五日後。
三叉山の頂から三本の光柱が突き立ち、天を貫いて雲を衝いた。
赤い光柱は灼熱の如く、爆王継承の証。
黄い光柱は燦然と輝き、犬王継承の印。
青い光柱は妖艶に輝き、信王継承の兆。
数ヶ月ぶりに、三王継承が再開した。
易火は山頂に立ち、三本の光柱を凝視した。剣眉の下、虎の目が幽かな光を宿していた。
「これが三王継承か? 実に天地を揺るがす気魄だ! ここで大きな手柄を立てれば、真に商家に帰順し、商の姓を賜り、商家の一員となれる」
この時、彼の胸中には、激しい情熱が渦巻いていた。
「フン、小獣王の小僧は身の程知らずも甚だしい、何度も私の勧誘を断るとは。しかし、彼は三王継承に関する何か秘め事を知っているようだ。もし彼を配下に収められれば、三叉山を掌握する上で、絶大な助けとなるだろう」
易火は思わず方源のことを想い浮かべた。
易火は商家五大家老の一人であり、独自の情報網を持っていた。彼はとっくに知っていた——方源がかつて商家城で、三王継承の秘密を知っていることを利用し、巨額の金を稼いだことを。
それに加え、方源自身の戦闘力は傑出しており、四转中階の実力を有する。
更に、白凝冰は常に小獣王と共に進み共に退く。一人を招き入れれば、自然ともう一人も手に入る。
それ故に、易火は方源に折り合いをつけ、十分な誠意を示し、彼の心を動かそうとしたのだ。
しかし、方源は身の程知らずも甚だしく、何度も頑なに断り続けた。
易火の心に怒りが徐ろに湧き上がった:「今度の三王継承を終えたら、必ず小獣王を手懐けてやる。誰にでも値段を釣り上げられると思わせるわけにはいかん! だが今は… まずは目の前の邪魔者どもを押さえ込むか」
易火は散漫とした思いを収め、目を遠く周囲の数人の者に向けた。
「粉蝶郎君」孔日天!
「蒼穹を碧に染めし者」龍青天!
武家家老・武神通!
翼家家老・翼冲!
この四人は皆、四转巅峰の蛊師の強者だ。継承が開かれる度に、まずは手合わせをして実力を競わなければならない。
今回も例に漏れず!
「ハハハ、爆王継承は私が頂く。誰が私に刃向うというのか?」易火は天を仰ぎ三度大笑いした、その笑い声は豪放磊落だった。胸の前で腕を組み、虎の目を光らせながら四人を見渡した。
彼は炎道蛊師であり、爆王も同じ流派だ。爆王継承は言うまでもなく、彼にとって最適な選択だった。
「火燎原め…」武神通は目を細め、口の内で呟いた。易火の威名を畏れている。
易火は商家五大家老の一人。「火燎原」の名は轟いている!武神通とて認めざるを得ない——自分は易火に一歩劣ると。
「フン、私が相手になろう!」孔日天は冷やかに鼻を鳴らすと、全身が爆発し、無数の鳳翅金蝶へと変わった。
金の蝶は千万と舞い、刃のように鋭い羽が易火を包み込んだ。
「火燎原、ここ数年随分名を上げたな?」龍青天も陰湿に笑いながら、片手を押し出した。
シュッという音がした。
青緑色の光掌が、毒煙が渦巻きながら虚空を裂って現われ、易火の顔面を直撃せんと迫った。
「私も教わってみよう」その時、翼冲が「フン」と吐き捨てるように言い、猛然と手を出した。
ザァーッ!
碧色の波濤が虚しきより湧き上がり、荒ぶる水煙が易火を飲み込もうとした。
瞬時く間に、三人の四转巅峰蛊師が同時に易火に襲いかかった。
「来るが良い」易火は口元に傲慢な笑みを浮かべ、両腕を真っ直ぐに伸ばすと、胸の前で両掌を勢いよく打ち合わせた。
ドン!
膨大な炎が突然爆発した。瞬時く間に、真っ赤な色が三王継承の光柱を圧倒し、三叉山の頂を照らし出した。
炎は天を焦がすように昇り、比類なき灼熱と荒れ狂う猛りを放った。
炎は軽々(がる)と波濤を覆い尽くし、毒掌を焼き尽くし、鳳翅金蝶の群れは慌てふためいて逃げ出した。遠くまで飛んで集まり、再び孔日天の姿に戻った。
「これが彼の五转蛊『燎原火』か?」この途方もない炎を見て、翼冲と龍青天は顔色が微かに変わった。
孔日天は一言も発せず、武神通の目が微かに光った。
「易火家老威風堂々(いふうどうどう)!」商家の蛊師たちは興奮して大声で叫び立てた。
易火は炎の中に傲然と立ち、人に神霊のような感じを抱かせた。彼の赤い髪は炎とほぼ一体となり、その姿は狂おしく熱烈だった。
炎が瞬く間に消え、彼は赤い光柱へと歩み出した——爆王の継承へ。
道中、他の四人の蛊師たちは見つめていたが、顔色は多かれ少なかれ強張り、苦々(にがにが)しい表情を浮かべていた。しかし誰も阻止しようとはしなかった——これこそ易火の強さを認めた証だ。
易火が爆王継承に入った後、孔日天ら四人は互いに目を見交わせたが、もはや戦いを続ける気はなかった。
彼等の中で、孔日天と龍青天は信王継承へ、武神通と翼冲は犬王継承へと入っていった。
「易火は流石商家五大将の一人だ。五转蛊『燎原火』を持ち、実に強い!」
「ここ数日、易火が何度も小獣王の元に通っている。どうやら関係は尋常ではないようだ」
「フン! 『白黒双煞』と称される二人は、表向きは魔道だが、実は正道の手先だ。商家に滞在した時は、商家の若様・商心慈と特に親密だったことは周知の事実だ」
四转高階の蛊師たちが一群となり、易火が四人の蛊師を圧倒し、昂然と継承光柱へ歩み入る姿を見ながら、口々(くちぐち)に噂し合っていた。
類は友を呼ぶ。
四转巅峰の強者たちが継承に入った今、次は彼等の番だ。
「百歳童子、お前の養女・薛三四が小獣王に殺された。いつ仇討つつもりだ?」人群の中から、正道の蛊師が一人、災いを喜ぶように尋ねた。
百歳童子は冷ややかに鼻を鳴らした:「易火が五转蛊を持つのは確かだが、さっきの手合わせは探り合いに過ぎない。本気で戦えば、生死は分からぬ」
口ではそう言いながらも、心の奥底では畏れていた。
彼は元々(もともと)、白凝冰が囚われている隙に乗じて、方源に難癖をつけようと思っていた。
だが易火が何度も方源の住居に通う姿を見て、衝動を押さえ続けるしかなく、黙って傍観するしかなかった。
今易火が軽々(がる)と四人を圧倒する姿を見て、百歳童子の心は一層重くなった。
「三王継承という大きな機会が眼前にあるのに、誰が馬鹿をして命がけで戦うものか? さあ、我々(われわれ)も入ろう」
間もなく、この四转高階の蛊師たちも、それぞれの継承光柱へと入っていった。
方源が一つの頂に登ると、即座に人に認められた。
「小獣王だ!」
「方正だ」
「彼は信王継承の光柱へ入った」
山頂や山腹にいる多くの蛊師が、目を丸くして方源が光柱に消えるのを見ていた。
「彼は本当に相棒を忘れたのか?」
「白凝冰は今も鉄家四老に包囲されているのに、方正は知らんぷりで、全く気にかけていないようだ」魔道蛊師でさえも心寒くなる。
「見ろよ、これが魔道蛊師の冷血非情さだ!」一部の正道蛊師が鼻で笑いながら評した。
「方源… この…!」気泡の中から、白凝冰もこの情景を目撃した。
彼女は怒りで顔色が真っ青になり、両拳を握りしめ、歯を食いしばった。
鉄家四老は互いに顔を見合わせた。
彼等の今の状況は、非常に気まずい。
白凝冰の包囲には成功したが、方源が救出に来ない。これでは、彼等の持久戦術が痛烈な皮肉になってしまう。
「くそっ! 手が足りず、今回の三王継承には参加できん!」
「撤退するか?」
「絶対に駄目だ! 四人揃って出ながら、何も得ずに引くとは、鉄家への侮辱だ! 今後、我々(われわれ)は世間に顔を向けられなくなる!」
「ではどうすれば?」
三つの視線が、四老の長である老者の一点に集中した。
老者は少し考えた後、決断を下した。
彼は低く重い声で言った:「救援を要請せよ! 商家に援軍が来たのだから、我々(われわれ)鉄家も支援を求めるのは当然だ。今の局面は競争が更に激しくなっている。四转巅峰の力でなければ、一席の地を争えない。家族が一人の四转巅峰の強援を派遣してくれれば、我々(われわれ)四人の四转中階の力と合わせて…」
「兄貴の言う通りだ!」
「商家に易火が来たのだ、我々(われわれ)が救援を求めても恥ずかしくない」
「そうだ、家族に支援を要請しよう!」
……
果てしなき灰色の霧が、方源の視界を満たしていた——信王継承に踏み入った証だ。
方源が周囲を見渡すと、東西南北の区別がつかない。しかし空窪の中で、春秋蝉が愉しそうに微かに翅を震わせている。ここでは、時間の流れが依然として外界の三倍だ。
「時間を急がねば」方源の心に焦りが湧き上がった。
絶え間なく回復を続ける春秋蝉は、彼にとって日増しに迫る命の脅威だった。
彼は紙鶴蛊を取り出し、そっと催動した。
信王継承に入るには、「鍵」として紙鶴蛊が必要だ。今この時、方源が使えるのは紙鶴蛊だけ。春秋蝉以外の蛊は全て(すべて)、天地の偉力に鎮圧され封じ込められている。
紙鶴蛊が前方の空中で軽やかに舞い、翅を震わせながら先導する。
方源は紙鶴に従い、道をゆっくりと進んだ。
丘に差し掛かった時、霧の中にぼんやりとした人影が浮かび上がった。
「人、外から来た、比、比べよう」人影が口を開いた。声は粗野で、途切れ途切れだ。
方源が近づくにつれ、人影は次第に鮮明になった。
彼の体形は普通の人間と似ている——両手両足だ。しかし肩幅が広く腰が太く、非常にがっしりしている。同時に全身が毛に覆われ、胸や四肢、顔や尻に至るまで棕赤い毛が生えている。
銅鈴のような大きな目を瞠り、方源を凝視していた。
「比、比べよう。負けた方は死ぬ!」彼は唸るように言った。両目は血走り、表情は非常に凶悪だった。
方源は予想していた、表情は平静そのもの、全しも驚いていなかった。
これが異人だ。
獣の中には異獣がいる——虎の群れの中の彪、狼の群れの中の狈、犬の群れの中の獒のように。人の中にも異人がおり、方源が今出会ったのは、毛民という異人の一種だ。
毛民は全身が毛に覆われ、まぶたの上さえも細かい毛で覆われている。この異人は低い知能を持つが、生まれつき蛊を煉る天性を備えている。
信王継承には、一群の毛民がいて、蛊師たちの前進を阻む障壁となっている。彼等に勝って初めて先へ進める。もし毛民に敗れれば、蛊師は驚異的な力を持つ毛民に生きたまま引き裂かれ、彼等の食料となるのだ。
「来い」方源は毛民から十歩離れた所に立ち止まり、表情は平静だった。
空中に、突然何匹かの蛊と材料が現れ、ふわりと方源の手の上に落ちてきた。
同時に毛民の手にも、同じ物が一組現れた。
煉蠱が始まった。
勝者は生き残り、敗者は死ぬ!