第十七節 幽魂魔尊
ごぼごぼごぼ……
五人分の 高さがある 巨大な 石の鼎の 中で、青藍色の 液体が 絶え間なく 泡を 立てていた。
水面は 沸騰している ように 見えたが、実際は 冷たい 寒気が 溢れ出ており、たとえ 石人が 手を 伸ばしても、瞬時に 凍り ついてしまうほどだった。
方源は 大鼎の 前に 立ち、一方で 気を 配り 注意深く 調整しながら、他方で 元老蛊を 取り出した。
彼は 複数の 動作を 同時に 行ない、元老蛊を 駆動して、そこから 無数の 元石を 飛び出させた。
ざぶん、ざぶん、ざぶん……
元石が 鼎の中に 落ち、さざなみのような 水飛沫を 上げた。
元老蛊は 三転の 貯蔵用蛊で、最大 百万個の 元石を 収納できる。水晶玉のような 形状で、半透明の 球体の 中には、雲のような 霞が 凝縮して 雲老人を 形成している。中に 貯蔵された 元石が 多ければ、雲老人は 笑顔を 浮かべ、少なければ 泣き顔に なる。
大量の 元石が 投入される につれて、雲老人の 笑顔は 徐々(じょじょ)に 消え、苦々(にが)しい 表情に 変わっていった。
方源が 今回 蛊を 煉成するのに、前後 五十万個もの 元石を 消耗した。
以前なら、とても こんな 消耗には 耐えられなかっただろう。しかし 今、彼の 資金力は 潤沢だ。荒獣泥沼蟹を 売却し、さらに 多くの 元石を 購入した ため、手元には なお 六百万個以上の 元石が 残っている。
元石が 投入されると、大鼎の 中に 巨大な 渦が 生じ、青藍色の 液体を 急速に 回転させた。大鼎自体も 微かに 震え始めた。
方源が 今回 蛊を 煉成するのに、前後 五十万個もの 元石を 消耗した。
以前なら、とても こんな 消耗には 耐えられなかっただろう。しかし 今、彼の 資金力は 潤沢だ。荒獣泥沼蟹を 売却し、さらに 多くの 元石を 購入した ため,手元には なお 六百万個以上の 元石が 残っている。
元石が 投入されると、大鼎の 中に 巨大な 渦が 生じ、青藍色の 液体を 急速に 回転させた。大鼎自体も 微かに 震え始めた。
蛊煉は 最大の 山場を 迎え、方源は 全ての 精神を 集中させ、もはや 気を 抜く 余裕など なかった。
額に 汗の 玉が 浮かび、彼は かすかな 声で 呼びかけた:「地霊よ」
「はい!」小狐仙は 澄んだ 声で 応え、慌てて 銀塊を 一塊 また 一塊と 大鼎に 投入した。
銀塊が 水に 落ちる と、すぐに 渦の 回転速度が 緩やかに なっていった。
次々(つぎつぎ)と 投入される 銀塊によって、ついに 鼎内の 水面は 静まり、銀色の 堅い 氷と 化した。
最後には、鼎の 中の 液体は 完全に 凍結し、大量の 銀色の 冷気が 蔓延して 大鼎を 覆い、さらには 五歩ほど 先まで 広がり、地面を 銀色に 染め上げた。方源は 深く 息を 吐き出した:「三日間も かかった 蛊煉が、ついに 一段落ついた。さあ、出よ!」
銀色の 氷塊が 砕け散り、無数の 蛊虫が 飛び出してきた。
これらの 蛊は すべて 三転蛊で、形は 小さな 杯の ようであり、また ラッパ状の 花にも 似ている。手のひらを 広げれば、十分に 三匹の 蛊を 載せることが できる 大き(おおき)さだ。
それらは 全身 銀色に 輝き、液体を 入れる ための 貯蔵用蛊として 使われる。
小狐仙は 注意深く 数え、顔中に 笑みを 浮かべて 手を 拍しながら 跳ね 回った:「137(ひゃくさんじゅうなな)、146(ひゃくよんじゅうろく)、159(ひゃくごじゅうきゅう)! ご主人様、すごいです! 一度に 159匹もの 三転蛊を 煉成できました。これで たくさん 売れますよ! でも これらの 蛊は 何という 種類ですか?」
「ははは、これらは 銀盞蛊だ。次の 煉成で 使う 予定なので、売ったりは しないよ」方源は 軽く 笑った。
この 銀盞蛊は、実は 方源の 前世から 三百八十年後に、とある 蛊仙によって 初めて 研製された 蛊虫である。これらを 繰り返し 合成煉成していくことで、五転に 到達した 時、初めて 方源の 求める 蛊と なるのだった。
今 売る わけには いかない。
「ここ 数日間、多量の 胆識蛊を 使って、魂魄を 常人の 五十二倍まで 強化した。だからこそ、さほど 疲労せずに、一度に これほど 多くの 蛊を 煉成できたのだ」方源は 今回の 煉蛊の 成果に 大いに 満足していた。
魂魄の 素養が 高まった 恩恵は、今 まさに 様々(さまざま)な 形で 現われ 始めているのだった。
もし 鶴風揚が この 光景を 目に したなら、もう 二度と 方源を 軽視する ことなど できなくなるだろう。方源が 見せた 蛊煉の 造詣は、もはや 彼を はるかに 凌駕している のだから。
しかし、方源の 頭は まだ 少し 眩暈が していた。
蛊を 煉成する たびに、魂魄には 負担が かかり、大量の 精神を 消耗する。ましてや 方源の ような 大規模な 煉成ならば、なおさらだ。
以前なら、方源が 神魂を 回復するには、休息し、静養し、睡眠を 取る しか なかった。しかし 今、彼には もっと 良い(よい) 方法が ある。
「地霊よ、この 大鼎は もう 使えなくなった。処分して おいてくれ。私は 外に 出て 少し 散歩してくる」
「はい、ご主人様」小狐仙は すぐに 息を 切らせながら 働き 始めた。
三、四日(さん、よっか)が 経つ うちに、蕩魂山には 再び 大量の 胆石が 凝結していた。
方源は 何気なく 数個の 胆石を 踏み砕いた。飛び出した 胆識蛊は 瞬時に 彼の 魂魄を 回復させ、さらには かすかに 強化さえ した。方源は 瞬く うちに 眩暈が 完全に 消え、何を 考えるにも 電光のように 迅く 思考できる ようになったのを 感じた。
彼は 気持ち 良く 朗らかに 笑い 声を 上げた:「さすがは 神話に 伝わる 胆識蛊よ!その 効能は 実に 絶妙という ほかない。今日こそ、この 魂魄を 極限まで 強化して やろう!」
六十八倍! 方源は 心身が 爽快で、動作が 無比に 軽快なのを 感じた。
七十七倍! 方源の 思考は 電光石火の 如く、一つひとつの 念が 火花のように 閃いた。
八十五倍! 方源の 魂魄の 強さは、もはや 肉体の 収容限界を 微かに 超え始めていた。
九十二倍! 方源は 自らの 魂魄を 明確に 感じ取ることが できた。感覚的には、魂魄は 灰白色で、外見は 方源の 顔貌と 寸分も 違わないが、ただ 極めて 強靭で、筋肉は 隆々(りゅうりゅう)と 盛り上がり、体格は 熊や 虎の ようだった。一方 方源の 肉体は、健康では あるが、狼のような 背中に 蜂のような くびれ腰という 引き締まった 体付きで しかない。魂魄が この 肉体に 収まっているのは、まるで 詰め込まれている ような 感じがした。
もはや 限界に 達したの だろうか?
九十三倍! 方源が さらに 胆識蛊を 一体 吸収すると、魂魄は さらに 強化された。今回 方源が 感じた 快感は 前代未聞の ものだった——この 歓喜は、麻薬の 陶酔感も、美食の 悦楽も、男女の 交歓も すべて 百倍も 凌駕する ほどの 絶妙な ものだった!鋼の 如き 硬漢である 方源でさえも、思わず 嗚咽にも 似た 呻き声を 漏らした。
言葉に 表せない ほどの 恍惚と 陶酔——人を 無限の 悦楽に 浸らせ、その 味わいは 尽きる ことを 知らない。
しかし 方源の 瞳に 冷たい 光が 走った。彼は 警戒心を 抱いたの だった。
再び 胆石を 踏み砕き、魂魄を さらに 強化する。今度の 快感は、前回の 数倍も 強烈だった!
九十七倍、九十八倍、九十九倍!
魂の 奥底から 湧き上がる この 快感は、方源の 全身を 震わせ、骨の 髄まで 染み渡る ような 痺れる ような 快楽は、もはや 言葉では 言い表せない ほどの ものだった。
百倍!
狂おしい ほどの 陶酔感が、まるで 竜巻のように 方源を 襲い、彼は あやうく 気を 失い かけた。
「限界だ!これ以上 胆識蛊を 使っては ならない!」方源は 歯で 舌先を 噛み、痛みを 借りて 自らの 意識を 保ち、陶酔に 溺れる ことなく 清醒を 保った。
普通の 人間が 魂魄を 強化できる 限界は 百倍まで——俗に 「百人魂」と 呼ばれる 境地である!
これが 生死の 限界点でも ある。もし これ以上 魂魄を ほんの わずかでも 強化しようと すれば、魂魄は 「パン」という 音と 共に 爆散する。ちょうど 食べ 過ぎて 腹が 破れる ように。しかし 魂魄の 爆散は、腹が 破れる ことよりも はるかに 深刻な 結果を 招く。魂魄は 完全に 消散し、瞬時に 消滅する。肉体は しばらく 保たれるが、やがて 徐々(じょじょ)に 腐乱して 白骨と 化してしまうのだ。
もし 方源が この 陶酔感に 溺れて、もう 一匹 胆識蛊を 使って しまったら、彼は 春秋蝉を 駆動する 機会さえ 得られず、即座に 滅亡し、この 世界から 完全に 消え 去って しまうだろう。
「残念ながら 我が 手元には 落魄谷が ない。あの 谷には 迷惘の霧が 立ち込め、魂魄を 緩み 散らせる。さらに 落魄風が 吹き荒び、魂魄を 断ち 切る。魂魄が このような 拷問にも 似た 苦痛に 耐え 抜く ことで、より 一層 凝縮され、純粋に 鍛え 上げられる のだが」方源は 心の 中で 残念そうに 嘆息した。
魂魄が 単に 強く なる だけでは、それは 単なる 数量的な 優位性に 過ぎない。さらに 鍛錬を 重ね、凝縮される ことで、初めて 質量的な 優位性を 得る のである。
この 世界には、魂魄の 修行に 特化した 蛊師たちが 数多おり、彼らは 総称して 「魂道蛊師」と 呼ばれる。魂道は 近古時代に その 輝きを 極めた 流派である。力道が 今や 衰退する 中、魂道は その 創始以来 衰える ことなく、今でも 主要な 流派の 一角を 占めている。
この 魂道を 創始した 蛊師は、世界史の 中でも 赫々(かっかく)たる 名声を 轟かせている。
その 名は 幽魂魔尊!
九転の 蛊仙として、宇宙を 見下ろし、蒼生を 蔑視する まさに 天下無敵の 存在であり、整整と 一時代を 支配した 伝説的な 人物である。
同時に(どうじに)、彼は 史上 最大の 殺性を 持つ 九転蛊仙でも あった。
すべての 仙尊や 魔尊の 中で、彼が 殺した 者の 数は 最も(もっとも) 多かった。彼の 暗黒の 時代には、五大大域は すべて 彼の 屠殺場と 化し、万物は 声を 潜めて 彼の 裁断を 耐え 忍び、抵抗する 力も なかった。
幽魂魔尊は かつて こう 言った:「天下の 中で、魂を 壮んに するには 蕩魂山が 最適、魂を 鍛えるには 落魄谷が 最適である。この 一山一谷を 手に 入れれば、必ずや 魂道は 大成し、世を 縦横に 渡り 歩く ことも 難しくは ない」
したがって、蕩魂山と 落魄谷は、魂道蛊修たちの 心の 中では、並び 立つ 二大聖地なのである。
方源が 蕩魂山を 手に 入れた こと自体が、すでに 奇跡的な 幸運であり、重生の 利を 活かした 大きな 得だった。しかし 落魄谷まで 手に 入れようと するのは、希望は 極めて 渺茫だ——彼は 落魄谷が どこに あるのか、まったく 知らない のだから。
「しかし、落魄谷が なくとも、他の 魂道蛊虫で 代用することは できる。神魂蛊、龍魂蛊、氷魂蛊、夢魂蛊、月魂蛊、将魂蛊、怨魂蛊、詩魂蛊 などなど、いずれも 私の 魂魄を 鍛え 上げ、魂を さらに 強く し、百人魂の 限界を 突破して 千人魂へ、さらには 万人魂へと 到達させる ことができる」
これらの 蛊虫は、仙鶴門から 入手する わけには いかない。魂魄に 直接 作用する 蛊に、もし 仙鶴門が 何か 細工を 施していたら、あまりに 危険すぎる。しかし、これらの 蛊の 合成煉成の 秘方は、方源も ほとんど 知らない。さらに 重要なのは、彼が まだ 決めかねている こと——いったい どの 蛊虫が 自分自身に 最適なのか という ことだ。
「現状では、百人魂で 十分 当面の 局面に 対処できる。今は 石人の 売買に 力を 注ぐべきだ」方源の 思考は 一瞬 広がったが、すぐに 収束させた。
荒獣泥沼蟹は すべて 売却済みで、次の 取引では、方源は 胆石を 売る つもりは なかった。
胆石を 売り 渡せば、仙鶴門の 戦力を 強化する ことになり、それは 彼の 望む ところでは ない。
その後の 日々(ひび)、方源は ひたすら 蛊の 煉成に 励み、自らの 空窶を 洗練した。
一ヶ月が 過ぎ、九眼酒虫の 助力も あって、方源は 順調に 四転巅峰に 昇格した。
同時に、彼は 百五十五匹の 金杯蛊の 煉成にも 成功している。
金杯蛊と 銀盞蛊は、大差なく、いずれも 三転蛊であり、液体を 貯蔵する 用途も 同じだ。
続けて、彼は 金杯蛊と 銀盞蛊を 用いて 合成煉成を 行った。七日六夜もの 歳月を 費やしたが、運よく、最終的に 三匹の 四転 金杯銀盞蛊を 得ることが できた。
彼は 一時的に 手元の 作業を 止め、視線を 石人一族へと 向けた:「これだけ 長い 日々(ひび)が 経てば、石人部族は 分裂している だろう」
石人は 一生の 大半を、睡眠に 費やす。
一般に、石人は 三百歳に 近づくと、魂魄が 一定の 水準まで 蓄積され、一つの 子孫を 繁殖できる ようになる。その後 平均して 二百年ごとに、小石人を 繁殖させる。
予想どおり、一人の 石人が 千歳まで 生き、寿命を 全うする までに、四つの 子孫を 残す ことができる。
しかし 胆石の 影響で、石人部族の 人口は 爆発的に 増加し、数百人から 三十万余に まで 膨れ上がった。
この 急激な 人口増加は、石人の 内部に 矛盾を 生じさせ、それらが 急速に 増大し、激化し、ついに 爆発した。
元々(もともと) 石人の 社会体制は、非常に 緩やかで、最大でも 十万人まで しか 組織できなかった。案の 定、一連の 政変の 後、石人部族は 三つの 部族に 分裂し、それぞれが 約十万人ずつの 人口を 擁して、各々(おのおの) 一つの 元泉を 中心に 新たに 定住した。
方源は 新たに 煉成した 奴隷蛊を 取り出し、地霊の 小狐仙に 渡した。
奴隷蛊は、一転から 五転まで 存在する。方源が 煉成した ものは、いずれも 三転奴隷蛊であり、石人部族を 支配するには 十分な 威力を 持つ。
小狐仙は 奴隷蛊を 万里も 離れた 場所に 転移させ、直接 鍵となる 石人たちに 作用させた。
石人の 魂魄など、方源の 百人魂の 敵では ない。やすやすと 奴隷化されて しまった。
瞬く 間に、方源は 岩勇を 含む 三人の 石人族長と、十数人の 石人長老を 支配下に 置いた。
こうして 石人 三十万の 人口が、すべて 彼の 支配するところと なった。
まるで 雲を 翻し 雨を 覆す が 如き この 挙は、もはや 蛊仙の 片鱗を 覗かせる ものだった!




