「ついに商家城に着いた」山いっぱいの建物を眺めながら、百風はため息をついた。
彼は百家の家老で、若い頃に南疆を遍歴した時、商家城を訪れたことがあった。今再び来たが、青春は過ぎ去り、物は同じでも人は変わっていた。それに、今度は魔道の蛊師を追緝する任務を帯びての来訪だった。
「あの二人の魔道の賊が本当にこの道を通ったのか?」百蓮は憂えたような口調で尋ねた。
「どうやらこの道らしい。我々(われわれ)は無足鳥の墜落地点から何路かに分かれたが、他の方向では何も得られなかった。ただこの道だけが、怪しい痕跡を残していた」傍らにいた鉄刀苦が答えた。
彼の心の中でも確信はなかった。
鉄家は追跡の面では南疆随一だが、彼自身は攻撃専門の蛊師だ。それに南疆は山林が多く、環境が複雑で変わり易いため、身を潜めるには好都合で、追跡は困難を極める。
「もしかすると、あの二人はとっくに道中で死んでいて、獣の口の餌食になっているかもしれない」と、ある仲間が楽観的に言った。
この可能性は高い。彼らは途中で多くの残骸や、獣の群れが商隊を襲った跡を発見していたからだ。
「俺はむしろ、奴らがまだ生きていることを願っている!」百戦猟は歯を食いしばった。彼の祖父は方白の二人に殺されたのだ。その滔天の恨みを晴らすには、自らの手で二人を葬るしかない。
「よし、まずは城に入ろう。もし見つからなければ、元石を費やして一族に連絡し、族長様の指示を仰ごう」百風が先頭を切って足を踏み出した。
一行は風塵にまみれて城門に到着した。
皮肉にも、この城門は、かつて方白の二人が入城した時の関門そのものだった。
「城に入るには、一人十元石」城門の守衛が一行を止めた。
百風は黄梨の令牌を取り出し、軽く揺らした。
守衛はそれを見て確かめると言った:「黄梨の令牌は三人分の入城料を免除する」
百風たち六人は三十元石を納めた。
「兄貴、この二人が城に入るのを見かけたことはあるか?」百戦猟が城壁に貼られた一枚の手配書を指差しながら尋ねた。
それは方白の二人を追緝する手配書だった。しかしその表面は、新たな手配書に大半を覆われていた。
これが常だ。
時が経つごとに、新しい手配書が生まれるものだから。
城衛は顔色を一変させ、百戦猟に低く怒鳴った:「お前の言うことは何だ?俺が守る城門に魔道の蛊師が入るはずがない!俺を盲とでも思っているのか?俺を侮辱するとは、商家の正しい青年を侮辱するとは!」
百戦猟は呆然とした。
百風家老は慌てて謝まった。商家城では、百家の家老といえども、威厳を収めねばならない。
城衛は百風が三转の蛊師であることを見て取り、これ以上追及はせず、ただ口の中でぶつぶつ文句を言っていた。
鉄刀苦が不機嫌な顔つきで身分を明かすまで続いた:「黙れ。商家がどんなものか、我々(われわれ)鉄家が知らないわけがあるか?」
城門の守衛はようやく口を閉じた。
百家の一行はこの威圧に遭い、少しみすぼらしい様子で外城に入った。
「まずは食事を取ろう。ここ数日の移動で皆疲れ切っている。良く休んでも追緝に支障はない。第五内城に、演武区に良い飯店があるのを私は知っている。昔私も演武に参加し、第四内城まで勝ち進んだことがあるのだ」と百風家老が提案した。
この提案は大いに賛同を得た。
一行は第五内城に入り、演武区に到着した。百戦猟や百蓮ら若者たちは、早くも演武区の熱気に染まった。
歩く途中、通行人の興奮した会話が次々(つぎつぎ)と耳に入ってくる。
「檀鏡が遂に仇を討ったぞ、施南生を打ちのめした。施南生は仕返すと息巻いている、この恨みは深まるばかりだ」
「袁空が病雲蛾を掌握、戦力がまた一段と上がった。第五内城の演武場で頂点に立つのは間近だ」
「頂点?はは、古月方正が第四内城に昇格してから言おうよ」
……
「古月方正!!!」
百家の一行は全員瞳を見開き、雷に打たれたように凍えついた。足を蹴り立てて歩みを止め、数の眼光が閃光の如くその通行人を射抜いた。
通行人本当にびっくりしました
半刻後。
演武場で、方源がゆったりと場内へ歩き出した。今回の相手は、中肉中背の壮年の大男。筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)、肩幅広く、鋼鉄の針のような鬚を生やし、まさに凶神悪鬼の面差しだ。
カーン!
鋭い音が戦い開始を告げた。
「降参する!」大男は即座に叫んだ。叫んで、叫んで、叫んで、周囲の観客を呆れ返らせた。
「またかよ?」
「恥ずかしくないのか?戦いもせずに降参だなんて」
「恥より命が大事だ!第五内城で今、方正と戦おうなんて奴がいるか?全力尽くし蛊は強すぎるんだ!」
人々(ひとびと)は嘆息と冷笑を漏らした。
戦いは始まったかと思うと、もう終わっていた。
主催の蛊師が歩み寄り、双方の藤訊蛊を受け取り、内容を修正して返還した。
中年の大男は背を向けて去った。自ら降参するのは恥だが、形勢が人を強いる。方源が非情極まりなく、決して手を緩めないからだ。彼は面目を賭けて危険を冒す勇気などなかった。
しかし方源は直ちに去らず、公衆の面前で四万元石を取り出し、李然に渡した。
この一幕が再び人々(ひとびと)の議論を呼んだ。
「また四万元石だ!本当にまた渡した!」
「この古月方正は非情だが、言ったことは必ず果たす。二十万元石は、もはやほぼ返し終えた。残り三万元石の不足だけだ」
「李然はこの元石で蛊を買い、演武区で頭角を現し始めた。実に羨ましい限りだ」
「恩は必ず返し、仇は必ず報いる。この点では、古月方正を敬服する」
「この勝ちで、彼は二十九戦無敗となる。あと一勝で第四内城昇格だ」
「早く出て行け。ここで彼と戦おうとする者がいるか?李好ですら手にかかったのに……」
……
「古月方正……苦労の末、ついにお前を見つけたぞ!」人ごみの中、百戦猟は歯を食いしばり、恨みに歪んだ顔をしていた。
他の仲間たちも、顔色を青ざめていた。
彼らは苦労して追緝を続け、長い道中を奔走し、数多の辛酸を嘗めてきた。しかし蓋を開けてみれば、捕らえようとした者が商家城で大成功を収め、春風駘蕩の有様だった。
これまで彼らは、方源が野獣の口に食われ、糞便となって排泄されているのではないかと推測し続けてきた。
この現実は、彼らの予想とは強烈な対比を成していた。
方源は困窮するどころか、良く生き延び、蛊を替えて戦力も修為も急上昇させていた。
これでは彼らはやり切れない!
「天に目なし!どうしてこの悪党がこれほど栄えるのか?」百風は天を仰いで嘆息した。
「奴の運は良すぎる。商家の族長の隠し子を救い、紫荊令牌を手に入れた!商家城の中では、我々(われわれ)は奴に手出しができない。奴は商家の庇護を受けているのだ!」百蓮は歯茎がむず痒くなるほど悔しがった。通行人から聞いた情報が多かったからだ。
二人の若き族長を殺した仇が、まさに眼前にいるというのに、彼らは方源に何もできなかった。
「彼だけではない。あの白凝冰も紫荊令牌を持っている。今は演武に参加し、戦績もかなりのものだ」と傍らの仲間が嘆息した。
「なんたる世の中だ。悪党が栄え、善人が惨めに死ぬとは。ああ!」
「実は彼らに対処する方法がないわけではない。彼らが演武に参加できるなら、我々(われわれ)も参加すればいい」鉄刀苦は嗄れ声で言い、目は鋭く刀の如く光っていた。
彼は百家の族長から、方源が焦雷豆母蛊を持つことを知らされていた。
今や彼は確信していた——方白の二人こそ、若き族長を殺した犯人だと!
方白の二人を捕縛することは不可能だ。ならば殺してしまえ!そうして初めて若き族長の仇を討てる。鉄刀苦も鉄家に顔向けできる。
「その通りだ!名案だ」百風は目を輝かせ、活気づいた。
演武場の規則を利用すれば、方源が紫荊令牌を持っていようと、彼を守れない。殺せなくとも、全力尽くし蛊を奪えば、彼の成長を阻める。
正直言って、彼の成長速度は恐ろしいほどだ。心胆を寒からしめる。絶対にこのまま成長させてはならない!
「待て、百戦猟はどこへ行った?」百蓮が突然言った。
……
方源が演武場を出ると、沿道の通行人は思わず道を開けた。
無数の視線が彼に集まった。畏れと敬い、冷やかさ、憎悪などが入り混じっている。
「私は多くの蛊師を殺したが、名声は悪くない。毎回公衆の面前で李然に元石を渡すことが、名声を高める宣伝になっている。二十万元石の返済も、あと三万だ」
方源は歩きながら心で考えた。
李好との戦いで、彼は三匹の蛊を奪ったが、背山蝦蟇も移形蛊もなかった。
背山蝦蟇は彼の手で打ち壊され、移形蛊は李好の本命蛊だったため、彼の死と共に消滅した。
しかしこの戦いで、多くの観客が集まり、方源は六千余り元石を得た。
この一ヶ月余りの連勝で、自らが少しの元石を残すほかは、四万元石を集めるたびに李然に渡してきた。
この行動と李然の対応により、武家は方源に手を出すのを一時見合わせている。
これが貴重な成長の時間を生んだのだ。
「今や私は二十九戦無敗、あと一勝で第四内城に昇格する。第四内城は競争が激しく、強者が雲霞の如くだが、勝てば得るものも多い。鋼筋蛊は使い切ったので、新たな獣力虚影を追加できる。ただ――」
ただ獣力虚影を増やすのは気長な作業で、少なくとも二、三ヶ月はかかり、完全な効果が現れるまで時間が必要だ。
方源が第四内城に昇格すれば、圧力は更に増す。新たな力を急いで増強し、局面に対応せねばならない。
「近くの大規模な競売会で、一蹴而就蛊が出品される。これを手に入れれば、一夜にして新たな獣力虚影を得られる。惜しいことに、私の元石は少なすぎて、競売に参加する資格さえない……」
金は必要な時に足りないと悔やむ!
方源が誰から借金しようか考えていると、突然少年が現れ、彼の行く手を塞いだ。
「古月方正、俺を覚えているか!?」百戦猟が怒鳴った。
「猟!」「猟、衝動はするな」
百家の一行が続いて到着し、方源を半円状に取り囲んだ。
双方が睨み合った!