これは驭獣大師の域だ。来たのは一体何者なのだ?」多くの者が方源を見る目は、まるで怪物を見るかのようだった。
「この辺りにこんな高手が潜んでいたとは、聞いたこともない!」人々(ひとびと)は当然ながら驚きと喜びでいっぱいだった。
方源の強勢な戦いぶりに、風狼群は注意を毒須狼群に集中させた。葛家の蛊師たちに対しては包囲するだけで攻撃を加えず、これによって彼らは絶体絶命の危機から逃れ、貴重な息をつく機会を得た。
「風狼王が出撃した!」葛光が突然口を開け、一言で皆の心配を再びかき立てた。
風狼王は並外れた知性を持ち、二声吠えると身边に大勢の精鋭を迅速に集結させた。
間もなく、風狼王を先頭に、この精鋭部隊は矢のように毒須狼の陣に突入し、中央を貫いて方源へ向かい猛攻撃を開始した。
奴道蛊師が最も(もっとも)恐れるのは斬首戦術だが、この風狼王は千獣王であり、狼群の精鋭を率いての突撃は、まさに阻むべからざる勢いだった。一方、方源の手元には百獣王級の毒須狼王が数匹いるだけである。
しかし方源はこれを見て驚くどころか、かえって喜び、淡く笑った。「果たして耐え切れなかったな」
風狼王は他の野生の狼よりもはるかに知性があるが、やはり獣であり、人間の霊性には及ばない。他の狼群と戦う場合、方源自ら突撃する必要がある。しかし風狼王との対戦では、方源はわざとこのような陣勢を築き上げ、見事に風狼王を誘い出して自ら突撃させたのだ。
シュッ!
疾走中の風狼王が突然口を開け、三枚葉の大風刃を吐き出した。
風刃は飛翔し、狼群を衝き破り、血の道を開いて、まっすぐ方源に向かって斬り込んだ。
「危ない!」丘の上の一人の蛊師が思わず叫び声を上げ、他の者も心臓が喉まで飛び出そうになった。
方源は微動だにせず、風刃がまさに身に迫る瞬間になって初めて、駝狼を操って軽くかわした。雲淡く風軽やかに、見事に回避に成功し、青緑色の風刃は彼の脇をかすめて飛んでいった。
「高手だ!」方源のこの危険に直面しても恐れず、微動だにしない気魄に、蛊師たちは即座にこの言葉を思い浮かべた。
方源が心の中で一つ念じると、何匹もの毒須狼王が既に準備を整えて駆け寄り、戦陣を組んで風狼王の行く手を阻んだ。
風狼王は速度が速く、攻撃力に優れ、防御も堅固で、どの毒須狼王よりも強い。しかし、左右に突進しても、どうしてもこの防壁を破ることができない。
方源は精妙な指揮によって、弱みを強みで制し、風狼王を完全に封じ込んでしまった。風狼王は無念そうに怒り狂って吠えるしかなかった。
「恐ろしい!堂々(どうどう)たる風狼王が、この男に完く手玉に取られている」
「この者の驭獣術は、江暴牙、楊破桜、馬尊に匹敵する。当今の北原に、また一人一流の奴道強者が現われたのだ!」
「もし彼の麾下の狼群がさらに数倍強くなれば、一人で中小規模の部族と対等に戦える力を持つだろう」
「この者は一体誰だ?見た目はかなりの年配だ」葛光は方源が風狼王を翻弄する様を見て目がくらみ、思わず畏敬の念を抱いた。
人々(ひとびと)は皆首を振り、様々(さまざま)に推測したが、これが方源にさらに神秘のベールを纏わせることになった。
「頃合だな」と方源は呟いた。
彼は戦局のすべてを掌握しており、風狼王が逃げ出そうとするのを見て、相手の戦意が尽きたことを悟った。
「三転驭狼蛊、行け!」
方源が心念を駆ると、唯一の三転驭狼蛊が飛び出し、一筋の軽煙と化って風狼王を包み込んだ。
風狼王は激しく咆哮を続け、魂魄が抵抗して、しばらくは軽煙を押し退け、方源の圧力に屈しなかった。
「ふん」方源の目に鋭い光が走った。百人魂を持つ彼は、魂魄同士の戦いなど微かも恐れない。
果たして、風狼王はしばらく抵抗した後、ついに敗れ、方源に屈服した。
「この人、魂魄が強すぎる!おそらく百人魂を持っているだろう!」と誰かが驚嘆した。
「これほどの奴道の造詣なら、百人魂があっても不思議ではない」と即座に反論する者も現われた。「江暴牙や楊破桜、馬尊のような者は、各千人魂を持っているのだから」
無事に驭狼蛊の種を植え付けた方源は、最初の千狼王を手に入れた。
風狼王が一声吠えると、狼群は即座に動作を停止した。さっきまでの喧噪たる戦場が、突如として静寂に包まれた。
残り千頭余りの風狼群は、方針を転換し、方源の麾下に加わった。
こうして、方源の手の中の狼群の規模は急激に二倍に膨れ上がり、二千四百頭余りに達した。「今回は運が良かった。もしこれらの蛊師たちが牽制していなければ、この風狼王を征服するのにより大きな代償を払わなければならなかっただろう」方源は駝狼に騎り、ゆっくりと丘の方へと歩き出した。
葛光たちは思わず息を呑んだ。眼前のこの人物が、彼らの生殺与奪を決めるのだ。
方源が近づくにつれて、葛光が率先して群衆から飛び出し、右手で胸を押さえながら方源に深く鞠躬し、大声で言った。「尊敬すべき強き者よ、あなたの強さは私を敬服させると同時に畏怖させる。今、我々(われわれ)の命はすべてあなたの手の中にある。生かすも殺すも、すべてあなたの采配次第だ。我々(われわれ)に異論は一切ない」
「ふふふ、若き勇者よ、君の先の戦いは見ていた。まるで荒馬のように悍しく、思わず若き頃の自分を思い出させてくれる」方源は狼の背中に座り、呵々(かか)と笑いながら優しい目で一同を見渡した。「君たちは私が腐毒草原から出て最初に出会った者たちだ。再びこの地に帰れて嬉しい。安心するがいい、私常山陰は冷酷無情な人間ではないのだから」
方源の言葉を聞いて、蛊師たちは一斉に笑い出し、完全に緊張を解いた。
彼らの真元は完全に枯渇しており、もし方源が殺意を持てば、反撃する力など微かもなかった。
時には人は狼よりも危険だ。もし魔道蛊師に遭遇していたら、結末はさらに凄惨なものになっていたかもしれない。今人々(ひとびと)は皆庆幸しており、自分たちが出会ったのは正道の高手だと感じている。
「常山陰恩人、私は葛家部族の少族長でございます。命の恩人として、どうか感謝の機会を賜りたく。どうか我々(われわれ)の天幕へお越しください。全力を尽くしてご歓待いたします」と葛光は誠実に誘った。
もちろん、感謝の気持ちは本物だが、もう一方では方源の実力を見込んでのこともある。こんな高手と繋がりを持つ機会は、彼個人だけでなく、部族全体にとっても好都合なのだ。
「葛家か?」方源は一瞬沉吟してから言った。「よかろう。わしの元石はとっくに尽きておるし、蛊虫も補充が必要じゃ。確かにひと休みせねばならんのう」
彼は言葉の端々(はしばし)に自身の要求を滲ませ、葛光にさりげなく示した。
果たしてこの少族長は目を光せ、この言葉を暗に記憶すると、朗らかに笑い出した。「常山陰恩人、お引き立てありがとうございます。では、私が道案内を務めさせていただきます!」