「ちっ!」方源は呪いの言葉を吐くと、手を振って金龍を放った。
金龍は唸りながら駆け抜け、重泰犬の群を肉泥に潰し、逃げ道を開いた。
「小獣王、どこへ逃げる!速やかに仙蔵を差し出せ!」翼冲が方源の面前に現れ、浪濤が渦巻きながら押し寄せた。
骨翼蛊!
方源は翅を震わせ、巨浪の一撃を避けて天空へ舞い上がった。
「小獣王、やはりここに留まれ」易火が手を一振りすると、火鳥が飛翔しながら方源を啄んできた。
金霞蛊!
方源の全身が金の光に包まれ、速度が急激に上昇。火鳥を振り切ると、素早く後退した。
「ん?」此の大きな動静は、魔無天と蕭芒の注意を引いた。
蕭芒は巨象ほどの大きさの光の巨手を飛ばし、極速で方源を捕らえようと襲った。
方源は急旋回で回避した。
しかしその時、突然 耳の傍で優しい呼び声が聞こえた。
その声は、恋人の囁くような甘い言葉のようでもあり、家族の切なる呼び掛けのようでもあった。事情を知らない者は魂を奪われ、心を奪われてしまう。
「魔無天の柔情蛊!」方源は愕然とし、素早く振り切ろうとしたが、結局動きが一瞬止まった。背後から光の巨手が再び迫ってきた。
「まずい!」もはや回避するのは不可能だと悟り、方源は蛊を催動して攻撃で防御を代用した。
ドン!
轟音が響き渡り、光の巨手は散り散りに打ち砕かれた。しかし方源も糸の切れた凧のように、空中に血の線を描きながら地面へと墜落した。
耳の傍で吹き抜ける風の音が、意識を失っていた方源を覚まさせた。
自分が墜落していることに気付くと、彼は慌てて再び蛊を催動すると同時に叫んだ。「鉄若男が絶世の仙蛊を手に入れ、煉化している!」魔無天と蕭芒の注意は、即座に方を変えられた。
仙蛊!
群雄は沸騰し、瞬く間に比べるものがないほどの狂熱に陥った。鉄白棋への圧力は暴騰した。
方源は息をつく機会を得ると、即座に巫鬼の移動蛊を催動した。大きな陰雲が湧き上がり、彼はその中に身を潜めて撤退を続けた。
しかしその時――
ビュンビュンビュンビュン!
虚空から、突然四本の鎖が現れ、蛇のように巧妙に、電光のように迅速に方源の四肢に絡み付いた。
そして鎖は速やかに緊に絡み付き、方源を縛り上げると、虚空へと引き込んでいった!
次の瞬間、方源は再び青銅大殿の中に現れた。
鉄家四老が東西南北の四方位を占め、彼を取り囲んだ。
彼らは地面に半ば蹲り、右掌を真っ直ぐ前に伸ばし、左手で右手首を握り、一斉に蛊を催動していた。各人の掌からは、長い黒鉄の鎖が延びていた。
鉄家四老の奥義――無極搜鎖!
……
そして此の時、中洲、天梯山。
狐仙福地、蕩魂山の頂上で。狐仙福地の帰属を懸けた競いも、最終局面を迎えていた。
「方正、頑張れ、勝利は目前だ!」天鶴上人の声が、方正の心の中に響いた。以前と比べて、彼の声は極めて重い疲労と虚弱を帯びていた。
「はい、あと一人の相手だけです……」方正は歯を食い縛り、全身を汗で濡らしていた。体は今にも倒れそうだったが、一つの強い決意が滲んでいた。
「此の私が、名もなき小者に追い越されるだと!?」蕭七星は双眼を見開き、方正が登り、自らの高さを超えて行くのを茫然と見上げていた。
「はあ……最後の結末が此のようになるとは思わなかった」応生機は深く嘆息すると、突然 手を放ち、山から墜落した。
彼は頂上から最も遠く、方正の姿を見て勝算が全くないことを悟り、潔く直接 降参したのだった。
狐仙地霊は当然 彼が墜死するのを見逃すはずもなく、軽く指を鳴らすと、応生機を安全に外界へ転送した。
登れ、更に登れ。
方正の手足は既に擦り剥け、血が滴っていた。
頂上に近づくほど、魂魄は激しく震え蕩んだ。方正はもはや他のことを考えることは不可能で、両眼には頂上の景色だけが映っていた。彼は全ての潜在力を搾り尽くし、極限まで疲労していた。これは明らかに肉体の限界を超えた発揮だった。
「こいつ……!」鳳金煌も思わず感じ入った。
方正は明らかに疲れ果てているのに、何とも言えない尽きることのない力が彼を支えているようだった。
「頂上、頂上……」方正は歯を食い縛り、此の一つの執念だけが心に燃えていた。
彼は一歩一歩登り続け、徐に鳳金煌を抜き去り、遂に先頭に立った!
此の時、彼は頂上まであと一丈の高さしかなかった。
ピンクで可愛らしい地霊の狐仙さえも、崖の端に立ち、下方をじっと見つめ、新たな主人の誕生を見守っていた。
福地の外で、常に注目し続けてきた蛊仙たちの中には、既に嘆息の声を上げる者もいた。
「鶴風揚、祝うぞ。今回は仙鶴門が一歩リードしたな」
「ふん、もし私の六转の玲瓏小挪移蛊が残っていれば……」
「あるいは星梭蛊、定仙游蛊、我行蛊があれば、此の勝負は別の結果になっていただろう」
蛊仙たちの反応は様々(さまざま)で、淡々(たんたん)と祝賀する者もいれば、惜しむ者、遺憾に思う者もいた。
「運が良かっただけです!」鶴風揚は何度か謙遜したが、声は喜びを隠せなかった。
しかしその時、一人の蛊仙が冷笑した:「鶴風揚、残念だがお前をがっかりさせるな。此の狐仙の伝承は、決して我が霊縁斎のものだ」
言葉が終わらぬ間に、福地で異変が突然 発生した!
鳳金煌が鋭く叫ぶと、背中の肩から一対の絢爛たる羽翼が生え出た。
此の羽翼は、極めて華麗で艶やかであり、様々(さまざま)な色の光が絶えず流れ変わり、燦然と輝いて目を奪った。軽く一羽ばたきすると、鳳金煌を悠々(ゆうゆう)と上昇させた。
「何!?」
「此れは……」
「伝説の仙蛊――夢翼!」
夢翼は非常に特異な仙蛊で、現実には存在せず、夢の中でのみ見出せる。それを催動するのも仙元ではなく、蛊師の霊と魂である。
鳳金煌はただの凡体であり、今 無理に夢翼を催動すれば、魂魄に深刻な損傷を負うことになる——軽ければ記憶喪失、重ければ認知症に陥る。
しかし誇り高い彼女は、生まれ落ちてから今まで、一度も失敗したことがない。方正が自分の眼前で唯一の勝者となることなど、決して許せるものではなかった!
「たとえ最も重い代償を払っても、勝利を得なければならない!」方正が驚いて見つめる中で、遠くない場所にいる鳳金煌は悠々(ゆうゆう)と飛び上がり、容易に彼を超えて、再び先頭の座を奪い返した。
夢翼は突然 収められた。鳳金煌は崖の端に掴まり、荒い息を喘ぎながら、魂の奥から湧き上がる強い眩暈に意識を失いそうだった。
限界に達したのだ。
無理に仙蛊を催動した鳳金煌がここまで出来たことは、既に容易なことではなかった。
「私が負けるだなんて……!」方正は双眼を見開き、魂が抜けたように呆然とした。
此の時、鳳金煌は頂上に極めて近く、実は彼女の両手は既に崖の端に届いており、最後の一歩だけが残っている!
「私は……勝つの!」
此の瞬間、鳳金煌は全力で頭を揚げ、最後の一つの力を迸らせた。
彼女の両眼は琥珀のように輝き、顔は比べるものがないほど美しかった。雪のように白い長い首は、福地の桃色の光の中で玉のような光沢を放っていた。
彼女は雛の鳳凰が初めて天地に美しい羽を広げるかのようだった。
錦繍の輝き!
一瞬、蛊仙たちさえもその姿に魂を奪われた。
彼女は唇を噛み締め、艱難の末に腕を崖の端に掛けた。そして残された力を奮い起こして重い体を引き上げた。
最後には、ほとんど転がり上がるように頂上に達した。彼女は成功した!
此の争いの唯一の勝者、狐仙福地の新たな主人!
……
南疆、三叉山、青銅大殿。
方源は鎖で縛り上げられていた。
「ふふふ、方源、また会えたな」鉄若男は方源の面前に立ち、心から笑っていた。
白凝冰は嘆息した:「無駄だ、方源。お前の左腕には密かに定星蛊を仕込んである。此の蛊で位置が特定されれば、無極搜鎖は虚空を貫いてでも捕えられる。天涯の果てまで逃げても意味はない。此度の勝負は既に決した。運命と認めろ」
「何!?」方源が俯いて見ると、確かに左腕に一匹の蛊が寄生していた。
此の蛊は太古の星屑のようで、ダイヤモンドのように八角に輝き、水晶のように透き通っている。今は星の光を放ち、方源の左前腕を半透明の青く幽かな色に照らし出していた。
「白凝冰!」方源は怒りの絶叫を上げ、狂ったようにもがいた。鎖が激しく揺れ鳴り、ジャランジャランと音を立てた。
前世では、鉄家四老が此の奥義で孔日天を捕縛していた。今生では、此の手が方源に使われるとは思わなかった。
以前、白凝冰が鉄家四老に包囲されたとき、方源が直接 救援しなかったのも、此の無極搜鎖を警戒していたからだ。
一旦無極搜鎖に位置を特定されれば、方源がどこへ逃げても、虚空から鎖が伸びてきて捕えられる。しかし定星蛊がなければ、無極搜鎖は目のない蝿のように方見い失い、憂いことはない。
「此の定星蛊は、鉄家四老が直に私に渡し、長い時間を掛けて訓練させたものだ。いつお前に仕込んだか分かるか?ふふふ——お前が私に黄金の真元を注ぎ、空窪を温洗してくれたときだ。神も知らぬ間にな」白凝冰の目には冷酷な笑みが浮かんでいた。
此の一つの策は、まさに釜底から薪を抽く如く、方源の反撃の希望を徹底的に打ち砕いた!
「定星蛊……良くやった、白凝冰、本当に良くやったな!」方源は白凝冰を睨み付け、歯を食い縛った。
鉄若男は徐徐に降伏を勧めた:「方源、お前は無極搜鎖に掛かった。今お前の蛊は封印され、真元さえ一つも動かせない。もう希望はない。当然、お前はまだ意念を動かして蛊を自爆させることはできる。だが私はその選択を勧めない。お前は賢い者だ。どちらの選択が自分に有利か分かっているだろう?」
方源は俯き、沈黙した。
先程 彼は狂ったように蛊を催動しようとしたが、無極搜鎖は名ばかりのものではなく、宇道と禁道を兼ね備えた奥義だった。五转の挪移蛊でさえ封鎖され、動かすことはできなかった。
「全て(すべて)は終わった、方源。鎮魔塔がお前の最終の帰する場所だ。これからの人生は其処で過ごせ」白凝冰は嘆息した。眼前の大敵が遂に捕えられたのを見て、彼の心情は複雑で、喜びと悲しみが入り混じっていた。
「此の数年、私に精彩をもたらしてくれて感謝する。正にお前の存在があったからこそ、私の寂しい人生に灯が灯り、無聊と孤独に沈まなかった。これから、私は更に精彩な人生を展開する。そしてお前は光栄にも、其の精彩の一部となるだろう」ここまで言うと、白凝冰は方源に一礼し、表情は誠実で真に迫っていた。