第十五節:兄弟再会
天梯山では、ほころびが 密集して 現われ、極めて頻繁に 次々(つぎつぎ)と 発生していた。
仙鶴門の 精鋭弟子たちが 目を凝らして 注視しているだけでなく、同様に 数多の 蛊仙たちも、後方に潜み、密接に 状況を 見守っていた。
この機会を利用して、方正は さらに 三度 挑戦を繰り返し、ついに 電文紙鶴蛊を 見事に 福地の中へ 送り込むことに 成功した。
すると、一羽の 青い鳥が 羽を広げて 飛来し、すぐに ほころびに 沿って 狐仙福地へと 舞い込んでいった。
「あれは 伝信青鳥蛊だ! 鳳九歌め、いったい 何を 企んでいるのだ?」鶴風揚は この様子を目にすると、表情を 険しく 曇らせた。
そして 次の瞬間、彼の両目の瞳孔は 針先のように 極限まで収縮し、口は 驚きで 大きく開かれ、顔中に 極度の 衝撃の色が 走った。
「なんということだ! まさか あんなに 広大な 福地を 丸々(まるまる) 切り捨てるとは?!」
鶴風揚は 唖然として、石像のように 固ばって 立ち尽くした。
方源が 切り捨てた 福地は 実に 百万畝にも 及び、天梯山の 中腹まで 福地の 残像のような 煙るような影が 広がり、視界の ほとんどを 草原が 覆い尽くした。
一人の 蛊仙が 最速で 反応した。剣光が 一閃し、その姿を 現わにした。
「ははははは! でっかい 福地だなあ! こいつは 俺のものだ、誰にも 奪わせないぜ!」剣一生は 興奮して 雄叫びを上げ、この広大な領域を 自らの福地に 引き込み、領土を 拡大しようと 躍起になっていた。
しかし その時、一筋の 電光が 飛び出した。
「くそっ!」剣一生は 不意を突かれ、罵声を放つと、魅蓝电影に 砲弾のように 打ち飛ばされた。
だが 剣一生も 只者ではなかった。即座に 魅蓝电影と 激戦を 繰り広げた。
その勢いは 猛烈で、大地は揺れ、山々(やまやま)は轟いた。仙鶴門の 精鋭弟子たちは 皆 呆然自失して 見とれていた。
さらに 彼らを 愕然とさせたのは、続いて 十数の影が 現われ、まるで 飢えた狼の群れのように、閃光のごとく この百万畝の 狐仙福地を 分け合ったことだった。
「この 卑しい 畜生めが!」
「俺様が 化け物を おびき出して やったのに、ろくな 分け前も くれないとは!」「くたばれ この 野郎ども!」
「地獄に 落ちろ! できそこないの 餓鬼どもめ!」
剣一生は 狂ったように 喚き散らし、生きてきて これほどの 大損を したことはなく、魅蓝电影に 追い回される 惨めな姿に 激怒していた。
「それに あの 方源め、小僧のくせに 図々(ずうずう)しい! よくも 俺を 騙しやがったな! そんなに つもりがあるなら、いざ 勝負だ!」彼は 飛剣伝書蛊を 放った。
飛剣伝書蛊は 驚異的な速さで、さらに 虚空を 貫く能力を持ち、たとえ ほころびがなくても、福地の中へ 突入することができた。
仙鶴門の 面々(めんめん)は 全員 呆然としていた。
これが……蛊仙の 風格というものなのか?
「この 剣一生め、まったく 蛊仙の 名を 汚す者だな……」鶴風揚は 思わず 手で 顔を覆った。
その時、白金色の 光が 輝き出した。
光の中に、高さ十丈もある 朱に染まった 門楼が 現われ、九色に輝く 扁額が 掲げられていた。
桃色の 祥雲が 集まり寄り、七色の 虹の光が 方正の体を 包んだ。瞬きの 瞬きの 間に、方正は その場から 消え失せた。
魅蓝电影や 荒獣泥沼蟹を 直接 福地外へ 転送することは、小狐仙の 能力の 範囲を 超えていた。しかし 方正ひとりを 転送する 程度なら、可能であった。
「入った!」この様子を目にした 鶴風揚は、胸を 熱くした。
その時、一筋の 稲妻が 天から 駆け降りた——まさに 魅蓝电影であった。しかし 白金色の 光輝は 朱の 門楼と共に 急激に 収縮した。
わずかな 差で、魅蓝电影が 狐仙福地へ 突入しようとする 試みは 失敗に終わった。
方正は ただ 視界が ちらりと 揺らぐのを 感じただけだった。目を凝らして 周りを見回すと、景色は 一変していた。
彼は 草原の中に立ち、足元には 緑豊かな 草が 生い茂り、頭の上には 厚い 雲海が 垂れ込め、濃い 影を 落としていた。遠くない所には 幾つ(いくつ)かの 湖が きらめいていた。
「狐仙福地に 着いたんだな」方正は すぐに 悟った。体じゅうの 蛊虫が 封じ込められている のを 感じた——かつて 初めて この福地に 入った時と 全く 同じ 状況だった。
すると、一団の 煙のような 影が 彼の目の前で 立ち上り、やがて 等身大の 鏡ほどの 大きさに 広がった。鏡の中には 方源の姿が 映っている——彼は 座り、背中を 椅子の背もたれに 預け、足を組んでいた。左の手は 組んだ 膝の上に置き、右の 肘は 広い 肘掛け椅子に 載せ、手のひらで 頬杖をついていた。
黒髪が 気ままに 垂れ下がり、両目は 半ば 細められていた。その 物憂げで 慵懶とした 仕草と 表情は、しかし、危険な 邪な 魅力と 陰影を 感じさせた。
「愛しき 弟よ、まさか 中洲で 君に 会えるとはな」方源が 口を開いた。
その声は、方正にとって、あまりにも 未知であり、でありながら あまりにも 既知であった。
方正の体は 震え、瞬くうちに 両眼に 激しい 憎悪が 燃え上がった。「古月方源! この 狂気の 悪魔め! 一族を 惨殺した 人殺し! 俺が 自らの手で 始末してくれる!」
そう 叫ぶと、彼は 方源に 躍りかかった。
しかし、この「方源」は ただ 光と 煙が 形作った 映像に 過ぎなかった。方正が 煙る 影を 払いのけると、すぐに 散り ゆく 煙は 再び 集まり、無傷の 方源の 映像を 形作った。
方正は 指を 方源に 向けて、叫んだ。「方源! 俺に 直接 会う 勇気も ないのか? この 腰抜けめ! 恥知らずの 裏切り者! 人非人の 畜生め! 死ぬこと くらい 大したことない というのに、お前は 自分の 命ばかりを 惜しんで、一族を 皆殺しにした! この 大逆無道の 所業を、よくも 平然と できたものだな! お前は まだ 人たる 資格が あるのか?!」
「はははは」方源は 朗らかに 笑い、のびやかに 椅子の背にもたれかかった。「愛しき 弟よ、相変わらず 愚かだな。たとえ 私が 手を下さなくても、奴らの 末路は 死以外に なかった。それならば、なぜ 私が 生き残っては いけないのだ? 私が 反撃しなければ、君が 中洲に 連れ戻されることなど ありえなかった。逆に、私が 君を 救ったのだ。私は 君の 命の 恩人なのだよ」
「でたらめを 言うな! 曲がった 理屈ばかりで、実に 厚顔無恥だ!」方源が 自らを 恩人と 称するのを 聞いて、方正は 鼻が 曲がるほど 激怒した。
方源の 唇の端に 浮かんでいた 笑みが 徐々(じょ)に 消えていった。彼は 軽く 嘆息して 言った。「方正、 我が 弟よ、君には 本当に がっかりした。ここ数年 君は まったく 進歩がない。例え 修行が 進んで 強くなっても、所詮 他の者の 駒に 過ぎない。さて、本題に 移ろう。仙鶴門からの 手紙は 読んだ。長老の 地位を 約束する などという でたらめは、今後 言わなくて 結構だ。それより 取引の 方が 話に なろう」
方正の 胸は 激しく 上下し、鼻息は 荒く、目には 憎悪の 炎を 宿らせ、方源の 映像を 睨みつけていた。
この兄弟は、顔つきが 非常に 似ており、瓜二つで、最も近しい 血脈で 結ばれている。しかし 残念ながら、彼らは 生死を かけた 仇敵同士であった。
方正は 荒い 息を 何度か 吐き出しながら、ようやく 方源への 澎湃とする 殺意を 抑え込み、门派から 受けた 命令を 思い出した。「狐仙福地において、狐群や 蛊虫には、我々(われわれ)の门派は 興味がありません。しかし 蕩魂山の 胆識蛊には、一定の 価値が あります。我々(われわれ)は 今後 弟子たちを 派遣しますので、貴方は 彼らを 蕩魂山へ 導いて ください……」
「待て」方正の 言葉が まだ 終わらないうちに、方源に 遮られた。「わしは まだ 仙鶴門の 誠意を 信じては おらん」
「これが 私の 求めるものだ。まずは これらを 揃えて、できるだけ早く 私に 渡せ。元石は 持っていないが、代わりに 荒獣泥沼蟹の 死体で 取引できる。詳細は 手紙に 書いてある。帰って よく 読むがいい」
その言葉が 終わるか 終わらないかの うちに、一筋の 細い 電光が 飛んできて、方正の 手のひらに 落ちた。
それは あの 電文紙鶴蛊だった。
この 電文紙鶴蛊は、もはや 方源によって 強引に 煉化され、彼の 所有物と なっていた。中身には、方源が 要求する 蛊虫や 各種材料、そして 泥沼蟹の 血、肉、骨、甲羅などが 詳細に 記されていた。
方正が 顔を 上げ、まさに 口を 開こうとした その時、突然 眼前の 光景が 一変した——彼は 再び 転送され、外に 放り出されたのだった。
「問題ないか 確認したか?」方正が 去った後も、方源は 気を 抜かず、地霊に 念を 押した。
福地は 仙蛊を 封じ込めることは できない。方源が 直接 方正に 会わなかったのは、彼の 身に 仙蛊が 隠されている 可能性を 警戒しての ことだった。
仙鶴門は 大所帯で、仙蛊の 数も 少なく ないはずだ。
方正の 空窶は 仙蛊を 収めるには 不十分で、仙蛊の 気配が 漏れ 出やすい。しかし 蛊師の世界には 様々(さまざま)な 奇術が 存在し、仙蛊の 気配を 隠す 方法も 多い。方源は この点を 警戒せざるを 得なかった。
地霊が 何度か 確認し、問題ないと 報告すると、方源は 初めて 安堵の 息を 吐いた。
「地災を 乗り切ったことで、いよいよ 不幸極まれば 幸い 至るというのか?」方源は 目を 細めながら、自身の 状況を 考えていた。眼前の 局面は、彼が 当初に 予想していた 以上に 有利だった。
仙鶴門は 狐仙福地を 手中に 収めるためなら、なんと 敵である 方源の 為にまで 庇護を 提供する とは!これが 中洲十大派の 貫禄というものか!
すべては 利益が 最優先であり、敵であろうと 味方であろうと、この 基礎の 上に 成立している。
俗に 言う 「大局観」 というやつだ。体制という 束縛の 中、大局を 見据える 視野を 要求される 状況では、方正が たとえ どれほど 兄を 憎んでいようと、結局 逆らわずに 取引のために 来ざるを 得ないのだ。
「私を 制御できないと 悟り、強攻すれば すべてを 失うと 分かると、仙鶴門は すぐに 和平交渉や 取引を 求めてくる。たとえ 他の者に 発見されても、誰も 「正魔の 癒着」などと 非難しない。なぜなら 仙鶴門は すでに 私を 自派の 弟子だと 公認したからだ! 実に 巧妙な 計算だ」
「しかし、これこそが 私の 求めるものだ。たとえ この 弟子という 身分が 虚偽に 満ちていようとも、他の 勢力を 威圧するには 十分だ。剣一生と 鳳九歌からの 手紙を 見れば、この 身分の 価値が 分かるだろう」方源は 心中 思索した。彼は この 身分を 特に 気に していなかった。
本質的には、彼は 依然として 魔道の 修行者であり、個人として、自由奔放に 振る舞い、誰にも 束縛されることはなかった。
しかし 同時に、彼は 取引を 通じて、必要な 資源を 手に 入れることも できたのだった。
「本来、私は 琅琊福地に 赴き、通天蛊を 強奪する つもりだった。今は 仙鶴門との 取引が あるので、この 余計な 行動は 必要ない。しかし 狐仙福地を 奪ったことに対して、仙鶴門が 簡単に 諦める はずはない。今 和談しているのは、彼らが 投鼠忌器で、他に 手段が ないからだ。決して 油断せず、隙を 見せては ならない」
方源は ひそかに 自らを 戒めた。弟の 方正のことは、比較的 次要的な 問題だった。
彼を 殺せば、せいぜい 血颅蛊を 使って 自分の 資質を 多少 向上させる 程度だ。しかし 欠点は、仙鶴門の 怒りを 買、自らを 危険に 晒す ことになる。
実の 弟を 殺害することは、純粋な 魔道の 所業であり、もし 外部に 知られれば、方源が 仙鶴門を 裏切ったと 解釈されるだろう。その時には、十大派と 無数の 魔道蛊仙たちが、貪欲な 目を 狐仙福地に 向けることになる。
世に 漏れない 秘密は ない。一度 事が 発覚すれば、たとえ 仙鶴門が 芝居を 続けようとしても、不可能となる。
方源の 現在の 状況では、資質の 向上は もはや 二次的な 問題だ。
たとえ どれだけ 資質を 高めても、修行には 資源が 必要だからだ。
だから 重要なのは、いかにして 局面を 安定させ、福地の 資源を 最大限に 活用して、自らの 実力に 変えるか ということだ!




