第二十六節:常山阴の死
方源は 心神を 空窶に 探り 入れた。
白骨車輪が 空窶に 入ると、真金の 真元が 広がる 海面に 浮かび、波の うねりに 揺られ ながら、半ば 沈み 半ば 浮く 状態で、全ての 活気を 失っていた。
蛊も もちろん 傷つき、損壊し、滅びる。
「この 白骨車輪は、すでに 崩壊寸前で、もう 使えない。私が 次に 骨竹蛊を 見つけ、さらに 鬼火蛊と 組み合わせて、修復と 治療を 行わなければ」と 方源は 心中で 考えた。
治療用の 蛊には、人間の 体を 対象と しない ものも 多い。
例えば(たとえば) 狼煙蛊は、狼の 傷を 治療する ための ものだ。また 生鉄蛊は、鋸歯金蜈蚣の 治療に 使われる。
「骨竹蛊を 見つけ、さらに 鬼火蛊と 組み合わせる ことで、初めて 白骨車輪の 損傷を 修復でき、再び 戦える 状態に 戻せる のだ」
「言えば、この 白骨車輪蛊も 由緒ある 名蛊で、八転魔道蛊仙 沈桀驁の 作と される。彼は 傲骨魔君と 号した。天賦の 才に 恵まれ、驚くべき 才能の 持ち主で、六転に 昇した 時、仙蛊を 持たない こと を 苦しみ、白骨戦車と 名付ける 必殺技を 編み出した。白骨戦車は 白骨車輪など 数多の 五転蛊で 構成され、その 威力は 六転仙蛊に 匹敵する ほど 強力だった!」
「この 独創的な 発想で、沈桀驁は 八転の 境地に 達し、さらに 必殺技 白骨戦場を 発展させ、三匹の 仙蛊を 組み込んで、より 強力な 大必殺技 白骨戦場を 完成させた。これ を 駆って 世を 横行し、数多の 蛊仙を 屠り、凶名を 轟かせ、正道教を 一時は 手も 足も 出なく させた という。ああ、私は いつ になったら この 境地に 達することが できる だろうか?」
方源の 前世の 五百年は、六転の 修為で、七転に あと一歩という 所まで 来ていた。その後 春秋蝉を 錬成した が、正道教の 蛊仙たちに 包囲攻撃され、やむなく 自爆して 命を 落とした。
血海老祖、傲骨魔君、幽魂魔尊といった 人物の ことを 思う 度に、方源は 心を 躍らせ 憧れを 禁じえなかった。
「男が 世に 生まれた からには、まさに この ように あるべきだ。世俗の 束縛を 受けず、縦横無尽に 振る 舞い、気に 食わない 者は 誰でも 殺す。心が 荒めば 万物を 屠り、心が 穏やかなら 蒼生に 恵みを 施す。天下こと ごとく 我が 心の ままに 動き、一切を 支配し、自らに 逆らう 敵を すべて 踏み にじる。これこそが 真の 大自在、最高の 快感に 満ちた 人生という ものだ!」
方源は 心の 奥底で 深く 感嘆すると、再び 懐中から 皓珠蛊を 取り 出した。
皓珠蛊は すでに 塵に まみれ、輝きは 褪せ ていた。その 中に 封印された 定仙游の、仙蛊から 漏れる 気息も 以前より 弱まっていた。方源は 暗投蛊を 取り 出した。
この蛊は 蒙塵蛊と 似た 形で、やはり 蚕の 繭のような 姿を している が、全てが 幽玄な 漆黒に 包まれている。
方源が 真元を 注ぐと、黒い 繭は 蠕動し 始め、数本の 糸が くねる ように 現われ、蛇のように 巧妙に 皓珠蛊に 絡み 付いた。
瞬く 間に、皓珠蛊は 黒い 繭の 層に 包まれた。
これ こそ「明珠暗投」——五域大战の 折に 初めて 編み 出された 手法で、蛊虫の 気息を 掩蔽する ため の もの である。
こうして 定仙游の 気息は さらに 微弱と なった。
「常山陰勇士さん、この 美しい 玉蝶を 封印しようと しているの?」葛謡は 傍に 立ち、次第に その 意图を 見て 取る ようになった。
方源は 彼女に 神秘的な 笑みを 浮かべ、真っ黒な 丸玉を 懐に 収めると、再び 戦場で 何かを 探し 続けた。
この 戦場は、二十数年前に 常山陰と 哈突骨が 激戦を 繰り 広げた 場所だった。
常山陰は 四転の 頂点に 立つ 蛊師、一方 哈突骨は すでに 五転の 初段で、さらに 大勢の 部下を 従えていた。
二人は もともと 幼い 頃から 一緒に 育った 遊び 仲間だった が、二人が 同時に 恋に 落ちた 女性が、最終的に 常山陰を 選んだ。これ を きっかけに 確執が 生まれ、その後の 様々(さまざま)な 出来事によって、憎しみは 深まる 一途を たどり、ついに お互いの 命と 血で しか その 恨みを 晴らす こと が できなく なった。
哈突骨が 常山陰の 母親に 毒を 盛った 後、常山陰は 雪洗蛊を 探す ため、狼群を 率いて 腐毒草原の 奥深く に 入った。
その後、常山陰は ここに 伏兵を 配置した。哈突骨が 馬賊を 率いて おびき 寄せられた 罠に 飛び 込んだ 時、大群の 狼が 四方八方から 押し 寄せて きた。
この 凄惨な 生死を かけた 決戦は、天地を 覆う ほど 激しく 戦われた。
最終的には 狼群は 全滅し、馬賊も 死ぬ か 逃げる かした。力尽きた 常山陰と、真元を 使い果たした 哈突骨は、白兵戦を 繰り 広げ、徒手空拳で 戦った。
二人は すっかり 戦いに 狂い、利用できる ものは 何でも 利用した。
もみ 合い ながら、牙で 噛み 付き、指で 引っ かき、全身全霊を かけて 戦った 末、二人とも 地面に 倒れ 込み、もはや 息を する 力さえ ない ほどだった。
この 二人の 生死の 仇敵であり、かつて 最も 親密な 仲間だった 男達は、互いに 二・三歩の 距離しか 離れていなかった が、できる こと といえば、息を 切らして 喘ぎ 合い、睨み 合う こと だけ だった。
二人とも 強大な 蛊師であり、一方は 栄光に 輝く 英雄、もう一方は 凶名轟く 魔頭だった が、今は すっかり 力を 失い、この 瞬間だけは 子供のように 無力だった。たとえ 一匹の 兎が 走り 寄って きて 鼻口を 塞いだ だけでも、窒息して 死んで しまい そうな ほどに。
この ように 膠着状態が しばらく 続いた 後、哈突骨は 突然 爆笑し 出した。さすがに 五転蛊師で ある 彼の 真元の 回復速度は、常山陰より 一歩 速かった のだ。
最初に 真元が 回復した 哈突骨は、劇毒骨矛を 一度 催动する だけの 力を 得た。
その 骨の 矛が 自分に 向かって 放たれるのを 見て、常山陰は 目を 見開いた。絶体絶命の 状況で、彼の 中から 奇跡的な 力が 迸り 出た。
その わずかな 力で、彼は 辛うじて 半身を 翻した が、もともと 頭を 狙っていた 劇毒骨矛は、それでも 彼の 胸を 貫いた。
激痛に 常山陰は 咆哮した。狼力蛊で 増幅された 力を 頼りに、彼は 細い 骨の 矛を へし 折り、手に 握り しめると、一歩一歩 体を 引きずり ながら、哈突骨の もとへ 這って いった。
ついに 常山陰は、惨やかな 緑色の 矛先を、哈突骨の 眼窩に 突き 立て、生涯の 仇敵を 仕留めた。
常山陰は 勝った が、骨矛に 塗られていた 劇毒は すでに 全身に 回っていた。
かろうじて 回復した わずかな 真元を 用いて、彼は 狼胎地葬蛊を 催动した。
この 蛊は 百八頭の 異なる 種類の 妊娠した 母狼から 煉製された もので、命を 救う ため 専用の ものだ。たとえ かすかな 息しか なくても、かろうじて 命を つなぐ ことができる。
常山陰は この蛊を 用いて 地中に 潜り、深い 眠りに 落ち、かすかな 命脈を 保った。
それから 三十数年後、まだ 三転蛊師だった 馬鴻運が、狼群に 追われて この 場所に 逃げ 込んできた。追い 詰められた状況で、彼は偶然 地中に 埋もれた 常山陰を 発見した。
馬鴻運が 常山陰を 蘇生させた 後、恩に 報いる ため、常山陰は 狼群を 撃退した だけでなく、彼に 仕えて 四大将の 一人となり、その後の 草原の 霸権を かけた 戦いで 数多の 戦功を 立て、奴隷出身の 馬鴻運を 一挙に 王庭の 主の 座に 押し 上げた。
常山陰は 波乱万丈の 人生を 送り、極めて 伝説的な 人物と なった。彼が 再び 世間に 現れた 後、彼の 物語は 北原で 広く 語り 継がれ、今や 誰もが 知る ところと なった。
その後、馬鴻運の 助けを 借りて 修行を 重ね、七転蛊仙の 境地に 達した。「天狼将」の 称号を 得、さらに 高い 地位と 権力を 手に 入れた。
最期は 中洲の 侵略に 抵抗し、戦場に 散った。彼の 子孫が その 生涯を 記した 伝記が、方源が これほど 詳細に 経緯を 知っている 理由である。
「おっと?見つけた!」
長い 探索の 果てに、ついに 結果が 得られた。
方源は 足を 止め、草原に 半分 埋もれた 巨大な 狼の 尾を 発見した。
その 尾は 泥に まみれ、大きく 腐食して おり、毒草に ほぼ 完全に 覆われていた。方源が 事前に 目標を 定め、注意深く(ちゅういぶかく) 搜索して いなければ、決して 見つけ られる ものでは なかった。
「当時、馬鴻運は 逃げ 惑う 途中で、この 狼の 尾に 足を 取られ 転んだ。彼が この 尾を 引き 抜いた こと が、常山陰を 救い、同時に 自分自身の 命も 救う 結果と なったのだ」
方源の 心は 高鳴った。彼は 狼の 尾を 掴むと、力を 込めて 引き 抜いた。
たちまち 地面が 盛り 上がり、巨大な 母狼の 体が 現れた。その 目は 固く 閉じられ、全身は 紫の 毛に 覆われ、お腹は 雪のように 白かった。
その 体躯は 巨大で、横たわって いても 成人の 背丈ほど も あった。
葛謡は 驚いた 様子で 駆け 寄って きた:「なんて 巨大な 狼なの!あら、メス狼みたい。お腹が ぽっこり してて、妊娠してる に 違いない わ!」
「これは 狼では ない。蛊の 一種だ」方源は そう 言う と、推杯換盞蛊から 鋭い 短刀を 取り 出した。
方源は 短刀を 狼の 腹に 突き 立てる と、力を 込めて 長い 切れ 目を 入れた。
瞬時に、膨らんだ 狼の 腹が 裂け、大量の 羊水が 血と 混じり 合い ながら、傷口から 噴き 出し、方源の 下半身を びしょ 濡れに した。
葛謡は とっさに 危険を 察し、素早く 後ろへ 跳び 退き、難を 逃れた。
そして 彼女は 驚いて 口を あんぐりと 開け、叫んだ:「えっ!?狼の 胎内に どうして 人間が いるの!?」
羊水と 共に 流れ 出て きた のは、一人の 男だった。まさに 本物の 常山陰である!彼は 両目を 固く 閉じ、全身に 無数の 傷を 負って いた。特に 胸には 骨の 矛の 切れ 端が 深く 刺さって いた。全身は 粘つく 羊水に 覆われ、苦悶に 満ちた 表情で、皮膚は 不気味な 青白さを 帯びて いた。
方源は 素早く しゃがみ 込むと、両手を 差し 出して、一見 常山陰の 傷の 様子を 診ている ふりを したが、実は その 手で 彼の 首を 静かに 絞め つけた。
哀れ 常山陰は、宿敵を 討ち 果し、蛊の 力で 二十余年も 命を 繋いだ 英雄だった。あと 十年も 待てば、運命の 君主に 救われて 再起する はず だった。
しかし 方源が 横やりを 入れ、この 未来の 風雲児、有名な「天狼将」、やがては*七転蛊仙に なる はず だった 人物を 殺して しまった。
常山陰は もともと 息も 絶え 絶えで、意識は なく、防備する こと など できず、かすかな 息を している だけ の 状態だった。
方源が 彼を 殺した 時、彼の 体は 微動だに しなかった。ましてや 意識を 集めて 蛊を 爆発させる こと など、できる はず が ない。
方源は 心神を 常山陰の 空窶に 探り 入れる と、すぐに 中にある 数匹の 亀息蛊を 発見した。
亀息蛊も 皓珠蛊と 同様に 貯蔵用の 蛊で、他の(ほかの) 蛊虫を 封印する ための ものだ。
常山陰は 狼の 腹に 入る 前に、体内の 蛊が 餓死する のを 防ぐ ため、それらを 一つ(ひとつ)ずつ 亀息蛊に 封印していた の だった。
これらの 四転蛊は、楕円形の 石のような 形で、拳より やや 大きく、表面には 亀の 甲羅を 思わせる 紋様が 刻まれていた。
春秋蝉の 気息が 漏れ 出る と、方源は 瞬時に これらの 亀息蛊を 煉化した。
方源は これらの 亀息蛊を すべて 取り 出す と、葛謡の 好奇の まなざしを 受け ながら、一つ(ひとつ)ずつ 握り 潰した。中から は、封印されていた 蛊虫が 現れた。
全部で 八匹の 蛊で、いずれも 奴道に 属する 貴重な 四転蛊だった。中には 普通の 五転蛊より も 価値の ある ものも 含まれている。常山陰は これらを 巧みに 組み合わせ、この 一揃いの 蛊で 北原に 轟く 名声を 築き、さらに 五転の 強敵を 討ち 取った の だった。
春秋蝉の 力を 借り、方源は これら すべてを 自らの ものと した。
「これで ようやく、北原本来の 良質な 四転蛊の 一式を 手に 入れた」彼の 口元に 微笑みが 浮かんだ。




