ざあざあ…
空の竅の中で、潮が満ち引く。波のように押し寄せる真元が、竅壁を洗い流していく。
波しぶきが雪のように白く、銀の光を煌めかせて、実に絢爛たる雪銀真元だ。
部屋の中、白凝冰の両掌が方源の背中に押し当てられ、骨肉団円蛊を通して絶え間なく真元を注ぎ込んでいる。
真元は骨肉団円蛊に転化されると、即ち方源の所有物となり、彼のみが使いこなせる。
方源は絶え間なく注がれる雪銀真元を操り、周囲の竅壁を洗い続ける。
彼は今、二转の頂点に達しており、自身の真元は暗赤色で、竅壁は晶膜のように透き通って光り輝いている。
当時、青茅山にいた頃、彼は一转の頂点で丙等の資質ながら二转を目指し、元石の力を借りなければならず、三、四日も費やして辛うじて達成した。その過程は実に困難を極めた。
二转の頂点から三转を目指した時も、資質の限界から人獣葬生蛊という外力に頼らざるを得なかった。
しかし今は全く違う。
自身の資質が甲等九割まで向上し、人獣葬生蛊に頼る必要は言うまでもなく、何と白凝冰という強力な助け手まで傍に付いているのだ。
人生の境遇は実に奇妙千万だ。当時の方源でさえ、絶対に予想できなかったことだ。
厚く堅い晶膜の表面は、雪銀真元に洗い流されるうちに、間もなく裂割れが現れた。
裂割れは目に見える速さで急速に拡大し、蔓延した。瞬く間に、晶膜全体が裂痕で覆われた。
ガラガラッ…
晶膜は完全に崩壊し、無数の結晶片が真元海に墜落し、幾重もの波紋を立てた。
続いて、これらの結晶片は無数の煌めく白い光点と化わり、真元海の中で次第に消散していった。
一枚の新たな白い光膜が、晶膜の位置を全て取って代わった。
同時に、一筋の淡銀色の真元が海底の深くに現れた。
淡銀真元こそ、三转初階の特徴である。
この瞬間、方源は正式に二转の頂点を突破し、三转に昇進した。
六转蛊仙は別として、三转蛊师は既に中核戦力と見なされる。正道であれ魔道であれ、真に立つ足場を得たのだ。
「青茅山を出てから一年近くしか経っていないのに、再び三转の境に修めた。この修練速度は青茅山時代の三倍余りで、資質は甲等、前途は明るい」方源は拳を握り締め、心に喜びが湧いた。
時間を計算すると、僅か三时辰(約六時間)ほどだった。
実に速い。
もし自らの力だけで突破したら、少なくとも一昼夜は掛かっただろう。雪銀真元の効能は実に卓絶している。
今改めて空の竅を詳しく観察する。
以前真っ白だった骨槍蛊や螺旋骨槍蛊は、既に売り尽くされていた。
暗赤色の二转頂点真元は、大半が残存している。
白凝冰の真元注ぎは止まない。
一筋の雪銀真元が天から降り注ぎ、滝のように真元海に流れ込んだ。波が立ち騒いだ後、次第に海底の深く沈んでいった。
境界が高い真元ほど質が良い。赤鉄真元や淡銀真元は、雪銀真元に押し上げられるしかない。
真元海の底で、青白い蕾が海流に揺れ動き、優美な姿を見せている。
これこそ三转の天元宝蓮だ。俗に移動元泉と称され、一日に約五十枚の元石を方源に供給できる。
聖潔なる宝蓮の傍らには、邪気みなぎる血髑髏蛊が鎮座している。
血の色をした髑髏の、深淵のような二つの眼窩に、時折紫炎がちらりと光るように見える。
血髑髏蛊から少し離れた所に、一つの水晶球が静止している。
水晶球の中では、雲海が幻滅し、鶴髪童顔で仙風道骨の老人を形作っている。
老人は杖をつき、長い鬚を生やし、表情は淡々(たんたん)としている。
まさに元老蛊そのものだ。
元は雲老人の表情は喜色満面だったが、方源に元石の半分を奪われてからは、無表情となった。
さらに勾玉のような甲虫の化石がある。半透明の碧緑色で、清涼な気を放っている。
これは二转の清熱蛊で、解毒専用だ。
その直ぐ傍には、見栄えのしない土塊――焦雷豆母蛊と、種のような飯袋草蛊が並んでいる。
波瀾万丈の海面では、四味酒虫が海面を転げ回り、波しぶきと戯れている。丸々(まるまる)と太った体が、赤・青・緑・黄の四色に点滅し、それぞれ辛さ、苦さ、酸っぱさ、甘さを表している。
真元海の上空では、天蓬蛊と陽蛊が雪銀瀑布の周りを飛び回り、戯れている。
天蓬蛊は大きな瓢虫のようで、半円形の乳白色の甲羅に黒斑が点々(てんてん)と散っている。一方陽蛊は温かい白い光を放っている。
最も重要な本命蛊は、今も眠り続けている。光陰の長河の水を絶え間なく吸収し、生気を回復しているのだ。
空の竅の中の蛊以外に、骨肉団円蛊が腕輪の印となって方源の手首に巻かれている。
掌の中心には血月蛊が宿り、舌苔には兜率花の印がある。
左耳の中には斂息蛊が潜み、両足の裏には跳跳草蛊が付いている。
肉白骨は白凝冰の所有物であり、既に返還した。
以前持っていた鉄の鋏のような黒甲虫の強奪蛊は、白凝冰の空の竅から蛊虫を奪うのに使われたが、行商の途上で餌不足のため餓死した。
飛骨盾を加えると、これらが方源の現有の全ての蛊である。
「天元宝蓮は保持するが、合錬の秘方を持たぬ。今は使えるが、四转に修めれば効果は次第に薄れる」
「血髑髏蛊はもはや無用だ。子孫の血脈を育てるとなると、実に煩雑で時間も労力もかかる。当時の古月一代も止むを得なかったのだ。これは交換できる。何と言っても血海老祖の真伝の一つだ。宝界で良い蛊と交換できるかもしれない。だが宝界は商家の根幹だ。紫荆令を持っているとは言え…この件は長い目で考えねばならぬ」
「春秋蝉、元老蛊、骨肉団円蛊は言うまでもなく、血月蛊は飼い易いが攻撃力不足で戦闘体系に組み込めない。兜率花も交換すべきだ。競売場には良い選択肢がある。斂息蛊は露見の危険があるが、跳跳草蛊は必ず排除する。元々(もともと)緊急用だったのだから」
「これら以外に、大量の力蛊を購入し、偵察・移動面でも補強が必要だ。同時に今や立場も安定し、商家の信頼も得たので、賭石場にも接触を試みられる」
方源は仔細に考えを巡らせた。
彼の蛊は元々(もともと)寄せ集めで、体系的に組み合わされておらず、欠落部分が多く戦闘力を深刻に阻害している。
今、商家城に来て、得難い安定発展の機会を得た。彼はこの好機を逃さず、急いで時間を活用し、二、三年の内に蛊虫を体系化し、戦力を完成形にし、修行を可能な限り高めねばならない。
この時期を過ぎれば、三王伝承が控え、続いて義天山の正魔大戦が勃発し、南疆全土を巻き込む。いずれも波乱の時代で、英雄が覇を競う時だ。相応しい実力がなければ、犠牲にされるだけだ。参加できるだけの資格を持てば、方源の再誕という優位性を活かし、巨大な利益を獲られるに違いない。
……
「配下の魏央、族長様に拝謁す!」書斎で、魏央は跪いた。
商燕飛は筆を止め、顔を上げた:「魏央、座れ。ここには我々(われわれ)二人だけだ。堅苦しくするな」
「恐れ入ります。お許しください」魏央は立ち上がり、傍らに腰を下ろした。
商燕飛は笑い、目に懐かしげな色が走った:「貴様は相変わらず堅物だな。初めて会った時を思い出すよ――貴様はまだ演武場で名を上げておらず、我れも商家の若様に過ぎなかった。あれから何年も過ぎ去り、我れが族長の座に就けたのも、貴様が傍で支えてくれたお陰だ」
「身に余るお言葉です!」魏央は慌てて立ち上がり、拳を重ねて言った:「配下は才知愚鈍で、ただ死力を尽くすのみ。族長様は英明神武で、魏央などは錦上花を添えるに過ぎませぬ」
「ははは。我れが英明神武とは言え、所詮独力では限界がある。貴様たちの力を集結してこそ勢いとなり、大きく成せるのだ。両拳四手に敵わず、一人の好漢にも三人の助けが必要だ。そうではあるまいか?」商燕飛は深い意味を込めて魏央を見た。
魏央は即座に族長が何かを仄めかしていると気付いたが、その意図を汲みかね、ただ拳を重ねて言った:「配下、慚愧に堪えませぬ」
商燕飛は突然話題を変えた:「元々(もともと)白凝冰は女が男装していると思っていた。何と言っても多くの家族は男尊女卑だからな。だが今日素手医师から聞いたところ、白凝冰が陰陽轉身蛊のことを尋ねていたそうだ。どうやら裏に何か事情があるらしい。しかし彼女が元男だったか女だったかは枝葉末節で、もはや重要ではない。肝心なのは、彼女と方正が商家に力を貸してくれるかどうかだ」
魏央ははっと悟った:「配下、理解しました」
「うむ、分かればよい。退け」商燕飛は手を振った。
「配下、退出いたします」
書斎の扉が開き、そっと閉まるのを見て、商燕飛は椅子に寄り掛かり、ゆっくりと目を閉じた。
方白の二人は百家の手から伝承を奪い取り、商心慈を護送して来れたことから、勇略兼備であることが見て取れる。
資質も極めて良く、情報によれば二人とも三转だ。二十歳に満たぬ年齢でこれほどの境界とは、実に天賦の才!
何より、恩を知り報いることを理りとする品性の正しさが、人を安心させる。
さらに、彼等は土百姓の出身ではなく、二つの山寨の若頭領であった。つまり正道の烙印が深く刻まれているのだ。
商燕飛が商家を掌中に収めてから長い年月が経つ。数多の若き俊英を見てきたが、方白の二人ほど彼の心を動かした者は極めて少ない。
しかし商燕飛が方白の二人を招こうとするのは、自らのためではなく、商心慈のためだ。
彼は目を開くと、突然一筋の炎光と化わって書斎から消え失せた。
再び現れた時、彼は巨大な回廊の中に立っていた。
回廊の両側には高い石柱が聳え立ち、床は銀色の正方形の大石が敷き詰められていた。商燕飛が石柱の傍らに立つ姿は、箸の傍の蟻のようだった。
彼は緩やかに歩き出した。広大な回廊には一人もおらず、ただ彼の足音だけが反響していた。
しばらくして、彼は回廊の尽きるところに辿り着いた。
一つの朱色の巨門が、彼の目の前に現れた。
巨門の高さは回廊の柱と同じほど、幅は十丈(約三十メートル)近くある。門には取っ手がなく、代わりに巨大な人面が彫られていた。
人面は浮き彫りにされ、外へ膨らみ、目を閉じて眠り込んでいる。その技は実に巧みで、生き生きとしていた。
商燕飛は門前に立ち、朱の巨門を見上げながら、呆れた口調で言った:「活宝門よ、眠りを装うのは止めよ。つまらないだろ?この古臭い手口はもう通らぬ」
巨門の巨大な人面が突然目を見開き、商燕飛を睨みつけて愚痴った:「あらまあ、小飛ちゃん、大きくなって、ますます愛くるしくなくなったわね!」
その言葉を発する時、巨大な口がガバリと開き、唸るような風が吹き出した。商燕飛の赤髪が逆立つ。声は雷鳴のように轟き、回廊全体に共鳴音が響き渡った。
商燕飛の目尻がピクッと痙攣した:「余計なことは言うな。今回は宝を換えに来たのだ」