「三转頂点で四转と対決し、方正が勝った!弱きが強きに勝つだけでなく、巨開碑のような強敵も倒した!若くして大器だ!」
「これは疑いようのない大勝だ。巨開碑は奥の手巨霊変まで使ったのに、結局方正に打ちのめされた。挙句自ら降伏した」
「八つの獣影の攻撃は、まさに恐怖だった… 方正が力気蛊を持っているとは!彼の運の良さと言ったら、噂ではこの蛊は元の一族の秘蔵品だそうだ」
茶館で、酒場で、路地裏で、人々(ひとびと)は暇を見つけては、方源と巨開碑の一戦を話題に語り合った。
両者が万全の状態で戦い、三转が四转に勝つというのは、実に珍しい戦例だ。
千人近くの観客が全ての経過を目撃し、方源の勝利は正々堂々(せいせいどうどう)、一切の小細工なく、実力で巨開碑を上回っていた。
力気蛊の来歴については、方源はわざと偽の情報を流し、人々(ひとびと)の推測を古月一族へと誘導した。
「今日から、方正様が私の目標です!」
この戦いの後、多くの者が口を揃えて方源を「様」と呼んだ。彼の実力は、大多数の認めるところとなった。
「方正様は本当に格好良い!巨開碑の時代は終わった」一部の女性蛊師は瞳を輝かせた。
「新しい世代が古い世代に取って代わる。巨開碑の敗北が、方正の名声を築かせた」年配の蛊師たちは感嘆し、皆「後の波が前の波を推す」という感じを抱いていた。
「方正様が巨開碑を倒した以上、果たして炎突に勝てるだろうか? もし炎突も倒せたら、彼はここ数年で、演武場を制覇する唯一の存在となる。十八連勝を守れば、商家の外様家老になれるのだ!」
この一戦で、演武場の勢力図が揺らいだ。
旧来の構図が崩れ、新しい勢力が台頭した。
人々(ひとびと)は、方源の未来像を想い描き始めた——胸を躍らせ、密かに期待を膨らませながら。
商家では、十数年も外様家老が誕生していない。もし方源が巨開碑に辛勝しただけなら、人々(ひとびと)の期待はこれほど膨らまなかっただろう。
方源が巨開碑を凌駕する圧倒的な戦闘力を示した後、人々(ひとびと)は興奮して分析を始めた——
「方正様は、全力蛊、苦力蛊、自力更生蛊、力気蛊を有する。上古の力道蛊師もかくの如し!」
「全力蛊が攻勢を強烈にし、威風堂々(いふうどうどう)で無双の強さだ!苦力蛊は戦えば戦うほど強くし、特に自力更生蛊との配合は絶妙だ。力気蛊は遠隔戦を剛猛無比にし、弱点を優点に変えた。八つの獣影による一斉攻撃は、まさに恐怖そのもの。これこそ方正様の奥の手だ!」
「巨開碑の敗は決して冤罪ではない。四转で修行の優位はあったが、力道蛊は真元消費が少なく、無形にその優位を弱めた。方正様の蛊は実に良く、組み合わせが強力で、完璧に調和している。巨開碑が自ら降伏したのも、心が折れたからだ」
「一りの者の機縁と境遇が、どうしてここまで強くなれるのか? 方正様の運勢は天を逆さまにするほどだ。商家城に来て数年で、ここまでの蓄積を成し遂げた。蛊の組み合わせがこれほど強ければ、今後南疆に名を轟かせ、独自の称号を獲るだろう」
「称号? もう持っている… 今や多くの者が彼と白凝冰を併せて『黒白双煞』と呼ぶ。しかし更に多くの者が、方正を『小獣王』と呼んでいる」
方源が八つの獣力虚影を駆り立て、戦闘様式が威猛で猪突猛進。「小獣王」という称号は、まさに彼にぴったりだ。
では、なぜ直接「獣王」と呼ばないのか?
それ(は)、「獣王」の名は既に魔道で名高い蛊師が占めているからだ。百獣山を独り占めし、百獣を従え、五转の修為を誇る。凶悪極まりなく、道理を顧みない。正道も魔道も、深く警戒している。
方源は今なお三转頂点で、巨開碑を倒して一戦成名したとはいえ、五转の獣王と比べれば、まだ及ばない。
一方で、人々(ひとびと)が「小獣王」と呼ぶのは、方源の未来を高く評価している証でもある。
「彼の守擂戦が本当に待ち遠しい。演武場を制覇した強者の守擂戦は、すべて伝説になっている。昔、魏央様がわずか三转中階の修為で——方正様より弱かったのに——演武場で覇を唱えた。彼の一戦一戦が、すべて経典となったのだ!」と、経験豊富な蛊師が感慨深く語った。
こうして、多くの者が方源の行く末を推測し始めた。
「今の状況で、方正様の真の敵は誰か? 巨開碑に炎突、そう(そう)だ、白凝冰もいる」
「しかし、巨開碑は巨霊意蛊を方正に取られてしまった。この手口は実に辛辣だ。巨霊身、巨霊心、巨霊意の三蛊の中で、巨霊意蛊が最も入手困難だ。これがなければ、巨開碑の奥の手は不完全となる。方正にとって、脅威度は大きく低下した」
「炎突こそ方正様の最大の敵だろう。彼は巨開碑と並んで『演武の半天』と称され、実力は軽視できない。しかし、方正様が巨開碑を倒せた上、力気蛊で遠隔戦の弱点を補っている。炎突との戦いでは勝算が高い」
別の者が白凝冰に触れた:「白凝冰様も決して侮れない。炎突に敗れた後、再登場時には、修為が四转初階に突破していた!これほど若い四转とは、何という天賦の才か。しかし、彼女と方正様の絆は極めて深く、戦いで相対しても、自ら降伏して方正様を立てるだろう」
白凝冰と方源が楠秋苑に同居していることは、広く知られている。多くの者が、二人が最も親密な関係にあると推測している。
しかし、人々(ひとびと)が沸き立っている最中に、方源は突然、演武場からの撤退を発表した。
この知らせが伝わると、場外は驚きと騒然に包まれた。
「なぜ方正様はこんな好機を捨てるのか?」
「外様家老に、演武場制覇は、目の前ではないか」
無数の者が無念の溜息をついた。
「まさか何か裏があるのか?」魔道蛊師たちは皆、疑心暗鬼になった。
「商家が、もう外様家老を招きたくないので、陰で方正に辞退を強要しているのか?」魔道蛊師は元もと信頼感に欠ける。
「それとも商家が政策を変え、外様家老制度を廃止しようとしているのか?」
疑念が、多くの者の心を不安定に揺さぶった。
商家のこの政策——魔道蛊師を外様家老として招くこと——は、南疆で唯一無二のものだ。
しかし、これらの演武場は主に内部向けで、外部に開かれることは少ない。商家の外様家老政策は、画竜点睛の一筆となった。商家に無数の人材を惹き付けたのだ。
外で商売する際も、多くの魔道蛊師が商家の商隊を襲わない。まさに外様家老という施策が、彼ら魔道蛊師に将来の逃げ道を残させているからだ。
商燕飛は不穏な兆しを察知し、直ぐに釈明に動いた。
確かに彼は陰で、巨開碑と炎突という二つの駒を配置し、演武場を掌握していた。しかし、このような策略は表に出せない。
商燕飛の威厳が、この見えざる風波を徐々(じょじょ)に鎮めていった。
数日後、方源も公やかに宣言した——商心慈に仕え、彼女が若様の座に就くのを支えると。
瞬時に、人々(ひとびと)の注目は演武場から、若様争いへと移った。
商睚眦の不正会計が実証され、彼の若様の座は剥奪され、空席となっていた。
商燕飛の多くの子どもたちが、この座を虎視眈々(こしたんたん)と狙い、喉から手が出るほど欲しがっていた。
「前から聞いていた、方正という若者は忠義者だと。彼には人生の信条がある——滴るほどの恩には泉のように報い、微かな恨みには百倍にして返す。実に筋が通っている」そう言って、親指を立てる者もいた。
「方正様は商心慈様の若様即位のため、目前の外様家老の地位さえ捨てた。これは本当に…」ある者は、この行動を理解できずに首を傾げた。
「もしかすると、彼と商心慈様の間に、何か曖昧な関係があるのかもしれない。私なら、こんな犠牲は払えない」
「その可能性は大いにある!待てよ、それなら白凝冰様はどうなる?」人々(ひとびと)の八卦魂が炎のように燃え上がった。方源、白凝冰、商心慈の三角関係は、多くの者の茶の間の話題となった。
続く数日後、白凝冰も演武場からの撤退を発表した。
「白凝冰様も商心慈様に仕える!」人々(ひとびと)は驚愕した。
「世の中はどうなっている? 外様家老の地位さえ誰も望まないのか?」多くの者の価値観が揺さぶられた。
「白凝冰様は勇気溢れ、妥協も諦めもしない。愛のために、自ら割り込んだのだ。実は三人の感情のもつれは、初対面の時から始まっていた」といった類の噂が広がり始めた。
人々(ひとびと)は無数の筋書きを想像し、商家城では、方源・白凝冰・商心慈の三人の痛ましい恋愛模様を描いた劇画や芝居まで現れた。
驚くべきことに、これらは大ヒットした!
これらの枝葉末節はさておき、方源と白凝冰の帰属表明は、確かに商心慈を注目の的にした。
白凝冰は今や四转初階。四转蛊師というのは、中小の家族なら、族長級だ!
方源は三转頂点に過ぎないが、戦闘力は既に多くの四转蛊師を凌駕している。もし四转になれば、どうなることか?
二人とも若く、成長余白が大いに残っている。今や誰もが将来を嘱望している。
突如として二大強者の助けを得た商心慈は、当然若様の座を争う第二の有力候補となった。
これ以前、人々(ひとびと)は、最有力で若様の座を継ぐのは、商一帆だと考え(かんがえ)ていた。
方源と白凝冰が商心慈に付いたことで、情勢は一変し、二強対立の構図が生じた。
……
商一帆は背が高くなく、むしろ小柄だった。鷹鼻に、細い目、眼光は鋭かった。
「商心慈…」書斎の背もた(た)れの広い木製の椅子に座り、彼は軽く呟いた。その名を噛みしめるように、目がきらきらと揺らめいていた。彼の前には、一人の人物が座っていた。
他でもない、商睚眦だ。