第二十節:仙蛊和稀泥
パキッ。
方源が 胆石を 握り 潰すと、瞬時に 泥の ような 液体が 溢れ 出て、手に べっとりと 付着した。
方源の 目は 極めて 険しい 表情を 浮かべ、山から 取った 小石を 手に 握り しめた。
手に 付着した 黄色い 泥状の 液体は、ゆっくりと しかし 確実に 小石を 溶かし 始めた。堅い 石が 更なる 泥へと 変容して いく。
しばらくすると、方源は 明らかに 手の 中の 小石が 縮んで いくのを 感じた。
約 一服の 茶を 飲む ほどの 時間が 経つと、小石は 完全に 泥に 変わり、跡形もなく 消え 失た。
黄色い 泥の ような 液体は、方源の 指の 間から したたり 落ち、蕩魂山に 流れ 込んで 持続的に 害を 与えていた。
方源は しばらく 沈黙した 後、ゆっくりと 口を 開いた:「状況は どれほど 深刻なのか?」
小狐仙は 涙を ぬぐい ながら、泣き じゃくり つつ 答えた:「今では 蕩魂山の 大部分が 黄色い 泥に 侵食されています。山腹より 下の 胆石は、十個に 六個が 黄色い 泥に 変わって います。ご主人様、どうすれば いいのですか?蕩魂山が 死んで しまいます……しくしく、私が 悪いのです、前もって 気付く ことが できませんでした」
方源は 小狐仙の 頭を 撫で ながら、慰める ように 言った:「これは 君の せいでは ない、自分を 責める 必要は ない。元凶は あの 泥沼蟹だ、さすが 荒獣、さすが 地災と 言う べき ものだ」
地霊の能力はそれぞれ異なり、差異もある。これらは蛊仙や福地との関係にもよるものだ。
彼は息をつくと、続けて言った。「もともと、荒獣の体に仙蛊がなくて良かったと思っていた。実はこの泥沼蟹はとっくに消耗型の仙蛊を使っており、その力が泥の中に潜んでいたのだ。血肉が触れても問題ないが、山石が触れると厄介なことになる。徐々(じょじょ)に泥へと同化されてしまうのだ」。
前回の地災では、泥沼蟹が大量の泥を噴き出し、その泥から蟹の大軍が現れた。
方源は無数の蟹を討ち滅ぼしたが、実際のところ、真の殺し手はこの黄い泥土漿であった。
方源は、これは六転の和稀泥蛊の効果だろうと推測した。
和稀泥蛊は自然に形成される蛊であり、一転や二転のものは非常に多く、三転や四転のものもよく見られ、蛊師によって城壁や都市の建設によく用いられる。五転のものは比較的稀で、多くの五转蛊師が有効な五转蛊を持たない場合、しばしば和稀泥蛊を選択し、一時的に使用する。六転となると、天下にただ一匹しか存在せず、かつ和稀泥仙蛊は一度しか使用できない。
和稀泥蛊は泥土にのみ作用する。おそらく、泥沼蟹が生息していた沼沢地は、かつて和稀泥仙蛊の作用を受けたのだろう。泥沼蟹は日々(ひび)沼沢地の泥漿を吞吐していたため、和稀泥蛊の力を狐仙福地にまでもたらしたのである。
泥沼蟹が死んだ後、戦場は一応掃除されたが、大量の黄泥水漿はすでに山や大地の深くまで浸透してしまっていた。
和稀泥仙蛊の力は 極めて 潜伏的で、黄色い 泥水からは 仙蛊の 気配すら 一切 感じられない。今回 方源が 石人を 山に 入れ 岩石を 敲かせる よう 手配していなければ、おそらく 異常には 気付かなかった だろう。
しかし 仮に 事前に 真相に 気付いていた としても、地災が 到来した 際、彼に それを 阻止する 能力は なかった だろう。
方源の 表情は 水のように 沈んで いった。
蕩魂山は 今 仙蛊の 力に 侵食され、徐々(じょじょ)に 黄色い 泥へと 変質し つつある。これは とんでもない 悪夢のような 災難だ!
狐仙福地全体で 最も 価値の ある ものは、この 山である。彼は この 山を 使って 石人を 育成し 販売する 計画だった。今後 自分自身の 魂を 強化する にしても、この 山に 頼ら なければ ならない。決して 手を 拱いて 事態の 悪化を 見て いる わけには いかない。
即座に、方源は 小狐仙に、可能な 限り 黄色い 泥を 除去する よう 命令した。
これにより、危機的状況は 大きく 緩和された。
しかし、蕩魂山の 内部も 侵食され 続けて おり、この 方法は 根本的な 解決には ならない。これは 和稀泥仙蛊の 力であり、これを 除去する には、方源は 他の 仙蛊の 力を 借り なければ ならない!
「私は これほど 巨大な 危険を 冒して、辛うじて 魂を 強化する 聖地を 手に 入れた。たとえ 将来 蛊仙に なった としても、この 蕩魂山は 大きく 役立つ だろう。決して このまま 滅び 去せては ならない。天が この 聖地が 人の 手に 渡るのを 良しと せず、このような 地災を 降らせた のなら、私は 天に 逆らって やる。はは、人と 争い、天と 争う ことこそ、人生の 面白さ というものだ」
方源の 見識から すれば、まったく 手の 施しようが なく 慌て ふためく ほど 愚かでは なかった。
彼は 十数の 解決策を 考え、その 中から 非現実的な もの を 除いた ところ、半分以上が 消え、さらに 難易度の 高い もの を 除くと、三つの 方案だけが 残った。
第一の 方案は、土道の 六転 化石蛊を 使う ことだ。この蛊は 現在 西漠に あり、六转蛊仙の 孫醋が 所持している。孫醋は 正道の 蛊師で、この蛊を 使って 砂を 石化させ、凡人が 沙漠で 都市を 築く のを 助けて おり、凡人から 深く 敬愛されている。彼は 心優しく、家族を 大切に し、特に ひ孫娘を 溺愛している。方源が もし この ひ孫娘を 捕まえて 人質に すれば、必ず 彼を 屈服させられる だろう。
第二の 方案も 同様に 土道の 六転仙蛊で、その 名は 東山再起という。この蛊は すでに 現世に 現れて おり、東海の 海市福地に 隠されている。方源は この 福地に 入り、別の 仙蛊と 交換して この蛊を 手に 入れる ことができる。
第三の 方案は、宙道の 六転仙蛊 江山如故を 使う ことだ。この蛊は まだ 誕生しておらず、自然に 形成された ものでは ない。その 所有者である 太白云生は、現時点では 北原の 一人の 五转蛊師に 過ぎない。
「私が 南疆の 三叉山で、衆人環視の 中 仙蛊・定仙游の 煉成に 成功した ことは、言うまでもなく 南疆中に 轟々(ごうごう)たる 噂として 広まっている だろう。一介の 凡人が 仙蛊を 手に した となれば、南疆の 蛊仙たちも すでに 動き 出し、世界中を 探し 回っている に 違いない」
方源は 蛊仙に なる までは、南疆に 再び 足を 踏み 入れる ことなど 考える(かんがえる) べくもなかった。
「天下の 五大域は それぞれ 独立しているが、南疆の 超一流家系である 翼家は、東海の 神秘勢力と 繋がりが ある。私が 仙蛊を 煉成した という 情報が 中洲などに 伝わる には、少なくとも 二、三年(に、さんねん)は かかる だろう。しかし 東海は そうでは ない かもしれない」
方源は まず 東海を 除外した。
「西漠に 関しては、そこは 天下で 最も(もっと) 商取引が 盛んな 地域だ。砂漠の 中の オアシスに 頼って 生存している 都市が 数多 存在する。もし 私が 石人を そこに 売り 込むことが できれば、間違いなく 大もうけ できる だろう。しかし 残念ながら、商取引が 盛ん ということは、情報も 発達している ということだ。南疆出身の 蛊師である 私は、まさに 絶好の カモ だろう。そこに 到着すれば、おそらく 街に 入った その 瞬間から 注目される に 違いない」
方源は 前世の 五百年間 五大域を 放浪し、最終的に 中洲に 落ち 着いて 蛊仙と なった。彼は 西漠の 情況にも 比較的 詳しかった。
「西漠と 比較すると、北原は 広大な 草原で、大小 様々(さまざま)な 部族が 草原で 放牧し、移動し、戦い、繁殖している。流動性が 極めて 高く、中・小規模の 部族は 特に(とくに) 管理が 行き 届いて おらず、私が 水を 濁して 魚を 取るには もって こいの 場所だ」
西漠と 北原は 異なる。
西漠では、人々(ひとびと)は オアシスに 依存して 生活して おり、多く(おおく)の 人が 常時 一箇所に 集住している。オアシスが 失われない 限り、誰も 危険に 満ちた 広大な 砂漠を 長旅して まで、他の オアシスを 遠征しよう とは しない。
一方 北原では、部族は 常に 移動を 余儀なくされ、肥沃で 新鮮な 牧草地を 求めて いる。そこでは 気候が 極めて 変動し やすく、時折 強大な 気象変化が 一夜にして 家屋を 破壊し、部族に 再起を 強いる ことも ある。この ような 状況下では、各々(おのおの)の 部族が 絶えず 移動し、衝突し、戦闘は 避けられない。したがって、北原の 蛊師は 最も(もっと)も 数が 多く、五大域中 最強の 戦闘能力を 有している。
方源が もし 西漠を 選び、人質を 取って 蛊仙を 脅迫すれば、平穏な 西漠に 巨大で 長引く 衝撃を 与える こと 間違いない。
しかし 仮に 北原を 選んだ 場合、たとえ 五转蛊師の 太白云生を 殺害した としても、その 影響は 一時的な 騒動に 終わる だろう。数ヶ月後 には、人々(ひとびと)は 彼の ことを 忘れて しまう に 違いない。
方源は 慎重に 考慮した 結果、混乱した 北原の 方が 自身の 行動に 適して いると 判断した。
西漠の 孫醋は すでに 蛊仙である のに対し、北原の 太白云生は 現時点では 五转巅峰に 過ぎない。
方向を 決定すると、方源は 再び 深思に 沈み、記憶を 辿って 様々(さまざま)な 有益な 情報を 引き 出し、北原での 大計を 練り 上げた。
計画は 変化に 追いつかない。重生して 以来、彼の 計画は 絶えず 変動して きた。
青茅山では 最初の 変化が 起きた。彼は 甲等の 資質を 得、大きな 突破を 果した ため、計画が 変更された。三叉山では 二度目の 変化が 訪れた。方源は 一気に 頂点に 上り 詰め、元の 計画は 見る も 無残な 姿に 変わって しまった。
義天山の 大戦には まだ 利益が 残って いるが、南疆では もはや 方源の 居場所は ない。
中洲に 至っては、なおさら 不可能だ。
一介の 凡人である 彼は、正道の 十大派に 名を 知られ、仙鶴門の 全員と、天梯山の 数多の 魔道の 蛊仙たちから 狙われて いる。
蛊仙に なれない 限り、一日たりとも 福地から 出る ことは できず、縮み 上がって いなければ ならない。
もともと 彼は、狐仙福地で 静かに 暮らす つもりで いた。
福地には 豊富な 資源が あり、方源は 鳳金煌のように、世を 避けて 修行に 励み、一日も 早く 蛊仙の 境地に 達し、春秋蝉という 最大の 内部の 脅威を 永久に 解決しよう と 考えて(かんがえて) いた。方源は 冒険好き(ぼうけんずき)で、小さな リスクで 大きな 利益を 求め、しばしば 生死の 境で 戦って きたが、だからといって 安寧で 安定した 生活を 拒いる わけでは ない。
安全で 安定した 修行方法を 使わずに、わざわざ 飛び 回り、あちこちで 騒ぎ 立て、無謀な リスクを 取る ような 真似は、まともな 判断力が あれば しない ことだ。
孤独や 寂寞や 単調さは、決して 方源の 修行の 妨げには ならなかった。
もし 心が そんなに 浅はかで、これらの 苦しみに 耐えられない のであれば、どうして 成功への 道を 歩き 続ける ことが できようか?
しかし、世の 中の ことは 変転 極まりなく、事 願い 違う ことこそが 人生の 常なのである。
方源は 世を 避けて 修行に 専念する ことを 望んで おり、福地の 発展の 勢いも 急速で 良好だった。仙鶴門は 外部からの 脅威では あるが、方源は 常に 主導権を 握って おり、相手が 勢いが あっても、当分の 間は 彼を 完全に 抑え 込む ことは できない だろう。
将来の 見通しは 素晴らしく、順風満帆で、すべてが 良い(よい) 方向に 向かって いた。しかし その 時、蕩魂山に 問題が 発生した!
狐仙福地に とって、蕩魂山の 重要性は 言うまでもない。この 山に 問題が 起これば、方源の 交易は 根本から 崩壊し、彼の 修行計画も 水の 泡と なって しまう。
この ため、方源は 再び 計画を 変更せざるを 得ず、福地を 離れ、北原へ 遠征する ことになった。
「幸い 私は 前もって 準備を し、いくつかの 手を 打って おいた。でなければ、今頃 完全に 被動的に なって いた だろう」
その後 数ヶ月間、方源は 全精力を 蛊の 煉成に 注いだ。
彼は 四転の 金杯銀盞蛊を、四転の 旁推側引蛊と、四転の 移步換形蛊と 組み合わせ、五転の 推杯換盞蛊を 合成煉成した。
さらに 続けて、蒙塵蛊、皓珠蛊、暗投蛊、地蔵花王蛊を 次々(つぎつぎ)と 煉成した。
「地霊よ、私が 不在の 間は、私の 指示どおりに 行動して くれ」出発前に、方源は そう 念を 押した。
小狐仙は 目を 赤く はらし、名残惜しそうに 言った:「ご主人様、ここで 待って いますから、どうか 早く 帰って きて くださいね」
そう 言うと、青提仙元を 催动し、定仙游蛊に 注ぎ 込んだ。
碧の 光が 爆発的に 輝き、方源は 瞬時に 姿を 消した。




