「商心慈が全資金を動かして、この三種の蛊を買い集めたと？」書斎で、商一帆は一枚の文書を手に取り、指先で弄んでいた。
この文書は、彼の母方の一族から届けられた報告だ。
商一帆の母は、商燕飛の従妹で、勢力は強大で、情報網が広い。
「一転の犬馭蛊、二転の紙鶴蛊、それに一転の爆弾卵蛊… こんな蛊を買い集めて何の意味がある？」商一帆は深く眉をひそめ、苦しみ思い悩んだが、結局答え(こたえ)は見つからなかった。
「聞くところによると、商心慈は十万の資金を方正に全く委託したらしい。方正は戦闘力は強いが、これまで経営の才があるとは聞いたことがない。彼がこんなに無軌道に買い集めるのは、無駄を重ねているだけで、自らの実力を削っているようなものだ。まさか、私が彼らを過大評価していたのか？」
商一帆はそう考えながら、沈思黙考に浸った。
彼の修為は高くないが、経営の才は鍛え上げており、市場に深い見識を持つ。
常理で考えれば、これほど大規模に蛊を買い集める行為は、経験豊富な商人なら誰も選ばない。
なぜなら、この投資には全く収益の見込みがないからだ！
しかし商一帆はあれこれ考え巡らせ、心に一抹の不安がつきまとっていた。何か見落としている気がする——どうやら、この狂気じみた買収の裏には、相手の謀略が隠されているようだ。
ちょうどその時、老執事が書斎の外から告げた：「若様、只今大変な出来事が発生し、至急ご報告にあがりました」
「おお、張老、どうぞお入りください」商一帆は慌てて彼を招き入れた。
この張総管は、彼の母の右腕となる部下だ。三转頂点の修為を持ち、独りで一面を担い、経験豊富である。普通の部下同様に扱える存在ではない。
商一帆の母も、彼に張総管には礼儀正しく接するよう、普段からよく相談するよう言い含めていた。
張総管が入ってくると、表情は険しかった：「一帆若様、事態は芳しくありません。三叉山から最新の知らせが届きました——すでに誰かが、伝承に入る正しい方法を探り当てたようです」
以前、三王伝承が現れ、黄・青・赤の三本の光柱が天を衝いた。しかし、三王伝承は別に玄妙な点があり、誰もその入り口に立ち入れなかった。この数日間、多くの能人異士が狂ったように探求した結果、三王伝承に入る方法がついに検証されたのだ。
張総管の話を聞いて、商一帆は即座に強い興味が湧いた：「おお、三王伝承に入るには、どうすればいい？ 待てよ、まさか…」
突然、彼の顔色が変わり、目が思わず先程の情報文書に釘づけになった。
ある可能性を思い付き、彼は座席からゆっくりと立ち上がった。
張総管は苦笑いしながら言った：「若様はもうお気付きのようですね。その通りです。三王伝承に入るには、それぞれ異なる三種の蛊が必要です。黄色の光柱の犬王伝承に入るには、蛊師が少なくとも一転の犬馭蛊を煉化している必要があります。青い光柱の信王伝承には、紙鶴蛊が必須です。赤い光柱の爆王伝承の基準は、少なくとも一匹の爆弾卵蛊を掌握していることです」
「まさか… そんなことあるはずがない！」商一帆は思わず叫んだ。
彼はがっくりと椅子に座り込み、顔からは魂が抜けたようだった。
彼はついに理解した——方源がなぜこれら三種の蛊を大量に買い集めたのか、その理由はここにあったのだ。
今、三王伝承の知らせは南疆全土に広まっている。三人の五转蛊師の伝承が同時に現れたことで、数多の者が食指を動かし、一杯の羹を分けようと狙っている。
しかし、三王伝承に入るには、少なくとも三種の蛊のうち一つを持つ必要がある。
ところが、現在、商家城内のこれら三種の蛊は、大部分が商心慈の手中に集まっている。愚か者でなければ誰でも想像できるだろう——これから彼女が蛊を販売する商売が、どれほど爆発的に繁盛するかを。
商一帆は愚か者ではない。逆に、彼は非常に聡明で、少なくとも商睚眦よりは数段賢い。
「一体どこからこんな情報を仕入れたんだ？ こんなに正確だなんて！」
「いや、今は情報源を追及している場合じゃない。重要なのは、どうやって彼らを阻止するかだ！」
商一帆の目に、陰険な光がひらめき続けた。頭を絞って考え抜いた。
しばらくして、彼の顔には敗北感と無念の色が浮かんだ。
方法がなかった！
商心慈の陣営は、完璧に手を打っていた。表向きは、ごく普通の正当な投資に見える。しかし、三王伝承の流行に乗ったため、特別に目立つ結果となったのだ。
買収時に、商心慈側は十万元石をはるかに超える資金を動かしたが、この行為は族規に違反するものではなく、せいぜい法の隙間を縫う程度のものだ。
「一体どこからこんな情報を仕入れたんだ？ こんなに正確だなんて！」
「いや、今は情報源を追及している場合じゃない。重要なのは、どうやって彼らを阻止するかだ！」
商一帆の目に、陰険な光がひらめき続けた。頭を絞って考え抜いた。
しばらくして、彼の顔には敗北感と無念の色が浮かんだ。
方法がなかった！
商心慈の陣営は、完璧に手を打っていた。表向きは、ごく普通の正当な投資に見える。しかし、三王伝承の流行に乗ったため、特別に目立つ結果となったのだ。
買収時に、商心慈側は十万元石をはるかに超える資金を動かしたが、この行為は族規に違反するものではなく、せいぜい法の隙間を縫う程度のものだ。
得た元石を、十万元石の資本金だけの収益として計算すれば、何の問題もない。
商一帆がこれで難癖をつけようとしても、確固たる根拠が持てない。なぜなら、彼自身も法の隙間を縫うような行為をしているからだ——張総管を始め、母方の勢力を大いに借りている。厳密に言えば、彼のやっていることは、商心慈よりもさらに露骨な法の擦り抜けだ。
「一帆若様、今回の相手は最も正確な情報を握っていました。この仕組みの後、彼らの資本は最低でも三倍に膨れ上がるでしょう。我々(われわれ)には彼らの弱みを握ることはできず、ましてや闇の手段を使うべきではありません。今は時を争い、自らの商売に専念すべきです。奥様の商家城における人脈関係を考えれば、三ヶ月後、若様は少なくとも六十万を達成できるでしょう。それでも十分勝算はあります」張総管はそう慰めるように言った。
「うむ、そうするしかあるまい…」商一帆は重い溜息をついたが、心の奥に残った不安は消え去れなかった。
若様の座を巡る争いは、始まったばかりだというのに、相手は早くもこんな「驚き」を仕掛けてきた。この先、一体どんな予期せぬ手を繰り出してくるのか、全く予測がつかない。
かつて自信満々(じしんまんまん)だった商一帆の心にも、今や幾分かの迷いが生じていた。
……
三王とは、それぞれ犬王、信王、爆王を指す。
その来歴は、三百年前にまで遡る。
三王は王家の出だ。王家寨は宿敵の烏家に機を突かれ、全滅させられたが、意外にも三人の王家の子供が逃れた。
この三人の子供は、男二人に女一人。最年長はわずか八歳で、後の犬王だ。最年少は五歳で、爆王となる。女の子は後の信王で、当時六歳だった。
烏家は王家寨の資産を併合し、吸収するのに忙しかった。たかが三人の小さな子供が何ほどのものか？ 蛊師ですらなかったので、気にも留めず、軽い追殺令を下しただけで、三人のことは放っておいた。
追手も怠惰な者で、適当に三人の子供を殺し、成り済まして、任務を適当に済ませた。こうして、三人の王家の遺児は奇跡的に命を拾った。
彼らは艱難辛苦を舐め尽くし、辛うじて飢えを凌ぎ、苦しい生き残りを続けた。互いに支え合う中で、深い絆が育まれた。
年齢を重ねるにつれ、彼らは烏家への憎悪を募らせていった。
しかし、烏家は王家を併合した後、勢力を拡大させ、三つの名山を擁する大きな家族となっていた。長年の経営で、その勢力は地元に深く根を張っていた。三人の遺児は、蛊を開く機会すら与えられず、烏家に対抗して復讐するなど、夢物語に過ぎなかった。
しかし、世の中の事は、運命の変転不可思議さが妙に面白いところだ。刻一刻、次に何が待ち受けているか、誰にも予測できないのだ。
命懸けで深山に薬草を採りにいき、生計を立てている最中、三王は思いがけず、上古期の伝承に巻き込まれた。
この伝承は尋常一様ではなく、正体不明の六转蛊仙が残したものだった。
この出会いで、三王の運命は転換した。三人はそれぞれ、六转蛊仙の伝承の一部を継承し、励精努力し、百年近く刻苦して修行した。
三人は互いに励まし合い、共に奮起した。全員が五转の境界に達した時、時機は熟したと判断し、伝承の地を出て、烏家への復讐に向かった。
当時、烏家は絶頂期にあり、勢いよく発展していた。
三王は、何の策略も用いず、真っ向から烏家の本拠に攻め込んだ。烏家の族長は五转蛊師だったが、三人の五转蛊師が連携して戦えば、到底敵うはずがない。
特に、この三人の五转蛊師は、皆上古の伝承を継承していた。
犬王は、山全体の犬群を駆使し、手を振るえば、膨大な軍勢となる。犬群は濁流のように、烏家寨を飲み込んだ。
信王は、素早く神出鬼没、烏家の幹部を急襲し、指揮系統を混乱させた。
爆王は、暴力的で威猛、出手なければ静かだが、一たび手を出せば、天地を揺るがす大爆発を引き起こし、山は崩れ、地は割れた。
一時は勢い盛んだった烏家も、三日と経たぬうちに、三王の連合攻撃によって打ち滅ぼされた。
三つの名山の上では、元泉はすべて破壊され、野に横たわる屍、広がる血の海、目を覆うばかりの惨状だった。
烏家は根絶やしにされ、三王もまた惨めな代償を払った。
しかし、仇を討って恨みを晴らせたのだから、この代償は彼らにとって甘んじて受け入れられるものだった。
大仇を報いた後、三王は皆、人生に虚無感を覚えた。もはや何の面白みもなく、吹きすさぶ風のように蕭条としていた。彼らは王家を再建する気もなく、どんなに栄えた家族でも、真の強者には敵わないことを悟っていたからだ。
彼らは隠遁し、再び江湖に現れることはなかった。あたかも三つの流星のように、瞬間煌めいて南疆を震わす大事を成し遂げ、そして急流を退き、忽然と姿を消した。
その後、三王の消息を知る者は一人もいなかった。最も近く、彼らの伝承が忽然と現れるまでは。
「犬王の手には、少なくとも三匹の五转犬馭蛊がある。これさえあれば、万獣王を駆り、獣群を指揮し、天下を攻め取れる！」
「信王は蛊の錬成を得意とし、普通の二转紙鶴蛊から、一連の奇妙な蛊を発展させた。これにより、情報を盗むことが朝飯前となった。正に彼女のおかげで、犬王と爆王は烏家寨の防備の穴を知り、三王は烏家を殲滅できたのだ。彼女の貢献は計り知れない」
「爆王は火のような気性で、一たび手を出せば、必ず天地を揺るがす大爆発を起こす。その威力は狂おしいほど猛り狂い、彼の伝承を得れば、必ず世を風靡できる！」
「三つの五转伝承のうち、一つ(ひとつ)得れば天駆ける如く成り上がり、二つ得れば歴史に名を刻み、三つ揃えば覇業を成し遂げられる！」
「これは大きな機縁だ。本気を出さずにはいられない！」
「急いで行かねば！遅れれば、誰かに取られて、一生後悔する！」
三王伝承の方法が広まるにつれ、商家城は熱狂の渦に巻き込まれた。
「爆弾卵蛊を買う！」
「紙鶴蛊をくれ！」
「犬馭蛊と紙鶴蛊と爆弾卵蛊を全部買う！！」
「なんだって？ 値段が以前の三倍以上だぞ！？」
「ふん、金がないなら退け。買いたい者は山ほどいるんだ」
「くそっ…買うぞ！」
「俺も買う、必ず買わなきゃ！」無数の者が歯を食いしばり、心の中で悪徳商人を呪いながら、汗と血で稼いだ金を搾り出した——心も財布も痛んだ。
