光柱に飛び込んだ瞬間、方源は強い無重力感に襲われた。
視界が定まった時、彼は自らが広漠とした荒野に立っていることに気付いた。
周囲を見渡すと、空は灰を混ぜたような白濁り。
大地には、灰白の岩でできた低い土塚が点々(てんてん)とあり、墓標のように見えた。
灰色の地面は肥沃ではなく、乾いて硬く、まばらに生えた茶褐色の草が風に揺れている。
空の白濁、大地の灰色、枯草の褐色——この三色が、この世界の三原色を成している。
他に何の彩りもないようだ。
耳の傍は一片の静寂に包まれ、いや、正しくは死の静寂だった。風もなく、木の葉の擦れ合う音もなく、鳥や獣の鳴き声もない。
この場所に立つと、天と地に自ら一つの生命だけが存在しているような気がする。
無形の孤独、寂寥、茫然、そして恐慌さえもが、自ずと心頭に広がっていく。
白凝冰と同時に継承に入ったにも関わらず、ここには方源一人だけだった。
しかし方源は終始冷静沈着だった。
「これが犬王継承か」彼は軽く周囲を見回し、独り言のように呟いた。
三王継承は、他の普通の五转蛊師の継承と、一つ大きな違いがある。
普通の五转蛊師の継承は、中洲・南疆・北原・東海・西漠など、いずれも大世界の中に設けられる。
しかし三王の継承は、蛊仙福地を借りて布かれた。
昔、三王が困窮していた時、偶然上古の蛊仙が残した継承を発見し、これによって立身出世した。
三王は各異才を持っていたが、六转への挑戦に失敗し、死を目前に控えてこの蛊仙福地に各々(おのおの)の継承を設けたのだった。
故に、今方源が立つ場所は、もはや大世界ではない。
蛊仙福地——大世界に依拠する小世界なのである。
それぞれの世界には、異なる規則と法度がある。世界に入れば、相応の規矩に従わねばならない。
「白凝冰は私と同時に継承に入ったが、今この小世界によって別の場所に配置されているに違いない。しかし心配ない。彼女も私も関門を突破し続ければ、必ずや再会できるだろう」
方源は明らかにしていた——これこそが小世界特有の空間法則だと。
同時に、異なるのは時間の法度もまた然りであった。
「ここでの時間の流れは、外界の約三倍だ」方源の空窪の中央で、ずっと眠り続けていた春秋蝉が目覚め、外界の三倍の速さで急速に回復している。
春秋蝉は、時の長河の水を食糧とする。
この小世界では、時の長河の流れが外界より三倍も速い。それゆえ、春秋蝉の回復には絶大な助けとなる。
しかし方源にとって、これは吉報ではない。
春秋蝉が全盛期の威圧感を回復すれば、四转の空窪が耐えられるはずがない。
犬王継承は、方源にとって機会であり良縁であると同時に、命を縮める死の地でもあるのだ。
「時間を節約し、急いで行動しなければ」方源の心に焦燥感が湧き上がった。
幸いにも、彼には前世の記憶がある。この五转蛊師・犬王の継承について、彼は誰よりも詳しい。
「私の予想が正しければ、この辺に犬型の野獣がいるはずだ…」方源は歩き出し、絶えず移動しながら、目を凝らして周囲を探し続けた。
「ワン、ワン、ワン!」
鳴き声が突然響き、痩せ細った野良犬が、不気味な緑色の眼光を輝かせながら、方源目指して駆け寄ってきた。
その野良犬は、骨と皮だけの痩せ細った姿で、黄色く汚れた歯を剥き出し、方源の膝下ほどの高さしかない。
明らかに飢え狂っており、方源の生身の匂いを嗅ぎつけるや、狂ったように飛びかかってきた。
方源は微かに眉をひそめた——この野良犬はごく普通の存在だ。最初の関門がこれとは、今日の運は良くないようだ。彼は静かに立ち尽くし、野良犬が飛びかかってくるに任せた。
この小世界の環境では、方源の持つ他の蛊虫は使用が難しく、一转の馭犬蛊しか使えない。
これもまた、この小世界の法则的な制約なのだ。
犬王は蛊仙福地を改造し、蛊師が継承に持ち込める蛊虫を一转の馭犬蛊一匹に限定した。同時に、この空間内では他の蛊虫は自由に使用できない。
ただし、春秋蝉は例外だ。
春秋蝉は六转蛊であり、六转の蛊虫は大世界であれ小世界であれ、唯一無二の存在である。
春秋蝉はもはや凡俗の物ではなく、仙蛊なのだ。
福地の中であろうと、思いのままに駆り立てることができる。
「犬王継承だけでなく、信王継承や爆王継承も同様だ。蛊師たちは継承に入った当初、一转の馭犬蛊・紙鶴蛊・爆蛋蛊しか使えない」
野良犬が飛びかかってくる瞬間、方源は素早く空窪の馭犬蛊を駆り立てた。
その蛊は玉石のようで、親指の先ほどの大きさ。形は狗頭に酷似している。
方源は輝金の真元を一滴だけ注ぎ、難なく蛊を狂わしいほど激しく発動させた。
馭犬蛊は眩い玉光と化し、矢のごとく射出し、瞬時に実体から虚像へ変わった。続いて迅雷の及ばざる勢いで野良犬の体に鋭く突き刺さった!
野良犬は「ウーン」と哀しげに鳴き、雷に打たれたかのように倒れ伏した。
先の突進の勢いで、地面を擦るように転がり、方源の足元まで流れ着いた。
一瞬静止した後、野良犬は突然起ち上がった。
しかし今度は、不揃いな牙を剥くこともなく、従順に再び地面に伏し、方源に向かって舌を出し、尾を振った。
「立て」方源が心念を動かすと、
野良犬は命じる通りに立ち上がった。
その野良犬の毛皮は柔らかく、毛並みはくすんでいたが、体に傷一つなかった。馭犬蛊は直接その魂の奥深くに刻まれ、肉体には全く損傷を与えないのだ。
四本の足で立つと、頭は方源の膝下の中程に届く程度だ。方源が詳しく観察すると、思わず微かに首を振った。
ごく普通の野良犬で、戦闘力は心もとない。しかしだからこそ、方源が容易に馭犬蛊を植え付けられたのだ。
「いずれにせよ、これからはこの犬を頼りに、第二関を突破しなければならない」
方源が心の中で考えていると、突如天地の偉大なる力が降り注ぎ、彼の全身を包み込んだ。
瞬時に、方源は身動きが取れなくなった。
彼の眼前に、突然碧緑の光が一閃し、虚空中に二匹目の馭犬蛊が現れた。
方源は心の中で確信していた——これは継承からの褒美であり、同時に第二関へ進む鍵だ。慌てて錬化に取り掛かった。
この蛊も同様に一转で、錬化は極めて容易だった。
方源が蛊を錬化し、空窪に収めたその瞬間、サッという音と共に、彼の姿は瞬時に消え、天地偉力によって別の場所へと転移させられた。
ここもまた荒野だった——灰白の天と地、茶褐色の小草。
方源は低い土丘の上に立っていた。丘の周りには、三匹の野良犬がうろついている。
三匹とも骨と皮だけの痩せ細った姿だ。二匹はうつむき、草叢の中で食べ物を探している。残る一匹は老いて見え、地に伏したまま動こうとしない。
方源の突然の出現が、三匹の野良犬の凶性を瞬く間に呼び覚ました。
彼らは電撃を受けたかのように跳ね上がり、三方向から同時に方源目指して駆け出した!
方源が支配する最初の野良犬も凶性を呼び起こされ、命じられるがままに四本の爪を広げ、一方向の野良犬に飛びかかった。
しかしそれで止められるのは一匹だけ——間もなく二匹目が方源のすぐ側まで駆け寄ってきた!
方源は前回と同じ手口で、新たに得た二匹目の馭犬蛊を駆り、二匹目の野良犬を瞬時に馴化した。
三匹目が襲いかかってくるや、方源は一心二用の技を発揮し、二匹の野良犬を同時に操って応戦させた。
普通の蛊師なら、犬獣の操縦法に不慣れな上に二線作戦となれば、必ず手が回らず破綻するだろう。だが方源は微動だにせず、余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)としていた。
彼には五百年の前世の記憶があり、老練な経験を有する。特に血海継承で刀翅血蝠群を指揮した戦歴が活きていたのだ。
今世では、三叉山継承に備えて、方源は商家城で数ヶ月も特訓を積んだ。特に犬獣の操縦法を鍛え上げていた。
戦いは方源の予想通り、順調に進んでいた。
しかし方源は微かに眉をひそめた:「最初の野良犬は体調がかなり悪い。このまま硬戦を続ければ、勝利を得ても、残るのは一匹だけになるだろう」この懸念から、彼は意識的に二匹の野良犬を指揮し、戦いながら退く戦術を取った。
最終的に、方源は見事に二つの戦いの場を一ヶ所にまとめることに成功した。
これにより、方源の指揮の負担は急増したが、同時に圧倒的な優位も確立された。
方源が操る二匹の野良犬は、精確で巧妙な連携を見せたが、敵たちは各自が単独で戦っていた。
間もなく、この凄惨な戦いは終結した。
地面には二匹の野良犬の死体が横たわり、血が地面に流れ出していた。
方源が支配する二匹の野良犬は、地に立っていたが、全身傷だらけだった。最初の一匹は傷が重く、二匹目は比較的健康だった。
戦いが終わるや否や、天地偉力が再び降り注ぎ、方源と彼が支配する二匹の野良犬を包み込んだ。
視界が劇的に変わり、無重力感が再び方源の全身を襲った。
「第三段階に進んだか…」方源は即座に周囲を観察し始めた。
今度も彼は土丘の頂上に立っていたが、周りを六匹の野良犬に囲まれている。
「六匹か!」方源の目が鋭く光り、わずかな重圧を感じた。
手元には傷を負った野良犬が二匹しかおらず、敵の兵力は自軍の三倍だ。
考える時間など全く与えられなかった——六匹の野良犬は方源を発見するや、涎を垂らしながら突撃を開始した!
方源は突然目の前が明るくなった——凹み穴を見つけたのだ!即座に身を躍らせて飛び込んだ。
穴の中に飛び込むと、背中を堅固な岩壁に寄せ、手元の二匹の野良犬を前方に配置した。
六匹の野良犬は狂ったように彼めがけて突進してきたが、互いに距離を開けながら進んでいた。健康な二匹が真っ先に土丘を登り切り、残る四匹は各に傷を負い、後れを取っていた。
この状況を見て、方源は安堵の息を吐いた。
もし六匹とも健康なら、勝ち目など全くなかっただろう。しかし今はこの地勢と自らの精妙な操作を頼みに、この難関を乗り越え、次段階へ進める自信が湧いてきた!