戦いは熾烈を極めていた。
「小獣王、まさかここまで恐ろしいとは! 我々(われわれ)がこれほどの人数で、なおも押さえ込めきれない!」鉄沐は治療を施しながら、戦場を凝視し、顔色を変えていた。
「彼の戦力は爆発的に向上し、もはやこの域に達している!」鉄刀苦は眼前の戦闘を見つめ、自らが手を出せないことを悟った。
「道理で我々(われわれ)を遮るほど傲慢だったわけだ… だがたとえお前がどれほど猛ろうとも、どうということはない! 一人は万人に敵せず。戦いがここまで続いても、我々(われわれ)は七人全員健在だ! これが団結の力というもの! 方源よ、この勝負は疑いようもなく、お前の負けだ!」鉄若男は岩の高台に立ち、戦局を見下ろしながら宣言した。
彼女の視界には、鉄霸修ら六人が方源を囲み、激しい戦いを繰り広げていた。その戦団の周囲には、大きな緑の輪が広がっている——数多の藤甲草兵が密な包囲網を形作っていた。
同時に、一部の藤甲草兵は互いに結合し、四转の草剣精兵へと変貌しつつあった。
「勝敗は決した、小獣王! 周りを見渡せ! お前は重なる包囲の中だ。まだ迷いを断ち切れぬのか? 降伏しろ!そうすれば命だけは助けてやる!」鉄線花が立ち上がり、方源の戦意を挫こうとした。
彼女の負った傷は、鉄沐の治療で癒されており、再戦の力が漲っていた。
「方正、もはや逃げ場はない!これが身の程知らずの代償だ!」鉄沐が鉄線花の傍らに立ち、同調するように叫んだ。
「ほう? 翼があっても逃げられぬと?」方源は猛然と力を爆発させ、鉄霸修を一時的に押し退け、口元に嘲笑を浮かべた。「本当に翼があっても逃げられぬというのか? ならば試してみせよう!」
ひゅっ!
激痛が走る中、一対の漆黒の骨翼が、金属の幽光を放ちながら、方源の背中で恣に広がった!
「これは…」
「まさか… 本物か!?」
「何と!」
鉄家の者たちが驚愕の目を光らせる中、方源は骨翼を力強く羽ばたかせ、軽々(かるがる)と地を離れ、空中へと浮上していった。
鉄沐は一語成谶{意味:自らの言葉が現実になると}は思わず、呆然とした。
「情報では、小獣王は飛行蛊を持っていないはず… これは明らかに四转の飛行蛊だ。どうやって手に入れた!?」鉄線花は目を見開き、心底不可解だった。
飛行蛊は移動類蛊の中でも、価値が極めて高く、稀な存在だ。持つ蛊師は少ない。
「方正が飛べるだと!? 道理で我々(われわれ)を遮るほど傲慢だったわけだ…」鉄刀苦は合点がいった。
鉄若男の顔色も険しかった。彼女の藤甲草兵には、対空能力がなかった。方源が飛び上がったことで、苦労して築き上げた包囲網に巨大な穴が開いたのだ。
「慌てるな!」その時、鉄霸修の喝が響いた。
四转巅峰の力の道蛊修であり、鉄家の大黒柱である彼の双瞳は鋭い光を放っていた。豊富な人生経験が、方源の弱点を「見抜か」せた。
「飛行蛊が操りやすいとでも思うのか? 人は生まれながらに両足で大地を踏む。大空を自由に飛び回るためには、どれほどの苦練が要する! 飛行で戦うとなれば、さらにどれほどの汗と涙の努力がいる! 例え太日陽莽様——堂々(どうどう)たる人祖の子でさえ、飛行によって命を落とした。あの小獣王が飛行蛊を手に入れて、いったいどれほどの時が経ったというのか?」
鉄霸修の言葉に、鉄家の者たちはハッと目を覚ました。各々(おのおの)の目に闘志の光が輝いた。
「その通りだ!情報では方正は飛行蛊を持っていなかった。この骨翼を手に入れてから、まだほんのわずかな時間しか経っていない!」
「飛行には膨大な訓練が必要だ。手にしたら即使えるものではない。小獣王は本当に甘いな」
「肝心な時に、鉄霸修先輩が傍にいてくれる心強さ!」
鉄家の者たちは再び戦意を燃やし始めた。
「遠距離攻撃の手段が足りん!お前たち、奴を撃落せよ! 方正、この選択は愚か極まりない! 地上で踏ん張っていれば、まだ時間は稼げたものを、自ら死地に飛び込んだ!」鉄霸修が再び怒号した。
「ほう? そうかな…」方源は淡く微笑み、目の奥に一筋の哀れみの色が走った。
「小獣王、調子に乗れるのも今のうちだ! 金針蚊… ぐっ!」鉄傲開が得意の手を繰り出そうとした瞬間、顔が強張った。
激戦の中、彼の金針蚊蛊はすでに消え尽きていた。方源が金針蚊の攻撃を全く防ごうとしないことに気を良くし、つい多用し過ぎたのだ。戦闘の激しさに、消耗の激しさを忘れていた。
「大変だ! 俺の星箭蛊は、小獣王に破壊されていた!」
「くそっ… 花雨蛊は二つしか残っていない…」
同様の状況が、他の者たちの間でも多かれ少なかれ起きていた。
鉄霸修の胸が重くなった——小獣王は前もって、各人の戦力を狙って破壊していたのだ。なんと深く謀りを潜めていたことか。
「構うな! 俺は刀気蛊がある、遠距離攻撃は任せろ!」鉄刀苦が一歩前へ出た。
「この手の雪玉蛊で、小獣王を痛い目に遭わせてやる!」別の鉄家蛊師も立ち上がった。
鉄家の蛊師は七人、人数も勢いもあり、手段も豊富だ。方源が多少対策を講じていても、全てを無力化することは不可能だ。
「小獣王、降りて来い!」鉄刀苦が刀気蛊を催動し、一振りの刀気を放った。
刀気がヒューッと唸りを立てて迫るが、方源は軽やかに翼を翻し、難なく避けた。
三連の雪玉が連続発射され、方源の退路を封じた。
方源は左翼を畳み、霊巧な旋回動作で雪玉の間隙を無傷で穿った。
この光景を目にし、鉄霸修の胸がギクリとし、不吉な予感が走った:「難なく避けたとは… 運が良かっただけか?」
間もなく、方源が無数の攻撃を熟練かつ優雅に回避する様に、鉄家の者たちは皆、驚愕と無力感が入り混じった感情に襲われた。
「奴は飛行蛊をあそこまで巧みに操れるのか!」
「くそっ… 全く当たらない…」
「俺の真元が足りん。刀気蛊の消耗が激しすぎる。どうやら今回は、方正を逃すしかないようだ…」
鉄家の火蓋は次第に薄くなっていった。
「小獣王、認めざるを得ない。お前は確かに天賦の才だ。今日逃がすのは、その才を認めてのことだ。だが覚えておけ、次に会う時は本気で行くからな」鉄若男は低く警告した。
方源はその言葉を聞き、世にも稀な滑稽な話を聞いたかのように、突然爆笑を放った。
「何を笑っている!?」鉄霸修の胸の不吉な予感が一層強まった。
「ハッハッハッ! お前たちの天晴れなまでの天真さを笑っているのだ! なぜ逃げると言うのか? 真の戦いは、今始まったばかりだ!」
方源がそう言い終わるや否や、全力以って蛊と力気蛊が同時に発動した。
青牛、駿馬、石亀、白象、黒蟒——五大獣力虚影が次々(つぎつぎ)に具現化し、空を覆い尽くす勢いで舞い降りて襲いかかってきた!
ドドドッ!
瞬時に戦場は沸騰し、岩が砕け散り、砂塵が濛々(もうもう)と舞い上がった。藤甲草兵は獣影に次々(つぎつぎ)と叩き飛ばされ、鉄家の者たちは慌てて後退した。
「攻めろ! 受け身に徹してはならん! 奴を手一杯にさせろ!」鉄霸修が怒号し、鉢のような拳を振り上げ、方源目掛けて虚空を猛撃した。
無形の冷気を帯びた剛勁な拳風が、爆裂しつつ衝撃波を発し、ドン!という轟音を立てた!
しかし方源は骨翼を一振りし、体を高く躍らせ、軽やかにかわした。
鉄霸修は無念のため息をついた。彼の拳勁は遠距離攻撃とはいえ、届く距離には限界があった。
彼は力の道の蛊師だ。この流派は昔から遠距離戦が苦手である。方源が例外なのは、彼の力気蛊が上古の気の道に由来するからだ。
鉄霸修の呼び掛けを受け、他の鉄家蛊師たちも獣影を押し切り、空中へ反撃を開始した。
しかし今の方源は、比類なき飛行能力を発揮していた!
彼は時には蝶のように、攻撃の間をひらりと舞い、軽やかに回避する。時には鷲のように、一気に天高く舞い上がり、敵を呆然とさせる。時には燕のように、黒い骨翼で弧を描いて飛翔し、時には蜻蛉のように、空中に静止し、機を窺うのだった。
圧倒的な攻撃の大半は、彼の巧みな回避にかかった。散発的な攻撃が体に当たっても、金罡蛊の光罩が完璧に防いだ。
「ありえない! あの飛行能力は、どうしてそこまで!?」
「これは… 藍眉鶴や紅飛魚、飛鼬王にも引けを取らないではないか!」
藍眉鶴、紅飛魚、飛鼬王は、いずれも飛行の名手として、かねてより南疆に名を轟かせている。
鉄家の者たちは皆、呆然として震え上がった。方源は蛊を容赦なく催動し、暴風雨のごとき攻撃を浴びせ続ける——まさに存分の活躍だ。先の戦いは、この瞬間のための布石に過ぎなかった。
鉄若男の顔色は蒼白になった。
彼女が苦労して作り上げた数多の藤甲草兵は、無為に打たれるだけ。それに、膨大な真元を浪費しただけだった!
「死ね!」方源は長く旋回した後、突然戦機を捉え、空から猛々(もう)と襲い降りた。
「鉄沐、気をつけろ!」
「早く避けろ!」
仲間の叫びが鉄沐の耳に届いた。彼が慌てて空を見上げると——
眩しい陽光がまず目を射た。目がくらんだ瞬間、黒影が蒼鷹のごとく舞い降りるのを視界に捉えた。
鉄沐の耳に、烈しい風切り音が轟いた。
巨大な危機感が、瞬時に彼の心臓を氷らせた。
「やばい、逃げろ…!」その思いが脳裏をかすめた刹那、方源の両手が鉄の鉤の如く、彼の両肩を捉えた。
獣影回収!
方源の全身から怪力が噴き出し、両腕を雷の如く振りかぶった——
グリッ!
肉が裂け、骨が砕ける音が天地に響き渡った。
鮮血の滝が噴き上がった——鉄沐の両腕が根元からもぎ取られ、方源に無理矢理引き裂かれたのだ。
激痛が鉄沐の意識を飲み込もうとする中、彼は咆哮を上げ、元の端麗な顔は恐怖すら覚える歪みを帯びた。
ズブッ!
方源が力を込め、両手を合わせて叩きつけた。鉄沐の頭は、まるでスイカのように無惨に打ち砕かれた!
一瞬、血と脳漿が方源の全身に飛び散った。顔や髪には白濁した脳漿と真紅の血がべっとりと付着し、衣の裾には眼球が一つ、生々(なまなま)しくへばりついていた。
濃厚な血の生臭さが鼻を衝いた。普通の人なら、吐き気を催すところだが、方源はこの匂いを、世に稀なる芳しい香りの如く深く吸い込んだ。彼はこれを甘美に味わい、体の奥底から湧き上がる強烈な興奮を感じた!
「死よ、なんと甘美な香りか!」
「殺せ、もっと殺せ!」
「鮮血の海に咲き誇れ、濃烈なる命の花よ!」
彼は天を仰ぎ怒号し、即興で詩を紡いだ。
「鉄沐!」鉄沐の最期を目撃した鉄家の者たちは皆、目を血走らせ、天を焼き海を沸かすほどの怒りに燃え上がった!