天梯山は、中洲随一の山である。「継承の地」、「聖賢の山」との異名も持つ。
その高さは百万丈に迫り、山勢は雄大で、気宇は極めて広大だ。山頂は蒼穹を貫き、霜雪と雲霧の中に隠れている。
特に奇異なのは、この山には奇怪な形の岩が少ないことだ。
一塊一塊の方形巨石が横たわり、山麓から頂上まで連なる階段を形作っている。
しかしこの階段の規模は余りにも巨大なため、中洲の古い伝説では、この山が仙界へ通じる天と地を繋ぐ橋だと語り継がれている。
天梯山を巡っては、歴史に数多の感動的な、神秘に満ちた、悲壮な、そして歓喜に満ちた物語が刻まれている。
天梯山は、中洲の蛊師たちが心の聖地と崇める場所であり、仙界に最も近い地とされる。多くの蛊師が生涯仙を求め続けたが叶わず、死を目の前にして自らの墓所をここに定める。その中でも、自らの継承を同時に残す者が多数を占める。
天梯山には無数の継承が隠されているが、縁のある者だけが得られる。
毎年、天梯山を覆う霧が晴れると、膨大な人々(ひとびと)が押し寄せる。多くの継承が継がれ、また新たな継承が数多に残される。
しかし、今年は例年とは違っていた。
今年、天梯山で狐仙福地が開かれ、蛊仙たちが現世に姿を現した。彼らは協議の末、連携して山を封鎖し、各門派の後輩を集めて、一つの比試を開催した。
今、天梯山の麓で繰り広げられていた若者同士の激戦は、終局を迎えようとしていた。
万の鶴が飛翔し、方正の周囲を旋回する。一方魏無傷は息を切らし、服はボロボロになり、重なる包囲網に捕えられ、目は方正を死に物狂いで睨みつけていた。
「くっ… 負けたわけじゃない! まだ… まだ切り札がある! 奥の手があるんだ!」劣勢に立たされながらも、魏無傷は決して降参しようとはしなかった。
普段なら、彼は既に降参していたかもしれない。しかし今、無数の精鋭蛊師たちが目を凝らして見守っている。
魏無傷が代表するのは自らだけではない、背後の天妒楼の威信も背負っている。何より、思いを寄せる碧霞仙子がこの目で見ているのだ。「負けられない!」その一念に駆り立てられ、魏無傷は猛然と空窪の中の一匹の蛊虫を駆り立てた。
この蛊虫は、彼が決して明かさずに隠し持ってきた最終の切り札だった。門派の重要な考査でさえ、使用することはなかった。
この蛊が発動すると、無色の微風が生じ、そよそよと吹き始めた。
優しい風が彼の周りを漂い、衣の裾を漂わせ、髪の先を揺らめかせた。
しかし方正は、最大の警戒態勢を取った。
なぜなら天鶴上人が心の中で、既に警告の声を上げていたからだ:「しまった! この小僧が傷風蛊を持っているとは! 防御せよ! 全力で防げ! この蛊が巻き起こす傷風は、見た目は優しく無害だが、実は恐ろしい威力を持つ。天妒楼の小僧、やはり侮れない。どうやらこれが奴の奥の手らしい!」
傷風が吹き付ける中、方正は攻撃を完全に捨て、全ての力を防御に注いだ。
傷風は一見優しく見えるが、通り過ぎる場所では、群鶴が悲鳴を上げ、無数の鉄嘴飛鶴が翼を折られたかのように、高空から惨めに墜落した。
傷風が方正の体を直撃し、彼の全身を覆う防御の光をユラユラと揺らめかせた。
方正の額に冷や汗が玉になって伝わり、歯を食いしばって耐え続けた。空窪の中の真元がグイグイと減っていき、防御蛊に注ぎ込まれている。
二人はしばらく膠着状態が続いたが、ついに魏無傷は心の中で諦らめの溜息をつき、傷風蛊の駆動を止めた。
戦いを続けたくないわけではない、しかし彼の空窪の真元は枯渇寸前だった。
蛊師たちに共通する弱点がある——真元が尽きると、戦闘力が谷底まで暴落するのだ。
一转から五转の蛊師は皆、真元の制限を受ける。ただ超凡脱俗し、仙の境に達して蛊仙となった者だけが、無限の真元を手にできる可能性がある。
「負けた…」魏無傷の目がくすんだ。
彼は冷徹に計算していた——今自らの真元は尽き、戦い続ける力はない。しかし方正は飛鶴を指揮して戦ってきただけ、真元の消耗は少なく、間違いなく余裕があるはずだ。
「魏兄、さすが天妒楼の精鋭弟子だ。実に奇抜で鋭い手口、私の目を開かれる思いだ。お陰で私の真元も枯渇寸前となった。この比試は、引き分けとしませんか?」方正は含み笑いを浮かべた**。
「な、何だと?!」魏無傷は呆然として目を見開いた。
方正は何を言っているのか? 自が身の上は、自らが誰よりも痛感している。どうして方正の真元を消耗させる蛊虫など持てるはずがある?
しかし魏無傷は直ぐに悟った——方正は嘘をついているのだ。
「方正は俺に下り段を設けてくれている」その意図を理解すると、魏無傷の顔に複雑な表情が浮かんだ。
名門大派の弟子は、通常軽々(がる)しく手を出せない。
何しろ彼らが代表するのは自らだけではなく、背後の門派の威信でもあるからだ。
加えて碧霞仙子が眼前にいる——この戦いで、魏無傷は絶対に負けられなかったのだ。
方正が自ら下り段を設けてくれたので、魏無傷は一瞬躊躇した後、拳を拱いで方正に向かって言った:「方兄の若き英姿に、魏某心から敬服する。さすが仙鶴門は、兄貴のような人物を育てるだけの底力がある。今回の切磋で大いに学ぶところがあった。方兄の仰る通り、引き分けとさせていただこう」
表向きはそう言いながらも、魏無傷は密声で方正に伝えた:「方正、今回の手加減は、魏無傷が肝に銘じておく。必ず後日報いる。だが碧霞仙子は俺の想い人だ、この点だけは決して譲らない。これからも修練を積み、いずれ再び貴殿と切磋する所存だ!」
方正は微かに笑み、表向きは頷いて応じたが、心の中では頭が痛かった。
魏無傷はさらに密声で続けた:「方正よ、気をつけろ。碧霞仙子を狙う者は、俺だけではない。君ほどの実力者でも、四大の競争相手がいる。天河の陳大江、紫電騰空の古霆、九死の小悲風・湯如気、そして母虎の趙淑野だ。君が碧霞仙子と親しくしている以上、彼らは必ず因縁をつけてくる。くれぐれも敗れるなよ…」
方正は続けざまに聞かされた四つの轟く名に、思わず目がきらりと光り、頭がズキズキと痛むのを感じた。
一方、天鶴上人は心の中で哄笑を爆ぜさせていた。
果たして魏無傷の言う通り、三日後、古魂門の者たちが天梯山に現れた。首領の古霆は、碧霞仙子と方正の噂を聞くや、即座に押しかけて挑戦してきた。
方正は理不尽な災難を避けるため、戦いを避けて出なかった。
古霆が諦らめるわけもなく、毎日方正が仮住まいする洞穴の前に現れ、挑発し戦いを挑んだ。
連続七日間、毎日のように執拗に絡んでくるのだった。
古霆の罵声は日を追うごとに悪辣さを増した。仙鶴門の他の弟子たちは憤慨し、自ら戦いを挑んだが、一り残らず打ち負かされた。
古魂門の勢いは大いに上がり、八日目には、古霆自ら門下生を率いて方正の洞窟の入口を塞ぎ、執拗に罵倒し続けた。
「方正、この甲羅を被った亀め! まだ出てこないのか?」
「方正、一時逃れできても、一生隠れ続けられると思うのか? 大人しく碧霞仙子との交際を断ち切れ。そうすれば古霆兄貴も慈悲を垂れて見逃してやるだろう」
「仙鶴門とはこの程度か?お前のような腰抜け弟子を育てるとはな」
…
仙鶴門の名が辱められた時、洞窟の中にいた方正は思わず嘆息し、止むを得ず洞窟から出た。
自らを罵られるのは耐えられる。しかし師門が貶められるとなれば、話は別だ。弟子として師門を守るのは、中洲の価値観である。もし守らなければ、後日飛鶴山に戻った時、弾劾され処罰を受けるだろう。
天鶴上人が心の中で雷鳴の如く喚いた:「がははは… 方正よ我が弟子、今分かったか? 師匠が言い続けてきたことは間違っていなかったと。一方的な忍従は、弱さと誤解される。この世では、無害で臆病に見せれば見せるほど、侮ろうとする者が集まってくるのだ。戦え! この古霆を打ち負かせ! 古魂門の者たちの口を封じろ! 貴様の名声は、一気に高まるだろう!」
「はあ… 江湖に身を置けば、己の意のままにならぬ、今身に染みて感じた。仕方なく戦うまでだ!」方正はこの出来事を通し、心に一つの悟りが生じた。
古霆よ、来い! 存分に戦おう!
方正と古霆が激突しているまさにその時、遠く南疆の三叉山では、衆人注目の戦いが幕を閉じていた。
戦場は荒れ果て、鮮血が地面に飛び散り、山石は砕け、樹木は倒れ、無数の爆裂孔が周囲を取り囲んでいた。
方源が傲然と場中に立ち、今回の相手である費立は地面に跪き、彼に向かって額を地面に擦り付けながら命乞いをしていた。
「方正様、どうかお手を高く挙げて、私を見逃してください!」費立は方源に向かって額を地面に擦り付けながら、哀れに訴え続けた。
彼は四转中階の修為で、力の道の蛊師でもあった。元は意気盛んだったが、今は全身血まみれ、右腕は方源に引き千ぎ取られ、両足も折られ、見るも無惨な姿だった。
「命乞いしたいなら、まずはお前の費力蛊を献上しろ。そしたら、見逃すかどうか考えてやる」方源は足元の費立を見下ろし、目に冷たい光が走った。
費立は一瞬躊躇したが、仕方なく費力蛊を差し出した。
この蛊は彼の本命蛊であり、核心の蛊だった。敵の一挙手一投足に、余計な力を消耗させ、力の消耗を倍増させる効能がある。
費力蛊を方源に渡したことで、本命蛊を失い、費立は重体に陥り、心血を吐いた。
方源は費力蛊を受け取り、目をきらりと光らせた:「考えたが、費力蛊だけでは、お前の命と交換するには足りない」
費立は目を見開き、重い傷を顧みず叫んだ:「方正様、これは私が最も大切にしている蛊です!」
どかん!
方源が心念を動かすと、獣影が猛然と襲い掛かり、費立を血まみれの肉塊に変えた。
「ケチ野郎」方源は足下の見る影もない死骸を見下ろし、嘲るように鼻で笑った。
続いて、彼は視線を移し、戦場を一巡した。
見物していた者たちは少なくなかったが、方源の視線が向けられると、無意識に目を逸らした。
方源は高笑いした:「どうした? 飛天虎の薛三四は来なかったのか? 奴に伝えておけ——我々(われわれ)は皆力の道の蛊師だ。三日後、自ら訪れて切磋する!」この言葉に、多くの者が騒然となった。
小獣王の凶暴さは度外視している。数日前には横眉暴君を殺し、今回は費立を跪かせて命乞いさせた挙句、それでも許さず肉塊に変えた。
次は飛天虎の薛三四に挑戦すると言う!
なんという凶悪極まりない所業だ!