ps:“「巅峰」というのは「頂点」の意味なのですが、どう表現したらいいのかいつもわからなくて、だからごちゃまぜに使ってしまっていました。”
楠秋苑の密室。
周りは漆黒の闇に包まれ、密室の中央に薄い星明かりが水のように巡り流れている。
中央では、方源と白凝冰が座布団に相対座し、白凝冰の両掌が方源の背中に密着していた。三转巅峰の雪銀真元が滔々(とうとう)と注ぎ込まれている。
密室は水を打ったような静寂に包まれていた。
しかし方源の心の中では、激しい潮騒が轟いていた。
ゴオオーン!
雪銀の滝が冷冽で雄大に、空窓の上から真元海へと落ち注ぎ、銀の海原に巨大な波紋を広げた。
これは骨肉団圓蛊を経て転化された三转頂点の雪銀真元だ。
三转蛊師の真元は銀色を帯びる。初階の真元は淡銀の微光を放つ。中階は銀色が斑らで花銀と呼ばれる。
高階は銀色が均一に輝き、亮銀と称される。
頂点の真元は雪のように銀白で壮麗この上なく、雪銀真元と尊ばれる。
今、方源は雪銀真元を主に、花銀真元を補に、心のままに澎湃する波を生じさせ、空窓の四壁を洗い流し続けている。
この空窓は元水膜で、光の流れが水のように揺らめいていた。洗い流すことしばし、ついに量変が質変に転じ、水膜の輝きが急増した。水が氷に凝結するかのように流動を止め、静に沈み石膜へと定着した。
石膜は燦然たる輝きを放ち、水膜よりも厚く安定していた。
石膜を成し遂げ、方源は三转中階から三转高階へと昇った。
着実に一歩一歩、水が流れて溝ができるように、自然な成り行きだった。
成功したので、白凝冰は徐々(おもむ)ろに掌を引き離した。氷のように青い瞳がかすかに揺らめいた。
彼女の助けで、方源の修為は飛躍的に向上し、ついに彼女に追いついてきた。
彼女は知っていた――方源の手には白銀舎利蛊がまだ残っている。ずっと取っておいたのは、まさに今この時のためだ。つまり今夜を過ぎれば、方源の修為は三转頂点に達し、彼女と肩を並べるだろう。
「方源は狡猾老獪で陰険狡詐だ。毒誓に抜け穴は見つからなかったが、穴がないとは限らない」白凝冰は黙り込んでいたが、心の中では思惑が渦巻いていた。
商睚眦の末路は、彼女に警鐘を鳴らした。
方源が与える心理的圧力はますます大きくなり、疑念を抱かざるを得なかった。
「安心しろ。君との協力には誠意がある。毒誓に何の問題もない」まるで白凝冰の心を読んだように、方源は不意に口を開いた。
「ふん」白凝冰は心を見透かされ、目に冷たい光が走った。声には冷ややかな嘲笑が滲んでいた:「願わくばそうであらんことを」
方源は軽く息を吐いた。商睚眦を罠に嵌める計画を立てた時、既に白凝冰の反応は予想していた。
何事にも得と失がある。
今、商睚眦は解任され、若様の座が空いた。これで商心慈に昇格の道が開けた。しかし方源と白凝冰の協力関係には、微かな亀裂が生じてしまった。
同時に、商燕飛の手の内も動かしてしまった。
つい昨日、巨開碑と炎突の二人が同時に方源と白凝冰に強制挑戦を仕掛けてきたのだ。
この知らせが伝わるや、演武場は大騒動となり、無数の者が注目し始めた。
巨開碑と炎突は共に四转初階の蛊師で、「演武半天」と称されている。二つの「半天」が合わされば、天全体となる。
この称号は、彼ら二人の地位と絶対的優位を余すところなく示している。
方源と白凝冰は、今演武場で二大新星として輝きを放っている。二人とも連勝を重ね、一度も敗れたことがない。このような強勢は、過去の演武場では極めて稀だった。
一方、巨開碑と炎突は演武場の双璧であり、頂点に君臨している。この数年間、無数の魔道蛊師が頭角を現し、商家城の外姓家老になろうとしたが、すべて彼ら二人に阻まれ、昇進の望みを絶たれてきた。
その二人が突如として共に方源と白凝冰に挑戦してきたのだから、無数の好奇と疑念を引き起こすのは当然だ。
たちまち、様々(さまざま)な噂が立った。
「方源と白凝冰の勢いが強すぎて、巨開碑と炎突の先輩が脅威を感じ、早めに潰そうとしている」
「巨開碑と炎突が賭けをし、方白二人を勝敗の鍵にしようとしている」
ほとんど誰も、方源と白凝冰が二人に勝つ可能性があるとは思っていない。
巨開碑と炎突の強さは、人々(ひとびと)の心に深く刻まれている。何より一方は四转蛊師、他方は三转に過ぎず、境界に絶対的格差があるからだ。
蛊師の修行では、転数が高くなるほど、互いの差は広がる。越級挑戦の可能性は星の数ほど少ない。
背後で白凝冰が立ち上がる音がした。
「明日は君と炎突の戦いだ。どうだ、天元宝蓮が必要か?誓約に従い、できるだけ助けよう」闇の中、方源は徐々(おもむ)ろに言った。
「要らん」白凝冰は冷たく一言で答えた。
方源は座禅を組んだまま振り向かず、「へっ、随分自信満々(まんまん)だな」と嗤った。
「四转がどうした?この二年、進歩したのは君だけじゃない」白凝冰は踵を返して去った。
天元宝蓮は方源の物だ。借りるのは本物の実力ではない。
彼女は炎突を試金石として、自らの成長を測ろうとしているのだ。
密室の扉が開けられ、再び閉じた。
白凝冰が去り、密室に残った方源の口元がほんのわずかに緩み、微かな笑みを浮かべた。
「天元宝蓮を拒むとは……どうやら白凝冰の心に微かな疑念が生じたようだ。この自信喪失はごく小さく、彼女自身も気づいていないかもしれない。白凝冰、お前はやはり青いな……」
方源はしばし沈思し、散漫した感情を収めた。
そして白銀舎利蛊を取り出した。
この蛊は丸玉の形をしており、全身銀色に輝き、指先ほどの大きさだ。
再誕以来、方源は青茅山で一度見たことがある。あの時は賈家の行商が五万元石で売っていた。当時の方源にとって、この法外な値段は高嶺の花だった。
舎利蛊シリーズは、どれも桁外れに高価だ。使えば蛊師の一小境を突破でき、膨大な時間と労力を節約できるからだ。しかも基盤は揺るがず、何の後遺症もない。蛊虫は買ったら使うものだ。
方源は一瞬の躊躇もなく白銀舎利蛊を発動させた。瞬時く間に絢爛たる光が迸り、空窓の四壁を照らし尽くした。
約二时辰後、方源は三转高階から一躍して三转頂点となった。
「再誕以来、再び三转頂点に登極した!」方源の目に鋭い光が走り、拳が思わず握り締められた。心は高揚し、歓喜に満ちていた。
青茅山での最初の時とは違う。あの時は石窓蛊を使い、将来の発展を犠牲にするという痛ましい代償を払って、三转初階から頂点まで無理矢理押し上げた。
しかし今回、方源が三转頂点に達したのは、巨大な発展の潜在力を残したままだった。何と言っても、彼は今甲等資質だからだ。
次に春秋蝉を見る。
二年余りの回復を経て、その状態も上向きになってきた。
かつて枯れ枝のように乾いていた体は、次第に潤いを帯び始めた。落葉のように朽ちかけた羽には、生気溢れる緑が染み込んでいる。
春秋蝉の回復は、当然空窓に巨大な圧力をかける。
しかし前回とは違い、方源は白凝冰と骨肉団圓蛊のお陰で修為が飛躍し、三转頂点の空窓はこの圧力に十分耐えられる。
青茅山での切迫した状況に比べ、今の方源は余裕たっぷりだ。
「しかし油断は禁物だ。春秋蝉の回復は加速度的に早まる。私の修為はそれ以上に急成長しなければ、再び過ちを繰り返すことになる」
時間は静かに流れ、あっという間に翌日を迎えた。
首を長くして待ち望んでいた観客たちは、遂に白凝冰と炎突の決戦の時を迎えた。
この超大型の演武場には、一面の緑の絨毯が敷き詰められている。
これは草原地形で、北原では非常によく見られる光景だ。
場内の周りには、見物の蛊師たちが輪を成して立ち、人海と化し、皆が場中の二人の主役に視線を注いでいた。
戦いが始まる前、人々(ひとびと)は囁き合った。
「今度の白凝冰は勝ち目は薄い!」
「炎突様の前では、当然負けるに決まっている」
「彼女は天女のごとき絶世の美だ。本当に気の毒だ……負ける姿を思うと、胸が張り裂けそうだ……」
この一年余り、白凝冰は名を轟かせ、勢いも凄まじい。氷雪の天女のような容姿と気品が、彼女に膨大な注目をもたらしていた。
場上で、白凝冰と炎突が向かい合って立つ。
炎突は老いた男で、蓬乱した枯れ枝のような長髪を生やしている。
骨と皮ばかりの体に、裸足。手も足も爪は伸び放題で、鉤のように曲がり長い。
ぼろぼろの服を着、腰が曲がり、まるで路傍の乞食のようだ。
「ヒヒヒ、小娘は肌がすべすべで柔らかく、本当に美しいな」炎突は白凝冰を舐るように見ながら、しわがれた声で言った。
雪のように白いローブを着、青い瞳に銀髪の白凝冰は眉をひそめ、殺気がみなぎった:「老いぼれ、生意気な」
「小娘のくせに、礼儀知らずだな」炎突は乾いた笑いを漏らし、十本の指が絡み合い、「老先輩を敬うことの大切さを教えてやらねばならんようだ」
「煩い」白凝冰は冷徹な表情で、氷のように冷たい目を炎突に釘づけにした。一挙一動に燃え盛る闘志が漲っている。
カーン
軽い鐘音が開戦の合図を告げた。
氷锥蛊!
丹火蛊!
ほとんど同時に、白凝冰と炎突は瞬時く間に相手に手を出した。
四本の白い氷锥と三つの橙赤の丹火が同時に双方に放たれた。
ドカン!
一本の氷锥と一つの丹火が空中で激突した。氷锥は溶け、丹火は勢いを大きく減らしながらも、白凝冰に向かって飛び続けた。
白凝冰の氷锥蛊は二转だが、炎突の丹火蛊は三转級だ。
正面衝突すれば、当然丹火が氷锥を一歩上回る。
「氷雹蛊を使って氷锥を爆発させれば、丹火を圧倒できるだろう。だがそうすると、真元の消耗が激しくなる。戦いは始まったばかりなのに……」白凝冰の青い瞳に一瞬の陰りが走った。
飛んできた丹火を、彼女は軽やかに跳躍して見事にかわし、すべての攻撃を無駄骨に終わらせた。
同時に、片手を翻した。
シュッ、シュッ、シュッ
またしても三本の氷锥が流れるように放たれ、炎突を襲った。
炎突は乾いた笑いを漏らし、足を連れ踏み、体をくねらせ、奇抜な姿勢で氷锥を避けながら走り出した。
彼は人差し指を連打し、次々(つぎつぎ)と丹火を放ち、密集した攻勢で白凝冰を包囲した。
白凝冰は冷たく鼻を鳴らし、負けじと足を踏み鳴らし、氷锥で応酬した。
瞬く間に、二人は広大な草原を激しく追い駆け合い、氷锥と丹火が飛び交う中、攻撃と回避を絶え間なく繰り広げた。
戦いは始まったばかりなのに、その激戦ぶりは既に人々(ひとびと)の予想を超えていた。