三叉山は元々(もともと)誰も顧みない、車家と左家の境の地だった。
しかし継承が現れて以来、賑わいを見せるようになり、山林には頻繁に人影が走り回っている。
小競り合いは頻発するが、今は比較的平穏な時期だ。
光柱が現れる度に、入れる人数は限られている。その時になれば、三叉山は必ず血生臭い嵐に包まれる。
継承へ入る機会を奪い合うため、蛊師たちは皆山に駐屯することを選んだ。
これが一つの現象を生じた。強い蛊師ほど、山頂に近い場所を占める。これが「水辺の楼台は月を得やすし」、継承が現れた時、強引に押し入るのにも便利だからだ。
方源が選んだ洞窟は、山腹より少し上。洞窟口の跡を見ると、明らかに人が住んでいる。
案の定、洞窟の近くまで来ると、中から轟くような声が響いた:「ここは我が蟒狂の縄張りだ!直ぐに退け!さもなくば、みすぼらしい死に様を味わわせてやる!」
「ははは!蟒狂? またぞろ何者だ? この場所は良い、我が物にした。お前は出て行け!」方源は洞窟口に立ち、大笑いし、最後通牒を突き付けた。
「くそったれ、素直に従わず罰を求めるとは。死に急いでいると見えるな。ならば、無情の手を下しても文句は言わせん!」
その声と共に、洞窟から巨漢が現れた。
上半身裸で、荒い麻で編んだ擦り切れたズボンを履き、全身に青みがかった蛇の鱗が生えている。顔は顎鬚だらけ、両眼は血走り、黒髪は乱れ飛んでいる。顎鬚を逆立て目を見開き、悪鬼のような形相で洞窟を出てきた。
「目の腐った野郎が二人か… うっ!」
蟒狂は方白の二人を見て、荒い声で罵りかけたが、突然瞳が急に縮み、口をぱっく開けた。目の奥に疑念と驚きが入り混じった色が浮かんだ。
「お二人は、まさか黒白双煞では?」
「そう思うか?」白凝冰は浅く微笑み、青い瞳に殺意が煌めいた。
蟒狂は背筋が凍るような寒気を感じ、瞬時に全身に広がった。
黒白双煞は四转蛊師、彼は三转高階に過ぎない。しかも最近、彼らが如何に無情に人を殺すか、その手口が如何に残忍かという噂を聞き続けていた。「ちくしょう! 俺蟒狂は大人しく洞窟に潜んでいただけだ、誰にも逆らってなどいない! まったく災難が空から降ってきたようだ…」蟒狂の心臓は狂うように鼓動した。
元凶暴だった顔が、突然表情を変えた。逆立っていた眉はだらりと垂れ、見開いていた目は一筋に細められ、下がっていた口元は即座に上がり、最大限の笑顔を作って善意を表そうとした。
「お二人様が拙い洞窟をお気に召されるとは、私の前世の果報でございます!」
蟒狂は腰を折り、両手を揉み合わせ、方白の二人に媚びるような笑みを浮かべた。
巨漢の体躯でありながら、首を縮め背中を丸める様は、先程の横柄な気配を跡形もなく消し去り、粗野な容貌と相まって、まさに道化師のようだった。
「うむ、お前は分き目があるようだな。行ってよろしい」方源は手を振り、言った。
「はいはいはい!」蟒狂は大赦を受けたように、小走りに遠くへ走り去った。
方源は蟒狂を追い払うと、白凝冰と共に洞窟へ入った。
洞窟は蟒狂によって手際よく整えられており、改めて設える必要はなかった。
「三叉山は危険が多い。これから八日間、交代で夜番を立つ。一人が眠る間は、もう一人は必ず起きていること」方源は白凝冰に念を押した。
「当然のことだ」白凝冰は軽く頷いた。
「狐魅児は簡単には引き下がらない。この八日間、我々(われわれ)には絶え間ない面倒が降りかかるだろう。だが丁度良い。これらの者が自ら威を立てる機会を届けに来るのだ、願ったり叶ったりだ」
方源がそう言っていると、洞窟外から声が響いた。
「黒白双煞殿、おわしますか? 拙者横眉暴君、かねてよりお二方の御高名を承っております。今回、専ら御挨拶に参上いたしました」
「横眉暴君? 十暴君の親分ではないか? 噂では生まれつき残忍で、力の道を修め、童肉を食らうことを好み、南山で悪行の限りを尽くしていたと聞く」白凝冰は方源を一瞥した。
方源は内心で冷笑した。
この横眉暴君は、もともと彼が自ら仕掛けようと考えていた相手だ。思わず自ら進んで来るとは。
二人が洞窟口を出ると、外に八人の者が立っているのを見た。
先頭に立つ一人は、体躯が雄壮で、胸を露わにし、胸の上は黒い胸毛で覆われていた。全身から四转中階の濃厚な気配を放っている。しかし今、この残忍で名高い魔道の人物は、顔に笑みを浮かべていた。方白の二人を見るや、即座に拳を握り拱手の礼を取った——一見、風采の良い黒熊のようだった。
「まさか黒白双煞の若者二人が、これほどの大物だとは思わなかった」横眉暴君はわざと声を張り上げ、周囲の多くの蛊師の注意を引いた。
「横眉暴君でさえ、自ら彼らを訪ねるとは」多くの者が驚きを隠せなかった。
「危ない所で逃げ出せた… 横眉暴君がいつもこんなに丁寧だったか?」まだ遠くへは逃げておらず、蟒狂は胸を押え、遅れて襲う恐怖を感じていた。
「横眉暴君、良く来たな。丁度お前を探していた所だ」方源は応えた。
横眉暴君の笑みは更に深まった——方源が自分を訪ねるつもりだと勘違いしたのだ。
しかし方源の次の一言が、彼の笑顔を瞬時に凍り付かせた。
方源は言った:「お前も力の道の蛊師だと聞いた。生死を賭けて遊んでみないか?優劣を付けよう。我が方正は力の道を歩む、必ず力道第一になる!命、貰い受ける!」
言葉が終わらぬ前に、方源は蛊虫を駆り立て、横眉暴君目指してドカンと地響きを立て突進した!
「な、何だと?!」横眉暴君は反応し、驚きと怒りが入り混じった。
自ら身分を落として交わろうとしたのに、この「方正」は全く好意も汲み取らず、二言もなく襲い掛ってくるとは。
こいつ、一体何者だ?
人間なのか? 頭のネジが外れているんじゃないか?!
方源は彼の思いなど気にも留めず、疾風の如く走り、横眉暴君の目前に躍り出た。
全力以赴蛊!
問答無用で、まっすぐ体当たりを決めた!
がおっ!
彼の背後の空中に、瞬時に茶色の熊の虚影が現れた。
暴力蛊!
横眉暴君は目を怒らせ、動かず、両腕を構えた。
暴力蛊を発動するや、彼の体は急膨張し、力が爆発的に増大した。
どかん! 方源が横眉暴君に激突し、後者は五歩後退した。一方方源は巨大な衝撃で弾き飛ばされた。
横眉暴君は四转中階の修為を持ち、残り九人を率いて南山を長年牛耳り、その基盤は非常に厚い。
「ふん! 小獣王、面目を施してやるのだから、図に乗るなよ?」横眉暴君は低く呟いたが、追撃には出なかった。
四转中階の彼は、方源と一戦交えただけで、相手が自分より一歩劣る四转初階だと見抜いた。
しかし場には、方源だけではない。もう一人、白凝冰という四转が、悠然と立ち塞がっている。
横眉暴君は「方正」を倒す自信はあったが、一対二の戦いとなれば、話は別だった。
「横眉暴君、どうしてそこまで女々(めめ)しい? 白凝冰、お前は他の者を片付けろ。横眉暴君は俺が仕留める!」方源は哄笑し、両肩を揺すりながら、再び大股で横眉暴君へ突進した。
「茶一服の時間を与える。それまでに片付けられなければ、交代だ」白凝冰は微かに眉を吊り上げ、青い瞳に鋭い光が走った。
「口幅ったい小僧どもめ!」方白の言葉を聞き、横眉暴君は肺が爆発しそうなほどの怒りを感じた。
元より短気な彼は、ここまで耐え忍んでいたのが奇跡だった。もはや事が穏便に収まらないと悟り、一切を捨てて、心に殺気の嵐を巻き起こした。
戦え!
両者が激突した。
方源は横眉暴君と対峙し、白凝冰は残りの敵を圧倒的に制圧した。
なんという乱戦!
山石は砕け散り、渓流は断ち切れ、洞窟は崩れ落ち、爆音は雷鳴の如く轟いた。
戦えば戦うほど、横眉暴君の心は震えた——方源は苦力蛊を持ち、傷を負えば負うほど力が増し、戦闘力が強まるのだ。
最初に交じわった時、彼は小獣王など大したことないと侮っていたが——
戦いが中盤に差し掛かる頃、横眉暴君の顔色は鉄のように凝り固まっていた。方源が六獣影を同時に放った時、彼の顔は一瞬で青ざめた。
「この小獣王め、どうしてここまで強いのだ?! 蛊虫の組み合わせは俺より優れている上に、戦いの経験も豊富だ。こいつは一体何の生まれだ?手口が老練で残忍すぎる、若者の面影など微塵もなく、まるで百年もの化け物だ!」
「道理で、あんなに横暴に振る舞うわけだ。これほどの実力があれば、俺だって好き放題するだろう。今回は完全にやられた!今すぐ撤退しなければ!」
方源は力任せに突進し、攻撃は鋭く猛り狂った。恰も猛虎が山を駆け下り、蛟龍が海を攪乱すが如くだ。横眉暴君は気血が荒れ狂い、息を切らして喘いだ。
最も致命的なのは——方源を傷つける度に、彼は更に強くなるのだ。
今この戦いですら、彼は持ち堪えるのが精一杯だ。もし方源が更に強くなったら、一体どうなるというのか!
横眉暴君はそのことを思う度に、戦意が一分ずつ萎んでいく。
ついには、彼は攻撃すら躊躇するようになった。明らかに方源を傷つける機会があっても、迷いが生じてしまうのだ——
「いったい打つべきか、打たざるべきか…?」
そんな迷いを抱きながら、どうして良い戦いができようか?
横眉暴君は次第に身動きが取れなくなり、一方方源は完全に勢いを増し、攻撃は波が岸を打つように、次から次へと途切れることなく押し寄せた。
獣影が空中に次々(つぎつぎ)と閃き、一つ一つの激突が凄まじい爆音を轟かせた。
爆音が連続し、聴く者をして心臓を掴まれる思いにさせた。
「なんという凄烈な攻勢だ!」
「なんと、横眉暴君のような老輩の強者すら、方正の敵ではないとは…」
「方正は明らかに四转初階なのに、中階の横眉暴君を圧倒している」
「小獣王め…」闇に潜む多くの見物人が、方源のこの称号を噛みしめるように思い巡らせていた。
「一体誰が真の暴君なんだ?」蟒狂は思わず歯茎を啜った。彼には、方源の方が横眉暴君よりも理不尽で横暴に映った。普段凶悪非道な横眉暴君でさえ、今や「方正」の前では見劣りがするほどだった。
「方正、図に乗るな!」横眉暴君は方源に打り据えられ血を吐き、胸・腕・脚の骨を折られた。逃げ出そうとしたが、方源はとっくに見抜いていた。白凝冰が残りの暴君を片付けると、彼の退路を完璧に封じた。
がおおおっ!
がおおおっ!
方源が指を差すと、六つの獣力虚影が実体化し、天から降り注いで横眉暴君を飲み込んだ。
どかん!
轟音が響き渡り、煙塵が散った。
横眉暴君の全身は肉片と化し、内臓の破片や骨の砕片が放射状に広がっていた。
すうっ…
周囲から無数の冷気を吸い込む音が響いた。