方源は二百元石を支払い、白凝冰と共に内城へと足を踏み入れた。
山中に築かれているにも関わらず、街路は十台の馬車が並行できるほどの広さだ。
人混みは外城の半分以下に激減している。
代わりに蛊师の姿が随所に見える。一転蛊师は道ばたにあふれ、二転蛊师が混じり、稀に三転の強きも散見された。
凡人は極めて少ない。何しろ入場に一人百元石だ。蛊师といえど従僕に同伴させる金は惜しんだようだ。
内城の照明は火炭石が主だ。
長く燃え続け煙を生じない特性をもつ。方源たちが百歩歩く毎に、壁面に穿たれた穴で真っ赤に燃える火炭石の塊を目にした。
微温しか放たぬ石炭だが、絶え間なく燃え続ける膨大な量が内城の空気を焙るように暖め、乾燥した環境を作り出している。
外城のように様々(さまざま)な建築物が雑然と並ぶ状況とは異なり、ここ内城では耐熱性の赤岩を用いた統一された構えの建物が整然と並んでいる。
大路から枝分かれした小路が両側に伸びる。
同時に、街路には五百歩毎に巨大な石柱が聳え立つ。
柱面には螺旋状の石階段が彫られ、手摺り付きで上方へ延びている。
この階段で人々(ひとびと)は上層や下層の街路へ移動できる。
内城は常識的な城塞ではなく、立体的な構えを成している。上から下へ無数の街路と家屋が縦横に貫通し、巨大な蟻塚のようだ。
方源と白凝冰はさらに山の奥深く進む。この階層が彼らの目的地ではない。
ある地点に差し掛かると、新たな関門が現れた。
守備の蛊师たちは修為が更に高く、警戒態勢が厳重を極めている。
「お二人様、止まれ。通行令はお持ちか?」守衛が方源たちを遮った。
商家は身分に応じて異なる権限の令牌を発行している。
「初めて参りました」方源が答える。
無論、令牌など持つはずがない。
「ならば、お一人様二百元石を納められよ」
方源が元石を払うと、守衛は道を開けた。
こうして二人は第四内城階へ到達した。
商家による数千年に渡る経営で、商量山の内部は徹底的に改造された。通路が穿たれ、建築が彫り込まれ、区域ごとに配置されている。
内城は巨大で、中心から外側へ向かい五層に区分される。
第一内城(中央内郭):商家政権の中枢にして軍事上の要衝
第二内城(家城):商家一族専用居住区
第三内城:優雅な環境・清浄な空気の高級区
第四内城:中級区
第五内城:低級区
その外側が外城——人と貨物が激しく行交う物流拠点で、管理は比較的に粗雑だ。
この構造は地上のシロアリ塚を思わせる。
シロアリ塚は高さ4-10メートル、内部には細密な通路が縦横に走り、精巧極まりない生活空間が広がっている。まさに商家城の縮図の如し。
第四内城へ足を踏み入れた二人は、湿った空気と次第に下がる気温を感じた。
第四内城は第五内城より一階級上、入場税が倍増しただけではない。
まず照明——廉価な火炭石に代わり、一転草蛊「月光葛」が壁面に植え込まれている。
深藍の根茎に幅広な葉をつけた葛が、洞壁を覆い尽くす。無数の葉が放つ淡い青白い光は、通り全体を柔らかく照らし連なる。
大量の葛葉が湿気を帯びさせ、地面近くに霧を生じさせる。月光が霧に屈折し、光の霧が立ち込める。
歩く者に仙境を歩く錯覚を抱かせる街並みだ。
ここの建築物には、彫刻の装飾が施され、人工の芝生が敷かれ、花壇が配置されている。所々(ところどころ)に築山や東屋も見える。
往来の人影は更に少ない。
二転蛊师が主流を占める。一転蛊师にとって、入場税の二百元石だけでも大きな負担だからだ。
第五内城の喧噪とは対照的に、ここは静寂に包まれている。
二人はさらに奥深くへ進み、城門前に到着した。
「通行令なしで第三内城へ入場されるなら、お二人様で六百元石を頂戴します」守衛長たる三転蛊师が宣告した。
方源が元石を払い、こうして第三区へ到達した。
ここは第四内城とは全く異なる。
あらゆる建築に星石が用いられている。
蛊师の間で広く使われる煉蛊補助材であるこの石は、暗闇で煌めく星々(ほしぼし)の光を放つ。
第三内城全域が星石で造られる。建物のみならず、街路に敷かれた石板までもが星石製だ。
見渡す限り、星々(ほしぼし)の光が連なり、視界は澄み渡り、光霧の妨げはない。
空気は清涼そのもの。楼閣が紅と緑の瓦を輝かせ、竹林や銘木が移植され、築山が築かれ、泉水が引き込まれて水がさらさらと流れる。往来は人影まばらで、幽邃で心地よく、星の宮殿の如し。
「実に金の力は凄いものだ…」白凝冰が眼前の施設の造価を概算しただけで、眩暈がするほどの金額だった。
商家は南疆の富の頂点に立つ。誰かが言ったように「商家の抜け落ちた腿毛一本が、他者の腰の太さを凌ぐ」——誇張めいても根も葉もない話ではない。
商家の富は山の如く、商家城そのものが立体的な富の山だ。その商隊は南疆全土に網の目を張る。
商家の総富が幾何か、外の者に知れるはずもない。
だが方源は少なくとも知っている——この第三内城の造価だけでも、古月山寨十数個の富を束ねた総量に匹敵すると。
この区域に至っては、二転蛊师の姿すらほとんど見かけない。
時折すれ違う蛊师は、ほぼ全員が三転の域に達している。
ここが方源の目指す目的地だ。
さらに奥深く進めば第二内城へ至るが、そこへ入場するには金銭の問題ではない。商家発行の通行令が必須で、なおかつ一定以上の格が必要となる。
「幽玄商会」方源は看板を一瞥すると、足を踏み入れた。
蛊虫を商う店である。
「お二人様、上座へどうぞ」
応対の少女がすぐに近づき、細やかな声で言った。
彼女の身からは蛊师の気配が漂う——一転の修為だ。
方源と白凝冰は粗末な麻服をまとい、一人は醜く、一人は落ちぶれた風貌だが、この蛊师の少女は恭しい態度を崩さない。優れた素養の現われだ。
方源と白凝冰は上座へ案内された。
個室には紫檀の机と椅子、彫梁画棟の装飾、白壁に掛けられた龍飛鳳舞の書画——筆致は剛毅で力強い。
窓格子越しに見える庭には青葉と紅花、小鳥の囀りが聞こえる。
蛊师の少女が香り高い茶を二杯置くと退出した。
彼女が退出する背中を見送るように、老いたる蛊师が入室してきた。
「お二方様、弊店へは買い求め(もとめ)に?それとも売りに?」二転の修為を持つ老いは笑みを浮かべ、拱手して問う。
「買いも売りも」方源が杯を取りながら答えた。
老いたる蛊师はハハッと笑い、二筋の光がその体から飛び出した。それぞれ方源と白凝冰の眼前に浮かぶ。
書虫である。
一転蛊虫に過ぎぬが、酒虫に匹敵する貴重品だ。
市場に現れれば瞬く間に買い占められ、値段は付け(つけ)られても市場に出回らないこと多し。
形は蚕の蛹の如く、頭・胸・腹の三節に分かれるが、全体は紡錘のように丸みを帯びて愛おしい。
全身は白磁の如き輝きを放ち、表面は釉薬を掛けたように滑らかで光沢がある。
手に取れば陶器の上品な肌触りだ。
書虫は貯蔵類の蛊虫で、兜率花と類似する。
相違点は——
兜率花が物体を貯蔵するのに対し、書虫は無形の知識と情報を蓄える。
自爆しても無害な白い光がぱっと散るだけだ。
「お二方様、ごゆっくりご覧ください」老蛊师が言う。
二匹の書虫は彼が煉化済みで、方源たちに貸し出されたものだ。
方源と白凝冰は雪銀の真元を一筋ずつ書虫に注いだ。
書虫は瞬く間に白い光と化し、二人の眉間へ吸い込まれていった。
俄に、膨大な情報が脳裏に流れ込む。
その内容は、何度も暗誦したかの如く深く脳に焼き付けられた。
白凝冰は思わず舌を鳴らした。幽玄商会が扱う蛊虫の種類は無数で、目が眩むほどだった!
中には書虫や酒虫のような珍しい蛊虫も少なくない。一転から五転まで、幅広い階級を網羅している。
無論、六転は絶対に存在しない。
各種の蛊虫には詳細な説明と用途が記され、価格も明示されている。階級が高く貴重な蛊虫には、特に通行令の格が細かく注記されている。
つまり、商家が発行する通行令を持つ蛊师でなければ、これらの蛊虫を購入する資格がないのだ。
方源は大量の蛊虫を買い集める必要がある。大まかに目を通した後、彼は精神を収め、書虫を呼び出して老いたる蛊师に返した。
今彼が所持する一万元石は、これらの蛊虫を買い占めるには到底足りない。
問題は金だけではない——計画している蛊虫の何種かは、通行令の格が障壁となっているのだ。
「お客様、お気に召した品は?量を多くお求めになれば、弊店としても相応の値引きを致します」老いたる蛊师は微笑みながら言った。
方源と白凝冰の雪銀の真元を見て、彼の口調は一層丁重になっていた。
方源は手を振って言った:「慌てるな。売る蛊虫がある」
そう言って骨槍蛊を召喚した。
老いたる蛊师も驚かない。幽玄商会には蛊虫を買いに来る者も多ければ、売りに来る者も少なくないからだ。
彼が骨槍蛊を摘み取り、一目見るや、思わず驚きの色を滲ませた。
骨槍蛊など、彼は見たこともなかった。
無論、見るはずがない。
これは灰骨の才子が独自に開発した蛊虫で、市場に出回ったことは一度もないのだから。
「お客様、ご教示願えますか」老いたる蛊师は厳かな面持ちで拱手した。
方源は軽く肯き、茶を一口含んで言った:「構わん。これは骨槍蛊と申す、一族伝来の蛊だ。貸そう、試してみよ」
老いたる蛊师は即座に試演し、沈思した後に言った:「この蛊は一転に過ぎず、育成も良くないが、攻撃力は並ならず、珍奇な特性も持つ。この値でいこう」
そう言って掌を差し出し、指折りで数字を示した。