蛊師の世界は、広大で並び外れている。
東には、蒼海が滔々(とうとう)と湧き立ち、島々(しまじま)が星のようちりばめられている——これが東海だ。
西には、砂漠が広がり、オアシスが真珠のように黄砂の中に散らばっている——西漠と呼ばれる。
北には、蒼茫たる草原——北原と称される。南には、十万の山々(やまやま)——南疆と俗に呼ばれる。
そして東海・西漠・北原・南疆に囲まれた中央に、中洲と呼ばれる地帯がある。
中洲は領土が広大で、億里にわたり延がり、元気が最も(もっとも)充満している。門派が林立し、数多の英雄豪傑や正邪両道の者が潜み、まさに人傑地霊の地だ。その総合実力は、四方の地域を凌駕し、最も強盛である。
中洲の南部、群峰の上三万丈、雲海の頂き、蒼穹の中に、一つの巨山が浮かんでいる。
飛鶴山!
飛鶴山は雄壮でありながら飄逸として、玄妙な白雲の海に懸かっている。
陽光が雲霧を透き通して射し込み、山肌には緑樹が鬱蒼と茂り、滴り落ちんばかりの深緑に覆われている。
山々(やまやま)の稜線は波のように重なり合う。
狂風が吹き荒ぶ度に、山上の雲海は煮えたぎる湯のように渦巻く。松柏や竹林は怒涛のように揺れ、万鶴が一斉に鳴き声を挙げる。
鉄嘴鶴、丹頂鶴、鳳尾鶴、雲煙鶴、星極鶴… 数万種の鶴たちが、あるいは旋回し、あるいは松の木に憩い、あるいは岩に踞る。実に壮観で、威容に満ちている。
飛鶴山の万鶴は中洲に名高く、山の蛊師たちは天下に轟く。
これぞ仙鶴門である。
中洲十大門派の一つ、中洲の頂点勢力を占める仙鶴門。
今、仙鶴門の演武場で、一つの戦いが最も(もっとも)緊迫した瞬間を迎えていた。
似通った装束の二人の若者が、激しく戦い合っていた。両者の姿は進んでは退き、絡み合っては電撃のように離れる。
「強すぎる…!」
「信じられない、戦う二人とも二十代だなんて」
場外の観客たちは、固く見入れていた。驚嘆と畏敬の念が、面に浮かんでいた。
「孫元化師兄は、古参の強豪だ。前回の三年小考で優勝した実力だから、驚かない。だが方正師弟が、これほどの実力を持つとは、本当に驚きだ!」
「そうだ。今回の門派八年中考で、方正師弟は最大のダークホースだ。決勝まで進むとは、誰も予想していなかった」
「ここ数年、方正師弟は無名で、まるで普通の山石のようだった。誰も注目せず、全く目立たなかった。それが今回の中考で、一躍名を上げ、仙鶴門中に名を轟かせた」
多くの者が感嘆と嘆息を漏らした。羨望もあれば、嫉妬もあった。
方正は顔を凝らし、眼光鋭く、孫元化と互角の勝負を演じていた。
ここ数年で、彼は背が伸び、厚い肩幅と狼のような背中、蜂のような腰を持ち、重厚で精悍な気迫を身に付けていた。
突然、方正が碧緑の旋風を放ち、孫元化を押し戻し、その勢いで後退した。
「孫師兄、降参してください」彼は静かでありながら自信に満ちた口調で言った。
「小師弟、奥の手があるなら、存分に繰り出せばいい」孫元化は笑いながら、同様に自信を持って答えた。
「では」方正は突然口笛を吹いた。ピューッという音が広がるや、遠方から鶴たちの鳴き声がすぐに響いてきた。
人々(ひとびと)が音の方向を眺めると、無数の目が瞬時に見開かれ、無数の口が思わず開かれた。
「こ、これは鉄嘴飛鶴群だ!」
「天よ、これほどの鶴の群れが、まさか幻覚か?」
「ありえない! こ、これは万獣王だ! 方正が四转中階まで修為を積んだだけでも天賦の才だが、まさか万の鶴群を制御できるとは、いったい何という手管だ!」
場内は騒然となり、誰もが驚天動地の衝撃を受け、信じ難い様子だった。
場外の数人の門派長老さえも、座席からがばっと立ち上がった。孫元化の顔色は、一気に険しくなった。
鉄嘴飛鶴群の殺気が渦巻き、陣容の雄大さに、彼は巨大な圧力を感じた。
しかし、彼は諦めるつもりはなかった。
彼の両目に、一筋の確かな光が宿った:「方師弟、確かに君は凄い。だが、これほど多くの鶴を、果たして制御できるのか? 俺はまだ負けていない。なぜなら俺にも鶴群がいるからだ!来い!」
飛鶴山には千万の鶴が棲息する——この地の利を、仙鶴門の者たちは存分に活かしていた。
方正に鶴群があるように、孫元化も門派の天才として注目を浴びるだけあり、密かに鶴群を飼育していた。
孫元化の心の呼び掛けを感じて、間もなく天の彼方から一団の鶴群が飛来した。
その規模は、方正の鉄嘴飛鶴群と鮮やかな対比を成していた——わずか数百羽に過ぎなかった。
しかし、孫元化が制御するこの鶴群は、鉄嘴飛鶴とは全く異なる。体の大部分は白い羽に覆われているが、両翼の先端と尾羽、爪は深い藍色を呈し、陽の光を受けて金属的な光沢を放っていた。
同時に、飛翔する姿をよく見ると、体表にかすかな青い電光がちらちらと走っているのが見えた。
「気をつけろ!この鶴は幻電鶴だ。気性が荒く、一対一なら、普通の鉄嘴飛鶴は敵わない」方正の心の中に、突然天鶴上人の声が響いた。
「分かりました、師父!」方正は即座に応え、目に鋭い光を宿らせた。片方で幻電鶴群を凝視し、片方で自分の鉄嘴飛鶴群を指揮した。
「衝突する!」
「鉄嘴飛鶴群はあまりにも巨大で、まるで巨大な怪獣のようだ。孫師兄の鶴群など、牙の隙間にも満たないだろう」
「いや、孫師兄にも勝機はある。鶴群戦は単純な数比べではない、双方の操縦能力も比較されるのだ」
「孫師兄は日々(ひび)鍛錬を重ね、鶴群操縦の腕前は門派随一だ。今は方正次第だが…」
「正直言って、方正はあまり期待できない。彼は天才とはいえ、所詮は人間だ。ここ数年で四转に昇進し、師門任務をこなし、優れた蛊虫組み合わせを築き上げるだけで、膨大な精力を消耗している。鶴群を巧みに操る時間も能力も、もう残っていないと信じている」
人々(ひとびと)は口々(くちぐち)に論じ合い、一人一人が心を躍らせていた。
このような大がかりな場面は、門派の三年小考や八年中考では滅多に見られない。十五年大考でさえ、ごく稀にしか起こらないものだ。
方正は膨大な鶴群を擁しているが、全員が彼を優位と見ているわけではない。
今の状況は、まさに両軍が対峙するようだ。
方正は万を超える鶴を有し、軍勢は膨大だが、数が多いだけに操縦は容易ではない。何しろ彼は四转中階で、魂の強度には限界があり、心力も有限なのだ。
一方孫元化の鶴は数は少ないが、精鋭部隊であり、指揮するのは手の指を動かすように自由自在だ。加えて、普段から鶴群の訓練に多くの時間を費やしており、門派内で彼の優れた操鶴術は広く知られている。
両の鶴群がまさに空中で激突せんとするその時!
孫元化が突然身を躍らせた。
空竅の蛊虫を駆り、全身が電光と化す。ビシッという音と共に、方正の目の前に詰め寄った。
方正は孫元化の奇襲を予想していなかった。
これで孫元化は鉄嘴飛鶴群の包囲の中に飛び込み、極めて危険な状況に自ら陥ったことになる。
孫元化は嵐のような攻撃を展開し、正気を失ったかのように、前に増して猛烈な勢いで襲い掛かった。
方正は先手を奪われ、孫元化に押され気味となり、全力で防ぐしかなかった。
空では二つの鶴群が激突し、地上では方正と孫元化が激しく戦っていた。
幻電鶴群は数は少ないが、一丸となって突進し、鉄の爪で無数の鉄嘴飛鶴を引き裂いた。
一方鉄嘴飛鶴群は、数は多いが混乱しきっており、無数の蝿が乱舞するようだった。
「鉄嘴飛鶴群が、わずか一握りの幻電鶴を食い止められないとは!」
「孫師兄、見事だ! この戦術選択こそ絶妙というものだ!」
「その通りだ。方正の心力には限界があり、これほど大きな鶴群を指揮するのは、まるで赤ん坊が重いハンマーを振るうようなものだ。拙さが目立つ。今孫師兄の猛攻を受け、自分らも危うい。必死で防ぐのに精一杯で、精神は極限まで集中している。頭上の鶴群に気を配る余裕などあるはずがない」
「しかし鉄嘴飛鶴の数は膨大だ。百獣王や千獣王、さらには万獣王も数多いる。幻電鶴群には百獣王が三羽、傷ついた千鶴王が一羽いるだけだ。幻電鶴群はこれら獣王を避けようと左右に突進し、多くの普通の鉄嘴飛鶴を倒したが、自らも甚大な損害を被った」
「孫元化と方正は互角に戦い、攻守入り乱れ、相手を熟知しているため、勝敗は付かない。今や鶴群の勝負が決着を決めるだろう」一人の長老が勝負の鍵を見抜いた。
もし鉄嘴飛鶴群が幻電鶴群を殲滅すれば、方正の勝利は確実だ。
しかし、もし幻電鶴群が包囲網を突破し、降り立って孫元化を援護すれば、方正の敗北は免れない。
「踏ん張れ!心力を振り絞って鉄嘴飛鶴を操り、幻電鶴を一匹残らず殲滅しろ! もしできれば、これが君の大きな突破となり、将来に計り知れない利益をもたらすだろう」方正の心の中で、天鶴上人の声が戦場指導を続けていた。
方正は全霊を傾けて、師の教えに従おうとした。
しかし、まさに成功目前という時に、必ず孫元化の攻撃が彼のリズムを乱した。
孫元化は、やはり方正より年長で、鶴群の操縦に多大な苦労を重ねてきた。彼が分心して操る中でも、鶴群は甚大な損害を出しながらも、ついに鉄嘴飛鶴群の包囲網を突破しようとしている。
「方正師弟、俺を倒すには、まだまだだ」彼は冷やかに笑い、そう言い放った。
この言葉が方正の耳に届くと、突然、記憶の奥底の一つの光景が鮮明によみがえった——
かつて南疆の青茅山、古月山寨で、実兄の方源と擂台戦を繰り広げた時のことだ。
方源もまた、全く同じ言葉を投げかけてきたのだった。
「いや、負けられない!」
「家族のため、叔父叔母のため、族長のため、青書様の仇を討たねばならない!」
「ここ数年、何のために努力してきたのか? 兄の前に立ち、彼を打ち負かすためだ。どうして今孫元化に負けられるものか?」
方正の両眼に、突如炎が燃え上がったようだった。脳髄が割れるような痛みを耐え、心を二つに分けた!
鉄嘴飛鶴群が突然動き出し、巨獣が大口を開けるように、幻電鶴群を跡形もなく飲み込んだ。
この光景を見るや、孫元化の顔は土気色に変わった。
勝った!
場内にどよめきが広がった。
方正は八年中考の首位に立ち、孫元化を打ち破り、ついに仙鶴門の精鋭弟子の座を射止めた!