岩が飛び散り、鰐たちの哀叫が響く。
激戦は終局を迎え、方源と白凝冰は火炭山に傲然と立ち、足元には熔岩鰐の屍が累々(るいるい)と横たわっていた。
千獣王たる熔岩鰐王は、全身の骨格を砕かれ、背中の二つの火山状の盛り上がりは無惨に潰されていた。
低く呻きながら、地面に伏す。無数の傷口から血がとめどなく流れ出る。足爪が微かに震え、土を掻き分け地底へ潜ろうとするが、もはや力及ばない。
その痙攣は次第に弱まり、ついに死が訪れた。
千獣王が死ぬと、残りの熔岩鰐たちは瞬時に瓦解し、地中へ潜り込んで慌てふためいて逃げ出した。
戦場をさっと片付けると、方源と白凝冰は再び歩き出した。
一方、遠くの隅に潜む焦黄と孟土は、微動だにしなかった。魔道で名高きこの二人の暗殺者の顔色は、今や蝋人形のように青白く、生気を失っていた。
彼らは魂が抜けたようだった!
「こいつら…人間か? 単身で熔岩鰐群と渡り合うとは…!」
「白凝冰の氷道は熔岩鰐に極めて有効だ。だが問題は方正だ——あれは人型の怪獣だ!傷を負えば負うほど強くなる。最後には熔岩鰐王を軽々(かるがる)とぶっ飛ばした…」
焦黄と孟土は顔を見合わせ、互いの目に映る戦慄を認めた。
方源と白凝冰の恐るべき戦闘力は、彼らの予想を遥かに超えていた。
彼らは商家城に住んではいないが、この戦いを直に見届けた今、二人の恐ろしさを骨の髄まで悟ったのだった。
「こいつら、本当に二十代か? 畜生め、比べると俺の四十余年の生涯はまるで犬の生涯だ!」孟土は恐怖の余韻に震えながら罵った。
「孟土よ、そんなこと言うなよ。お前の言うこと聞いてると、こっちも穴があったら入りたくなる」年上の焦黄は深い嘆息をついた。「言うまでもなく、二人とも天才だ。人を比べれば気が狂うとは、まさにこのことだ。我々(われわれ)では敵わない。知ってりゃ、こんな仕事は受けなきゃよかった…」
「焦黄兄貴、そんなこと言われると、かえって闘志に火が付いて、なおさら諦らめきれない! まだ終わりじゃない。実力では敵わないが、チャンスは残っている!」孟土は唾を吐き捨て、歯を食いしばって言った。
「おお? どんなチャンスだ?」
「考えてみろよ、兄貴。あの二人は三叉山へ向かい、三王の継承で利を漁ろうとしている。三叉山は修羅場だ。四转や五转の強者がうようよしている。行けば必ず争いが起きる。その時を狙って、漁夫の利を拾えれば、それでいいんだ!」
孟土の言葉に、焦黄の目も輝いた。
彼は孟土の肩をポンと叩いた:「弟分よ、言う通り(どおり)だ。さあ、我々(われわれ)も三叉山へ行こう!」
「さっきの熔岩鰐群、出方が不自然だったな」道中、方源は思索に沈じていた。
熔岩鰐の出現時機と位置は、あまりにも巧妙すぎた——現れるや否や、完璧に方源と白凝冰を包囲したのだ。白凝冰は何も気づかなかったが、前世の経験を持つ老獪な方源は、その中に陰謀の匂いを嗅ぎ取った。
この匂いには、方源は慣れっこだった。
「誰かが罠を仕掛け、俺を狙っている。では、一体どこの勢力だ? 武家か、百家か、それとも商家か?」方源は密かに考え巡らせた。
「武家は、李然の正体を私が知っているからな。商量山を出た今、彼らが手を出す可能性は高い」
「百家はどうだ? 仇を買い、彼らの一族の元泉が枯れ果てるという大きな秘密を握り、三百万枚の元石を脅し取った。恨まないわけがないだろう?」
「商家も同様だ。商睚眦や商一帆を怒らせ、衛家の者たちを買収し、商蒲牢にも敵対した。商家の若様たちは競い合っており、私は商心慈の片腕の一つだ。外で始末されれば、商心慈の勢力は削られる」
「まあいい、考えても仕方がない。兵が来れば将で防ぎ、水が来れば土で塞ぐさ」方源は首を振り、複雑な思いを頭から振り払い、心を清らかに定めた。
昔なら、力が弱く、何事にも心を砕き力を尽くして謀らねばならなかった。しかし今は実力が伸び、八風吹けども山の如く微動だにしない境地が垣間見える。
……
中洲。
雲海の上、狂風が吹き荒ぶ。
万を超える飛鶴が、一斉に翼を広げて飛翔している。
方正ら仙鶴門の精鋭弟子たちは、各々(おのおの)飛鶴の背中に踏みしめたり盤坐したりしながら、天梯山へ向かっている。
「方正様、お手の鶴群は実に威風堂々(どうどう)でございます。この天梯山行き、必ずや大いに輝き、四方を掃うことでしょう」一人の精鋭弟子が言った。
彼が話すとき、蛊虫を使った。周囲の風の轟音にもかかわらず、その声は阻まれることなく、鮮明に衆人の耳に響き渡った。
「諸君の過分なお褒め言葉には恐縮します」方正は言った:「天梯山へ向かい、白狐蛊仙の継承を争うのは、皆十大派の精鋭たちです。継承を得るには、実力だけでなく運も必要でしょう」
「方正様、お謙遜すぎます!万の鶴群を擁する貴方に、誰が敵うというのです?」即座に一人の精鋭弟子が叫んだ。
「方正様こそ、我々(われわれ)の模範です。道理で精鋭弟子に昇格直後に、掌門から使命を賜ったのですね。この天梯山行き、私たちは貴方のご指示に従います!」一人の女性精鋭弟子が恭しく述べた。
道中、方正は精鋭弟子たち一人一人と切磋を重ねてきた。
彼の実力は圧倒的で、空竅には寄魂蚤を飼育している——天鶴上人の魂魄がその中に宿り、常時彼に戦場指導を施していた。更には万の鶴群が後ろ盾となっている。
こうして、方正は他の精鋭弟子たちを次々(つぎつぎ)と撃破した。
彼は勝って驕ることなく、風格を備え、謙虚な姿勢を貫いた。この態度が容易に皆の好感を勝ち得、自然と首領として推戴されるに至った。精鋭弟子たちは皆、方正に深く敬服している。
「中洲十大門派は、どれも深い底力を持つ。きっと能ある者もいるでしょう。私は万の鶴群を持つが、指揮の非力さという弱点もある。飛鶴の操縦については、諸君にご教示願いたい」方正はそう言い、周囲の者に拱手の礼を取った。
「恐縮です!方正様と切磋できること自体が光栄です」
「ここ数日、方正様の修練ぶりは目を見張るものがあり、私など恥ずかしい限りです」
「方正様の上達は目覚ましく、鶴の制御に天性の才をお持ちです。これまで訓練不足だっただけ。時を経れば、必ず孫元化を凌駕されるでしょう」
他の精鋭弟子たちが口々(くちぐち)に応えた。
彼らの言葉は、心の底から湧き上がったものだった。道中、方正の目覚ましい進歩を彼らは目の当たりにしてきた。
方正は思わず微笑んだ——天鶴上人が常に指導し、秘伝の心得を授け、時には代わって鶴群を操ってくれるのだ。進歩が速くないわけがない。
さらに飛び続けることしばらく、鉄嘴飛鶴たちが一斉に鳴き声を上げ始めた。
方正らは皆、その意味を悟った。
「さあ、時だ。降りて鶴に餌を与えよう」方正が足を軽く踏むと、鶴群は彼の指示に従い、次々(つぎつぎ)と下の雲海へ突き刺さっていった。
瞬時に、周囲は白い霧に包まれた。
まもなく雲霧が消え、一行は鶴群と共に雲を抜け、鬱蒼とした大地へと降下していった。
飛鶴も食餌を必要とする。鶴群の規模が大きければ、食料の需要も高まる。幸い鉄嘴飛鶴は、何でも食べる。時には小石を飲み込んで空腹を満たすこともあり、飼育が極めて容易だ。
方正はこの巨大な鶴群を擁しているが、それ相応の手間もかかる。一定の時間ごとに地上へ降り、鶴群に餌を与えねばならない。
「おや? 下で戦いが!」降下中、一人の精鋭弟子が叫んだ。
一同は直ぐに下の異変に気付いた。
四人の魔道蛊師が陰笑を漏らし、三人の女性蛊師を包囲し、じわじわと詰め寄っていた。
「ちっ、あの四大淫賊か」すぐに、ある精鋭弟子が嫌悪の込めた口調で、四人の魔道蛊師の正体を暴いた。
この四大淫賊とは、東淫の陳淫道、西賤の郁八光、南騒の施暴、北蕩の樊春耀である。
彼らは中洲に暗躍し、各四转の修為を有する。連携すれば五转蛊師にも匹敵する実力を持ち、極めて危険な存在だ。
「見ろよ!包囲されているのは天蓮派の碧霞小仙子だ!」目の鋭い精鋭弟子が叫んだ。
「ふん、魔道の輩は、人皆これを誅すべし!」方正の顔色は峻厳を極め、深く考えず、即座に鶴群を急降下させた。
「ふふふ、碧霞仙子、今日は逃げ切れまい!」
「まさか碧霞小仙子を手に出来るとはな。どんな重傷を負っても、それだけの価値はあるぜ!」
四大淫賊は顔を歪めてウインクを交わし、天蓮派の三人の女性蛊師にじわじわと詰め寄った。
「憎らしい…!」碧霞小仙子は銀の歯を噛み砕きそうだった。重傷を負い、包囲網を破ろうにも力が及ばない。
絶望に咽び、まさに舌を噛んで自決しようとしたその時、突然頭上に鶴群の斉唱が響き渡った。
「何者だ!?」四大淫賊が揃って見上げ、声を揃えて問い詰めた。
「仙鶴門精鋭弟子、方正!」方正は鉄嘴飛鶴王の背中を踏みしめ、雷鳴の如く喝した。
鶴の背に傲然と立ち、逞しい体躯に濃い眉と虎の如き眼光——四人の淫賊を鋭く睨み据えると、掌を伸ばして彼らを指差した。
背後の精鋭弟子たちと万の鉄嘴飛鶴が、次々(つぎつぎ)と方正を越え、四淫賊目指して怒涛の進撃を開始した。
「うわっ、何て数だ!」
「十大門派の仙鶴門の精鋭か…」
「最悪だ、傷を負っている身では敵わん。撤退だ、さっさと逃げるぞ!」
四大淫賊は時流を読み、踵を返して逃げ出した。瞬く間に遠くまで走り去り、背中は衆人の視界から消えた。
「魔道の屑どもは、他の腕はないが、逃げ足だけは速いな」精鋭弟子たちは哄笑した。
「ご無事ですか?」方正は鶴の背から降り、碧霞小仙子の面前に立ち、穏やかに問いかけた。
「わ、私は大丈夫… 方正様、お救いいただき、誠に有難ございます!」碧霞仙子は方正を見つめ、顔に紅霞を浮かべ、目にはうっとりとした眼差しを宿せていた。
彼女は最悪の事態を覚悟していたが、まさか天から英雄が降ってくるとは思わなかった。
方正の英雄救美は、碧霞仙子の心に深く刻まれたのだった。