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蛊真人  作者: 魏臣栋
魔头乱世
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第三十一節:道中で死んでも絶対に後悔しない

たとえ昼間(ひるま)でも、腐毒草原(ふどくそうげん)陰鬱(いんうつ)としている。(あつ)暗雲(あんうん)陽光(ようこう)(めぐ)みを(さえぎ)っている。


(ひく)(ゆる)やかな土丘(どきゅう)(かげ)で、一頭(いっとう)駝狼(だろう)(ひそ)かに(ひそ)んでいる。


駝狼(だろう)(からだ)が大きく、軍馬(ぐんば)匹敵(ひってき)する。全身(ぜんしん)(くろ)(なが)狼毛(ろうもう)()えており、背中(せなか)には(ふた)つの()せたコブがある。一対(いっつい)(おおかみ)()(くら)がりの中で、(かす)かに(ひか)っている。


土丘(どきゅう)()せったまま微動(みどう)だにせず、あたかも石像(せきぞう)のようだ。呼吸(こきゅう)さえも(きわ)めて(ゆる)やかにしており、一見(いちげん)したところ黒鉄(くろがね)(かたまり)のように()える。


突然(とつぜん)駝狼(だろう)(なが)()びた(おおかみ)(みみ)が、(かす)かに(ふる)えた。


驼狼(だろう)視線(しせん)(した)で、一匹(いっぴき)灰色(はいいろ)のウサギが土丘(どきゅう)のふもとの洞穴(ほらあな)から()()て、食料(しょくりょう)(さが)(はじ)めた。


()(まわ)りには(ゆた)かな野草(やそう)があるのに、灰色(はいいろ)のウサギは(かま)わずに(ただ)ちに()()して、(とお)くの(くさ)(さが)(もと)めた。


ウサギは()(まわ)りの(くさ)()べない。()(まわ)りの(くさ)()べると、それが()んでいる洞穴(ほらあな)暴露(ばくろ)されてしまう。


駝狼(だろう)灰色(はいいろ)のウサギが()()くのを()て、その(まぶた)がさらに(ひく)()()がり、(おおかみ)(ひとみ)大部分(だいぶぶん)(おお)(かく)し、ほんの一絲(いっし)隙間(すきま)だけを(のこ)した。


灰色(はいいろ)のウサギは(くさ)()べながら、(たか)双耳(そうじ)()てる。一旦(いったん)(なに)物音(ものおと)がすると、それは敏捷(びんしょう)(あたま)()げ、あちこちを見回(みまわ)し、非常(ひじょう)警戒(けいかい)している。


駝狼(だろう)(おどろ)くべき忍耐力(にんたいりょく)()ち、灰色(はいいろ)のウサギは(うれ)しそうに()べているが、駝狼(だろう)微動(みどう)だにせず、()んだかのようだ。


灰色(はいいろ)のウサギは(くさ)()(つづ)け、美味(おい)しい()(もの)夢中(むちゅう)になっている。


満腹(まんぷく)になると、それは(かえ)(みち)(ある)(はじ)めた。


ちょうどその(とき)駝狼(だろう)猛然(もうぜん)(うご)()した。土丘(どきゅう)から()()して、灰色(はいいろ)のウサギに()かって(おそ)いかかった。


灰色(はいいろ)のウサギの(かえ)(みち)駝狼(だろう)遮断(しゃだん)され、驚愕(きょうがく)(あま)り、仕方(しかた)なく方向(ほうこう)(てん)じて()()した。


その速度(そくど)は非常に(はや)く、(はし)()すと灰白(かいはく)稲妻(いなずま)()したようで、草叢(くさむら)(なか)疾走(しっそう)した。なんと駝狼(だろう)速度(そくど)()え、すぐに距離(きょり)(はな)した。


しかし、しばらく(はし)ると、それは速度(そくど)()とした。


灰色(はいいろ)のウサギの爆発力(ばくはつりょく)(つよ)いが、持久力(じきゅうりょく)駝狼(だろう)(およ)ばない。


両者(りょうしゃ)腐毒草原(ふどくそうげん)()()け、生死(せいし)をかけた(はや)さで(きそ)う。草原(そうげん)で最も頻繁(ひんぱん)()られる光景(こうけい)——狩人(かりゅうど)獲物(えもの)(あいだ)()(ひろ)げられる()のゲームを(えん)じている。


駝狼(だろう)は徐々(じょじょ)に()()め、灰色(はいいろ)のウサギが目の(まえ)まで()ちてきたのを()ると、駝狼(だろう)()()きて(おそ)いかかった。


しかしその瞬間(しゅんかん)、ウサギは(おどろ)くべき加速(かそく)()せ、全身(ぜんしん)(よこ)(おど)らせた。即座(そくざ)致命(ちめい)一撃(いちげき)回避(かいひ)し、駝狼(だろう)との距離(きょり)(ひら)いた。


この灰色(はいいろ)のウサギも非常に狡猾(こうかつ)で、さっきの疲労(ひろう)(たん)なる(いつわ)りであり、まだ余力(よりょく)(のこ)していたのだ。


駝狼(だろう)(おそ)いかかり(そん)なうと、黙々(もくもく)と追撃(ついげき)(つづ)けた。


すぐに、両者(りょうしゃ)距離(きょり)(ふたた)()まっていった。


駝狼(だらくだ)(ふたた)(おそ)いかかったが、やはり(とら)えることができなかった。


三、四回(さん、よんかい)(つづ)けて失敗(しっぱい)した(あと)、ウサギは本当(ほんとう)力尽(ちからつ)き、ついに駝狼(だらくだ)()らえられた。


駝狼(だらくだ)(あら)(いき)()きながら、地面(じめん)()してしばらく(やす)み、ようやくゆっくりと立ち()がった。この残酷(ざんこく)競争(きょうそう)の中で、狩人(かりゅうど)(けっ)して華々(はなばな)しいばかりではなく、(おお)くの苦労(くろう)艱難(かんなん)があるのだ。


苦労(くろう)して()らえた灰色(はいいろ)のウサギだが、駝狼(だらくだ)はこの美食(びしょく)()べることはなく、(くち)(くわ)えて巣穴(すあな)へと(もど)っていった。


巣穴(すあな)には母駝狼(ははだらくだ)と、数匹(すうひき)()まれたばかりの子狼(こおおかみ)たちが(えさ)()っていた。


しかし、この駝狼(だらくだ)巣穴(すあな)(もど)()いた(とき)()(うつ)ったのは血痕(けっこん)(つめ)たい死体(したい)だけだった。


おおう!!!


それは灰色(はいいろ)のウサギの死体(したい)(ほう)()すと、(いか)(くる)って(あたま)(あお)けて(なが)()えた。首筋(くびすじ)狼毛(ろうもう)逆立(さかだ)ち、(にく)しみの(いか)りがその両目(りょうめ)()()()()げた。


大群(おおむれ)毒須狼(どくしゅろう)四方八方(しほうはっぽう)から、(かれ)包囲(ほうい)してきた。


(とお)くの(おか)(うえ)で、方源(ほうげん)腕組(うでぐ)みをして見下(みお)ろすように、この戦場(せんじょう)俯瞰(ふかん)していた。


「ふふふ、やはり雄狼(おすおおかみ)一頭(いっとう)(きた)か」(かれ)は淡々(たんたん)と(わら)い、最近(さいきん)運勢(うんせい)(すこ)好転(こうてん)してきたと(かん)じた。


駝狼(だらくだ)北原(ほくげん)比較的(ひかくてき)(すぐ)れた騎獣(きじゅう)である。方源(ほうげん)常山陰(じょうさんいん)四転狼奔蛊(してんろうほんこ)()にしているとはいえ、真元(しんげん)消耗(しょうもう)(すく)なくない。駝狼(だらくだ)騎乗(きじょう)する(ほう)が、便利(べんり)(はや)いのだ。


方源(ほうげん)偶然(ぐうぜん)この(おおかみ)()発見(はっけん)した(とき)()(なか)にいた虚弱(きょじゃく)雌狼(めすおおかみ)子狼(こおおかみ)たちをすべて(ころ)し、二転驭狼蛊(にてんじょうろうこ)()()れていた。


(かれ)(いそ)いで()ろうとはせず、毒須狼(どくしゅろう)()()せして雄狼(おすおおかみ)(かえ)りを()った。駝狼(だらくだ)毒須狼群(どくしゅろうむれ)(たたか)いは、最初(さいしょ)から白熱(はくねつ)()した。


駝狼(だらくだ)体格(たいかく)巨大(きょだい)で、(いか)りの感情(かんじょう)戦闘(せんとう)をさらに獰猛(どうもう)にさせた。(おおかみ)(つめ)()(まわ)せば、普通(ふつう)毒須狼(どくしゅろう)など一撃(いちげき)()えられなかった。


しかし方源(ほうげん)指揮(しき)(もと)毒須狼(どくしゅろう)(きわ)めて狡猾(こうかつ)()()い、正面(しょうめん)から(たたか)わず、(たが)いに(たく)みに連携(れんけい)し、退(しりぞ)けば(すす)み、(すす)めば退(しりぞ)き、駝狼(だらくだ)戦闘力(せんとうりょく)(けず)っていった。


半时辰(はんじこん)以上(いじょう)(けず)(つづ)け、駝狼(だらくだ)(あえ)(あえ)ぎ、もはや当初(とうしょ)勇猛(ゆうもう)さはなかった。


その(まわ)りには六十頭(ろくじゅっとう)以上の毒須狼(どくしゅろう)死体(したい)(よこ)たわっており、すべてが(かれ)(かがや)かしい戦績(せんせき)だった。もちろん、もし方源(ほうげん)一心(いっしん)(かれ)(ころ)そうとすれば、方源(ほうげん)奴道(ぬどう)造詣(ぞうけい)をもってすれば、三十頭(さんじゅっとう)毒須狼(どくしゅろう)(いのち)代償(だいしょう)にすれば十分(じゅうぶん)だった。しかし方源(ほうげん)()けどりにしたいと考えていたため、(たたか)いには(すこ)束縛(そくばく)(しょう)じていた。


頃合(ころあ)いだな」方源(ほうげん)は、(かぜ)(なか)(ふる)(つづ)ける駝狼(だらくだ)四肢(しし)()て、ゆっくりと(おか)()り、注意深(ちゅういぶか)(ちか)づいていった。


(いま)(かれ)()にある()大部分(だいぶぶん)は、推杯换盏蛊(すいはいかんさんこ)(つう)じて狐仙福地(こせんふくち)転送(てんそう)されていた。


駝狼(だらくだ)まであと二百歩(にひゃくほ)という距離(きょり)で、方源(ほうげん)(ゆび)(はじ)き、二転驭狼蛊(にてんじょうろうこ)(さい)(どう)した。


驭狼蛊(じょうろうこ)(かろ)やかに爆散(ばくさん)し、一股(いっこ)軽煙(けいえん)()して駝狼(だらくだ)(からだ)(おお)(かぶ)さった。


駝狼(だらくだ)(あわ)てて後退(こうたい)して()けようとしたが、軽煙(けいえん)一歩一歩(いっぽいっぽ)()いかけてきた。駝狼(だらくだ)(いなな)(ごえ)()げ、方源(ほうげん)()かって突撃(とつげき)開始(かいし)した。しかし毒須狼群(どくしゅろうむれ)強力(きょうりょく)阻止(そし)()った。


数回(すうかい)呼吸(こきゅう)(あと)軽煙(けいえん)完全(かんぜん)にその(からだ)()()んだ。


駝狼(だらくだ)無力(むりょく)地面(じめん)()せり、全身(ぜんしん)流血(りゅうけつ)する傷口(きずぐち)だらけで、()()一対(いっつい)狼眼(ろうがん)は、もはや(にく)しみを()って方源(ほうげん)(にら)むのではなく、服従(ふくじゅう)()(にじ)ませていた。


百人魂(ひゃくにんたま)(じつ)実用(じつよう)だ。もし胆識蛊(たんしきこ)がなかったら、この駝狼(だらくだ)奴隷(どれい)にするには、(すこ)手間(てま)がかかっただろうに」方源(ほうげん)(こころ)(かん)(がい)すると、また空窍(くうきょう)(なか)狼煙蛊(ろうえんこ)(さい)(どう)した。


狼煙蛊(ろうえんこ)()()して滾々(こんこん)とした濃煙(のうえん)()し、駝狼(だらくだ)(おお)(はん)負傷(ふしょう)した毒須狼(どくしゅろう)(つつ)()んだ。


しばらくして濃煙(のうえん)()()きると、駝狼(だらくだ)(からだ)傷口(きずぐち)完全(かんぜん)(なお)り、甚至(はなは)だしは(あたら)しく密生(みっせい)した狼毛(ろうもう)さえ()えていた。負傷(ふしょう)した毒須狼(どくしゅろう)たちも活力(かつりょく)を取り(とりもど)していた。


ただし、全身無傷(ぜんしんむしょう)であっても、戦闘力(せんとうりょく)依然(いぜん)として最盛期(さいせいき)には(およ)ばない。


獣群(けものむれ)戦闘力(せんとうりょく)影響(えいきょう)(あた)えるのは、(きず)だけでなく、飢餓(きが)飽食(ほうしょく)程度(ていど)(かか)わる。


狼群(おおかみむれ)最大(さいだい)戦闘力(せんとうりょく)発揮(はっき)するには、空腹(くうふく)すぎても駄目(だめ)だ。空腹(くうふく)だと(よわ)くなる。かといって満腹(まんぷく)でもいけない。(はら)がいっぱいだと、かえって戦闘力(せんとうりょく)影響(えいきょう)する。


先程(さきほど)駝狼(だらくだ)狩猟(しゅりょう)する(さい)、なぜ辛抱強(しんぼうづよ)灰色(はいいろ)のウサギが満腹(まんぷく)して(かえ)るのを()ったのか?これも同じ理由(りゆう)だ。


狼群(おおかみむれ)半空腹(はんくうふく)状態(じょうたい)にしておくことで(はじ)めて、(かれ)らは戦闘(せんとう)殺戮(さつりく)において、より凶暴(きょうぼう)残酷(ざんこく)になれるのだ。


(なが)時間(じかん)戦闘(せんとう)で、駝狼(だらくだ)毒須狼(どくしゅろう)体力(たいりょく)を大きく消耗(しょうもう)し、空腹(くうふく)だった。


方源(ほうげん)(こころ)の中で(ひと)(ねん)じると、毒須狼(どくしゅろう)たちは地上(ちじょう)(おおかみ)死体(したい)()()(はじ)めた。一方(いっぽう)駝狼(だらくだ)は、その灰色(はいいろ)のウサギを()()んだ(あと)方源(ほうげん)強制命令(きょうせいめいれい)により、()んだ雌狼(めすおおかみ)子狼(こおおかみ)たちもすべて()()くした。


方源(ほうげん)はその()()()くし、(かん)パンを取り()して(つめ)たい(みず)(なが)()んだ。


葛謡(かつよう)(ころ)してから、もう三日(みっか)()っていた。


葛謡(かつよう)(かなら)()ななければならなかった。彼女(かのじょ)定仙游(ていせんゆう)一目(いちもく)()たその瞬間(しゅんかん)から、彼女(かのじょ)()()まっていたのだ。


ましてや、彼女(かのじょ)最初(さいしょ)方源(ほうげん)全裸(ぜんら)北原(ほくげん)到着(とうちゃく)するのを目撃(もくげき)し、さらに仙蛊(せんこ)()め、推杯换盏蛊(すいはいかんさんこ)運用(うんよう)する場面(ばめん)()ていた。


彼女(かのじょ)()りすぎていた。方源(ほうげん)(こころ)(なか)では、とっくに必殺(ひっさつ)対象(たいしょう)となっていた。


ただ、方源(ほうげん)()たばかりで戦力(せんりょく)(よわ)く、腐毒草原(ふどくそうげん)移動(いどう)するには、葛謡(かつよう)(たし)かに(かれ)(たす)けとなった。


しかし葛謡(かつよう)()かしておけなかった。彼女(かのじょ)天真(てんしん)さが方源(ほうげん)利用(りよう)できるなら、(ほか)(もの)にも利用(りよう)できる。そんな足手纏(あしでまとい)で、(こん)(ぱく)常人(じょうじん)()みの水準(すいじゅん)()ぎず、他者(たしゃ)読心蛊(どくしんこ)回顧蛊(かいここ)にかかるだけで、方源(ほうげん)のすべての手配(てはい)(わら)いものにし、一路(いちろ)(かく)してきた秘密(ひみつ)(おお)けにされてしまう。


方源(ほうげん)殺人(さつじん)は、とっくに計画(けいかく)されていたのだ。


葛謡(かつよう)(かれ)(とも)鬼顔葵海(きがんあおいうみ)突破(とっぱ)し、地鼠群(じそむれ)(くぐ)()け、影鴉(かげがらす)迎撃(げいげき)をかわし、常山陰(じょうさんいん)()つけて皮膚(ひふ)()え、雪洗蛊(ゆきあらいこ)発見(はっけん)し、地蔵花王蛊(じぞうかおうこ)()めるにつれて、彼女(かのじょ)利用価値(りようかち)一歩一歩(いっぽいっぽ)小さくなっていった。同時(どうじ)に、彼女(かのじょ)脅威(きょうい)一歩一歩(いっぽいっぽ)(たか)まっていった。彼女(かのじょ)方源(ほうげん)への(あい)は、常山陰(じょうさんいん)(よそお)方源(ほうげん)にとって、のどに()さった(ほね)のように、背中(せなか)()さった(のぎ)のように不快(ふかい)だった。


(こい)()ちた女性(じょせい)当然(とうぜん)(あい)する(ひと)現在(げんざい)未来(みらい)過去(かこ)までもあらゆる方法(ほうほう)()ろうとする。


真実(しんじつ)()った(とき)彼女(かのじょ)はどうするだろうか?


ましてや、彼女(かのじょ)背後(はいご)には一族(いちぞく)がおり、彼女(かのじょ)はその(おお)きな(いえ)令嬢(れいじょう)なのである。


このような人物(じんぶつ)熱烈(ねつれつ)(あい)されては、方源(ほうげん)がどれだけ低姿勢(ていしせい)でいても、衆目(しゅうもく)(まと)となるに()まっている。


蛮家(ばんけ)次男坊(じなんぼう)蛮多(ばんた)葛謡(かつよう)美色(びしょく)(きわ)めて執着(しゅうちゃく)していることを(わす)れてはならない。


方源(ほうげん)葛謡(かつよう)(とも)帰還(きかん)すれば、(かなら)ずや葛家(かつけ)蛮家(ばんけ)共通(きょうつう)標的(ひょうてき)となるだろう。たかが厄介者(やっかいもの)のためになぜこれほどの憎悪(ぞうお)(あつ)めねばならないのか?


方源(ほうげん)憎悪(ぞうお)(おそ)れてはいない。しかし(かれ)北原(ほくげん)(きた)のは、(けっ)して遊山(ゆさん)のためではない。時間(じかん)逼迫(ひっぱく)しており、文字通(もじどお)一分一秒(いちぶんいちびょう)(あらそ)状況(じょうきょう)だ。蕩魂山(とうこんざん)一歩一歩(いっぽいっぽ)()()かい、春秋蝉(しゅんじゅうせみ)一歩一歩(いっぽいっぽ)回復(かいふく)しているというのに、(かれ)修為(しゅうい)()四転巅峰(してんてんぽう)()ぎない。


(かれ)成功(せいこう)へと()かわねばならず、失敗(しっぱい)(ゆる)されない。一度(いちど)失敗(しっぱい)すれば、万劫(ばんごう)()せず、(しかばね)すら(のこ)らぬことになるのだから。


(かれ)(ある)むこの(みち)は、孤独(こどく)宿命(しゅくめい)づけられている。成功(せいこう)か、さもなくば破滅(はめつ)かの(ふた)つの結末(けつまつ)しかないのだ!


だからこそ、二人(ふたり)腐毒草原(ふどくそうげん)外周(がいしゅう)(ちか)づいた(とき)方源(ほうげん)人気(ひとけ)のないことを好機(こうき)()て、(いた)(れつ)(こう)(しゅ)(はな)ったのだ!


葛謡(かつよう)殺害(さつがい)した(あと)方源(ほうげん)毒須狼(どくしゅろう)彼女(かのじょ)()()くさせた。(たましい)当然(とうぜん)見逃(みのが)さず、葬魂蟾(そうこんせん)()()み、(いま)では福地(ふくち)(おく)られ、蕩魂山(とうこんざん)完全(かんぜん)粉砕(ふんさい)されている。


篝火(かがりび)(あと)も、方源(ほうげん)細心(さいしん)()()り、(なん)痕跡(こんせき)(のこ)さなかった。


(よう)するに、葛謡(かつよう)はこの()から(かん)(ぜん)()()ったのだ。唯一(ゆいいつ)痕跡(こんせき)()えば、毒須狼群(どくしゅろうむれ)排泄(はいせつ)した(ふん)(なか)にあるだろう。


ふふふ。


いわゆる美色(びしょく)も、結局(けっきょく)黄土(おうど)(ひと)(にぎ)りに()ぎない。


(ちり)(ちり)に、(つち)(つち)に。


(うつく)しい少女(しょうじょ)も、天地(てんち)(あいだ)では(はな)(おな)じようなものだ。あるいは道端(みちばた)(あし)()(つぶ)され、あるいは(とき)()()(おとろ)え、(みにく)肥料(ひりょう)となって(つち)(うるお)すのだ。


永生(えいせい)がなければ、どんなに(うつく)しいものも鏡花水月(きょうかすいげつ)()ぎない。存在価値(そんざいかち)とは、つまるところ刹那(せつな)芳華(ほうか)にすぎない」方源(ほうげん)経験(けいけん)(かさ)ねるほどに、天地(てんち)残酷(ざんこく)さを痛感(つうかん)していた。永生(えいせい)がなければ、いかに価値(かち)あるものも、やがて無価値(むかち)となる。


「いわゆる流芳百世(りゅうほうひゃくせい)遺臭万年(いしゅうばんねん)など、所詮(しょせん)(おろ)かな(もの)どもの(あさ)はかな(おも)い込みにすぎない。いわゆる精神不滅(せいしんふめつ)など、後世(こうせい)(もの)自己正当化(じこせいとうか)使(つか)道具(どうぐ)でしかない。人間(にんげん)本当(ほんとう)(たが)いを(みと)()うことしかできないのか?地球(ちきゅう)ならいざ()らず、この世界(せかい)()以上(いじょう)、たとえ(きわ)めて(かす)かな可能性(かのうせい)であろうとも、(わたし)()(もと)める!」


「たとえ求道(きゅうどう)途中(とちゅう)()に、葛謡(かつよう)よりも千万倍(せんまんばい)(みにく)最期(さいご)(むか)えようとも、(わたし)()(じん)後悔(こうかい)しない……」


方源(ほうげん)はとっくに()覚悟(かくご)()めていた。


しかし、生涯(しょうがい)精力(せいりょく)をすべて()(もと)めることに(ささ)げてこそ、()瞬間(しゅんかん)一片(いっぺん)後悔(こうかい)(かん)じないだろう。


ふん。


(だれ)方源(ほうげん)という異世界(いせかい)から()転生者(てんせいしゃ)(こころ)理解(りかい)できようか?


(かれ)(ある)(みち)は、無辺(むへん)(やみ)であり、()(るい)なき孤独(こどく)である。


(かれ)巡礼(じゅんれい)する方向(ほうこう)は、ただ(こころ)(なか)光明(こうみょう)――永生(えいせい)――という、かすかで存在(そんざい)しえないかもしれない可能性(かのうせい)()ぎない。


この世界(せかい)で、(かれ)理解(りかい)する(もの)(だれ)もいない。


そして(かれ)は、


他人(たにん)理解(りかい)される必要(ひつよう)もない。






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