百風は顔を曇らせ、目がきらきらと揺れ動いた。否定しようとしたが、方源はその思いを見抜いていた。
「隠し通そうとしても無駄だ。元泉が枯渇すれば、元石の生産量は激減する。お前たち百家は蔵の元石や交易で穴埋めしているだろうが、必ず痕跡は残る。注意深く探せば、いつか必ず暴かれる」方源はゆっくりと言った。
百風は拳を握りしめ、方源を睨みつけ、生きたまま丸呑みにしたくなるほどだった。
家老のこの様子を見て、どんな愚か者でも真実を悟った。
「元泉……我が家の元泉が枯れるというのか?」百蓮は放心したように椅子に崩れ落ちた。
百戦猟は唇を固く結び、沈黙に陥った。
他の者も口を開かず、心は震撼と恐怖で満たされ、密室には重い空気が張り詰めた。
「ふふふ」方源は軽く笑い出した。「百家は危ういな。元泉が徐々(じょじょ)に枯渇し、新しい元泉を見つけられなければ、どんなに強い一族も崩壊する。今白骨伝承を手にしたことで、周囲の勢力が羨望の的だ。この秘密が外に漏れたら、どうなると思う?」
「やめて!」百蓮は顔色を失い、慌てて叫んだ。
他の者も事の重大さを思い至り、極めて険しい表情を浮かべた。
今百家は白骨伝承を得て実力を増し、周囲の幾つかの大族が虎視眈々(こしたんたん)と狙い、忌憚の念を抱いていた。
もし元泉の消息が漏れれば、百家の内実が露呈し、張り子の虎となって、周囲の勢力が必ず手を出してくるだろう!
彼らは百家が難関を乗り切り、白骨伝承を得て実力を増し、自分たちを圧する局面など望んではいない。
ゆえに、この消息は必ず守らねばならない!
百家の者たちは方源に目を醒まされ、覚悟を決めた。百戦猟らは方源を凝視し、目に凶光が漲り、殺気が沸騰していた。
「俺を殺そうというのか?」方源は嗤笑し、指を振った。「私が単独で君たちと会う以上、万全の備えはしている。正直言って、君たちが来なければ、私の方から訪ねるつもりだった」
この言葉には一理ある。一同は殺意を抑え、目の凶光を収めざるを得なかった。
「さて、本題に入ろう」方源は口元を微かに歪め、坐姿勢を少し整えた。
彼は手のひらを押し下げるように言った。「皆、座れ。良く話し合おう」
「何を話す?お前と話すことなど何もない!ふん!」百風は顔を曇らせたが、そう言いながらも腰を下ろした。
他の者たちも少し躊躇い、続いて席に着いた。
一触即発の緊迫した場面は、少し和らいだ。
「無論、口止め料の話だ。お前たちをここまで誘い込むのに、苦労したぞ?時間も労力も無駄にした。当然賠償すべきだ!元石だ。三百万元石をよこせ。そしたらこの消息を漏らさないと約束してやる」
方源のこの言葉に、一同は再び飛び上がった。
「よくも我々(われわれ)を脅す気か!」
「我が族の若き族長二人を殺しておきながら、元石を要求だと!?」
「方正、増し登る無体は許さん。命を懸けてでも道連れだ!!」
一同が轟くように怒号した。
「はっはっはっ」方源は天井を仰いで高笑いし、立ち上がると、虎の如き眼光に鋭い光を宿し、衆人を睨み付けた。
「その通りだ、脅しているのだ!要求を飲まねば、この消息を流す。道連れだと?ふん、仮え私が死んでも、消息は必ず漏れるとでも思うか?その時お前たちは一族の罪人だ。お前たちが要求を拒んだばかりに、一族が他勢力の包囲攻撃を受けるのだからな!」
「お、お前…お前は…」百風家老は怒りの余り、方源を指差したまま、言葉が出てこなかった。
他の者たちは目を剥き、歯をギリギリと噛み鳴らせたが、誰も手を出さなかった。
「お前は何だ?」方源は百風を嘲笑い、口調には軽蔑が溢れていた。「俺に何ができる?殺す?紫荊令牌を持つ俺に手を出してみろ。お前たちが命知らずの漢なのは知っている。だが、一族こそが大事だ。お前たちの家族、友達が死ぬとすれば、それはお前たちのせいだ!」
百家の者たちは拳を握りしめ、呆然と立ち尽くした。
「ああ──っ!」百戦猟が天を仰いで咆哮し、拳を振り下ろした。
怒りの一撃で、卓は打ち倒れ、料理がばらばらと散り敷いた。
悔しい!
祖父の百戦温は方源ら二人のせいで死んだ。この仇は不倶戴天だ!
そのため彼は追跡隊に加わり、苦労の末ついに仇敵を見つけた。
しかし明らかに仇敵が目の前にいるのに、手を出せない!明らかに方源が目前にいるのに、仇討ちできない!
仇討ちできないばかりか、方源の脅しに屈するしかない。
彼の胸中の怒りの炎が燃え上がり、天を焦がす火の海となり、心肺を灼き尽くさんとしていた。しかし手を出せない。手を出せば、結末は想像を絶する。自らの命など些事だ。一族全体が巻き込まれて大惨事になる!!
「怒るのは止めろ。実は私も被害者なのだ」方源は口調を和らげ、悠としたため息をついた。
「考えてみよ。白骨伝承は元々(もともと)私のものだった。それを百家に奪われた。お前たちが白凝冰と私を追い詰めたから、逃げるために仕方なく百花、百生の二人を殺した。その後私は重傷を負い、紫幽山に墜落し、道中で九死に一生を得た。私が楽だったとでも思うか?」
「百家の勢力は強大だ。私には歯が立たない。商家城に逼られて身を潜めていたのに、お前たちはなおも追い詰めてくる。お前たちに言ってやる、どうしろと!私は筋が通らない人間ではない。三百万元石が限界だ。誠意はある。この秘密を知る者も少なく、外に漏れてもいない。百家のためを思い、わざわざ鉄家の者を退出させたのだ」
方源は真摯な表情を浮かべた。
「三百万元石?大風呂敷を広げるのもいい加減にしろ!」
「方正、良心に照らして言う!我が百家はお前を手厚いもてなしで遇したというのに、その見返りがこれか?恩を仇で返すとは!」
「我が族の二人の若き族長はお前の手に掛かり、百戦温家老もお前のせいで死んだ。その上、白骨山でお前たちを守るために散った数多の族人たちがいる!どれほどの精鋭が失われ、どれほどの者が重傷を負い障害者となったことか!」
百家の一行の表情は様々(さまざま)だった。怒り狂う者、冷やかに笑い続ける者、涙が溢れ出る者。しかし全員に共通していたのは、方源への深い憎悪だった!
方源の表情が一変し、嘲笑を浮かべた。「どうやら状況を理解していないようだな。面目を保ってやろうというのに拒むのか?よろしい」
方源は席を立とうとした。
百家の者たちは慌てふためいた。
「待ってくれ!」百風は焦りから横に踏み出し、方源の行く手を遮った。
「正直言おう。今すぐこの消息を売り払うつもりだ。商家城の風雨楼なら、きっと良い値で買い取ってくれるだろう。どんな値が付くと思う?」方源は陰に笑った。
「方正、増し登る無体はやめろ!」百戦猟が爆裂の如き怒声を放ち、方源の眼前に立ちはだかり、目に血走って睨み付けた。
方源はそよ風のように言った。「手を出す気か?お前の家族を危険に晒す覚悟はあるのか?」
百戦猟の気勢は頓挫し、目が虚ろになった。
ぱんっ!
方源はその隙に手を振り抜き、一発の平手打ちを叩き込んだ。その力は甚だ強く、ほんの軽く当てただけで、血気盛りの百戦猟を六歩も後退りさせた。
「何をする気だ!?」百家の者たちは逆上し、瞬く間に包囲した。
「全員、一族の罪人になるつもりか?」方源の冷たい一言が、百家一同の衝動を氷水のように消し飛ばした。
「図々(ずうずう)しい野郎め」方源は百戦猟を指差した。「痛い目を見せてやらねば、自分が幽魂魔尊だと勘違いするだろうな」
方源は百家の者たちの面前で、百戦猟を容赦なく罵倒した。
続いて衆人をぐるりと見回すと、「お前たちも愚か者揃いだ!俺が一言で百家を窮地に追い込める。時流を見極める者こそ俊傑、今の局面が見抜けないのか?殺したければかかって来い。ここで死んでも、お前たち百家を道連れにできれば本望だ」
方源は包囲されながらも横柄な態度を見せた。
逆に人数で優位な百家の一行は、旗を畳み太鼓をしまい、歯を食いしばり拳を握りしめてはいたが、為す術もなかった。
百戦猟は腫れ上がった頬を押さえ、目は真っ赤に充血していた。この屈辱に彼の怒りの炎は天を焦がさんばかりだった。かすかに残った理性を必死で保ちながら、額に血管が浮き上がった。
一族こそが彼らの致命的な弱点だった。方源はその急所を押さえ、死を恐れぬ気概を見せつけることで、百家の者たちを板挟みの状態に追い込み、思うままに操っていた。
「三十息の間に考えさせてやる」方源が再び言った。
百家の一行は瞬く間に苦渋の選択を迫られた。
奴らは真っ直ぐに方源という殺人鬼に屈服したくはなかった。しかし屈めなければ、一族に危機が訪れる。
衆人は心に迷いを抱き、否応無しに視線を百風家老に集めた。
百風の拳は死に物狂いで握り締められ、徐ろに緩められる。瞬時く間に再び握り直され、少し経つとまた五指が開かれた。
この繰り返しは、彼の心の葛藤を露わにしていた。
三十息はとっくに過ぎていたが、方源は無視したふりをしていた。
百風の気性は焦れ易。茶一杯分ほどの時間が過ぎて、ようやく彼が口を開き、重い沈黙を破った。
「三百万元石……多すぎる。その条件は受け入れられん。何より、我々(われわれ)にそんな大金はない!」その声はかすれ切っており、砂漠で渇き死にしそうな男のようだった。
言い終えると、彼の拳はがくっと緩み、再び握る力も残っていなかった。
一族のため、大局に重きを置かざるを得なかった。方源を八つ裂きにしたい衝動を抑え、一時的な屈服を選んだのだ。
他の者も百風のこの言葉を聞いて安堵の息をつき、方源へ向けた沸騰する殺意は沈殿して、より深く厚いものへと変わっていった。
方源は嘲笑うように言った。「三百万を一度に払えとは言っていない。ゆっくりで構わん。まずは五十万を払え」
「五十万!?そんな大金を携えて歩けるか!」百風が叫んだ。
方源は眉を跳ね上げた。「質屋で借りるか、蛊を売るか、好きにしろ。一日後までに五十万元石を用意しろ。それと、商家城から百家の者を全て退去させろ。一人たりとも残すな!」