方源の言葉を聞くと、十暴君の面々(めんめん)は表情を緩め、方源に向かって丁寧に一礼した。
すぐに、一人が性急に飛び掛かり、女性蛊師を地面に押し倒した。
女性蛊師は無力にもがいたが、十暴君の一人はガハッと笑い、魔の手を伸ばして、力一杯に引き裂いた。
ビリッ…！
女性蛊師の絹の服が瞬く間に破れ、中から真紅の襦袢が露になった。
この光景に、周囲から狼の遠吠えのような叫び声が湧き上がった。魔道蛊師たちは皆、異常な興奮状態に陥っていた。
多くの正道蛊師が、無言で歯を食いしばった。
助けに飛び出そうとした者も、即座に仲間に止められた：「手を出すな！十暴君だけでなく、黒白双煞もいる。死にに行く気か？」
「それに、あの女性蛊師は明らかに正道の者ではない。余計なお節介はよせ」
「くそっ… 魔道の連中は、本当に一人残らず人間の屑だ！卑劣極まりない！」怒りを抑えきれない蛊師たちが歯を食いしばり、拳を握りしめた。
多くの女性蛊師は、見るに忍びず目を背け、瞳を閉じた。
「やめて… お願い… やめてください！」女性蛊師の虚しい叫びが続く。
白凝冰は無表情で、傍らの方源を一瞥した。方源は冷やかに笑い、無関心な様子で見続けている。
「黒白双煞様、本日は手を貸さず壁上の観戦を賜り、誠に感謝いたします。この厚情は必ず親分にご報告申し上げます」十暴君の一人が進み出て、丁重に拱手の礼を取った。
残りの成員たちは、泣き叫ぶ女性蛊師へと歩み寄った。
一人が唾を吐き捨て、罵った：「小娘め、ふん！ お前の哀願で黒白双煞様が惑うとでも思うのか？ 甘い！ 愚か者！」
別の一人は猥褻な笑みを浮かべた：「逃げ回るのは楽しかったか？ これからはたまらなくなるだろう… ふふふ…」
女性蛊師の上に跨がっていた男が、まさに魔の手を伸ばそうとしたその時、女性蛊師の体から粉の光がぱっと迸った。
男蛊師は不意を突かれ、その光に激しく吹き飛ばされた。流星のように遠く飛ばされ、百歩先の地面に叩きつけられ、即座に気絶した。
「な、何だ?!」
「この小娘、まだ悪さをしやがる！ 皆で掛かろう！」
「大した度胸だな、まだ逆らう気か？」
場内の十暴君の残り成員たちは、一斉に怒号を挙げ、女性蛊師へと襲い掛かった。
しかし次の瞬間、粉の光が爆発的に増幅し、悲鳴が続けざまに響いた。
十暴君の成員たちは全員、一掃されるように吹き飛ばされた。
粉雪のように柔らかくも輝く光の中、女性蛊師は傲然と立ち、冷たく妖しい目つきで、体の偽装が灰のように剥がれ落ち、一層妖艶な真の姿を露わにした。
十暴君の成員たちは地面にぐったり横たわり、皆恐怖で震え上がっていた。
この女性蛊師が使った手口が何かは分からないが、彼らは全員が全身力抜け、這い上がることすらできない！
ついさっきまで凶悪な勢いを見せていた十暴君が、女性蛊師の一撃すら耐えられなかったとは。
この突然の異変に、見物人全員が顔色を変えた。多くの者が呆然と目を見開き、驚愕の極みにあった。
ただ一人、方源だけは顔色一つ変えず、あたかも既に予見していたかのようだった。
女性蛊師はクスクスと妖艶な笑い声を漏らした。真の姿を現した彼女の一双の媚眼は、魂を奪うほど妖しい。体つきは優美で、豊かな胸とくびれた腰の曲線は、春風に笑む艶やかな桃の花のようで、人の心を激しく揺さぶる。
その間に、十暴君の成員たちは地上から這い起がった。
彼らの力は徐々(じょじょ)に回復し始めている。
しかしそれでも、彼らの顔に刻まれた恐怖の色は微かにも減らず。何しろ女性蛊師の体から、紛れもない四转の気配が放たれているからだ。
この女性蛊師の修為は、なんと四转に達していた！
無数の者が顔色を変え、この発見に深く衝撃を受けた。
「小獣王様、あなたは美人を目の前に見殺しにするなんて、それでも男ですか？」女性蛊師は方源を見つめ、媚眼の中に哀怨と嬌嗔が入り混じり、愛憎入り交じった感情を感じさせた。一瞬、ほぼ全ての男蛊師が我を忘れて見とれた。
多くの蛊師が、方源に嫉妬と憎悪を抱き始めた。もし自分がこの女に一瞥されれば、死んでも本望だというのだ！
しかし方源は微動だにせず、声は氷のように冷たく、骨の髄まで凍るような寒気を帯びていた：「狐魅児、その程度の芸で俺を騙せると思っているのか？」
女性蛊師の瞳がわずかに収縮した。
方源が直ぐに自らの正体を見抜くとは思っていなかった。
しかし彼女は瞬時に回復し、紅の小さな唇をほんのり上げた：「まさか私の取るに足らない名が小獣王様の耳にも届いているとは、光栄の至りですわ。でも偽装を解く前、どうしてお見抜きになったのかしら？」
方源は豪快に笑った：「お前が正体を現す前は、俺も当て推量していただけだ。当たろうが外れようが、別に損はない、そうだろう？」
魔道の者である狐魅児でさえ、方源のこの冷徹無情な言葉を聞いて、思わず心が凍るような寒さを感じた。
「まさか彼女だったとは…」
「この女は魔道で有名な妖女だ、極めて危険な存在だ。偽装が最も得意で、外見の妖艶さに騙されるな。実は骨までしゃぶる魔女で、心が冷酷非情なのだ！」
「狐魅児は交遊が広く、多くの魔道蛊師と肌を重ねている。十暴君はどうして彼女を怒らせたんだ？」
十暴君の成員たちは互いに支え合い、顔色は紙のように青白く、血の気が全くなかった。
事態がここまで来て、彼らも悟った——自分たちは明らかに狐魅児に弄ばれていたのだ。
狐魅児自身の実力は四转に達しており、彼らを相手にするには余裕があった。先の偽装や演技は全て、彼らを弄ぶためであり、おそらく黒白双煞を試すための駒として利用されたのだろう。
しかし小獣王の眼力は鋭く、見事に狐魅児の偽装を見破った。
「ははは、良くやった方正よ。君は本当に鉄石心腸だな… だが調子に乗るなよ。君たちはここ数日、風頭が強すぎる。今や三叉山の上下で、魔道の天才二人が来たことは知れ渡っている。正道も魔道も、多くの先輩や強者が、君たちの実力を量ろうと狙っている。君たちはすでに多くの者を怒らせた、ここで止どまることを勧める。山に登って命を落とすような真似は、割りに合わないからな」狐魅児は長笑いを放ちながら言い放った。
「ふう？ つまり君が、我々(われわれ)を量る最初の一人というわけか？ ふふ、我々(われわれ)の安否など君に関係あるか？ 人を怒らせるって？ 俺が一番恐れないのはそれだ。たとえ天下のすべての人を敵に回そうと、それがどうした？」方源は目を伏せたまま、淡々(たんたん)とした口調で言ったが、その言葉は聞く者の骨の髄まで凍らせるようだった。
狐魅児はその言葉に瞳を輝かせ、妖しい光を宿せた媚眼を細めた。
彼女は口元を手で押え、クスクスと妖艶に笑った：「言うこと良い(よい)わね！ 本当に度胸がある、好きよ。人を怒らせるのを恐れない？ じゃあ教えてあ(あげ)る、あなたは私の容姿を蔑んだ、今この瞬間に私を怒らせたのよ。この世で、養い難いのは小人と女子だけ。私は女子である上に小人でもある。ふふふ、小獣王様、勝負はこれからよ！ どうか無事に山を下りられますように！」
狐魅児の目に鋭い光が走り、この言葉を残すと袖を払って立ち去った。その動作は実に潔かった。
群衆は、彼女の一身の桃色の衣と、長い袖がひらひらと翻りながら空へ飛び去っていく優美な姿を仰ぎ見、しばらくの間誰も言葉を発することができなかった。
「狐魅児め…」方源は心の中で鼻で笑った。
この狐魅児は、魔道で有名な妖女だ。出自は極めて神秘的で、誰もその素性を知らない。前世では、彼女は非常に活発に活動し、至る所で事を荒立て、離間を働き、血生臭い嵐を巻き起こしていた。
彼女が修行するのは魅道で、魅惑で人を惑わすことを旨とする。美色を利用し、数多の魔道の高手を支配し、南疆に群がる臣下の中には五转蛊師さえいる。
さらに多くの四转蛊師が、彼女を巡って張り合っている。
しかし、他の者が彼女の素性を知らないからといって、方源が知らないわけではない。
この妖女の後ろ盾は大物で、何と梅花婆の実の孫娘である。
梅花婆は南疆の六转蛊仙で、梅花福地を支配している。
妖女は至る所で臣下を集め、特に若くて優秀な者を好む。前世の百年後、彼女は手の内の全ての力を集結し、夕陽山へ向かった。
山で何が起きたのか誰も知らないが、結局下山したのは彼女一人だけだった。
特筆すべきは、彼女が山に登る前は四转蛊師に過ぎなかったのに、下山する頃には五转の極みに達していたことだ。
「この妖女は、人に言えない陰謀を抱えている。もう今から魅道を駆って、手駒を集め始めている。まさか今世に、俺が彼女の興味を引くとはな」
方源は前世と比べ、感慨無量の念に浸った。
彼は再誕という圧倒的な優位性を活かし、驚異的な速さで成長した。その結果、狐魅児が目を留める対象となったのだ。狐魅児は彼の潜在能力を見込み、配下の男に加えようとしている。
だが、そんなことあり得るはずがない！
「ふん、前世の五百年で、とっくに浮世の美色は見破った。だが魅道にも取るべきところはある、油断はできん… 狐魅児はこれから、きっと他の者を煽り立てて、俺に難癖をつけに来るだろう。彼女の体には梅花婆が仕掛けた蛊がある。殺すには万全の準備が必要で、まずはあの蛊を一時的に隔絶しなければならない。ふふ、どこの目の見えない奴らが、俺に刃を向けてくるか見物しよう」
方源は心の中で考え続けた。
今は狐魅児を殺せない以上、攻め来れば防ぎ、水来れば土で塞ぐしかない。
幸いなことに、今の狐魅児は魅道が未完成で、魅了した臣下の修為は高くても四转止まりだ。
五转でさえなければ、方源は恐れない。自らの経験と手中の蛊虫を信じ、勝てなくとも負けることはないと確信していた。
…
中洲、天梯山。
飛鶴に騎乗し、方正らは昼夜を分かたず急行し、ついにこの地に到着した。
彼らより先に、十大門派の精鋭弟子たちが多数集結していた。
「仙鶴門の者だ」
「おや？ 天蓮派の碧霞仙子がどうして仙鶴門と一緒に？」
「あの小僧は誰だ？ 碧霞仙子が彼と談笑している。碧霞仙子が同輩とこんなに楽しそうに話すのを見たことない」
方正たちの到着は、自然と衆人の視線を集めた。
「碧霞、君も来たんだな。知ってるか？前回別れてから、ずっと再会を待ち望んでいたんだ。今回の狐仙継承に君が来ると予想して、師匠に懇願してここに派遣してもらったんだ」一人の若い男性が碧霞仙子を見るや、即座に迎えに駆け寄った。
碧霞は方正と談笑していたが、彼を見ると、笑みが一瞬固まった。
