一行七人が山林を黙々(もくもく)と駆け抜けていた。
「ここ数日の不眠不休の強行軍で、三叉山に極めて近づいている」鉄霸修は岩や木の根を飛び越えながら、心の中で考えていた。
彼は体躯が魁偉で、虎の背中のように幅広く、熊の腰のようにがっしりしている。四角い顔に刻まれた毅然とした表情は、見る者に頼り甲斐を感じさせた。
四转高階の実力を有し、その名は南疆に鳴り響いている。若い頃は家族内で冷遇され、排斥を受けて流浪を余儀なくされた。
しかし、ある時、正道蛊師の継承に出会い、力の道流に転向したことで、一躍頭角を現したのだった。
今や彼は正道の名士だ。五转蛊「土霸王」を擁し、「当世の霸王」と称され、普通の四转巅峰を超越する強大な戦力を持つ!
「三叉山には現在、五人の四转巅峰がいる——龍青天、翼冲、孔日天、武神通、そして易火だ。中でも易火は戦力が傑出しており、最も重い対戦相手だ。しかしそれ以外にも、これから次々(つぎつぎ)と強者たちがこの争いに加わってくるだろう。ただ、鉄若男が何を考えているのかは分からないが…」
そう考えると、鉄霸修は思わず視線を転じ、並走する鉄若男をじっと見つめた。
彼は戦力が抜きん出ているが、今回の家族派遣の隊伍の主導は彼ではない。若き後輩——鉄若男が指揮を執るのだ!
鉄若男は家族に復帰して以来、奮起して強い素質と才情を示した。今では鉄家八大若様の一人となり、心細やかで洞察力に優れ、次第に「小神捕」の異名が広まりつつある。鉄家が近年輩出した最強の新星で、その上昇は広く注目を集めている。
今回、鉄家四老の救援要請に対し、家族は前例を破り鉄若男を隊長に任命した。鉄霸修のような古くから名を馳せた者すら、彼女の指揮下に入らねばならない。これは鉄家の高層が、彼女に寄せる期待の大きさを物語っている。
鉄霸修は一瞥しただけで、視線を引き戻した。
家族の配置に、彼は微かな不満も抱かず、嫉妬の一片もなかった。
鉄霸修は家族に対し絶対的な忠誠を誓っており、家族の未来の希望のためなら、自ら進んで補佐し、踏み台となることを厭わない。
実は、彼が困窮していた頃、神捕・鉄血冷の援助を受けたことがある。鉄霸修はその恩を忘れず、ここ数日の道中で共に過ごす中で、鉄若男の優秀さを感じ取っていたのだ。
「流石は神捕の娘だ! 血冷兄、貴方の後継者は立派に育ちました。黄泉の国で安らかに眠れるでしょう!」鉄霸修の心は安堵の情で満たされた。
彼は鉄若男に大変満足していた。修行の天資を賞賛するだけでなく、彼女の指導力を更に高く評価していた。
鉄若男の周りには、優れた若手蛊師たちが集まっている。他は置いておいても、今のこの一行を見るだけでも分かる——
鉄沐、三转巅峰の蛊師、眉目秀麗で、才華豊かだ。多くの勢力から勧誘を受けたが、他を差し置いて鉄若男に投靠した。
鉄傲開、三转高階。呆けた表情で、寝ぼけているように見えるが、実は偵察能力は一流で、実力も強い。
さらに鉄刀苦、攻撃を得意とし、戦力は卓絶している。かつては別の若様に仕えていたが、後に鉄若男に招かれ、その麾下に加わった。
鉄線花、家族の族花の一人で、若く美しい。防御の面では、家族長老さえ称賛を絶やさない。
これらの人材が鉄若男の麾下に集結し、これが彼女の今後の陣営となる。鉄霸修は、この陣営が成長し、拡大し、最終的には鉄若男を支えて家族長の座に就かせる輝かしい未来図を、すでに目に浮かべているようだった。
疾走する中、視界を流れる光と影が、緑の彩りを鉄若男の顔に降り注いだ。
長い脚が走る度に、若々(わか)しい健康美を刻んだ。
ここ数年の鍛錬で、鉄若男は明らかに成熟していた。眉は剣のように真っ直ぐに伸び、瞳は星のように輝く。見渡すたびに、鋭い威圧感が漂う。濃い睫毛が陰影を落とし、眼の奥に潜む確固たる決意の光を覆っていた。
「三叉山!」
彼女は心の中で、その名を静かに噛みしめた。
三王継承の情報は、とっくに彼女の耳に入っていた。三叉山が南疆全体の嵐の中心地となり、争いの渦が命を飲み込み、魔道も正道も無数の者を巻き込んでいることを痛いほど知っていた。
本来、鉄若男は関わり合うつもりはなかった。しかし予想外の情報が、青茅山で起きたことの裏に、ほかに隠された真実があることを悟らせた。彼女の父・鉄血冷は、まさに青茅山で命を落としたのだ——一時代の英雄の墜落。
父に関わることだ、行かねばならない。だからこそ、自ら志願し、三叉山へ急いだのだ。
「白凝冰… 方源… 青茅山の真実は、必ずや暴き出してみせる!」
隊伍は前進を続ける。
一行七人は、見事な戦闘隊形を保っていた。
偵察担当の鉄傲開が最前線を疾走し、鉄若男と鉄霸修が中央に位置する。治療担当の蛊師が後方に、防御担当の鉄線花がそのすぐ傍らに控える。
地形が如何に変化しようとも、戦闘隊形に乱れの兆しは微かもない。何が起ころうとも、この隊伍は最速で反応し、不意を突かれることは決してない。
「何者だ!?」
突然、最前線の鉄傲開が足を止め、警戒の声を張り上げた。
異変発生だ!
全員がパッと停止し、隊形が素早く変化、微調整を経て最適な陣形を完成させた。緊密に結束しつつ、かすかに分散して退路を確保する。
攻撃にも防御にも自在に対応できる陣だ。
一人の人物が、巨岩の上に腕組みで立ち、見下ろすように彼等を眺めていた。
彼の体躯は高く、狼の背中のように幅広く、蜂の腰のように締まっている。筋肉は誇張した隆々(りゅうりゅう)ではないが、締まった強靭さを感じさせる。
黒の戦闘服を纏い、孤独に立っているのに、眼前にそびえる山の如き威圧感を放つ。
特にその漆黒の瞳は、底知れぬ闇のように深く、計り知れない印象を与える。
「方正!」その姿を見るや、鉄若男の瞳が収縮し、思わず叫びが漏れた。
間違いない——来訪者こそ方源だ。
「鉄若男、また会えたな」方源は口元を歪めて微笑んだ。その余裕ある様子に、自然と冷やかさが滲んでいた。
小獣王!
鉄霸修は目を細め、瞳の奥に鋭い光が一瞬走った。
残りの五人も、各が大敵に臨むが如き態勢だ。彼等は関連情報に詳しく、眼前の人物が魔道の新星で、戦力が強盛な上、性格は恣意狂放ときわめて危険な存在だと知っている!
「方正、元気でやっているか?」鉄若男の顔に複雑な表情が浮かび、かすかにため息をついて続けた:「方正、今回は和解に来たのか? 実は、話合いの余地はある。三王継承の争いは、逃げ場のない死闘だ。白凝冰が鉄家の蛊師を殺したのは、止むを得ぬ措置だった。私は君たち二人と縁がある——こうしよう、鉄家に来て客となってほしい。事情を説明し、鉄家のために働いて罪を償うのだ。私が取り成して、鉄家に追及を止めさせよう」
彼女が話している間、鉄傲開は緊迫した面持ちで蛊を催動し、密かに周囲を探査していた。
方源が単独で現れるのは、あまりに不自然だ。他に何か伏兵が潜んでいる可能性もある!
鉄若男の言葉を聞いて、方源は思わず冷やかな笑いを漏らした:「罪だと? 人を殺しただけのこと、何の罪もない。唯一少し違うのは、この者の背景が少し強力だったというだけだ。鉄若男、相変わらず幼稚だな。俺を鉄家におびき寄せて、甕の中の鱉を捕まえるつもりか? 鉄家に行けば、俺は竜が浅瀬を泳ぎ、虎が平陽に落ちるようなものだ。お前たちの思う壺だろうが」
鉄若男は深く眉をひそめた:「方正、ここ数年で君は変わり過ぎた。人を殺しても罪悪感がなくなったのか? だが私は嘘をついていない。人格を賭けて保証する——君の安全と、審判の公平公正を」
方源は鼻で笑った:「お前たち鉄家に今安全などあるのか? 今や神盗・陸鑽風が鉄家を騒がせ、鎮魔塔にまで忍び込んだと聞く。お前たち自身が手一杯のくせに、俺の安全を保証だと? 笑止千万だ」
「なに!? 神盗陸鑽風の件は、家族が厳重に情報を封じ込んでいるはずだ。彼は外部者で、しかも三叉山にいるのに、どうして詳細まで知っている!?」
鉄家の七人は一斉に顔色を変えた。
神盗・陸鑽風は五转蛊師の強者で、鎮魔塔に忍び込み、鉄家の高層を頭を抱えさせる騒動を引き起こした。
鉄家は常に自らを正道の聖地と見做し、鎮魔塔は天下に名高い魔道の牢獄だ。しかし陸鑽風は自由自在に行き来した。このような奇恥大辱を、鉄家は上下厳重に隠し通し、武家や商家のような超大家族さえ探り出せなかった。
この小獣王が、それを知っているとは!
「そんな出鱈目を、君が信じるのか?」鉄家の名誉に関わることとあって、鉄霸修は思わず口を開き否定した。
「隊長、周囲に伏兵はおらず、彼一人だけです」その時、鉄傲開が声を潜めて報告した。
鉄若男の脳裏に突然閃光が走った。彼女は方源を凝視した:「方正、分かった。この情報で脅し、白凝冰の命と交換するつもりなのか? よかろう! だが条件がある——どうやってこの秘密を知ったのかを明かせ。さもなければ、決して解放しない」
方源は天を仰ぎ哄笑した:「鉄若男、お前は本当に純真だな。さっきの言葉は、ただの戯言に過ぎん。まだ分からんのか? わざわざ来る意味が。『包囲点打援』という戦術を聞いたことがないのか?」
「なに!? 我々(われわれ)を狙うというのか?」鉄若男の鋭い双眸が見開かれ、信じ難い表情を浮かべた。
他の者たちも方源を睨みつけ、正気の沙汰ではないとでも言わんばかりだった。
「我々(われわれ)は七人の精鋭、お前は孤影一身に過ぎん。四转高階の鉄霸修先輩を筆頭に、四转初階の鉄若男、そして三转蛊師五名の精鋭ぞろいだ。たった一人で、我々(われわれ)に対抗するつもりか?」
「この小獣王、焦りすぎて頭がおかしくなったのでは?」一瞬、全員の心に同じ疑念が湧き上がった。
方源は彼等の表情の変わり様を一目で見抜き、心中を悟った。
反論するのも面倒だと、冷やかに笑うと、その身はサッと空中へ飛び上がり、蒼鷹のように猛然と彼等に襲いかかった!
「まさか本当に手を出す気か!?」
「死を求めるか!」
七人は驚きと怒りで沸き立った。
「待て、この気配は… 四转中階だと!?」
次の瞬間、全員の胸騒ぎが走った——方源の体から放つ気配を感じ取ったのだ。
事実は何よりも雄弁に勝る。
「四转中階! 初階ではなかったのか!?」鉄若男は目を見開き、心の底から驚愕した。